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第27話 意外に不便な身体強化(極限)

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「……中々の鋭さじゃ。それだけでも、大抵の魔物に勝てるだろうじゃ。身体強化(極限)のおかげか、速度も凄まじかったのじゃ。……じゃが……」

 俺の突きを評価するマリーちゃん。
 しかし、その途中で俺の持っている槍を見て、言葉を止める。
 まぁ、これはなぁ……。

「折れてるな……」
「うむじゃ。おそらく、ユウヤパパの力に耐えられなかったのじゃ。……頑丈な槍だったはずなのじゃが……」
「槍だと柄が長い分、折れやすいのかな?」
「そうかもしれんのじゃ。次は別の武器じゃ」
「わかった」

 頑丈な槍とマリーちゃんが言っているけど、槍の方は真ん中からぽっきりと綺麗に折れている。
 柄が長いから、という理由にしておいて、次は剣を握る。
 あ……。

「握る力が強すぎじゃ……」
「……えーと」

 次こそしっかり攻撃を、と意気込んで握った剣は、柄の部分が俺の手によってぐしゃりと握り潰されていた。
 槍でこうならなかったのは、あの時はまだマリーちゃんへの遠慮があって、強く握ってなかったからなのかもしれない。
 しかし……こうなると剣も使えないな……。

「つ、次は斧だ!」
「強く握り過ぎてはダメじゃぞ?」
「わかってる」

 置いてあった斧を持ち上げ、片手で構えてみる。
 斧は剣や槍と違い、重い武器だからか、比較的がっしりとした作りで、俺が握り込んでも潰されたりはしなかった。
 ……少し力加減をしてるけどな。

「よし、来いなのじゃ!」
「あぁ。……ふん! せや!」

 ガキンッ! ガキンッ! と、二度程マリーちゃんの前に張られた魔法の盾に、斧を打ち付ける。
 そうしても斧は折れていない……斧が丈夫だからか?

「ふむ……その斧はもう使えんのじゃ」
「え? でもまだ折れてないぞ?」
「刃の部分をよく見てみるのじゃ。大分欠けてしまってるのじゃ」
「……ほんとだ」

 マリーちゃんに言われて自分の持っていた斧を見てみると、刃の部分が欠けてしまい、とてもじゃないけど相手を斬るなんて事はできそうにない。
 欠けた部分から中程まで、ヒビも入ってるから、これ以上この斧を使うのは危険だな。

「どの武器も合わんようじゃ……。弓……は引き絞れば弓が壊れそうじゃし……どうしたもんかじゃ……」
「身体強化(極限)が、こんなに不便だなんて……」

 身体強化(極限)は、その名の通り、体の力を極限まで高める能力。
 俺という人間の限界すら越えて強化するみたいだから、バハムーさんとの腕相撲も勝てたんだろうけど、その代わり、上手く武器を使うことには向かないみたいだ。
 むぅ、剣や槍を華麗に使って、カリナさんやマリーちゃんに良い所を見せたかったのに……。

「仕方ないのじゃ。ユウヤパパは素手で戦うのじゃ」
「素手? でも、バハムーさんとか、アムドさんとか……拳で殴るのはこっちが痛そうなんだけど……」
「心配ないのじゃ。武器を扱っている時に見ていたのじゃが、ユウヤパパは武器が壊れる程の力を発揮しても、自分の体には影響が無かったのじゃ! じゃから、硬い物を殴っても、痛みは無いはずじゃ!」
「……そうなのかな?」

 確かに、槍が折れる程に力を込めた突きを魔法の盾にぶつけても、手が痺れたりする事は無かった。
 斧の時もそうだ。
 もしかすると、身体強化(極限)は運動能力を高めるのではなく、体そのものを強化する能力なのかもしれない……。
 とはいえ、アムドさんのような金属でできてる鎧の体を、素手で殴って痛みが何もいいだろう……という事には納得しかねるがな。

「とりあえず、適当に拳を打ち込んで来るじゃ。また魔法で防御するのじゃ。全力で来いじゃ!」
「……わかった」

 あれこれ考えてても仕方ないしな。
 マリーちゃんの言葉に従って、まずは打ち込んでみようと、拳を握り、構えを取る。
 柔道は多少習ってたけど、ボクシングとか空手とか、拳で戦う方法は習ってないから、構えは適当だけどな。

「そら!」
「なんじゃと!?」

 バリンッ! というガラスが割れたような音と共に、力を込めて正拳突き(見様見真似)を放った俺の拳が、マリーちゃんの前にあった魔法の盾を突き抜け、マリーちゃんの体にぶち当たる。

「あ……」
「ぬぐぁぁぁぁぁ!」

 幻魔法を使った魔王状態の時のような声を出し、俺の拳に吹き飛ばされるマリーちゃん。
 きりもみ回転して、闘技場の壁に突き刺さってしまった。

「マリーちゃん、大丈夫か!?」
「マリーちゃん!? ユウヤさん、貴方は娘に何て事を!」

 すぐさま突き刺さったマリーちゃんの所へ駆け寄って、声を掛ける。
 同じように観客席側から駆け寄って来たカリナさんが、上から覗き込むようにして叫ぶ。
 同時に、俺を責めるような事を言うが……マリーちゃんが全力でって言ったから……。
 という言い訳も、娘に対してやってしまった罪悪感で、口から出ない。

「……大丈夫じゃ。ちょっと痛かったけどじゃ」
「マリーちゃん……無事だったか」
「良かったわ……怪我は無い? 痛いところは?」
「心配しなくても良いのじゃ、カリナママ。さっきのは油断してたから、飛ばされただけなのじゃ。この程度でマリーが怪我をするわけないのじゃ」

 スポッと突き刺さった壁から出て来るマリーちゃん。
 その様子はどこかを痛めたり、怪我をしている様子はなく、俺もカリナさんもホッとする。
 ……考えてみれば、この世界に召喚された時、自分が放った魔法をカリナさんに跳ね返された爆発とか、俺に思いっきり顔を殴り飛ばされて、椅子を壊しながら吹き飛んでも無傷だったよな……。
 どれだけ頑丈なんだ、マリーちゃんは……?

「もう、ユウヤさん? 娘を殴り飛ばすとは何事?」
「いや、あの……つい……」
「まぁ、ユウヤはまだ身体強化(極限)に慣れて無いようなのじゃ。仕方ないじゃ」
「ほんと、ごめんなマリーちゃん」
「気にするなじゃ、ユウヤパパ! マリーは強いパパの方が好きじゃ」

 強いパパの方が好きじゃ好きじゃ好きじゃ……頭の中で、マリーちゃんの言った言葉がやまびこのように木霊する。

「よっしゃぁ! 娘に格好良い所を見せるために、頑張らないとな!」

 マリーちゃんの一言ですっかりやる気になった俺は、カリナさんをその場に残して、また闘技場の真ん中へ。
 マリーちゃんも一緒に付いて来て再び向かい合う形だ。
 何事も無かったように歩いてたから、本当に怪我とかは無いみたいだな……良かった。

「ユウヤパパはやっぱり、武器を使わない方が良いのじゃ。武器を使ってた時は遠慮とかあったじゃ?」
「……やっぱ、娘に剣とか槍を向けるってのはなぁ。そういう所で、無意識に加減してしまってたのかもしれない」
「ふむ、私を娘として見てくれるのは嬉しいじゃ。じゃが、怪我は無かったじゃろう? 思いっきり打ち込んでも良かったのじゃ」
「まぁ、今となってはな。でも、本当に全力だったら、武器の方が壊れるんだろうな……」
「そうじゃな。完全に武器が壊れてしまっておったじゃ」

 さっきは無意識に手加減をしてしまってたから、マリーちゃんの魔法の盾を破れなかったんだろう。
 武器が無い分、マリーちゃんにもし当たったら怪我をさせてしまうかもしれない……という遠慮があったんだろうと思う。
 これでももし、遠慮なしの全力だったら、それぞれの武器はもっとひどい壊れ方をしてたかもしれないな。

「武器はやっぱり使えないのじゃ。ユウヤパパには素手で戦ってもらうじゃ」
「……それが良さそうだな。でも、リーチの長い相手とかだと、不利じゃないか?」
「身体強化(極限)は、それを補って余りある強さじゃ。相手の攻撃を掻い潜って殴れば良いのじゃ」
「それはまぁ、そうなんだろうけどな……」

 でも、それができれば苦労はしない。
 戦闘の素人である俺が、相手の攻撃を避け、その隙に近付いて一撃! なんて事ができるかは怪しい。

「大丈夫じゃ! そのための訓練方も考えてあるじゃ!」
「おぉ、さすがマリーちゃん!」

 俺がどうするべきかを考えていると、マリーちゃんは名案があるように頷いて言った。
 どういう事をするかわからないが、ここはマリーちゃんの案に乗るのが一番だろう。
 戦闘の素人が、有効的な訓練法を考え付くとは思えないしな。


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