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対裏ギルドとしてのクラン

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「私がギルド職員になった頃には、国から……いち兵士だけにとどまらず、国の重鎮、そして貴族からも依頼が舞い込んでくる状況に改善されていた。依頼が増える事は、冒険者を富ませる事に繋がり、そして冒険者ギルドも潤う」
「国の方は、魔物からの被害なども防げて、お互いが助け合える関係になったってわけですね」
「そういう事ね。まぁそうできている国、というのは少ないけど……」

 実際、今では取り込まれたと思われるけど、帝国では冒険者ギルドは施政者側からは煙たがられ、協力なんてできない状況だったとマティルデさんに教えてもらった。
 そういえば、魔物も帝国は兵士さんが討伐をするなんて話も、以前聞いたっけ。
 だから、リリーフラワーのアンリさんのように、一部善良な冒険者はいなくはないけど、くいっぱぐれそうなならず者が集まって裏ギルドのような組織ができてしまい、帝国に利用される事になったのだろう、とマティルデさんは予想していた。
 それを聞いて、もしかすると最初からそうするために帝国が仕向けたんじゃないか? と思ったけど……推測の域を出ないし確証がないので、心の中にしまっておく。

「それに、さっきも言ったように、魔物を原資と見る人はやっぱり多いから。冒険者ギルド側は、その裁量によって適正な価格で魔物の素材を市場に流す。けど、それがその国にとっての適正とは限らないって言う問題もあるから……」

 あくまで、冒険者ギルドは複数の国にまたがる組織で、その全体を見ての適正価格をはじき出す。
 けど国は国として、国内での市場の適正と言うのがあるからね。
 経済的な理由になるだろうけど、そこでぶつかり合うっていう可能性もあるのかぁ。

「何はともあれ、こうして今のように国と冒険者ギルドが表も裏も協力関係を築けているのは、私個人としては望ましい事よ。上の思惑はともかく、組織としての冒険者ギルドとしてもこの関係を崩さないよう動いている」
「だからこそ、帝国で暗躍している……させらているのか、望んでなのかはわからないけど、全力で帝国の戦力に加わると見られる裏ギルドに対抗しないといけない、ってわけですね?」

 これまでの話を聞いていたモニカさんも、話しに加わる。

「そう、こちらはクランという単位でね。表立って冒険者ギルドとして冒険者を戦争に行け、とは言えないの。だからこその、リク君のクランなのよ。冒険者が個人でならまだしも、組織だって戦争に与しているというのは、あまりいい状況じゃないわ。それこそ、冒険者ギルドの存続が危ぶまれる程にね」
「クランならいいんですか?」
「クランはあくまでも、そのクランリーダーの考えに賛同した冒険者の集まり。だから、冒険者ギルドとは切り離されている組織ってとこね。まぁ、グレーゾーンではあるけど……一応言い訳は立つわ。けど裏ギルドなんてもってのほかよ。冒険者ギルドが悪事を働く裏ギルドになって、暗躍するなんて事もね」
「成る程……」

 帝国の裏ギルドに対抗するための、苦肉の策ってとこなんだろう。
 諸手を上げて歓迎される方法ではないけど、渋々ながらも頷かれる手段とかか。
 俺自身は、姉さんがこの国にいるというのもあってクランだとかがなくても、戦争に参加するつもりだったけど、モニカさんを始め、クランに参加してくれる人達の意思としても、賛同してくれている。
 あくまで組織だってというよりは、個々人で参加しているという表向きの理由もクリアしているからね。

 ヘルサルでのゴブリンとの戦いから端を発し、各地で魔物を使って仕掛けていた帝国だからこそ、冒険者の多くは敵愾心みたいなものを向こうに持っているのもあるか。
 センテで一緒に戦ってくれた冒険者さんとか、特にだね。
 こちらの戦力を削ごうと、隠れてコソコソと卑怯な策謀をしていて、逆にアテトリア王国側が戦力増強できる状況なのは、皮肉というかなんというか……。
 身から出た錆、とも言えるかな?

「っと、話していたら到着だ。あれが、リク君に任せるクラン。その拠点となる建物よ」
「あれが……」

 新しいからだろうか、白く塗られた壁が太陽の光を反射して輝いているようにも見える建物。
 周辺は背の低い平屋が立ち並び、いくつかの商店らしき物と住宅がある。
 それら周囲の建物とを区切るように、見上げる程の塀から頭を見せ、正面の立派な門の奥には大きく存在感のある建物が鎮座していた。

「……想像していたより大きいんですね」
「まぁ、クラン自体がどれほどの規模になるかわからなかったのもあってね。それに、当初リク君に話をした以前よりも、多くの希望者が集まりそうだったから。ちょっと大きめに作らせてもらったの」
「そうですか」

 建物に関しては全て冒険者ギルド、というかマティルデさんに全部お任せしていて、それがクランを作る際の条件の一つになっていたんだけど……俺はよくわからないし、建物の詳細を考えていたら完成はもっと遅くなっていただろうからね。

「拠点、というよりは大きなお屋敷とも言えますね。もっとこう、武骨な物を想像していました」

 建物を見上げて呟くモニカさん。
 俺も近い想像をしていたかな……お屋敷という程ではないけど。

「クランに参加した冒険者の戻る場所。宿り木と呼ぶのもいるけど、そこに全員が棲むわけではなくとも、家のような物と考える人が多いわね。だから、この国ではほぼないけど、他国では家と施設の中間のような建物が多いの」
「確かに、言えと言うよりは施設っぽくもあるりますね。でも、窓なども多くて住みやすそうな家という印象も受けます」

 クランの建物は、窓などを見る限りでは四階建てだろうか。
 囲んでいる塀が高くて十分目立っているけど、建物その物も平屋が多い周辺の家々とは全く別物ののように異彩を放っている。
 破壊されてしまった、中央冒険者ギルドの建物のような特徴的な感じはなく、この国にある平均的な建築様式だからだろう、石造りでしっかりしているのもあって、目だって異彩を放っているとは思うけど悪目立ちしているとか、浮いているというのは感じない。
 それは多分、マティルデさんが言ったような家としての雰囲気がどこかあるからだろう。

 庁舎区画ではなく、住宅街のような場所で施設的な雰囲気が前面に出ている建物だったら、浮いてしまうからね。
 ただそれだけではなく、計算されて作られたと思われる、左右対称で機能的な様子は、何かの施設を彷彿とさせる気がしなくもない。
 要は、いいとこどり……かどうかは中にすら入っていないのでわからないけど、施設のような機能性と、家のような居住性、またはその雰囲気の中間という言葉が似あうと思われた。
 多くの冒険者さんが集まる場所になるだろう、というのは確かにセンテの事があってから、漠然と想像できるようになっていたけど、それでも大きすぎる気がするけどね――。


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