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獣人が使える限定的な魔法

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「我々獣人は、魔力の多い者が戦闘に適していると判断しています。少ない者は、戦いとは別の仕事をする事になり、できる限り戦いとは離れた場所で働きます」
「魔力が多い者が、というのはわかりますけど……アマリーラさん達が魔法を使っている所は見た事がありませんね、そういえば」
「獣人の使う魔法は、人間やエルフとは違い常に使っているに近い状態なのです」
「常に? つまり、アマリーラさんは今も使っていると?」
「そうなります。魔法を使う事が、内外問わず何らかの現象を引き起こすと考えるなら、ですが。獣人は別として、人に多いのですが魔法は言葉をきっかけに外へ現象を具現化させる、と考えている者もいます。そちらの考えでは、我々は魔法を使っていない事になりますので、獣人が魔法を使える、または使っているとは思われないのでしょう。外に出ていないのでパッと見ではわからないせいでもありますが」

 考え方によって、魔法を使っているとも使っていないとも言えるって事か。
 外には出ない魔法なら、内側……つまり体内で作用している魔法なのかな?

「獣人が使っている魔法っていうのは、どんな魔法なんでしょうか?」
「それは、個人差。つまり獣人でもそれぞれ違います。全てが全く違うというわけではなく、いくつかの種類があり、そのどれか一つを常に発動し続けるというわけですね」
「成る程……ちなみに、アマリーラさんやリネルトさんはどんな魔法を? 聞いていいのかわかりませんけど……」

 特にアマリーラさん達の秘密を暴く、とかではなく単純な興味で、虚ろな目をしてずっと濁った声だけを発し続けている人物から目を離さないように気を付けつつ、聞いてみる。
 個別に違う魔法で、一つだけと言うならどんな魔法かを知られたらそれが弱点になる事も考えられるからな。
 戦う役割の獣人であれば、それが他者に知られるのは避けたいだろうし。

「リク様であれば、問題ありません。私はそうですね、一言でいえば怪力発揮と言ったところでしょうか。戦闘系とそうでないものという分類があり、さらにその戦闘系の中でも細かに別れてはいるのですが、それぞれに決まった名などはありません。リネルトは、俊敏化です」
「怪力発揮と俊敏化……成る程、アマリーラさんとリネルトさんの二人の戦い方に、ようやくなっときできました」

 怪力発揮によって、アマリーラさんは大剣をぶん回しながら木々をなぎ倒せるようになり、リネルトさんは目にもとまらぬ速さで動く事ができるってわけだね。
 元々、人間より身体能力が優れているらしい獣人が、さらに常時発動の魔法で強化される事により、凄まじい戦いができるようになるのだろう。

「けど、常時発動だったら、魔力が枯渇してしまいそうな気もしますね……」
「それに対しては二つの理由でなんとかなっています。元々戦闘系の魔法が使える者は獣人でも魔力が多い事が一つの理由ですね。もう一つは、出力を調整する事ができるので魔力回復量と、消費魔力量のバランスを取っています」
「つまり、戦闘しない時は出力を抑えて消費魔力量を減らし、回復魔力量が上回るようにしている、という事ですか」
「そうなります。魔力だけでなく、常に全力だと日常生活にも支障が出ますから」

 確かに出力が調整できなければ、木々を簡単になぎ倒すアマリーラさんの怪力は日常生活では不便そうだ。
 それこそ、ドアを開けようとしてそのドアを壊してしまいかねないし。
 回復魔力量は、まぁその言葉通り時間と共に魔力が体内から沸いて行く現象で、早い話が自動回復、というか自然回復や治癒に近いかな。
 魔力は魔法を使えば消費されるわけで、それが回復しなければいずれ枯渇してしまうし、人間にもエルフにも備わっている機能だ。

 要は、体力と一緒で消費して疲れたから休んで回復と考えればいいだろう。
 特に寝る事は、体力的にも魔力的にも一番の回復手段だからね。

「ふふふ~、アマリーラさんはその戦闘系と分類される魔法の中でもぉ、上位のものなんですよぉ」
「あぁ、おかえりなさいリネルトさん。アメリさんも。――そうなんですか、アマリーラさん?」

 急にリネルトさんが背後から話に参加。
 特に驚く事もなく迎えると、リネルトさんとアメリさんが少しだけ不満そうな表情になった。

「まぁ、はい。そうですね。ですが、魔法にだけ頼るでもなく、強くなる事を目標に国を出て傭兵になりましたから。あまり誇る気はありません」
「成る程」
「ぶー、リク君。なんで突然リネルトさんが話しかけたのに、驚かないの?」
「いやまぁ、わかっていましたから。エルサが……」

 俺が驚かなかった事に、口を尖らせているアメリさん。
 多分アメリさんがイタズラを仕掛けようと提案して、リネルトさんがコッソリ背後に近付いてきて突然話に入るという仕掛けをしたんだろう。
 けど、リネルトさんやアメリさんが近付いてきているのは、実を言うとエルサが前足で俺の額近くを叩いて報せてくれていたからね。
 俺だけだったら、多分気付かなくて驚いていたかもしれないけど……見張りをしているとはいえ、もう少し周囲に気を張って注意しておいた方がいいかもしれない、特に王城の外では。

 ちなみに、アマリーラさんも気付いていたみたいだ。
 気配察知というか、匂いやら何やらで周囲の変化には敏感みたいだね。

「ちぇ~、リク君が驚くところもみたかったのになぁ。まぁいいわ。リク君のお願い通りに連れて来たわよ」

 少しだけ拗ねたようになったアメリさんだけど、すぐに気を取り直して後ろに引き連れていた兵士さん達を示す。

「……よろしいでしょうか?」
「あぁ、すみません。こちらの人なんですけど……」

 兵士さんは、俺達の話に入れずというかいきなりイタズラっぽい事を仕掛けたのもあってか、入りにくそうに声を掛けられる。
 まぁ、不審者を捕まえに来たはずなのに目の前でお気楽な話が展開されたら、戸惑うよね。
 ある意味アメリさんのイタズラは兵士さんの方に成功していたのかもしれないけど、ともあれ見張っていた人物を示しつつ、危険だから細心の注意を払うようお願いする。

 結局、目の前で見張っていた俺達に変わった様子は見せず、兵士さん達などが来て人が増えても、目は開いたままで濁った声を出し続けているだけだった。
 見張りが必要だったのか疑問に思える程、動きがないけど……爆発する可能性があると考えれば、さすがに適当に任せてさっさとこの場を去るなんてできないよね。

「あまり揺らさないように、刺激しないようにするのだわ~」
「りょ、了解しました!」

 エルサの指示の下、三人がかりで発見した人物を抱える兵士さん達。
 ちなみに兵士さんは俺が呼んでいるとのアメリさんの触れ込みのせいなのか、ちょっと多く感じる六人が来てくれていたんだけど、魔力量などをエルサが見てその中から三人が運ぶために抜擢された。
 念には念を入れて、来てもらった兵士さんの中でも魔法が使えず、魔力もあまり多くない人を選んだらしい。
 さすがに魔力量が少ないから抜擢された、なんて事は言っていないけど――。


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