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アクリス戦後の哨戒

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「そう言えばレッタさん、さっき飛んでいた岩が途中で止まりましたけど、あれって何をしたんですか?」

 ユノがアクリスをツンツンとつついていたのを止め、引き摺って他のアクリスがいる場所へと運びつつ、レッタさんへと質問する。
 あんな空中でいきなり静止するとか、どう考えでも自然な動きじゃないからね。
 影の針が消えていた事なども興味をそそられたけど、疑問という意味ではあちらの方がよっぽどだ。

「ふわぁ。やはりロジーナ様は柔らかくていい匂いがしますねぇ……んん! あれは、魔力誘導の応用よ。あくまで、あの岩は魔法で作られ動かしていたの。だから、ちょっと魔力を操作する事でその動きを止めたってわけなの」
「な、成る程……」
「……はぁ」

 レッタさんに抱き上げられて、さらに頬擦りされて溜め息を吐きつつも何やら諦観の表情を浮かべるロジーナは置いておいて……。
 あの岩の不思議な挙動は、レッタさんの魔力誘導によるものだったのか。
 それにしたって、物理法則とか色々無視している気がしたけど……そもそも、魔法自体が日本で学んだ物理法則に反しているから、今更そこを深く考えるだけ無駄なんだろう。
 魔法があるからこその物理法則が、地球とは違ってこの世界にはあると思っておけばいいかな。

 ちなみに、その後倒したアクリスを片付けたり、討伐証明部位の角などを切り取ったりしながら話を聞くと、あの岩そのものも影の針も、通常の人間が使えるような魔法ではないらしい。
 岩自体は、土の塊を飛ばすような魔法の規模を大きくすればできるだろうけど、それには多くの魔力が必要。
 つまり、魔力貸与されて通常よりも……それこそ、エルフ数人分に近い魔力量を持つレッタさんだから扱えるとか。
 あの巨大な岩と飛ぶ速度、簡単に使えたら岩を飛ばすだけで多くの敵は押し潰せそうだったけどそれはともかく。

 それと影の魔法の方は、特殊な条件を見たさないと魔力量に関係なく、使えないとの事だった。
 条件がどんなものかは聞いていないけど、レッタさんの経験してきた事を考えたら方向性はなんとなく察せるので、あまり使えるのがいい事ではあるとは思い難い。
 まぁそもそも、俺が使うとかそういうのは考えていないし、詳細を聞く意味はあまりないしね。

「街の方は……何事もなく平穏、かな?」

 アクリスの片付けなどを終え、村を訪ねたり、エルサやモニカさん達と合流して、街の方の様子を空から眺めながら呟く。
 高い外壁に囲まれた街は、規模で言えばヘルサルの半分でセンテよりも小さい。
 こちらには魔物が近付いておらず、付近で戦闘が行われてもいないので、見る限りは平穏な様子が見て取れた。
 それと街のあちこちで複数の煙が上がっているようで、鍛冶の街というのが離れて見ていてもよくわかる。

「そうでもないみたいよ。私達が来る前にも魔物が近付いたのかはわからないけど、かなり警戒している様子ね」
「ほら、街の周囲を巡回するように、多くの人が外壁の外にいるだろう?」
「言われてみれば確かに。外壁の上とかで外を警戒している人も、多いかも」

 モニカさんやソフィーの言う通り、街の外壁の外には複数のチームを組んでいると思われる人達が、巡回するように外壁に沿って動いているようだ。
 それが数組いて、外壁の上や櫓などにも結構な人がいるのが見えるから、かなり外を警戒しているんだろう。
 王都から、魔物の集団などの情報が来ているからだろうね。
 さすがに無警戒でいるなんて事は街としてあり得ないか。

 そういえば、アクリスを倒した近くにある西側の村の人達も、それなりに警戒している様子だったし、なんなら兵士さんと冒険者さんと見られる人が滞在していた。
 モニカさん達に聞いてみると、東の村の方も同様の状況だったようで、王都周辺にある各村や街は魔物に対して備えてはいるようだね。
 ちなみにだけど、アクリスの討伐証明部位は硬い角で、体の方は食用できるらしく、鹿肉という事で村の人達に全部あげた。
 大量にあるから持って帰るのも荷物になるってのもあったし、喜ばれたからね。

 農村にとって、肉類というのは結構貴重らしいし……
 東の村の方はゴブリンだったからそういった事はなかったけど、西の村の人は近くの村や街にも分けるとの事だったし、東村の人達も食べられるだろう。
 その代わりに、大量の作物……野菜をもらって、エルサの背中に積まれていたりするけども。

 戻ったら王城の料理人さんに渡そう。
 西の村では俺やエルサの事を見て驚いたりなんだり、ってのはいつもの事として……歓迎しようとするのを辞して今に至るってわけだ。

「エルサ、周囲に魔物は?」
「ちょっと待つのだわ……」

 ともかく念のため、空から目に見える範囲で魔物はいないようだけど、一応エルサにも探知魔法で探ってもらう。

「近くにはいないのだわ。あっちの方に魔物がいるようだけど、こっちには近付いていないのだわ。別の方へ向かっているようなのだわ」
「わかった、ありがとう」

 魔物がいる方向を示すように、向きを変えるエルサ。
 街から見て北西の方角か……近付いてきていないのなら、街に危険はなさそうだ。

「それじゃ、今エルサが見つけた魔物の方へ行きつつ、街の人達を刺激しないように離れよう。空を飛んでいるエルサが見られると、警戒している街の人達を不安にさせちゃうかもしれないしね」

 空を飛んでいる存在なんて、エルサだと断定できなければ基本的に魔物だと思われてしまう可能性が高いからね。
 騎竜隊の人達がワイバーンに乗って、王都周辺を回ってはいるけど……あれもワイバーンを見て、恐れる人はそれなりにいるらしい。
 だから、騎竜隊の人達はできるだけ村や街の近くでは、予め離れた場所に降りてから近付き、話しを通しているみたいだし。
 そんなこんなで、皆が頷くのを見てエルサに頼み、今しがた探知魔法で発見した魔物の方へと向かった――。


「未発見の魔物がいる可能性はあるけど、報告をまとめる限り、王都周辺に点在していた魔物はほとんど討伐できていると言っていいわね」
「そうだね。俺達も任された方角で一部ではあるけど、広く見て回って魔物の集団が少なくなったのを実感してるよ」

 あれからまたしばらく魔物の集団を探し、討伐して日が暮れる頃、王城へと戻った。
 今は夕食を終えて部屋で少しまったりとしながら、姉さんと話している。
 エルサに乗って大まかに王都の西から南を巡回もしたけど、魔物を発見する頻度はかなり下がっていた。
 全て討伐完了したとまでは言えないけど、数がかなり減っていて王都にはもうこの先被害をもたらす可能性は低いと思う。

「王都の兵、冒険者や各地の協力者もそうだけど、りっくんやモニカちゃん達のおかげね。ありがとう。国民を代表してお礼を言わせてもらうわ。立て込んでいるから、正式な謝辞の場ではないのは申し訳ないけれど……」
「い、いえ! その、改まった場がなくても、陛下のお気持ちは伝わっていますから……!」

 と、慌てるのはモニカさん……だけでなく、ソフィーやフィネさんもそうだった。
 俺からすると、リラックスモードの姉さんは見た目はともかく、記憶にある以前の姉さんに近い雰囲気でもあるので、特に慌てる事はないけど。
 でも他の人達にとっては、大国の女王様だからなぁ……頭を下げられたら慌てるのも当然か――。


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