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デュラホースの対策を考える

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「ただ、馬だから当然走るのは早いわ。むしろ、疲れ知らずだし通常の馬より足は速いんじゃないかしら?」
「って事は、もしかして……?」

 ロジーナの言葉に、少しだけ嫌な予感がした。
 南から村に向かって北上しているデュラホース……エルサが探知魔法ギリギリの場所で捉えているけど、その範囲や距離は俺のより狭く短い。
 エルサに詳しく確認したわけじゃないけど、大体十キロあるかどうかくらいだと思う。
 馬より早い足で、疲れる事なく走るデュラホースなら、十キロ程度一時間もかからず到達してしまうだろうな。

「エルサ、デュラホースの進路は……」
「オークを追いかけているように見えるのだわ。実際に追いかけているかどうかはともかく、進む方角は北なのだわ。先よりも距離が近付いているのだわ。このままだとオークに追いつくのは間違いないのだわ」
「デュラホースがオークに追い付いた後、進路を変える可能性を考えるのは……楽観視し過ぎたよね?」
「そうね。デュラホースは前に進む事しか考えないわ。そもそも首から上、頭がないんだから考える事ができるかは微妙だけど……別の場所に頭の役割を持たせた方が良かったかしら……」
「持たせた方がって、まるでロジーナがそうしたみた……ってあぁ、そうか、そうだった」

 破壊神であるロジーナが、この世界を破壊するためという名目で魔物を創ったんだった。
 まぁその魔物自体も、リーバー達は例外として自然と共存していたり、破壊のみしか考えられないわけではないようだけども。
 ロジーナの良心みたいなもの、というわけではなくて単純に、生物を創るのは創造神の領分なため、模倣しただけで完全に全てロジーナの性質である破壊しか考えられない、と言うようには創れなかったんだ……と考えるようにしている。
 まぁそのロジーナも、自分が巻き込まれて人間としての死を迎えたくない、と表向きは言っているけど、結構親切に色々教えてくれたりやってくれたりするからね。

 本質の破壊とはまた別で、ロジーナの性格的には優しさとかもあるんだろうとは思っている。
 ロジーナに言うと、絶対否定したうえで文句や抗議が返って来そうだから、言えないけど。
 ツンデレさんだからなぁ……。

「その通りよ。まぁあれを創った時の私はどうかしていたけどね。ただ真っ直ぐ突き進む、何があっても突き進めばそれだけでいい……なんて考えていたかしら? お酒に酔ったような状態だったわね」

 破壊神がお酒を飲むのか? とか酔うのか? なんて疑問もあるけど、とりあえずは置いておこう。
 日本の神々は神話でお酒好きな事が多いし、まぁロジーナもそれに近いと考えておけばいいだろうし。

「ただ真っ直ぐ突き進むって事は……オークに追い付いた後は間違いなく、村に向かうよね?」
「そうでしょうね。オークを軽々弾き飛ばして、そのまま突き抜けて真っ直ぐ走るはずよ」

 オークって結構重量がある感じなのに、それを軽々弾き飛ばすんだ……まぁ馬を想像したら、できそうではあるけど……。

「じゃあ、オークはともかくとして、デュラホースをなんとかして止めないとね。止め方とかある?」
「基本的にあいつらは、ただ真っ直ぐ走るくらいしかできないから、その勢いに弾き飛ばされないよう気を付けながら倒すしかないわね。生き物として、首から上がないのだから何か小細工をしようとしても意味がないわ」
「な、成る程……」

 俺の知っているデュラハンは、首無しでも頭は別で持っていたりするもんだけど、デュラホースは完全に頭がない状態なんだろう。
 頭がなければ、通常の生き物で考えると視覚、聴覚、嗅覚、味覚がない状態って事だから……。
 味覚はともかく、視覚や聴覚、嗅覚で誘導したり、驚かせて止めるなんて事はできないわけだね。

「そうね……人間がデュラホースと戦うなら、正面からではなくて横からぶつかるのがいいわね。長距離に渡った戦闘にはなるのは覚悟しないといけないわ。まぁ、単体や数体程度ならそれでなんとかなるはずだけど……」
「数は……エルサ、どのくらいいる?」
「二十体くらいなのだわ」
「うーん……」

 二十体となると、横から突撃して数体倒せてもいくつか漏れ出た個体がそのまま、俺達をぶっちぎって走り続ける可能性があるかぁ。

「どうやっても、一度に全部を倒せるとは思えないなぁ……」

 とはいえ、こうして考えている間も、北からはフォレストウルフが。
 南からはオークとデュラホースが村へと近づいている。
 どちらかから魔物が村に到着してしまえば、被害が出る事はほぼ避けられないと思っていい。
 つまり、両方を一度に対処する必要があるわけで……できればデュラホースには、皆でかかりたいところだけど。

「私に考えがあるの」
「ユノ?」

 どうしよう、と悩んでいたらユノが何やら思いついたらしい。
 俺の声には反応せず、そのままアマリーラさんとリネルトさん、それからロジーナとレッタさんに何やら話し始める。
 どうするんだろうか?

「それは……しかし、ロジーナ様をそんな危険な……」
「そういえば、ヒュドラーとの戦いでやったわね、そんな事。まぁ、なんとでもできるわ」

 レッタさんが抗議するのを留めるロジーナ。
 ヒュドラーの時にやったって、なんの事だろう……。

「これで何とかなると思うの。お爺ちゃんの方はどうなの?」
「ふむ、両方を一度に対処する必要があるのだから、それ以外に方法はなさそうじゃの」

 近くにいたエアラハールさんは、考え込みながらもユノの話を聞いていたようで、頷いている。
 俺やモニカさんは首を傾げるばかりだ。

「ユノ、何をするんだ?」
「えっとね……」

 とりあえずユノに考えを聞いてみる。
 その内容は、大胆というかかなり乱暴なものではあったけど……軽量なユノとロジーナが協力してくれるなら、確かに可能だと思えた。
 いや、俺もなぜかそれに組み込まれていたりするけど、他に村へと到達する前にデュラホースを止めるのなら、この方法しかないか。
 北の方もなんとかしなきゃいけないし、メンバーを別けなきゃいけないんだしね。

「では、モニカ達はワシと共に北の森にいるフォレストウルフの対処じゃの。南のデュラホースとやらは、ワシやモニカ達ではなく、規格外の者達でしか対処できないじゃろうから」

 というわけで、北と南に別れての討伐戦。
 班別けは、北にモニカさん、ソフィー、フィネさん、エアラハールさん、リネルトさんの五人で実戦訓練も兼ねながら、フォレストウルフを村に行かせないよう対処。
 そして南側は、俺、アマリーラさん、ユノ、ロジーナ、レッタさんだ。
 数としてはちょうど半々になった形だね。

 エルサは、もしどちらかの魔物が抜けて村に到達しそうになったら対処してもらう保険として、上空で待機だ。
 ぶっちゃけ、デュラホースに関してはエルサに暴れてもらったら簡単に対処できるとは思うけど、頼らずにできる限りの対処はしたい。
 そのため、エルサには空からもしもの保険となってもらう事にしたんだけどね――。

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