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室内での魔力放出は危険

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「えーっと、それでクォンツァイタはともかく、エルサへの魔力ってどうしたらいいんだろう? なんとなくは聞いているけど、結局やり方は知らないんだよね。いつもは、漏れ出る魔力をエルサが勝手に吸い取っているだけだし」
「失礼もきゅもきゅだわ……勝手にじゃもきゅもきゅじゃないのだわもっきゅもきゅ。リクの方が異常にもきゅもきゅ魔力が多いからもっきゅ。ごく……ん、だから契約の繋がりで魔力が流れて来るだけなのだわもっきゅも」

 もっきゅもって……というかもきゅもきゅ魔力って、なんだか可愛いな。
 じゃなくて、キューを夢中で食べながらも俺の言葉に反応するエルサ。
 食べるか喋るかのどちらかに……とは思うけど、どうせエルサの事だから注意したらキューを食べる方に夢中になるのはわかりきっているし、特に何も言わないでおこう。

「ここに来るまでにエルサ様と話したんだけど、そのリクとの契約ってのを利用するの」
「契約を?」
「えーと、確か普段は契約の繋がりだけじゃなくて、リクから漏れ出している魔力をエルサ様が吸い取っているのよね?」
「そうみたいだけど……」
「全部ではないのだわもっきゅ。もきゅもきゅ……んく、漏れ出して溶けだしている魔力のうち、もっきゅ部だけを契約を利用してもきもきゅ……しているだけなのだわもきゅきゅ」

 エルサの語尾がキューを食べる事で変わっているけど、まぁそれはともかく。
 少し言葉になっているか微妙な部分があったけど、多分「一部」と「吸収して」ってところかな。

「つまり、契約で繋がっているリクとエルサ様は、魔力が流れやすくなっているという事なの。これはつまり、リクが魔力を出すだけで、エルサ様が魔力を補充できるという事を示しているわ」
「成る程……そういえば、以前にも似たような事はあったっけ」

 確かあれは、ロジーナに隔離された時だったか。
 エルサだけ先に隔離空間から外に出すために、少し魔力を分けるような事をしたはずだ。
 まぁ咄嗟の事だったし、色々必死だったから感覚的にはほとんど覚えていないけど。

「って事は、ただ俺が魔力を放出すればいいだけなのかな?」
「それだけじゃ、効率がいいとは言えないわ。だから、クォンツァイタにやるように……できればさらに少し踏み込んで契約の繋がりを意識して、そこに流し込むようにすればできるはずよ。多分だけど」
「多分って。まぁ、フィリーナもわからない事だらけだろうし、仕方ないんだろうけど」
「ドラゴンと人間の契約なんて、エルフの私が詳しく知るわけないもの。仕方ないわ」

 フィリーナが溜め息混じりに言っているように、エルフだからというのもあるだろうけど、ドラゴンと契約する例が少なすぎるから、わからない事が多いんだと思う。
 クズ皇帝はおそらく契約しているんだろうという、推測がなされているけど……他にドラゴンと契約している人なんて知らないし、誰からも聞かないからね。
 エルサから話を聞いている限り、過去にはいたんだろうけど今はいるのか定かではないし、そもそも絶対数が少なすぎてわからない事の方が多いんだろう。
 こういう話は、ドラゴンを創ったユノに聞いた方が早いかもしれないけど……今はここにはいないから仕方ない。

「じゃあ私は、リクさんがエルサちゃんに魔力をあげている間、クォンツァイタの方に魔力を蓄積させるわね。私は魔力量が多いわけじゃないから、少しだけだけど」
「それでも助かるわモニカ。今は少しでも魔力が欲しいの……って、どうして離れるの? いつもならリクの近くが定位置なのに」
「て、定位置って事はないけども……フィリーナも離れておいた方がいいわよ? それからヒルダさんも。まぁ、この部屋の広さで足りるのかはわからないけど、念のため」
「そ、そう? モニカがそう言うなら……」

 クォンツァイタをいくつか受け取って、部屋の隅に移動するモニカさんとフィリーナ。
 何も言わず、ヒルダさんもスッとそちらへ行っていた……同じ部屋にいるのに、皆が離れて行くというのは少し寂しいけど、モニカさんが必要だと思ったんなら我慢しておこう。
 何気に、フィリーナが離れる前に俺のすぐ隣にクォンツァイタの入った袋を置いたのが、こちらにも蓄積させろという圧に近いものを感じた。
 少しでもって言っていたし、蓄積させる魔力、足りないんだろうか?

「もきゅもきゅ……んぐっ! だわ~。お腹の方は補給できたのだわ。次は魔力なのだわ~」
「はいはい。えーっとそれじゃあ……」

 モニカさんからもらったキューを食べ尽くし、多少満足したらしいエルサが、座っている俺の膝の上に乗る。
 いつもの頭ではないのは、魔力を受け取るためだろう。
 それからエルサのモフモフ、もとい体をを両手で包み込むようにしながら、目を閉じていつもは特に意識しないエルサのつながりのようなものを感覚で探す。

「契約を意識……ん、これかな? 細い線のようなものが、どこかへ繋がっているような」

 目に見えるわけじゃないので、完全に感覚頼りになってなんて言えばいいのか困るけど……俺自身の奥深くからどこか別の方、自分ではない何かに向かって線が繋がっているのがわかる。
 赤い糸とか運命的なものでも、頼りないというわけでもなく、しっかりと繋がっていて切れるような弱さは感じない。
 細い線、と感じたけどどちらかと言えばワイヤーのように幾重にも折り重なって柔軟さも併せ持つ、強固な線という感覚だね。

「それが私に繋がっているのだわ。それをよく感じて、強く意識して……魔力を放出するように流すイメージなのだわ。魔力を流す、放出するのは最近リクがやっている自らの魔力を意識して、それを外に出す感覚でいいのだわ。ただし、むやみやたらに外へ出すのではなく、私と繋がっている線を意識するのを止めないよう注意するのだわ」
「わ、わかった。やってみる……ん!」

 強く線を意識。
 それと共に、最近ようやく慣れてきた自分自身の魔力も同じく意識して感覚を澄ませる。
 線に流れるように……外へ押し出すのではなく、線を伝っていくように……。
 エルサに言われた言葉の通り、意識を途切れさせる事なくエルサとの契約の繋がりを示す線へと魔力を放出していく。
 最初はゆっくり、段々と強く……。

「ふわぁ! キタキタキタキタキタのだわー!! リクの魔力がいっぱいなのだわー!」
「……エルサ、ちょっとうるさい」

 変に興奮したような叫びを上げるエルサ。
 目を閉じてかなりの集中を要しているから、すぐ近くでそんなの大きな声を出されたら気が散ってしまうじゃないか……。

「くっ……うぅ……な、成る程。モニカがリクから距離を取った理由がよくわかったわ」
「正直、近くでこれを受けるとなると結構辛いと思ったのよ。私は、魔物討伐の時に見ていたからね。でも、あの時よりも勢いはかなり小さいかしら?」
「こ、これがリク様のお力ですか……話には聞いていましたし、活躍も同じくですが、近くで感じるとこれ程とは。少々、私には辛いですね」
「おそらく、リクがエルサ様に魔力を分け与えているからでしょうね。思いっきり放出するのではなくて、流し込むからとかかしら。初めてみるから、推測でしかないけど。あとヒルダさんは、私の陰に隠れて。こちらからも魔力を出して抵抗してみるわ。これで、ほんの少しでもこちらへの勢いが弱まるといいんだけど……」
「申し訳ありません、フィリーナ様。助かります」
「クォンツァイタに魔力をと思ったけど、それどころじゃないわね。魔物に向けられていた時はこれ以上だったなんて、正面から受けて無事でいられるのは、人にはそう多くないんじゃないかしら?」
「うく……す、少しは弱まったけど、それでもまだまだね。確かに、モニカの言う通りそれこそ魔物でもない限り、これ以上を受けて正面に立つなんて想像、まともに立っていられるとは思えないわ……」

 などなど、エルサの叫びはまだまだ続いているけど、その他に部屋の隅に移動したはずのモニカさん達の会話が聞こえた。
 魔力を放出するだけでなく、深く集中して意識を研ぎ澄ましているから、もしかしたら聞こえているのかもしれない。
 部屋は広く、そこそこ大きな声を出さないと隅から俺の座っていた場所まで、内容が理解できる程はっきり声が聞こえるってのはあまりないからね。

「ふわぁぁぁぁぁぁ!! だわ!? リ、リク! ちょ、ちょっとストップなのだわ! やりすぎ、やり過ぎなのだわ! もういいのだわー!」
「ん? あ、あぁごめん」
「ふはぁ……だわ」

 魔力を流すのを止めると、エルサが大きく息を吐いた。
 ちょっと強く魔力をやり過ぎてしまったようだ……もしくは、量が多すぎたのかな?

「や、やっと止まったわ。エルサ様に向けているだけなのにこれって……」
「魔物が怯むのも当然ね。エルサちゃんに乗って空から見ていると、吹き飛んでいたのもいたようだけど。あれよりはかなりマシなのでしょうけど」
「リ、リク様のお力を間近で見られる機会というのは得難いですが、これはさすがに……」

 部屋の隅の方から、ホッとした様子が混じった話し声が聞こえ、ふと目を開けて周囲を見る。

「あー……これはやっちゃったかな」

 部屋その物は無事と言えるのだろうけど、調度品とかお茶のカップ等々が散乱していた。
 それだけ、魔力を放出する時に衝撃が走ったんだろうけど……。

「やっぱりリクは、もうちょっと魔力の調整に慣れるべきなのだわ。今回は私に魔力を供給するだけだから、そうそう大きな事にはならないと思ったけどだわ。リクを信じた私が馬鹿だったのだわ……」
「うぅ、ごめん……」

 溜め息混じりのエルサに、俯きながら謝る。
 魔力放出自体の出力とかも、頑張って調整できるようにならないといけないなぁ。
 最近は自分の魔力を意識でき始めた事から、多少魔力についてわかって来たように思えたけど……そうじゃなかったみたいだ。
 エルサに魔力を流すとはいえ、それでも他から漏れていた魔力は大きな衝撃で部屋の中を荒れ狂っていたようなのは、色んな物が散乱したのを見ればわかる。

 もうちょっと、どころではなく魔力の加減を覚えないとね。
 何度も考えていながらできていないから、反省しても説得力とかはないだろうけど。


「すみません、ヒルダさん。今度は、部屋の中でこんな事はやらないようにします」

 魔力放出は今度から訓練場とか外でやるべきだなと反省しつつ、ヒルダさんに謝る。
 物が散乱したり、陶器製の物が割れたりはしていたけど、さすがヒルダさんと言うべきかてきぱきと動いてあっという間に片付いた。
 俺やモニカさん達も手伝ったんだけど、ヒルダさんの動きを見ていたら手伝いはいらなかったんじゃないかと思う程だ。
 でもまぁ、散らかした理ものを壊した犯人は俺なので、手伝わずただ任せるわけにはいかないんだけど。

「いえ、この程度はなんて事ありません。リク様もわざとやったわけではないですし、リク様のお力の一端を見る機会だったと思えば。私が口にするのは憚られるかもしれませんが、お貴族様の中にはわざと散らかして、片付けをする下働きの者達を笑うという質の悪い方もいらっしゃいますので。最近はもういなくなりましたが」

 そう言うヒルダさんからは、何やら不穏な気配が漂っている。
 俺へというよりも、思い出した過去の一部貴族に対する怒りが大半だろうけど……うん、絶対にもう部屋を散らかすような事はしないようにしよう。
 姉さんじゃないけど、ヒルダさんには日頃からお世話になっているのもあって、頭が上がらないし、怖いし……。
 ただ最近はなくなったというのは多分、バルテル関係でそういった貴族が一掃されたからだろう。

 今後はともかく、現在は悪いイメージそのままの貴族がほぼ一掃されているようだからね。
 まぁ、絶対に今のアテトリア王国にいる貴族が、小さくとも悪事を働いていないとは限らないんだけど。
 それでも表立って女王様に反発したり、変に裏から手を回そうとしたり、帝国と通じているような貴族がいないのはこれからを考えると不幸中の幸いと言えるかな。
 姉さんを人質に取って、犠牲になった人もいるあの凶行を認めるわけにはいかないけども。

「それでエルサ、魔力の方は?」

 片付けやヒルダさんへの謝罪などが終わって、一旦落ち着いてからテーブルの上で転がっていたエルサに聞く。
 魔力が流れて行きすぎたからとかではなく、ただ単にキューを食べて魔力も補充されて、食後の満腹状態に近いからみたいだけど。

「むしろ今日魔力を使うまでよりも、充実しているのだわ」
「そっか。ならまぁ良かったかな」
「というかリク、だわ。あれだけ魔力を放出して平気なのだわ? それは、契約の繋がりからなんとなくわかるのだけどだわ」
「うーん、もちろん魔力の総量自体は減っているんだけど……そうだね、全体の四分の三は残っているかな?」
「はぁ……リクはおかしいのだわ。今更だけどだわ」

 以前からなんとなく自分の魔力の残りに関しては多少はわかっていたけど、最近できるようになった魔力に意識を向ける事で、以前よりもはっきり残りの魔力を感じる事ができる。
 それで少し意識を向けて確かめた事を口にしただけなのに、おかしいと言われてしまった。
 いやまぁ、確かにエルサが満足するくらい魔力を流して、さらに部屋が散らかるくらいに放出しておいて半分も減っていないのに、自分でも少し驚いていはいるんだけどね。

「リクがこちらに来たばかり……私と契約した時なら、もうほとんど枯渇に近くなっているはずなのだわ。あの時ですら、私から見てもおかしいと言える魔力量だったのにだわ……」
「なんというか、これまでも自覚があるくらいはっきりと魔力量が増えたなぁって事があったからね」

 最初はルジナウムで限界近くまで魔力を使ってからだったけど、自分の魔力ながらどんどん総量というか、魔力を入れる器のようなものが大きくなっていっているのを自覚していた。
 それ以外にも似たような事はあったから、異常とまで言われていた魔力は増える一方だったり。
 これ以上増えたらどうなるんだろう? なんて事も考えたりするけど、増えても逆に困る事が多い気がするので試そうという気はさすがにない。

 これまでのように、使い果たすくらいの勢いで魔力を使ったからって、同じように器が大きくなって魔力総量が増えるとは限らないしね。
 魔力が少なくなると身体的にも影響が出て辛いし。
 
「ほんと、リクの魔力を私の目で見てももうよくわからないわ。ほら、これを見て」
「ん?」
「だわ?」
「どうしたのフィリーナ?」

 何やらクォンツァイタの入った袋を開いて、ゴソゴソと中を見ていたフィリーナの溜め息混じりの声。
 それに促されるように、袋の中から取り出されてフィリーナの手に乗っているいくつかのクォンツァイタは、全て黄色に染まっていた。
 これって確か、限界まで魔力が充填された状態だったはず……俺に魔力を補充させるために持ってきたはずだから、満充填の物を持ってくるはずはないし……。
 もしかしなくても、さっきの魔力放出で限界まで蓄積されちゃったって事かな?

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