“やさしい”お仕置き

ロアケーキ

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あやかの記憶(あやか目線)

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…これは、あやかが“お母さま”と出会う、少し前のお話。


ドゴッ ボガッ ドスッ

「がっ!…んぐっ!ゲホッ!?」

朝日が窓から差し込むアパートの一室。
そこであやかは部屋の壁を背に必死で“耐えて”いた。

バギッ ガスッ ドガッ

「げはぁっ!ん゛っ!いだっ!」

目の前には“お母さん”がいて、あやかが逃げられないように髪を引っ張り上げている。
そのあやかはお母さんに“命じられて”手を後ろに組み、その暴力を一身に受けていた。

「まったく、あの上司ときたら、…誰のおかげで仕事が回ってると思ってるんだよっ!」

ドゴッ ドゴッ ドスッ

「ぐっ!ああ゛っ!んぎぃっ!」

「無能のくせに、……ほんと、人にストレスを与えることだけは立派なんだからっ!!」

ドゴォッ!!

「げはぁっ!!」

お母さんが怒鳴るたび、あやかの“お腹”に理不尽な痛みが振り下ろされる。
…拳が、あるいは膝蹴りが。

そのお母さんの口からは「じょうし」・「しごと」という言葉がよく出てくる。

……あやかはお母さんに怒られることなんて、“何もしていない”のに。

なのに、ご飯の支度が終わったあやかは、不機嫌に起きてきたお母さんに捕まった。
…そして、今に至る。

バギィィッ!!

「うぐぅっ!!」

「あやか、手は後ろって言っただろっ!!」

「…ご、ごべんなざいぃっ!!」

ポタッ ポタ…ポタ

あやかが思わずお腹を手で庇ってしまうと、顔にいきなり衝撃が走る。
その瞬間、鼻から血が垂れ、服を…そして床を赤黒く染め上げていった。

ドゴォッ!!

「ゲホッ!?……おえ…。」

バチャッ ベチャッ

「ちょっとぉっ!?汚いなぁっ!!」

またお腹に膝蹴りが当たり、ついにあやかの口からは逆流した胃液が吹き出した。
…今日は朝ごはんを食べていないため、胃液以外は出てないことがまだ救いかもしれない。

ベシャァッ!!

「ぎゃっ!?」

目の前がぼやけると同時、あやかは自分のこぼした胃液の上に顔を押し付けられた。
ようやく掴まれていた髪は離され、顔と頭からはズキズキとした鈍い痛みを感じる。

「このっ、“お仕置き”もまともに受けられないバカ娘がぁっ!!」

バギィィッ!!

「い゛ぃぃっ!!…ゲホッ、ゲホッ!!」

脇腹を強く蹴られて、あやかの口からはまた胃液が溢れ出す。

「…はぁ、はあ……もういい。…朝ごはんはちゃんと作ったんだろうね?」

「……はぃ。」

お母さんは痛めつけるのを止め、台所のほうへ歩き出した。

台所からは食器を漁る音がして、あやかがさっき作ったカレーをよそっているんだと思う。

「…うぇっ、なんだこれはぁっ!?」

…そして、台所からお母さんの怒鳴り声が聞こえた。

ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ

苛立った足音があやかの方へ近づいてくる。

「あやかっ!なんだこのカレーはっ!…なんでいつもあたしの好みに合わせないんだよっ!!」

…だって、お母さんは自分の好みを言わないし。
……それに、あやかが好みを聞いても殴られるだけだからわかるはずなんかない。

せめて、どういうものが好きか言ってくれれば、わかりやす…

バチャァッ!

「っ!…あっづいぃぃっ!?」

その瞬間、あやかの顔と頭に火傷するような熱さが襲いかかる。

「あやかっ!“これ”はあんたが自分で食べなっ!!」

「あづいぃ…あづいよぉ……。」

…恐らく、カレーを皿ごと投げつけられたのだろう。
尚も消えない熱さが、あやかの頰を焼きつけた。

「じゃああたしはもう仕事行くから、帰ってくるまでに“片付け”ておきなさいよっ!!」

ガチャンッ!

そういうと玄関の扉を激しく閉める音が聞こえる。

…。

……。

…あやかは何もしていないのに、何でいつも“こんな目”に合わないといけないの。

思い返せば、あやかがお母さんから殴られなかった日はないと思う。

料理を作ったら殴られ、マッサージをしたら殴られ、…お母さんの似顔絵を描いた時は破り捨てられた後に殴られた。

……もうやだ。

でも、早く片付けて新しいお料理を作らないとまた殴れてしまう。

…あやかはその恐怖心から身体を動かそうとするが、うまく力が入らない。
いまは顔についたカレーを避ける気力すらなくなっていた。

『おねがい…うごいてぇ…。』

…あやかのこの必死なお願いも、身体が聞いてくれることはなかった。



…ここ、どこ?

ゆっくり目を開けると、知らない白い天井があった。

辺りを見回すと白いカーテンに白いベッドが並んでいる。
窓から差し込む光は、今が朝だと伝えてくれていた。

…。

ガチャッ

「あらあやかちゃん、起きたの?」

しばらくぼーっとしていると、部屋のいりぐちが空いて白い服をきた看護師さん?が入ってきた。

あやかは起きあがろうとするが、身体が怠くてうまく動くことができない。

「あっ!寝たままでいいわよ。」

看護師さんはあやかの側に立って、悲しそうな目で見つめてくる。

「…大変……だったわね。」

そうボソッと呟くと、“これまで”のお話をしてくれた。

あやかが部屋で倒れているところを大家さんが見つけたこと。
あやかの“怪我”が酷く、2週間くらいここに入院すること。
そして…。お母さんがお仕事中に倒れて死んでしまったこと。

全てのお話を聞いて、あやかの目からは涙が出てくる。
…でも、この涙はお母さんが死んでしまったことを悲しむもの“ではない”ことだけはわかった。

「…。」

「あやかは…。……あやかは、どうなるの?」

「…あやかちゃんが退院したら、遠い“親戚”の人のところで暮らすみたいよ。」

「しんせき?…だれ?」

「……ごめんなさい。詳しい話はお姉さんもわからないの。…後で大人の人がくるから、その人に聞いてね。」

看護師さんはそういうと、あやかの身体の様子を確認して部屋を出て行く。

それからはお医者さんが来て同じようなお話をして数日が過ぎていった。



2週間後、あやかの身体がだいぶ良くなった頃。

あやかはスーツを着た大人の人に連れられて、これから“生活する場所”に向かっていた。

そして着いたところは大きなマンションだ。
…あやかがお母さんと暮らしていたボロボロのアパートとは全然違う。

そのままエルベーターで23階に行き、大人の人がドアの前でチャイムを鳴らす。

ガチャ

「…はい。」

中からは、綺麗な女の人が出てきた。
…この人が“遠い親戚”の人なのかな。

「おはようございます。…すみません。わたくし児童相談所の者で、先日お話させていただいた件で、お伺いいたしました。」

「…ではその子が?」

「はい。」

「じゃあ立ち話もなんですので、部屋にどうぞ。」

「ありがとうございます。失礼いたします。」

あやかは大人の人に連れられて、お家の中に入る。
玄関に入っただけでも、あやかの住んでいた部屋よりだいぶ広いことがわかった。
…あと、ふんわりと“やさしい”いい匂いがする。

リビングに案内されると、あやか達は椅子に座り女の人が紙を読んで名前を書いている。

「これで書類は終わりですか?」

「はい、これで全て完了です、ありがとうございます。…ではあやかちゃんを何卒、よろしくお願いします。」

「…わかりました。」

大人の人が頭を下げると、あやかの方を見た。

「あやかちゃん、それじゃ今日からはここがあやかちゃんのお家だよ。」

「あやかの?」

「そうだよ。…こちらの方が今日からあやかちゃんのお母さんだからね。」

「…お母さん?」

あやかが女の人を見ると、軽く頷いた。

「では、わたくしはこれで失礼いたします。…何かあればお気軽にご相談くださいね。」

「…ありがとうございます。」

「じゃあね。あやかちゃん。」

大人の人はそういうと書類をしまい部屋を出ていった。

…ガチャン

玄関のドアが閉まる音が響き、あやかはチラッと女の人…お母さんを見つめる。

「あの…お、お母さん。」

「…。」

「今日から、…よろしくお願いしますっ!」

さっきの大人の人がしたように、あやかも頭を下げてお願いする。

「一つ、いい?」

「何?お母さん?」

「その“お母さん”って呼び方、やめなさい。」

「…え。」

「わたしはあなたの“お母さん”になるつもりはないから。」

「…え、…でも。」

「まあでも、“外”で面倒になるから、わたしのことは“お母さま”って呼びなさい。」

「お母さま…?」

「そうよ。」

お母さん…お母さまはそういうと席を立ち、リビングから出ようとする。

「あ、あのっ!お母さn……お母さまっ!」

「…何?わたし眠いから寝直すんだけど。」

「あ、あやかは、……なにをすればいいの?」

「さぁ、勝手にしなさい。…もしわたしが寝てる間にお腹が空いたら自分で作ってね。……あ、でもあそこにある“ぬいぐるみ”だけは触らないでよ。」

ガチャン

そういうとお母さまはリビングを出ていってしまった。
部屋の中にはあやかが1人だけポツンと残される。

「…どうしよう。」

これまでは、お母さんからあれをしろこれをしろと命令されていたけど、“勝手にしろ”と言われたことはなかった。

…グゥー

「…う。」

考え事をしていると、あやかのお腹が鳴ってしまう。

「お母さま…、自分で料理してって言ってたよね?」

あやかは席を立つと、静かに冷蔵庫を開ける。
そこにはお野菜・卵など、一通りの食材が揃っていた。

「…これなら、オムライスが作れるかな。」

幸いあやかはいつも自分で料理を作っていたから、食材さえあれば一通りのものは作れる。

さっそく材料をテーブルに並べ、フライパンとまな板とかも用意する。

お母さまもよく料理をするのか、料理道具には使い込まれた跡があった。



「よし、できたっ!」

いい具合に焼けたオムライスからは湯気が漂っている。
一応お母さまの分と合わせ、2つのお皿に分けた。

ガチャ

「…あら、オムライス作ったのね。」

ちょうどお母さまもあくびをしながら起きてきた。

「うんっ!あやか、前のお家で料理してたからっ!」

「…そう。」

お母さまは興味がなさそうに椅子に座るとスプーンを持った。

「…いただきます。」

「いただきますっ!」

あやかは我慢できずにオムライスを頬張った。
食材が良かったのもあって、これまで作ったオムライスの中で1番美味しく感じる。

…でも、お母さまの口に合わなかったらどうしよう。
あやかは恐る恐るお母さまを見ると、ちょうどオムライスを口に運んでいた。

「…美味しいわ。」

「え…。」

オムライスを食べたお母さまは、初めて笑顔を見せてくれる。

「あやか、あなた料理が上手なのね。」

何故だろう。
これまでお料理を「まずい」と言われたことしかなかったから。
…あやかの目からは、涙が溢れ出してきた。

「…どうしたの?」

「…グスッ、ごめんなさい。今までお料理を褒められたことなんてなかったから、…嬉しくて。」

「……こんなに美味しいのに、その人は贅沢ね。」

その言葉を聞いた瞬間、あやかの目からは更に涙が流れ出してくる。

『の、のどかわいた…。』

あやかはぼやける視界でコップを取ろうとする。

バチャッ

「あっ!」

つい手が当たってそのままお水を溢してしまった。
それを理解した瞬間、あやかの顔がサァーッと青くなる。

「お、お母さんっ!…お母さまっ!!ごめんなさいっ!ごめんなざいぃ!!」

あやかはその場で頭を手で庇い、必死で謝った。
身体はガクガクと震え、次の瞬間に与えられる“痛み”に怯えている。

「…別に怒ってないけど?」

「……え?あやかのこと、怒らないの?…殴らないの?」

「お水を溢すくらい、たまにしちゃうことあるでしょ?別にわざとした訳でもないんだし。…それに殴るってなに?」

「だって、お母さんはあやかがお水溢すとすぐに怒鳴って、顔を何回も殴ってくるから…。」

「…。」

お母さまのことをチラッと覗くと、悲しそうな顔であやかのことを見ている。

「……はぁ、とにかく。…わたしはあなたのことを殴ったりしないわ。」

「……でも、あやか“わるいこと”しちゃったし、…このお水、あやかが飲みます。」

「…そんなテーブルに溢れた水なんか、飲まなくていいわよ。」

「…でも。」

これまでお母さんに厳しく怒られていたからか、何故かあやかは落ち着かず、そわそわとしている。

「……そんなに“罰”が受けたいの?」

「……あやかも殴られるのは嫌なの。…でも悪いことしちゃったのに“反省”できないのも嫌なの。」

「……はぁ、わかったわ。…じゃあ軽い“お仕置き”する?」

ビクッ

「…お、おしおき?」

「あやか、あなたはお説教だけじゃ反省…というより“納得”できないんでしょ?……これまでの“お家”のせいで。」

「…。」

「でも、わたしも殴るつもりはない。…だから軽いお仕置きをして、これからは少しずつ痛みがなくても反省できるようにするの。」

「お母さま…。」

「本当は興味がないことはしなくないけど、…あやかは美味しい料理を作ってくれたし、しょうがないから付き合ってあげる。」

お母さまは椅子から立つとあやか隣の席に座る。
そしてあやかをひょいっと持ち上げ、そのままお膝の上へ腹ばいに寝かせた。

「…お、お母さま、…これって?」

「お尻ペンペンよ。…前の家で受けなかった?」

「お尻ペンペン?……お尻叩きだったら昔1回だけされて、…あやかの“顔”が見えないからダメって言われたの。」

「……そう。」

「…あの時はお尻が血だらけになるまで叩かれたけど。……今日のお仕置きも?」

「…血が出るまでなんて叩かないわよ。」

その言葉を聞いて、あやかは少し安心する。
…あの後は、しばらく椅子に座れなくなったから。

そしてあやかは手を後ろに伸ばし、パンツとズボンを下ろした。

「…お尻出してやるの?」

「…うん。お母さまになら、見られてもいいから。」

「……わかった。じゃあ始めるわよ。」



バヂンッ!

「んっ!」

バヂンッ!

「あっ!」

それから、お母さまからのお尻ペンペンが始まる。
左右のお尻を叩かれ、あやかは涙目となっていた。

昔、お母さんからされた時よりは全然痛くないけど、…それでも、じんじんとする鈍い痛みがお尻に残り続けた。

「…結構綺麗に赤くなるのね。」

「うぅっ!」

お母さまはあやかのお尻のじんじんとする部分を撫でてくる。
そして、その手が離れた。

バヂンッ!

「ひゃうっ!」

不意に同じ部分を叩かれて、あやかの身体が反り上がった。
いま叩かれた右側のお尻だけが、左よりも強く痛みが残り続けている。

「…たのしい。」

「…え?」

「なんでもないわ。」

お母さまが何か呟いた気がしたけど、あやかの耳には届かなかった。

バヂンッ!

「あんっ!」

それから何かを誤魔化すように、あやかの左側のお尻が叩かれる。

「……ねぇ、あやか。」

「なあに、お母さま?」

「さっきあなたの“お母さん”になるつもりはないって言ったけど、撤回するわ。」

「…え。」

「あなたがお仕置きを受けている“間だけ”、わたしがお母さんになってあげる。」

「……お、お母さま?」

「この時間だけは、“お母さん”って呼んでいいわよ。…これからも“この時間”だけは、あなたに構ってあげる。」

「…お母さん?」

「なに、あやか?」

バヂンッ!

「んっ!……あ、あやかとお話してくれるの?」

「してあげるわよ。…ペンペンしながらね。」

バヂンッ!

「きゃっ!……グスッ。」

「お尻痛いの?」

バヂンッ!

「いっ!……痛いけど、…でも、嬉しいの。」

「……なんで?」

バヂンッ!

「あんっ!……だって、あやかはこれまで“お母さん”とちゃんとお話したことなかったから。」

「……あやかが望むんなら、毎日お仕置き受けにきてもいいわよ?」

バヂンッ!

「い゛っ!……ありがとう。…お母さん大好きっ!!」

「…わたしもあやかのこと好きよ。」

バヂンッ!

「たいっ!やったぁっ!……こんな“やさしい”お仕置き…はじめて。」



…その後、お仕置きが終わると、“お母さま”はあやかと一言も話さなくなった。

「また明日。」って言ってたから、多分今日はもう話してもらえないのかもしれない。

…それから、あやかは毎日“お母さん”にお仕置きを貰いに行くようになる。

日が経つごとに、だんだん痛みが厳しくなっていくけど、それ以上にお母さんと話すのが楽しくて、やめることが出来なかった。

……今日は何のお話をしよっかな。

「お母さまっ!…今日もあやかにお仕置きしてっ♫」


「完」
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