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中央冒険者ギルドを破壊した目的

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「確かにアマリーラさんなら、さっきのマティルデさんの言葉でも、俺が直接言ったら森を破壊しかねないくらい突き進みそうだね。どこに進むのかはわからないけど」
「でしょ?」

 実際にアマリーラさんは、森の木々をなぎ倒して俺の所に向かうなんて事もしていたわけだしね。
 まぁ、同じように木々を斬り倒していた俺は、アマリーラさんの事を言えないけども。

「実際アマリーラさんは言い過ぎとしても、それに近い反応を示す人が冒険者には多かったわ。リクさんよりも、数多く冒険者ギルドに行っているから、その際にリクさんの事を聞かれたり、色々あったから……」

 ちょっと遠い目になるモニカさん。
 何があったのか気になるけど、俺が聞かない方がいいのかもしれない。

「まぁ、モニカ達は毎日のように魔物討伐の報告や討伐証明部位、それに魔物の素材なんかも持ち帰っていたからね」
「持てる物だけというくらいですけど」
「成る程」

 俺が他で動いていた間も、モニカさん達は実戦訓練も兼ねて王都周辺の魔物討伐に行っていたから、その時に冒険者ギルドへ何度も行く機会があったんだろう。
 そうして、他の冒険者さん達の俺に対する反応みたいなのをよく見ていたと。

「とにかくリク君は、やり過ぎない程度に気を付ける必要はあるけど、もう少ししっかりした方がいいかもしれないわね」
「難しいですけど……頑張ります」
「えぇ。その方が、私もモニカも頼りにできるわ。ね?」
「そこで私に振るのは……まぁ、わかりますけど。でも私としては、リクさんには今のままでいいと思っている部分もあるので、ちょっと複雑です」
「そうなの? 私とはやっぱり違うのねぇ」

 よくわからないけど、マティルデさんとモニカさんの間に通じる何かがあるらしく、俺をそっちのけで盛り上がり始めた。
 ともあれ俺自身、もっとしっかりしないとと思う部分は多々あるので、頑張ろうと思う。
 リーダーシップとか、そういうのを発揮した事はこれまでないし、できるかはわからないけど……。


「……やっぱり、以前よりさらに人の通りが少ないですね」

 クランの建物前での出来事の後、話しもそこそこにモニカさんやマティルデさんも一緒に、王城へと戻る帰り道。
 行きもそうだったけど、忙しく動き回っている兵士さんは以前より増えた気がするけど、住民の行き来はさらに少なくなっているように感じた。
 こうして王城に向かって、元々は人通りが多かった商店が立ち並ぶ場所を歩いていても、あまり人ととすれ違わないし。
 兵士さんとなら、何度もすれ違ったし、そのたびに会釈なり敬礼なりされていたんだけど……やっぱり爆発騒ぎの余波は大きいようだし、まだ起こる可能可能性もあるからだろう。

「リク君が不審な人物を捕まえて、爆発した後の救助をしてからは、同じ事は起きていないようだけど、やっぱりまだ完全に収まったとは言い難いし、保証もできないから仕方ないわよ。私だって、今はこうしてリク君がいるから、同行という形で外に出られるんだもの」
「仕事が忙しい、とかではなくてですか?」
「一応これでも、この国の冒険者ギルドをまとめる統括ギルドマスターだからね。もし何かがあればギルドのあれこれが滞ってしまうの。だから、平時でも一人歩きは中々ね。まぁ最近は忙しくてそれどころじゃなかったけど」

 冒険者ギルドでの重要人物だから、護衛もつけずに外を歩くのはほとんどできないらしい。
 今は俺やモニカさんが護衛代わりって事だろう。

「いい機会だし、リク君といろんなお店を回りたいと思ったけど……そんな雰囲気じゃないわね。ずっとこもっていたから、こうした雰囲気を肌で感じるとやっぱり違うわ」
「リクさんとって事なら私も一緒ですけどね。そうですね、私も実際城下町に出るのはあまりありませんでしたから、こんな事になっているなんて……もちろんリクさんから聞いていたけど、やっぱり活気がないとちょっと寂しく感じるわ」
「そういえば、モニカさん達は戻って来てからずっと魔物の討伐ばかりだったからね。まぁ、俺も寂しく感じるのは同じだけど……」

 商店が立ち並ぶ通りなのに、人通りは多くなくお店も閉めているところが多い。
 開いているお店もあるし、人がいないわけじゃないんだけど……少し前に俺が救助に参加した爆発騒ぎがあった事で、さらに外を出歩く人が減るのに拍車をかけたんだろうと思う。
 さながら、シャッター街のような寂しい、そして寂れた雰囲気が漂っている。
 国の中心地、首都とも言える王都で、元々は人で賑わっていたはずなのになぁ。

 戦争が控えているという事で、ピリピリした雰囲気が漂ってしまうのは仕方ない事かもしれないけど、せめて爆発騒ぎくらいは心配せず、多少なりとも活気を取り戻したい。
 俺にできる事はほとんどなさそうなのが悔しいけど。

「……そういえば、冒険者ギルド……中央冒険者ギルドの建物ですけど、あれは他と破壊のされ方が違いましたよね?」
「あれを見たのね。えぇ……他は、周囲を巻き込む形で爆発、というより爆炎ね。それが巻き起こって一帯が破壊されたのに、中央冒険者ギルドだけはその建物以外の周囲の被害は少ないのよ。まるで、狙ったかのようにね」
「リクさんから聞いていますけど、その爆発が起こった際にはマティルデさんは?」
「建物内にいたわ。けど、一階にいたからなんとか助かったってところね。幾人かの職員は犠牲になったわ……」

 そう言って、唇を噛むマティルデさん。
 どれだけの犠牲者が出たのか、数字ではわからないけど……部下だった職員さんが犠牲になって、悔しい思いをしたんだろう。
 中央冒険者ギルドの建物は、それこそ狙い撃ちをしたかのように二階部分より上が完全に破壊されているようだった。
 一階は、二階以上がないため天井が存在しなくなっていたけど、それでも形を保っていたけど。

 俺が駆け付けた爆発現場でもそうだったけど、爆炎を巻き起こして付近の建物を破壊、少し離れた場所では火事で被害を広げる、といった感じだった。
 なのに、中央冒険者ギルドでは、まるでその建物自体を破壊する事が目的だったかのようにも見えたくらいだ。
 周囲にももちろん建物含めて被害は出ていたようだけど、マティルデさんも言っているようにそれは他の場所よりも少ないのは、一目見てわかるくらいに異様とも言える。

「確か、エルサが何か気になるって言っていたっけ……もしかしたら、中央冒険者ギルドの爆発だけ、何かがあるのかもしれません」
「あれを見たら、多くの人がそう思うわよね。でもどうして中央冒険者ギルドだけ、他と違うのかと考えても、結論が出ないのよ。帝国が関与しているのはほぼ間違いないとしても、だったら私達じゃなくて王城とか……国の中枢や関係施設を狙うもんじゃない?」
「まぁ、他の場所は無差別に近い部分もあるので、どういった理由があるのかはわかりませんけど。でも、これまでの帝国の何かしらの仕掛けは、意図や目的がある事が多かったです。王都周辺に魔物が点在しているのは、施設の放棄ついでに近隣への混乱を招くためとかでしょうし……やっぱり何かあると思うのが自然だと思います」

 エルサが言っていたから、というのももちろんある。
 センテでは、俺がぼんやりとしか感じていなかった負の感情……というか気配かな。
 それがセンテに渦巻いていたのを俺以上に感じ取っていたみたいだし。

 とはいえさすがにはっきりとわかるわけじゃないし、こういう時、フレイちゃんとかの精霊とも呼ばれるスピリット達が召喚できれば、わかるんだろうけどね。
 でも今は呼べないから、こちらで調べて考えるしかないし、頼れない。

「……ねぇリクさん。それにマティルデさん」
「ん?」
「どうした、モニカ?」

 深刻そうに話す俺とマティルデさんの話を聞いていたモニカさんが、口元に手を当てながら、ゆっくりと言葉を発する。
 モニカさんはモニカさんで、考えを巡らせていたようだ。

「もしかして、であって見当違いかもしれないんだけど……中央冒険者ギルドの事は、直接狙ったのは間違いないとして、確実な破壊が目的だったからとは考えられないかしら?」
「それは……他のと違って?」
「えぇ。他の爆発は、周囲を巻き込む形で大きく広く被害を出す事が目的のような気がするわ。それは、混乱をさせたりとか色々と理由があるんでしょうけど……確実に破壊するという目的があるなら、ちょっと不十分のような気がするの」
「近くの建物は、他の爆発でも確実に壊されているけど……実際に、王都にある別の冒険者ギルドの建物は、同じように巻き込まれて破壊されたわけだし」
「……いや、モニカの考えは合っているのかもしれないわ。中央冒険者ギルドは、この国における冒険者ギルド全ての中心。そのため、建物としての大きさとかだけでなく丈夫にできているわ。それこそ、爆炎が撒き散らされただけで、簡単に破壊できる可能性が低いくらいにはね。あと、多くの冒険者や元冒険者の職員もいるから、多少建物が破壊されて火事になったとしても、すぐに対処できる力くらいはあるの」
「それは確かに……」

 王都どころか、この国のどの建物とは一線を画して特徴的だった中央冒険者ギルドの建物。
 タージ・マハルみたいな形をしていたんだけど、かなり丈夫そうだったのは一見するだけでわかる程だ。
 まぁ、タージ・マハルって宮殿っぽいけど実は墓廟、つまりお墓だったりするらしいけど……そういう意図は冒険者ギルドにはなかったと思う。
 何故建物があんな形をしているかは、冒険者ギルドの創設者が指定してこの国だけでなく、各地に残っているらしいけど、俺や姉さんと同じく地球から来たんじゃないかと思っている。

 とまぁこれは別の話なので、今は考えを戻すとして……。
 冒険者ギルド、しかも王都だけでなくこの国での中心となるのだから、当然そこにいる冒険者も多いのは簡単に想像できる。
 俺が行った時も、常に数十人の冒険者さん達で賑わっていたし、職員さんの中には元冒険者で今でも現役で通じるんじゃないか、という人だっている。

 そんな人達、戦闘集団がいる場所なわけで、爆発で多少壁が壊れて火事になったくらいでは、すぐに対処されてしまう可能性もあるんだろう。
 魔法が使える人だっているしね。

「……ん? 戦闘集団……?」
「リクさん?」
「えっと、さっきというかクランの建物に向かっている途中ですけど……中央に限らず、冒険者ギルドは戦力を保有していると見られているんですよね?」
「そうね。冒険者自体が、戦闘を生業にしていると言っても過言ではないから。もちろん、冒険者ギルドに来る依頼はそれだけじゃないし、戦闘をしない依頼を専門に扱う冒険者っていうのもいるけどね」

 薬祖採取をしたり、戦闘を伴わない偵察や調査をしたり、他にも冒険者ギルドがある場所の住人からのお困りごとを解決したりといった依頼もあるからね。
 基本は魔物と戦うことが多いし、報酬も危険度が上がるごとに増えるため、そちらの方が目立つしやろうとする人も多いから勘違いしそうになるけど。
 冒険者とはつまり、何でも屋とか便利屋みたいなものだ。
 ともあれ、やっぱり魔物と戦う事を想定している冒険者は多く、そのために準備や戦うための訓練などをしている人がほとんどと言っていい。

 そのうえ冒険者ギルドとしても登録している冒険者向けに、定期的に戦闘訓練の講義みたいなのを開いているらしい。
 つまり、軍みたいな一律の訓練と集団行動を課されているわけではないけど、確かに戦力と言える人達がいるってわけだ。

「はっきりとした目的は、わからない部分もありますし……あちら側の情報も少ないですが、もしかするとこちらの戦力を削ぐ目的があったのかもしれません」
「戦力を? けど、それなら冒険者ギルドではなく、国の施設を狙った方がいいんじゃない? それこそ、軍の兵士が多く詰めている場所とか」
「そうなると、大半は王城を狙う事になりますよね? リスクなんて考えているかはわかりませんが、成功率は多分低いかなって」
「……成る程な。だからこそ、容易に近づける冒険者ギルドを狙ったってわけね。確かにリク君の推測は納得がいくものだわ」

 帝国というか、爆発を仕掛けてきている側がアテトリア御いう国を敵視しているのは間違いないだろう。
 けど、王城やその関係した施設を狙うとなると、近付くにもリスクが伴うし、簡単に近づけるわけでもない。
 王城は当然ながら、敷地に入るためにも色々調べられたりするし……俺達のように、よく知られている人は顔パスだったりはするけども。
 そしてそれは城下町にある方でも大きく変わらず、王都に住む人でも一般の人が簡単には近寄れないようになっている。

 対して冒険者ギルドは、誰でも簡単に建物に近付けるし奥はともかく、受付くらいまでは簡単には入れるからね。
 近くで爆発させるなんて事も簡単って事だと思う。
 そして、冒険者さん達も戦力として考えたら、こんなに簡単に近づけて妨害工作のような事ができる相手はいないと……。

「もしかしたら、冒険者ギルドが相手なら王城などを狙うのとは違って、国の調査も遅らせるとか考えているのかも」
「まぁ、場合によってはというか、向こうは通常の冒険者ギルドとは協力する感じではないようだからな。利用して裏ギルドにしたとしても。だけど……」
「はい。アテトリア王国では冒険者ギルドと国が協力関係をいい形で築いています。だから、それは予想外だったんじゃないかと」

 色々と帝国から人が入り込んではいるため、ある程度の情報は知られているだろう。
 だから多少なりとも、協力関係が築けているというのは向こうも知っているとは思う。
 けど、統括ギルドマスターと女王陛下が談笑する仲とまでは考えていないはずだ……実際俺も、センテから戻って来た時、マティルデさんが姉さんと一緒にいるのを見るまでは、予想もしていなかったし。

「多分ですけど、王城の敷地内で臨時の冒険者ギルドの機能をもった建物を設置する事も、考えられていなかったのかもしれません。信頼関係や協力関係がないと、できない事でしょうし」
「かもしれないわね。そして向こうは、いえ元々ではあるのだけど……私達を敵に回したというわけね」
「えぇ。戦力を削る事が目的だったと予想しますけど、それでもそれ以上の相手を敵にする事になったと考えていいでしょう」

 まぁ、元々冒険者ギルドとしては俺がクランを作って、帝国との戦争に備えるつもりではあったんだけど……ちょっかいを出して刺激して、これまで以上に多くの人を敵に回した感があるよね。
 基本的に、裏から手をまわしてじっくりというよりも、人を人と思っていないような卑劣な手段で実力行使をしているからでもあるけど。
 帝国のトップであるはずのあれが全て考えた事かはわからないけど、他人の事情なんて知ったこっちゃない、力でねじ伏せれば問題ないというような考えが透けて見える気がする。
 なんというか、まだまだ大人とは言えない年齢の俺が考える事かはわからないけど、精神的に未熟な子供が我が儘で他者を踏みにじるような事も平気でしているような印象だ。

 レッタさんに聞いていた通り、自分が全て、手を回すなんてまどろっこしい事はせず、とにかく強引にやればいい、それができると思っているのかもしれないな。
 まぁ、爆発騒動や魔物をけしかけたりが、あちらにとっての手回しなのかもしれないけど。
 ……アテトリア王国を手に入れるための、ね――。


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