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爆発現場が気になるエルサ

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「リク様が気になるのでしたら、他の場所も調べるためそちらにも行ってみますか? 荷物などは気にせずとも、私もリネルトも問題はありません」
「んー……」

 他にも似たような場所がないか、破壊された建物を見て回ってみたいけど……ララさんの店に行くのが遅くなるしなぁ。
 ララさんの所には、いつ頃行くみたいな話はしていないので、早く行かないといけないって事はないんだけど……。
 まだ調理道具作りを請け負ってくれるかどうかもわからないし、もし断られたら他の人を探さないといけないわけで。
 一緒に来てくれているカーリンさんは、建物の様子に戸惑いなどはありそうだけど、アメリさんの様子を見つつ予定は俺に任せてくれるような視線を、こちらに向けてくれてはいる。

 ただ、早めに作った方がいいという事らしいし、また他の事に忙殺されてはいけないので今日中に何とかしたいところだ。
 というわけで、つらつらと考えたけど……。

「いえ、予定通りララさんの店に行きましょう。もし王城へ戻る前に余裕があれば、見て回るくらいでいいと思います。多分ですけど、他の場所の事は実際に見なくても王城に戻って聞けば、何か話してくれると思いますし」
「了解しました」

 俺の言葉に頷いてくれるアマリーラさん。
 アメリさんやカーリンさん、リネルトさんも頷いてくれた。
 他の場所の様子に関しては、姉さんやマティルデさんに聞けば教えてくれるだろうから、俺がじかに見る必要はあまりないかもしれないし、優先度は下がるよね。
 あと、アマリーラさん達はともかく、アメリさんやカーリンさんというこういう事に慣れていない人達を連れて、爆発現場を回るのもなって考えもある。

 ちょっとアメリさんの顔色が悪いし、建物が無残に破壊されている場所を見て回るなんて、精神的に良くないだろうから。
 数日以上経っているため、人的被害がはっきり見られなくなっているのは幸いだったかもしれない。

「むむぅ……だわ」
「ん、どうしたのエルサ?」

 とりあえずララさんの所に行く事に決めて、この場所を離れようとしたら、頭の上で唸っているエルサに気付いた。
 俺が体の向きを変えたからか、エルサが首を巡らせてまだ破壊された建物の方を見ている動きをしたようにも思える。
 頭の上だから、俺は直接見えないけど。

「何か、おかしいのだわ」
「おかしい? 一体何が?」
「どこがどうおかしいか、などは言えないのだけどだわ。気持ち悪い感覚があそこからするのだわ」
「あそこって、冒険者ギルドの建物?」
「なのだわ」

 テシテシと、くっついているエルサが片方の前足で俺の頭を軽く叩き、それを伸ばしているような感覚が伝わってくる。
 話の流れからエルサがなんの事を言っているのかわかったけど、見えないからどこを指して言っているのかわかりづらいよ……。

「この感覚は、前にリクが乗っ取られる前にも感じた気持ち悪さなのだわ」
「俺が……それはつまり、センテでの事だよね? あれは確か、大量の人や魔物の残留した魔力というか、感情が渦巻いてだったはずだけど……」

 センテを取り囲む魔物、それと戦う人達。
 その両方が消耗していく中で、無念とか恨みみたいな感情がセンテという一つの場所にと留まって、おかしな事になりかけていた。
 それを、エルサは気持ち悪いと言っていたけど……結局その感情が渦巻き、魔力のようになってレッタさんの誘導によって、俺の意識を乗っ取ったんだったはずだ。
 でも、ここは確かに爆発現場だけど、センテの時ほど多くの人や魔物が犠牲になったわけじゃないはずなのに。

 巻き込まれた人がいるのは聞いているけど、それだってセンテの時のような数には程遠いだろう。
 もしあの規模でとなると、魔物が大量にいるわけでもないから、王都全体の人が犠牲に……とかでない限りはね。
 討伐が進む、王都周辺の魔物の集団入るけど、そっちは距離が結構離れているし、数もセンテを囲んだ時程じゃないから、影響は少ないはずだし。

「感覚は似ていても、少しだけなのだわ。あの時みたいな事にはならないし、同じ原因とは限らないのだわ。けど、あそこには何かあるのだわ」
「何かって……もしかして、中に入って調べた方がいい?」

 エルサの言う通り何かあるのなら、ちゃんと調べておいた方が今後のためになるだろうか。
 以前はスピリット達が対処を始めるまで、気持ち悪いと感じながらも放っておいた結果が、意識を乗っ取られ、高次元魔力だのなんだのといった、光の力を引き込んだんだから。

「多分、行っても何も見つからないのだわ。目に見える何かというわけではないのだわ」
「そりゃそうか……うーん……」
「とにかく、ただ妙な破壊のされ方というだけで済ませてはいけない、という事だけ覚えておくのだわ」
「わかった、エルサがそう言うなら忘れないように気を付けるよ。あ、そうだ」
「どうしたのだわ?」
「この場所はエルサが気持ち悪く思う何かがあるとして、他の場所はどうだったんだ? ここに来るまでにも通ったけど」
「他は、特に何も感じなかったのだわ。ちょっとどころかかなり焦げ臭かったくらいなのだわ」
「まぁ、爆発自体が火を伴っていたのなら、焦げ臭くもなるよね……でも、エルサが気になるのはここだけか……」

 他の場所では、特にエルサが何かを感じる事はなかったから、この場所限定という事らしいけど……実際にそれで何があるのかはわからない。
 今のところわからない尽くしなのが、ちょっと釈然としない気持ちにもなるけど、仕方ない。
 このままここで調べていても、多分わからないままなんだろうし……調べてすぐわかるなら、エルサから行くように言われているはずだしね。
 っとそういえば、焦げ臭いってエルサが言って思い出したけど、この場所は他の場所と違ってその焦げ臭さがほとんどない気がする。

 優先的に片付けられて、臭いとかもなくなっているのかもしれないけど……。
 もしくは、爆発の方式? みたいなのが違って、他の場所では炎熱による爆発があっただけ、とかかもしれないけど。
 ともあれ、これ以上何かわかるわけでもないと、建物の方を気にしているエルサを撫でつつ、他の人達を促してララさんの店へと向かった――。


「うーん、建物が破壊されていた場所以外は特に何もなくて、表面上は平和そのものなんだけど……やっぱり人が少なくて寂しい感じがするなぁ」

 ララさんのお店へ向かう途中、というか冒険者ギルド跡に行くときもだったけど、歩く町並みは以前の賑わいが減っていて寂しい。
 もちろん、人通りはあるしお店も開いているんだけど……それでも町中で爆発が起き、建物がいくつも破壊されているからか、行き交う人は目に見えて少なくなっているし、営業していない店もチラホラとある。

「シャッター街みたいに、さびれた感じにまではまだ行っていないけど……」

 昔は賑わっていたんだろうな、と軒を連ねる商店のほとんどがシャッターで閉じられて営業をしておらず、人通りもポツポツとしかない光景は見た事あるけど、あれは独特の物悲しさや寂しさを感じるよね。
 まぁそもそも、この世界にシャッターがないから同じにはならないんだろうけど――。


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