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勘違いララさん
しおりを挟む「私は昔冒険者で戦いを生業にしていた。そして鍛冶師になって戦いをする人を助ける役目に回った。そんな私だから、何言っているのか、以前の事を忘れたのかと言われても、戦いにはあまり関わりたくないのよ」
遠い眼をして語るララさん。
冒険者として目ぼしい活躍ができず、鍛冶師になったような事をさっき言っていたけど……鍛冶師から鞄屋になるまでの間に何かあったのかもしれない。
「だからごめんなさい、リク君の頼みであってもそれを加工する依頼は受けられないわ。直接ではなくても、戦いに関わるような事はもうごめんなの。リク君には王都の皆が感謝しているし、日々そう言う声を聞くわ。私もそうだからできるだけ力になってあげたいとは思うんだけどね……」
信念みたいなものだろうか……ここで帝国がしてきた事、今回の戦争は違う、なんて言っても多分説得力はないしララさんには届かないだろう。
結局なんだかんだと言い訳して正当化しても、戦争は戦争で、争いである事には変わりないんだから。
「そうですか……わかりました。残念ですけど、ララさんが嫌がるのに無理やりお願いを通すのも違いますしね」
「ごめんね、リク君」
「ただ、これは先に言わなかった俺が悪いんですけど……」
ララさんの誤解だけは解いておかないとなと思い、言葉を続ける。
先に素材を見せて加工を、とお願いした俺、そして俺自身冒険者で英雄と呼ばれるのは戦って多くの人を助けたから。
そんな俺が持ってきた制作依頼だからこそ、ララさんは勘違いしてしまったんだろう……鞄を作るわけではないと言っていたんだけど、肝心な加工して制作する物を伝えていなかった。
「アルケニーの素材を使って作るのは、戦いには絶対関わらない……とまでは言いませんけど、武具ではないんです」
「……え?」
今日初めて、ララさんのちょっと間の抜けた声。
表情も、目を見開いて口も大きく開け、驚いている様子だ。
「こちらのカーリンさん。料理人なんですけど……カーリンさんが料理をする調理道具に、アルケニーの素材がいいらしくて。それで、美味しい料理を作ってもらうためにも、加工をお願いできる人を探していたんです」
「それは、本当なの……?」
「え、あ、はい。リク様の言う通りです。私からお願いしたんですけど……美味しい料理には、食材と調理をする人の腕だけでなく、道具もいい物を使わないといけませんから……」
俺の言葉を受けて、カーリンさんに聞くララさん。
まだアマリーラさんを撫で続けていたカーリンさんは、少しだけ戸惑いながら答えた。
「そ、そう……そうだったのね……」
「まぁカーリンさんは、俺が作るクランの専属料理人で、その料理が提供される先はほとんどが冒険者。つまり戦う力をつけるためとも言えなくもないので……ララさんが言う戦う事に関わっていない、とは言い切れないんですけど……」
食事は体を動かすためのエネルギーだ。
直接的ではないけど、それでも絶対に関わっていないとは言えない。
腹が減っては戦ができぬ、だね。
「んもう、何よ! それを早く言ってよねリク君!」
「ララさん……?」
「魔物の素材を持ってきて、改まってお願いなんて言われたから勘違いしちゃったじゃないの! 早く言ってよも~! 最近の王都の雰囲気から身構えてたのもあるけどねぇ……調理道具くらいで、とやかく言わないし思わないわよぉ!」
ララさんの少し硬い雰囲気が一転、破顔して手を振りながら笑う。
周囲の雰囲気や話の流れから、戦うための武具を作って欲しいと頼まれていると勘違いしたんだろうね。
最初に俺が言葉足らずではっきりと調理道具のため、と言わなかったのが一番で悪いけども。
「それじゃあ?」
「もちろん、請け負わせてもらうわ。リク君の頼みだしね!」
「はぁ~良かった……」
頷くララさんに、カーリンさんと共に深く息を吐く俺。
勘違いで一度断られかけた……というか断られたけど、誤解が解けたようで何よりだ。
これで、美味しい料理のための一歩が進んだかな。
「でも私はあくまで鞄屋の美しい看板娘よ? だから、他にも適任がいるんじゃないかしら? それこそ、リク君なら簡単に探せそうよね?」
「まぁ、やろうと思えばできなくはないと思いますけど……」
姉さんやマティルデさんに頼めば、アルケニーの足を加工できて調理道具を作れる人を探すくらいはできると思う。
頼りたくないってわけじゃないけど、知り合いにララさんがいて当てにできそうだったし、二人は今も色々と忙しい身だからね。
手を煩わせたくなかったというのもある。
「ララさんと知り合いだったから、というのが大きいですけど……一番はこれですかね?」
「だわ?」
「エルサちゃん、だったわね。その子がどうしたの?」
頭にくっついているエルサを引き剥がし、胸に抱く。
急な事でちょっと驚いているエルサはともかくとして、モフモフを堪能するのを忘れず、不思議そうに見ているララさんへと理由を話す。
「エルサのリュック、お気に入りなんですよ。エルサがですけど。それと今日はいませんけど、ユノも喜んでいつも使わせてもらっています」
エルサの背中には、今もララさんのお店で買った鞄が背負われているし、ユノもよく使っている。
まぁこれから戦いに行くぞ! という時などは、あまり身に着けないしエルサに至っては大きくなる時にそのままだと壊してしまうので、付ける機会と言えば町に繰り出す時くらいだけども。
でも、エルサにしろユノにしろ、特に戦いのない時などは上機嫌で背中に背負っているから、間違いなくお気に入りと言えるだろう。
……ただエルサは、自分で背中に背負う事ができないので、いつもせがまれて背負わせてやったりするけどね。
「機能性よりも、デザイン性を重視はしていますけど……丈夫ですし、使いやすくもあるので。鞄と調理道具は違う物でも、こういった誰かのお気に入りを作れるのって、多くの人ができる事じゃないと思うんです」
見た目は一般的な鞄と少し違って、パッと見は使いづらそうだけど実際に使ってみるとそうじゃなかった。
意外とと言ったら失礼かもしれないけど、物が入るよう工夫が凝らされていて、表面だけでなく内部も素材に関わらずきっちり丈夫に作られている。
それは丁寧に、長く作れるようにララさんが作ったからだろう。
さっき元冒険者と聞いた事で、さらに納得したけど……旅などで色々とあったんだろう、元冒険者のララさんだからこそ考えられる使いやすさ、みたいなのもあるようだしね。
要は、多少無茶な使い方をしても大丈夫なように、旅をする時に使う事も十分にできる代物って事だ。
「鞄を作る腕がどうとかは、俺にはよくわからないんですけど……それでも物を作るうえで、見た目だけじゃなくてちゃんと使う人の事を考えて作っているなって、そう思うんです。だからこそ、そんなララさんに作ってもらいたいなって」
「……」
なんとなく言っていて恥ずかしくなるけど、本心だ。
ララさんを当てにしたかった理由を話し終わった俺の前では、両手を組んで目を大きく開いたララさん。
何か反応があると思ったんだけど、どうしたんだろう……もしかして、変な事を言っていたかな?
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