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『大好き』

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「もう、さくらっ!にんじん残しちゃダメじゃないっ!」

「ご、ごめんなさいっ、ママッ!……でも、さくらはたべようとしたのっ!!」

「でもこうして残してるじゃないっ!!」

「そ、それは…、ちがうのっ!!さくらはちゃんとたべようとしたのっ!!」

「もうっ!言い訳しないのっ!」

ある日の昼下がり、この家のキッチンでは2人の親子が昼食をとっていた。

だが、娘の方のお皿には、赤いお野菜が寂しそうに残されている。

「…さくら、これで3回目よ。次残したらどうするって言ったっけ?」

「……。」

「……さくら。」

「うぅっ…、お、おしりペンペンされる。」

「そうよね。…じゃあ、来なさい?」

母親の“さなえ”はポンポンッと自分の膝を叩き、手招きをする。

しかし、娘のさくらはその膝を見つめたままなかなか動かない。

「はぁ…。」というため息が母の口から漏れると同時、娘の形が宙に浮いた。

「わわっ!?」

「素直に来れないんなら、厳しくしなくちゃね?」

「い、いやぁ…。」

母が娘を持ち上げ、そのままお膝に連行する。

“ペロンッ”

娘の服がめくられ、その小ぶりなお尻が顔を出した。

「み、みないでぇ…。」

「そんなお顔真っ赤にしてもダメですっ!お尻の方を真っ赤にしなくちゃね?」

そういうと母は手を振り上げ、娘のお尻に狙いを定める。

「しっかり反省しようね?」

その言葉が娘の耳に届く頃、“痛々しい音”がキッチンに響き渡るのだった…。

・・・

“わたし”は幼馴染のさなえが好きだ。

…好きで好きでたまらない。

でも、さなえはわたしのことを“友達”って言ってくれるけど、それ以上の進展はない。
これまで何回も告白しては振られる日々を過ごしていた。

その理由はわたしが「“女の子”だから。」
だから、幸せにはなれないって言われた。

……“幸せ”ってなんだろう。

わたしはさなえと一緒に居られるだけで幸せなのに、それじゃダメなのだろうか?

そんな疑問を持ちながらも、さなえに対する“愛情”は日々強くなっていった。

電話は毎日して、メールも毎日、もちろん登下校はいつも一緒、それから、それから…。

…なのに、わたし達の関係は一向に進行しなかった。

……そして、わたしを絶望に追いやる“あの日”が訪れる。

さなえは、…他の“男の子”と付き合い始めたのだ。

わたしは何回告白しても“その先”に行けなかったのに、どうして、…ねえどうしてっ!?

…もうわからない。

……だからわたしはその気持ちを抱えたまま、校舎の屋上から“旅立つ”ことにした。

・・

…それからわたしはゆっくりと目を開ける。

目の前には腕を組み、わたしことを“見下ろす”さなえが立っていた。

「…さくら、聞いてるの?」

「……さくら?」

自分で声を出してみて、その声が“幼い”ことに気づく。

…ここはどこだろう。
キョロキョロと見回し、ここが一軒家のリビングの中であることはわかった。

……さっきまで屋上にいたはずなのに。

しかも、さなえの身体が妙に大きい。
…いや、たぶんこれはわたしの身体の方が小さくなっているのだろう。

周りの家具も大きくなっているから、そう考えるのがしっくりとくる気がした。

「…はぁ。お説教ちゃんと聞けない子には“お仕置き”しなくちゃね。」

「あっ!?」

そういうとさなえは椅子に座り、わたしの身体を持ち上げた。

「ま、まってママっ!?」

……ママ?

わたしの口が勝手にその“単語”を口走った。

そして、次第に“別の意識”がわたしのことを隅に追いやる。

『あなたはだれなのっ!?さくらからでていってっ!!』…と。

「……マ、ママッ、ちがうのっ!!おせっきょう、ちゃんときいてたのに、いきなり“へんなひと”がはいってきたのっ!!」

「変な言い訳しないのっ!…ほら、ペンペン始めるよっ!!」

「いやぁっ!さくらわるくないのにぃっ!!」

・・

…それから、この“さくらの身体”を通してわかったことがある。

・わたしは恐らく“あの日”に亡くなり、この身体に意識が移ったこと。

・さなえとあの男の子が結婚し、その娘として“さくら”が生まれたこと。

・わたしの意識は、さくらの意識と時々入れ替わり、その間身体を自由にできること。

・…そして、そろそろわたしは“この身体”を手に入れることができること。

あと、この“家庭”の事情もだいぶ把握することができた。

さくらは今5歳で幼稚園児。
あの男の子は単身赴任をしていて、しばらく家に戻ることはない。

今は母親であるさなえと二人暮らし。

…さなえは怒ると“お尻ペンペン”のお仕置きをすること。

これだけの条件が揃っていれば十分だった。

……だって、これでわたしの“友達以上になる”という夢が叶うのだから。

・・・

バヂンッ!

「ああっ!」

お仕置きが始まり、さくらの幼い声が部屋の中にこだまする。

わたしももちろん痛みを感じるが、今はさくらの意識がまさっているため、声にすることはできない状態だ。

…ただ、声に出せなくとも、さくらの行動をある程度“制限”することができている。
今回にんじんを食べなかったのも、その制限の一つだ。

……そう、さくらが“お仕置き”されるために。

さくらがお仕置きされるたび、その“痛み”がこの身体を通し、わたしの中にある“さなえへの愛情”を高めていく。

この“気持ち”を糧に、どんどん身体の“乗っ取り”は進んでいった。

バヂンッ!パァァンッ!

「いっだいっ!んっ!」

『そう、その“調子”。』

「えっ!?」

「ほらさくらっ、お仕置き中に気を抜かないのっ!」

バッヂィィンッ!!

「きゃぁぁっ!?…ママ、ちがうのっ!」

「何が違うのっ?」

パンッ!

「あうっ!……また“へんなひと”がはいってきてるのっ!?」

『ふふっ♫』

「ほらまたっ!」

「…はぁ。…そんな言い訳しても、お仕置きは軽くしませんからねっ!!」

バッヂィィンッ!!

「いっだぁぁいぃっ!!…うぇーんっ!ちがうのにぃっ!ママしんじてぇっ!!」

『ほら頑張って、さくらちゃんっ♫』



その後もお仕置きは続き、さくらのお尻が真っ赤に染まった頃。

「…ほらさくら、これでお仕置きは終わりだからね。」

さなえは叩く手を止め、さくらを膝に乗せる。
そしてその頭を優しく撫で始めた。

ガクッ

「…ママ。」

「…?どうしたの、さくら?」

『ありがとう、さなえっ♫』

…だって。
この“厳しい”お仕置きがきっかけで、わたしは大分さくらから意識を奪うことができたのだから。

「さくら?…さくらっ!?」

今さくらの身体からは大量の汗が吹き出している。
…これはお仕置きが原因ではなく、“わたし”から最後の抵抗をしているためだ。

「ママ、……たすけて。」

「ちょっとっ、さくらぁっ!?」

…あぁ、さなえの顔が近くに来る。

これをきっかけに、わたしの意識がさくらのなけなしの意識を完全に奪っていった。

『さようなら、さくらちゃん♫』

『い…やぁ…。』



わたしはゆっくりと目を開けると、目の前には心配そうにこちらを見つめるさなえがいた。
…いや、いまは“ママ”と呼んだ方がいいだろう。

「さくらっ!大丈夫っ!?」

さくらというフィルターが無くなったことで、より鮮明にその顔・声・息遣いが伝わってくる。



































『あぁ…さなえ、やっと“会えた”。…大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ 大好き♫ だいす…』

「さくらっ!?」

「…あ、大丈夫だよ、ママッ♫」

「……そう、ならよかった。」

さなえはそういうと、わたしの身体を優しく抱きしめてくれる。

『“やっと”抱きしめてもらえた…。』

わたしはつい嬉しくて、頰から涙が伝ってしまった。

「ママ、…ずっとこうしてていい?」

「当たり前でしょ。…さくら、お仕置きちゃんと受けられて偉かったわよ。…でも今度からは好き嫌いしないでにんじんも食べようね?」

「うんっ!ママの作るお料理大好きだから、次からは残さないよっ♫」

「ありがとう。…さくら、大好きよ。」

「えへへっ♫…“わたし”も、ママのこと大好きだよっ!」

…その瞬間、さなえは抱きしめるのを止め、わたしの顔を覗き込んだ。

「……ねえ、…あなたはいったい“誰”なの?」


「完」
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