1,881 / 1,903
建物の警備は見知った人
しおりを挟む「あの建物を管理して、多くの冒険者を集めるのかぁ……」
門から建物を見上げ、小さく呟く。
なんというか、立派過ぎる気がしてちょっと気後れしていたりする。
内装次第だろうけど、正面玄関も門に負けず劣らず立派で、両開きのそれはワイバーン達も悠々と通れるくらい大きいしね。
と、玄関に目を向けて気付いた。
「……あれ? 誰かいますね? それも数人」
「あぁ、中にはおそらく、まだ作業をしているのもいるはずだけど、あちらはリク君のクランに参加予定の冒険者の一部に、警備を任せているからそれね。中央冒険者ギルドもそうだが、最近の王都は物騒だから。ここは象徴にもなり得る。破壊されたらたまった物じゃないしね」
「確かに、作ったばかりですからね」
爆発騒ぎに巻き込まれる、もしくは標的にされたらと考えて、警備する人を冒険者さんに依頼して頼んでいたんだろう。
この他にも、個人的な警護や警備などを冒険者さんに頼む人は結構多い……いわゆる、護衛依頼ってやつだね。
兵士さんはあくまで国に所属するから、個人的な護衛は頼めないし。
アマリーラさんやリネルトさんが、名目として俺の護衛をしているし、それと同じだ。
玄関にいる人達は、名目とかではなくちゃんとした警備として依頼を受けたんだろうけど。
「とりあえず、中に入りましょうよ、リクさん」
「うん、そうだね。って、門から玄関まで結構あるなぁ」
「どこぞの貴族様のお屋敷みたいでいいだろう?」
「あまりそこは気にしないんですけど、景観はかなり良さそうですね……」
新しい建物だからか、楽しそうなモニカさんに促されて、門をくぐる。
玄関までは結構な距離があって、警備をしてくれている人達の顔すら判別できないくらいだけど、そこに続く道は綺麗な石畳で、周辺も庭園という程ではないけど、しっかり整備されていた。
色とりどりの花が咲いているとかではないので、目を楽しませるわけではないけど、それなりに剪定されているらしい庭木が、俺達を歓迎してくれているようだった。
……暇があれば、穏やかな風の吹く晴れた日に、椅子を出して座っているだけでも気持ち良さそうだなぁ。
「って、あれはもしかしてルギネさん達かな?」
話しながら、石畳を歩いて玄関へと近づいて行くと、警備をしてくれている冒険者さん達四人いるようだけど、その特徴が見えてきた。
というより、まだ顔がはっきりわからないくらいなんだけど、特徴的な色とりどりの髪色を持つ四人組と言えば、ルギネさん達リリーフラワーしか思い浮かばない。
向こうも俺達に気付いたのか手を振っている。
「そういえば、リク君が連れて来た冒険者に頼んだわね」
マティルデさんの言葉で確定だね。
俺が連れて来た冒険者さんなんて、リリーフラワーの四人しかいないし。
クランに、という話をした人達なら他にもいるけども。
「ルギネさん、アンリさん、グリンデさん、ミームさん。警備お疲れ様です……でいいのかな?」
「リク、待っていたぞ」
「リク君、お疲れ様~」
「ふんっ」
「お腹空いた。干し肉、ある?」
玄関の傍で立っているリリーフラワーの四人。
それぞれ相変わらずのマイペースな挨拶というか、言葉が返って来る。
ルギネさんやアンリさんはにこやかに手を振ってくれているけど、ミームさんは昼食後くらいの時間なのに、もうお腹が減ったのか……よくわからない、干し肉への執着のせいかもしれないけど。
あとグリンデさん、帝国出身者としてセンテでアンリさんと同じく聞き取りをした時に、結構打ち解けたと思ったんだけど、以前のように俺にはそっけないというかプイッとそっぽを向かれた。
うーむ、気難しいと言うのとは違うんだろうけど、中々難しいなぁ。
ともあれ、四人と挨拶や少しだけ話をして、玄関から建物の中へ。
ルギネさん達は警備の依頼で仕事としているわけだから、長話をして邪魔するのも悪いからね。
「この建物が、これからどういう役割を担い、冒険者のための家か拠点か、どちらの雰囲気に傾くかはリク君次第よ。さぁ、どうぞ」
「はい……」
マティルデさんの言葉に頷き、大きな扉を開いて中へと入る。
「おぉ、広い」
「玄関ホールってところかしら。冒険者ギルドに入ってすぐと似ているわね?」
玄関をくぐった先は広い空間になっていて、天井も吹き抜けになっていた。
百人入っても大丈夫、なんて言葉が浮かんできたけど、さすがに実際百人入ったら、少し狭いかもくらいだね。
まぁ、狭いかも、という時点で十分過ぎるくらいに広いんだけど、百人も入ったらってだけだし。
「中も白いんですね……うん、いいかも」
広い玄関ホールを見渡すと、壁や柱が外壁などと同じように真っ白なのが目につく。
白すぎて光を反射して目が痛い、という程でもなく、落ち着いた感じもあって悪くないと思うし、個人的には気に入った。
「内装などももうほぼできている状態だ。色が白なのは、白色石という物を使っているからね。まぁ、柱なども含めて、内側には丈夫な木材を使っているわよ」
「木材と石材を使っているってわけですね」
「その方が、結果的に丈夫な建物になるらしくてね。それと、白色石は他の石材と違って木材との相性がいいらしい。私は専門家ではないのでよくわからないけど」
「成る程、白色石を使っているから全体的に白いんですか……」
黒曜石の白バージョン、みたいなものだろうか。
床も同じ白色石という物でできているようで、しゃがみ込んで手で触れた感触としては、大理石っぽくもあった。
軽くノックするようにしてみたけど、丈夫という言葉通り余り音は響かないね。
ただ石だからひんやりしていると思っていたんだけど、ほんのりと温かみを感じるのはなんだろう?
「白色石……確か、保温石と呼ばれる物の一種でしたっけ? 高い建材だったと思いますけど」
少し心配そうに、モニカさんがそう言った。
我がパーティの、そしてクランの金庫番でもあるから、金額とかそういう部分が気になるようだ。
「そうね。少し前に、北西にある採石場で多く産出されるようになったらしい。それで、市場価格は下がっているのだが……それでもそれなりってところね。だから、建築を早めるためと予算の関係から、木材と白色石を合わせて使っているの」
塗装なり、他の色の石材などを使えば、完成までもっと日数がかかったってわけか。
まぁ、価格はともかくとして、色としても個人的には気に入っているし、それで問題ないだろう。
エルサも白いモフモフだし、好きな色でもあるからね。
「あ、ちょうどいいところに。――ちょっといいかしら?」
「はい?」
建物内で、完成を急ぐために作業していた人だろう。
玄関ホールを通りがかった人をマティルデさんが呼び留め、何やらを伝える。
作業というより、建築に関する責任者の人を呼んで欲しいという事みたいだ。
マティルデさんの顔は知っていたようで、今日来ることも知らされていたからだろう、通りがかったその人は慌てて責任者さんを呼びに走った。
あまり慌てて、転んだりしなきゃいいけど。
白色石という石材の特徴なのか、ツルッとした表面に見えるけど全然滑る感じはないから大丈夫かな、なんて思いつつその人を見送った――。
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる