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意外なところで繋がっていた親方さん
しおりを挟む「費用に関しては、当初の予定通り冒険者ギルドとの折半、でいいのよね?」
「はい」
「こちらがお願いした事だし、リク君の活躍を思えば、期待も込めて全部こちら持ちで良かったのだけど……」
「それでは、この建物が冒険者ギルドの持ち物のようになってしまいますから」
責任者の人を呼んできてもらう間、マティルデさんとモニカさんが何やら話している。
この建物に関する費用についてのようだけど、元々マティルデさん側は冒険者ギルドが全て負担するつもりだった。
それは、冒険者ギルドの組織として帝国に与する裏ギルドに対抗するため、俺達へお願いした事や存続が危ぶまれる可能性を考えての事だったらしいけど、それにモニカさんが待ったをかけた。
全額こちらで負担するという案もあって、そのためのお金は持っていたんだけど、逆にそれだと冒険者ギルドの面目が立たないとの事。
それで結局、モニカさんとマティルデさんが話し合って、お互い半分ずつ、折半しようという話になったらしい。
こちらも出しているから、建物の所有権を元々冒険者ギルドは主張する気はなかったらしいけど、この先代替わりした時などに揉めるのを防ぐ意図があるとか。
冒険者ギルドも負担しているため、一方的にクランを作るように言って押し付ける、帝国の裏ギルドに関しての対処にも協力している、という名目も保たれるとかなんとか……。
なんだか色々複雑な思惑みたいなのが垣間見える交渉をしたらしい。
ともかく、モニカさんのおかげでこの先、帝国との戦争が終わった後なども含めて、問題らしい問題は事前に防がれたという事でもあるみたいだ。
さすがモニカさん……まぁこのために、ヒルダさんや姉さんとも話して、宰相さんも交えて色々勉強してくれたみたいだけど。
うん、クランに関してだけではないけど、モニカさんには頭が上がらないなぁ。
ちなみにそのモニカさんは、当然俺達のパーティのままで冒険者を続けるし、エアラハールさんからの訓練も受けているけど、事務方のナラテリアさんとカヤさんの上司となる予定だ。
「あぁそうだリクさん、やろうと思えばもう少しかかるようだけど、外壁も内壁や柱とか床も含めて、色とかも変えられるそうだけど……どう?」
「うーん、俺としてはこの白いままのほうが、清潔感とかもあっていいと思う。まぁ、掃除は大変かもしれないけどね」
「わかったわ。私もエルサちゃんみたいに綺麗なこの白色がいいかなと思うし、このままでいくわね」
「うん」
お金の心配はしなくていいけど、色を変える塗装とかをしたら費用がプラスされるんだろうなぁ。
だから、モニカさんはこの時点で俺に聞いたんだと思う。
なんにせよ、モニカさんも気に入っているようだからこのままでいいだろうね。
「……ソフィーやフィネさん達にも確認したいけど、まぁあちらは気にする方でもないから大丈夫そうね。もし変えたいなら後で聞いて、それぞれの部屋に限ってとかかしら」
「あ、来たわね」
モニカさんが考え込んで小さく呟いているうちに、責任者と思われる人が到着。
ブハギムノングでよく見かける、大柄な作業員といった風体の男性で、頭に巻いているねじり鉢巻きや持っている道具などから、大工の棟梁のイメージそのままな人だ。
「おう、マティルデさんかい。今日はどうしたんだ?」
「視察というか、この建物の出来栄えを見にね。そうそう、こちらが……」
見た目通りの野太い声の棟梁さん、というか責任者さん。
その人にマティルデさんが俺達の事を簡単に紹介。
「おぉそうか、あんたがリク様か!」
「は、はい、よろしくお願いします……」
満面の笑みで、俺の手を取って握手……までは良かったけど、ブンブンと上下に振る棟梁さん。
歓迎されているようだからいいんだけど、ちょっと痛い。
魔力解放をしていないのに、痛みを感じるくらいの勢いとは……見た目通り力持ちのようだね。
「あんたには感謝しているんだ! こうして会えて嬉しいぜ!」
「感謝ですか? それは、この建物を頼んだからとか……」
大きな建物だから、その分棟梁さんとしてもお金になる仕事だろうし、だから感謝なんだろうか?
「まぁこれはこれで稼がせてもらっているが、そうじゃなくてな。フォルガット、と言ったらわかるかい?」
「フォルガット……あぁ、ブハギムノングのフォルガットさん!」
「あぁそうだ。そのフォルガットはな、俺の弟なんだ」
「そうなんですか!?」
フォルガットさんのお兄さんだったのか……言われてみれば、ニカッと笑った顔や雰囲気、大柄で筋骨隆々とした体形なども似ている。
まぁ、筋骨隆々という部分は、ブハギムノングの鉱夫さん達は大体似たり寄ったりなんだけども。
「フォルガットがいるブハギムノングの鉱山も、あんたに救われたって言うじゃないか。それに、この王都でも魔物が入り込んだ時もそれ以外も、助けてもらっているからな。一度は会って、直接感謝を伝えたいと思っていたんだよ!」
「親方さんは、リク君が使う建物だからってわけで、喜んで引き受けてくれたのよ。それに、割引なんかもしてくれてね」
棟梁さんと言うのは大きく間違っていなかったようで、親方さんか。
フォルガットさんとの関係もあって、この仕事を引き受けてくれたようだ。
人助けはしておくもんだね。
ちなみにこの間も、ずっと俺の手を取ってブンブン上下に振っている……ひ弱な人だったら、手か腕の骨がポッキリ行ってそうな勢いは、全く衰える気配が見えない。
「おうよ! 俺や王都の皆、それに弟が世話になったリク様から、高い金は取れやしねぇって!」
「あ、ありがとうございます。でもさっきは、稼がせてもらったと言っていましたよね? 割引なんかしたら……」
「気にすんな! 稼がせてもらってるのは間違いじゃねぇしな! もちろん仕事で引き受ける以上、その辺りは心得ているし、手なんて抜いちゃいないぜ!」
「それは、はい。まだ全部を見たわけじゃありませんけど、建物の外観やこの玄関ホールを見ればわかります。魂がこもっていると言いますか、真剣に作ってくれているっていうのは感じました」
「おうおう、嬉しい事を言ってくれるぜ!」
実際にマティルデさんが言っていたように、施設的であったり家であったり、といった雰囲気を両方とも揃えているように思えるからね。
手を抜いて作った物に、そんな雰囲気が醸し出せる物が作れるとは思えない。
親方さんが真摯に仕事に取り組んでくれていたのは、間違いないだろう。
「しかし、魂がこもっている、かぁ……」
「な、何か、変な事を言いましたか?」
ピタッと俺の手を握って振っていたのを止めて、眉根を寄せる親方さん。
言ってはいけない事でも言ってしまっただろうか?
「いや……よく意味はわからないが、なんかこうビビッと来たぜ! 魂がこもる……いい言葉だな!」
「そ、そうですか……ははは」
何やらすごく喜ばれたようで、さっきよりもさらに激しく俺の手が振られる。
ちょっと痛い、が結構痛いにランクアップした――。
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