35 / 57
第35話 早朝散歩と井戸端会議
しおりを挟む「グルゥァァァァァァ!」
「ん……朝か……」
聞き慣れたヒュドラの雄叫びで目が覚める。
この叫び方は、確か……次女のニーハオちゃん、だったかな?
魔界での生活にある程度慣れ、朝の雄叫びにも随分慣れたなぁ……なんて考えながら、ベッドから体を起こす。
「あれ……カリナさんは?」
いつも隣で寝ているはずの、カリナさんの姿が見当たらない事に気付く。
カリナさんが寝ていたはず場所の奥には、マリーちゃんが起きて目をこすっている。
「……どうしたんだろう……?」
「ふわ~じゃ……ん? どうしたのじゃ、ユウヤパパ。難しい顔をして?」
「いや、起きたらカリナさんがいなくてさ。どこに行ったのか考えてたんだ」
「本当じゃ……」
大きなあくびと伸びをして、目を覚ましたマリーちゃんは、俺の顔を見て首を傾げた。
それに答えながら、マリーちゃんと俺の間にある空間を示すと、マリーちゃんもカリナさんがいない事に気付いた。
「……トイレとか?」
「じゃが、それにしては何も気配を感じないじゃ」
「じゃあ、どこにいったんだろう?」
俺達が起きる前に、トイレに目が覚めて……と考えたけど、マリーちゃん曰くカリナさんの気配は近くにないらしい。
俺達どころか、ヒュドラ姉妹の雄叫びよりも早く起きて、どこへ行ったんだろう?
「……ふむ、婆やに聞いてみるじゃ?」
「婆やさんに?」
「うむ、じゃ。婆やは城の管理もしているのじゃ。カリナが部屋を出て行ったのも、知っているはずじゃ」
「成る程。わかった、聞いてみよう」
「婆やー!」
「お呼びですかな、マリー様?」
城を管理しているらしい婆やさんに聞けば、カリナさんがどこへ行ったのかわかると考え、マリーちゃんが叫んで婆やさんを呼んだ。
……魔法で移動してるのは知ってるけど、わざわざ天蓋の上から、覗き込むように現れなくても良いのでは?
「婆や、カリナがどこに行ったのか知っておるかじゃ?」
「ええ、存じておりますよ」
「どこに行ったんですか?」
「カリナ様は、早くに目が覚めたとかで……城を出て、城下町を散歩して来ると言っておられました」
「城下町を……」
「朝の散歩、というわけじゃな」
朝早く起きたから、カリナさんは朝の新鮮な空気を吸いに行きたかったのかもしれない。
まぁ、朝だろうと昼だろうと暗い魔界だから、朝日はないが。
俺とマリーちゃんを起こしてしまわないよう、そっと出て行ったんだろうな。
「ふむ……カリナがいないと、朝食がないのじゃ」
「……それはいけないな……カリナさんの手料理が食べられないなんて……呼びに行こう」
「わかったじゃ。マリーとユウヤパパも散歩じゃな?」
散歩のつもりはないんだが、マリーちゃんはそのつもりらしい。
まぁ、カリナさんを外に呼びに行くだけだから、散歩気分で楽しむのも良いかもしれないな。
朝食……というよりもカリナさんの手料理を頂くために、俺とマリーちゃんはすぐに支度をして城を出た。
「どこにいるのじゃ……カリナママは?」
「そうだな……どこだろう?」
城を出て、まずは一番大きな通りに出る。
まだ時間が早いためか、店の準備をしている魔物達はいるが、お客などの姿はほとんどなく、閑散としていていつもよりさらに通りが大きく見える。
こういういつもの場所でも、違った発見があるんだなぁ。
「お、マリー様じゃないですか。こんな早い時間にどうしたんですか?」
「実はじゃな……」
声をかけて来たのは、以前ここの案内をされた時、マリーちゃんを店に誘った狼男。
マリーちゃんがその狼男に、事情を説明した。
「カリナ様ですか? それなら確か、公園の方へ行くと言っていましたよ?」
「そうなのかじゃ。ありがとうじゃ、行ってみるのじゃ」
「公園かぁ、朝の散歩には良いかもな」
狼男さんは、カリナさんが散歩している時に偶然話しをしたらしい。
その時、カリナさんが公園に行く事を言っていたと教えてくれた。
狼男さんに感謝しながら、俺達は公園へと足を向ける。
……狼男さんも、カリナさんの事を様付けで呼んでたから、マリーちゃんの親代わりになった事って、結構知れ渡ってるのかもなぁ。
そんな事を考えながら、マリーちゃんと手を繋いで公園へと歩く。
子供って体温が高いと思っていたけど、マリーちゃんの手はひんやりしている。
種族特有なのかな?
ともあれ、こうして娘と朝に散歩をするっていうのも、ほのぼのしてて良いな。
「お、ユウヤパパ。カリナママがいたのじゃ」
「本当だ。狼男さんの言うように、公園に来てたね」
公園に入ってすぐ、マリーちゃんがカリナさんを見つける。
カリナさんは、公園の真ん中……井戸がある場所で、数人の魔物と楽しそうに談笑しているようだった。
「カリナママー!」
「あら、マリーちゃん? どうしたの?」
「起きたらカリナさんがいなかったから、探しに来たんだよ。朝食も作らないといけないしね」
「あらあらまぁまぁ、そうだったわね。話に夢中で時間を忘れてたわ。ごめんなさいね、マリーちゃん?」
「大丈夫なのじゃ。それより、どんな話をしてたのじゃ?」
「あらあら、マリー様。マリー様が気になさる程の事は話してませんよ?」
「そうですよぉ、マリー様。私達はここで世間話をしていただけすからねぇ」
「そうそう。旦那の愚痴を言ったりねぇ?」
「カリナさんの旦那さんは、しっかりしてそうで、羨ましいわぁ」
話に夢中で時間を忘れてたカリナさん。
何を話してたのか気になったマリーちゃんだが、周りにいる魔物達には何でもない事と言われてるな。
……もしかして、ここにいる魔物達って、全員主婦なのかな?
井戸端会議が開かれてたのかもしれないな……カリナさん、順応早いなぁ……俺はまだ、四天王の皆さんと城にいる魔物達くらいしか知り合いがいないのに……。
それにしても、旦那の愚痴か……井戸端会議ではお決まりのテーマらしいけど、俺の悪口とかは言われて無さそうで良かった。
カリナさんに愚痴が出る程の不満がなかったようで、少し安心した。
まぁ、いつかは言われてしまうことかもしれないけどな……こればっかりは仕方ない。
「それじゃ、帰りましょうか、マリーちゃん」
「うむ、じゃ」
「それでは奥様方、また……」
「はーい」
「良い奥様ねぇ」
「旦那さんも、良さそうな人ね……」
カリナさんが奥様方に挨拶をして、井戸から離れる。
奥様方の話って結構とめどが無い事が多いから、残った奥様達はこれからまた、色々と話すんだろうな。
「カリナママ、手を繋ぐのじゃ!」
「あらあら、ここまでユウヤさんと手を繋いで来たの?」
「手を繋いで、のんびりと歩いて来たよ」
「そうなのね。それじゃ、私も……」
「繋いだのじゃ。マリーが真ん中なのじゃ」
「ははは」
「あらあら」
朝の新鮮な空気の中、マリーちゃんを真ん中にして手を繋ぐ俺達。
なんだか本当の親子になった気分で、すごく微笑ましいな。
真ん中で手を繋いだまま、はしゃぐ様子を見せるマリーちゃんに、俺とカリナさんが微笑みかけながら、ゆっくりと歩いて城に戻った。
……たまには、家族でゆっくりこういう時間も良い物だな……と実感した。
「美味しかったのじゃ、カリナママ!」
「あらあら。でも、ごめんなさいね? 時間を忘れてたせいで、あまり手の込んだ物を用意できなくて……」
「たまには、こういうのも良いんじゃないかな? カリナさんも毎日しっかりした朝食を作るんじゃなくてさ?」
「そうかしら? でも、朝食は大事だし……」
「今日のだって、立派な朝食だよ? いつも美味しい食事をありがとう、カリナさん」
「ユウヤさん……こちらこそありがとう。いつも美味しそうに食べてくれて。……これは、マリーちゃんにもね」
「カリナママの料理は美味しいのじゃ。何で美味しいのか、調理の姿を見ると不思議じゃが……」
城に戻り、ササっと料理を済ませて、俺達に朝食を振る舞ってくれるカリナさん。
いつもと違って、今日はパンを焼いた物と、洗った野菜を適当に切ってドレッシングをかけた簡単な物だけど、十分美味しいからね。
戻った時、お腹を空かせたまま、俺達がいない事で泣きそうになっていたクラリッサさんも加えて、皆満足な朝食だったようだ。
……クラリッサさんは、俺達がクラリッサさんの事を忘れて、どこかへ行ったのだと勘違いしてたらしい。
うん、忘れてなんてなかったよ……うん。
0
お気に入りに追加
477
あなたにおすすめの小説
異世界国盗り物語 ~野望に燃えるエーリカは第六天魔皇になりて天下に武を布く~
ももちく
ファンタジー
天帝と教皇をトップに据えるテクロ大陸本土には4つの王国とその王国を護る4人の偉大なる魔法使いが存在した
創造主:Y.O.N.Nはこの世界のシステムの再構築を行おうとした
その過程において、テクロ大陸本土の西国にて冥皇が生まれる
冥皇の登場により、各国のパワーバランスが大きく崩れ、テクロ大陸は長い戦国時代へと入る
テクロ大陸が戦国時代に突入してから190年の月日が流れる
7つの聖痕のひとつである【暴食】を宿す剣王が若き戦士との戦いを経て、新しき世代に聖痕を譲り渡す
若き戦士は剣王の名を引き継ぎ、未だに終わりをしらない戦国乱世真っ只中のテクロ大陸へと殴り込みをかける
そこからさらに10年の月日が流れた
ホバート王国という島国のさらに辺境にあるオダーニの村から、ひとりの少女が世界に殴り込みをかけにいく
少女は|血濡れの女王《ブラッディ・エーリカ》の団を結成し、自分たちが世の中へ打って出る日を待ち続けていたのだ
その少女の名前はエーリカ=スミス
とある刀鍛冶の一人娘である
エーリカは分不相応と言われても仕方が無いほどのでっかい野望を抱いていた
エーリカの野望は『1国の主』となることであった
誰もが笑って暮らせる平和で豊かな国、そんな国を自分の手で興したいと望んでいた
エーリカは救国の士となるのか?
それとも国すら盗む大盗賊と呼ばれるようになるのか?
はたまた大帝国の祖となるのか?
エーリカは野望を成し遂げるその日まで、決して歩みを止めようとはしなかった……
元魔王おじさん
うどんり
ファンタジー
激務から解放されようやく魔王を引退したコーラル。
人間の住む地にて隠居生活を送ろうとお引越しを敢行した。
本人は静かに生活を送りたいようだが……さてどうなることやら。
戦いあり。ごはんあり。
細かいことは気にせずに、元魔王のおじさんが自由奔放に日常を送ります。
異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。
みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
転生少女、運の良さだけで生き抜きます!
足助右禄
ファンタジー
【9月10日を持ちまして完結致しました。特別編執筆中です】
ある日、災害に巻き込まれて命を落とした少女ミナは異世界の女神に出会い、転生をさせてもらう事になった。
女神はミナの体を創造して問う。
「要望はありますか?」
ミナは「運だけ良くしてほしい」と望んだ。
迂闊で残念な少女ミナが剣と魔法のファンタジー世界で様々な人に出会い、成長していく物語。
薔薇の令嬢と守護騎士の福音歌(ゴスペル)
ももちく
ファンタジー
ここはエイコー大陸の西:ポメラニア帝国。賢帝と名高い 第14代 シヴァ帝が治めていた。
宮中で開かれる彼の治世が始まって20周年の宴において、シヴァ帝の第1皇女:チクマリーンと四大貴族の1家の次男坊ナギッサ=ボサツとの婚約が発表されることとなる。
次代の女帝候補とその夫君が決まったシヴァ帝の治世はいよいよ謳歌を迎えようとしていた。将来の女帝の夫を輩出することになったボサツ家もまたその栄華を享受しようとしていた。
そして、所変わり、水の国:アクエリーズのとある湖畔のほとりの小さな|社《やしろ》で、1組の男女が将来を約束しあっていた。
女性の名はローズマリー=オベール。彼女はボサツ家の部下である男爵家:オベール家の一人娘である。
そんな彼女と『婚約』を交わした男は、彼女が幼きころより従者として仕えていたクロード=サインである。
ローズマリーとクロードの将来はシヴァ帝の治世のように輝かしいモノになるはずであった……。
のちにポメラニア帝国が属するエイコー大陸で『|薔薇の貴婦人《ローズ・レディ》』と恐れられるようになるローズマリー=オベールの物語が今始まる!
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる