1,866 / 1,903
アクリス戦後の哨戒
しおりを挟む「そう言えばレッタさん、さっき飛んでいた岩が途中で止まりましたけど、あれって何をしたんですか?」
ユノがアクリスをツンツンとつついていたのを止め、引き摺って他のアクリスがいる場所へと運びつつ、レッタさんへと質問する。
あんな空中でいきなり静止するとか、どう考えでも自然な動きじゃないからね。
影の針が消えていた事なども興味をそそられたけど、疑問という意味ではあちらの方がよっぽどだ。
「ふわぁ。やはりロジーナ様は柔らかくていい匂いがしますねぇ……んん! あれは、魔力誘導の応用よ。あくまで、あの岩は魔法で作られ動かしていたの。だから、ちょっと魔力を操作する事でその動きを止めたってわけなの」
「な、成る程……」
「……はぁ」
レッタさんに抱き上げられて、さらに頬擦りされて溜め息を吐きつつも何やら諦観の表情を浮かべるロジーナは置いておいて……。
あの岩の不思議な挙動は、レッタさんの魔力誘導によるものだったのか。
それにしたって、物理法則とか色々無視している気がしたけど……そもそも、魔法自体が日本で学んだ物理法則に反しているから、今更そこを深く考えるだけ無駄なんだろう。
魔法があるからこその物理法則が、地球とは違ってこの世界にはあると思っておけばいいかな。
ちなみに、その後倒したアクリスを片付けたり、討伐証明部位の角などを切り取ったりしながら話を聞くと、あの岩そのものも影の針も、通常の人間が使えるような魔法ではないらしい。
岩自体は、土の塊を飛ばすような魔法の規模を大きくすればできるだろうけど、それには多くの魔力が必要。
つまり、魔力貸与されて通常よりも……それこそ、エルフ数人分に近い魔力量を持つレッタさんだから扱えるとか。
あの巨大な岩と飛ぶ速度、簡単に使えたら岩を飛ばすだけで多くの敵は押し潰せそうだったけどそれはともかく。
それと影の魔法の方は、特殊な条件を見たさないと魔力量に関係なく、使えないとの事だった。
条件がどんなものかは聞いていないけど、レッタさんの経験してきた事を考えたら方向性はなんとなく察せるので、あまり使えるのがいい事ではあるとは思い難い。
まぁそもそも、俺が使うとかそういうのは考えていないし、詳細を聞く意味はあまりないしね。
「街の方は……何事もなく平穏、かな?」
アクリスの片付けなどを終え、村を訪ねたり、エルサやモニカさん達と合流して、街の方の様子を空から眺めながら呟く。
高い外壁に囲まれた街は、規模で言えばヘルサルの半分でセンテよりも小さい。
こちらには魔物が近付いておらず、付近で戦闘が行われてもいないので、見る限りは平穏な様子が見て取れた。
それと街のあちこちで複数の煙が上がっているようで、鍛冶の街というのが離れて見ていてもよくわかる。
「そうでもないみたいよ。私達が来る前にも魔物が近付いたのかはわからないけど、かなり警戒している様子ね」
「ほら、街の周囲を巡回するように、多くの人が外壁の外にいるだろう?」
「言われてみれば確かに。外壁の上とかで外を警戒している人も、多いかも」
モニカさんやソフィーの言う通り、街の外壁の外には複数のチームを組んでいると思われる人達が、巡回するように外壁に沿って動いているようだ。
それが数組いて、外壁の上や櫓などにも結構な人がいるのが見えるから、かなり外を警戒しているんだろう。
王都から、魔物の集団などの情報が来ているからだろうね。
さすがに無警戒でいるなんて事は街としてあり得ないか。
そういえば、アクリスを倒した近くにある西側の村の人達も、それなりに警戒している様子だったし、なんなら兵士さんと冒険者さんと見られる人が滞在していた。
モニカさん達に聞いてみると、東の村の方も同様の状況だったようで、王都周辺にある各村や街は魔物に対して備えてはいるようだね。
ちなみにだけど、アクリスの討伐証明部位は硬い角で、体の方は食用できるらしく、鹿肉という事で村の人達に全部あげた。
大量にあるから持って帰るのも荷物になるってのもあったし、喜ばれたからね。
農村にとって、肉類というのは結構貴重らしいし……
東の村の方はゴブリンだったからそういった事はなかったけど、西の村の人は近くの村や街にも分けるとの事だったし、東村の人達も食べられるだろう。
その代わりに、大量の作物……野菜をもらって、エルサの背中に積まれていたりするけども。
戻ったら王城の料理人さんに渡そう。
西の村では俺やエルサの事を見て驚いたりなんだり、ってのはいつもの事として……歓迎しようとするのを辞して今に至るってわけだ。
「エルサ、周囲に魔物は?」
「ちょっと待つのだわ……」
ともかく念のため、空から目に見える範囲で魔物はいないようだけど、一応エルサにも探知魔法で探ってもらう。
「近くにはいないのだわ。あっちの方に魔物がいるようだけど、こっちには近付いていないのだわ。別の方へ向かっているようなのだわ」
「わかった、ありがとう」
魔物がいる方向を示すように、向きを変えるエルサ。
街から見て北西の方角か……近付いてきていないのなら、街に危険はなさそうだ。
「それじゃ、今エルサが見つけた魔物の方へ行きつつ、街の人達を刺激しないように離れよう。空を飛んでいるエルサが見られると、警戒している街の人達を不安にさせちゃうかもしれないしね」
空を飛んでいる存在なんて、エルサだと断定できなければ基本的に魔物だと思われてしまう可能性が高いからね。
騎竜隊の人達がワイバーンに乗って、王都周辺を回ってはいるけど……あれもワイバーンを見て、恐れる人はそれなりにいるらしい。
だから、騎竜隊の人達はできるだけ村や街の近くでは、予め離れた場所に降りてから近付き、話しを通しているみたいだし。
そんなこんなで、皆が頷くのを見てエルサに頼み、今しがた探知魔法で発見した魔物の方へと向かった――。
「未発見の魔物がいる可能性はあるけど、報告をまとめる限り、王都周辺に点在していた魔物はほとんど討伐できていると言っていいわね」
「そうだね。俺達も任された方角で一部ではあるけど、広く見て回って魔物の集団が少なくなったのを実感してるよ」
あれからまたしばらく魔物の集団を探し、討伐して日が暮れる頃、王城へと戻った。
今は夕食を終えて部屋で少しまったりとしながら、姉さんと話している。
エルサに乗って大まかに王都の西から南を巡回もしたけど、魔物を発見する頻度はかなり下がっていた。
全て討伐完了したとまでは言えないけど、数がかなり減っていて王都にはもうこの先被害をもたらす可能性は低いと思う。
「王都の兵、冒険者や各地の協力者もそうだけど、りっくんやモニカちゃん達のおかげね。ありがとう。国民を代表してお礼を言わせてもらうわ。立て込んでいるから、正式な謝辞の場ではないのは申し訳ないけれど……」
「い、いえ! その、改まった場がなくても、陛下のお気持ちは伝わっていますから……!」
と、慌てるのはモニカさん……だけでなく、ソフィーやフィネさんもそうだった。
俺からすると、リラックスモードの姉さんは見た目はともかく、記憶にある以前の姉さんに近い雰囲気でもあるので、特に慌てる事はないけど。
でも他の人達にとっては、大国の女王様だからなぁ……頭を下げられたら慌てるのも当然か――。
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる