1,778 / 1,903
爆発現場が気になるエルサ
しおりを挟む「リク様が気になるのでしたら、他の場所も調べるためそちらにも行ってみますか? 荷物などは気にせずとも、私もリネルトも問題はありません」
「んー……」
他にも似たような場所がないか、破壊された建物を見て回ってみたいけど……ララさんの店に行くのが遅くなるしなぁ。
ララさんの所には、いつ頃行くみたいな話はしていないので、早く行かないといけないって事はないんだけど……。
まだ調理道具作りを請け負ってくれるかどうかもわからないし、もし断られたら他の人を探さないといけないわけで。
一緒に来てくれているカーリンさんは、建物の様子に戸惑いなどはありそうだけど、アメリさんの様子を見つつ予定は俺に任せてくれるような視線を、こちらに向けてくれてはいる。
ただ、早めに作った方がいいという事らしいし、また他の事に忙殺されてはいけないので今日中に何とかしたいところだ。
というわけで、つらつらと考えたけど……。
「いえ、予定通りララさんの店に行きましょう。もし王城へ戻る前に余裕があれば、見て回るくらいでいいと思います。多分ですけど、他の場所の事は実際に見なくても王城に戻って聞けば、何か話してくれると思いますし」
「了解しました」
俺の言葉に頷いてくれるアマリーラさん。
アメリさんやカーリンさん、リネルトさんも頷いてくれた。
他の場所の様子に関しては、姉さんやマティルデさんに聞けば教えてくれるだろうから、俺がじかに見る必要はあまりないかもしれないし、優先度は下がるよね。
あと、アマリーラさん達はともかく、アメリさんやカーリンさんというこういう事に慣れていない人達を連れて、爆発現場を回るのもなって考えもある。
ちょっとアメリさんの顔色が悪いし、建物が無残に破壊されている場所を見て回るなんて、精神的に良くないだろうから。
数日以上経っているため、人的被害がはっきり見られなくなっているのは幸いだったかもしれない。
「むむぅ……だわ」
「ん、どうしたのエルサ?」
とりあえずララさんの所に行く事に決めて、この場所を離れようとしたら、頭の上で唸っているエルサに気付いた。
俺が体の向きを変えたからか、エルサが首を巡らせてまだ破壊された建物の方を見ている動きをしたようにも思える。
頭の上だから、俺は直接見えないけど。
「何か、おかしいのだわ」
「おかしい? 一体何が?」
「どこがどうおかしいか、などは言えないのだけどだわ。気持ち悪い感覚があそこからするのだわ」
「あそこって、冒険者ギルドの建物?」
「なのだわ」
テシテシと、くっついているエルサが片方の前足で俺の頭を軽く叩き、それを伸ばしているような感覚が伝わってくる。
話の流れからエルサがなんの事を言っているのかわかったけど、見えないからどこを指して言っているのかわかりづらいよ……。
「この感覚は、前にリクが乗っ取られる前にも感じた気持ち悪さなのだわ」
「俺が……それはつまり、センテでの事だよね? あれは確か、大量の人や魔物の残留した魔力というか、感情が渦巻いてだったはずだけど……」
センテを取り囲む魔物、それと戦う人達。
その両方が消耗していく中で、無念とか恨みみたいな感情がセンテという一つの場所にと留まって、おかしな事になりかけていた。
それを、エルサは気持ち悪いと言っていたけど……結局その感情が渦巻き、魔力のようになってレッタさんの誘導によって、俺の意識を乗っ取ったんだったはずだ。
でも、ここは確かに爆発現場だけど、センテの時ほど多くの人や魔物が犠牲になったわけじゃないはずなのに。
巻き込まれた人がいるのは聞いているけど、それだってセンテの時のような数には程遠いだろう。
もしあの規模でとなると、魔物が大量にいるわけでもないから、王都全体の人が犠牲に……とかでない限りはね。
討伐が進む、王都周辺の魔物の集団入るけど、そっちは距離が結構離れているし、数もセンテを囲んだ時程じゃないから、影響は少ないはずだし。
「感覚は似ていても、少しだけなのだわ。あの時みたいな事にはならないし、同じ原因とは限らないのだわ。けど、あそこには何かあるのだわ」
「何かって……もしかして、中に入って調べた方がいい?」
エルサの言う通り何かあるのなら、ちゃんと調べておいた方が今後のためになるだろうか。
以前はスピリット達が対処を始めるまで、気持ち悪いと感じながらも放っておいた結果が、意識を乗っ取られ、高次元魔力だのなんだのといった、光の力を引き込んだんだから。
「多分、行っても何も見つからないのだわ。目に見える何かというわけではないのだわ」
「そりゃそうか……うーん……」
「とにかく、ただ妙な破壊のされ方というだけで済ませてはいけない、という事だけ覚えておくのだわ」
「わかった、エルサがそう言うなら忘れないように気を付けるよ。あ、そうだ」
「どうしたのだわ?」
「この場所はエルサが気持ち悪く思う何かがあるとして、他の場所はどうだったんだ? ここに来るまでにも通ったけど」
「他は、特に何も感じなかったのだわ。ちょっとどころかかなり焦げ臭かったくらいなのだわ」
「まぁ、爆発自体が火を伴っていたのなら、焦げ臭くもなるよね……でも、エルサが気になるのはここだけか……」
他の場所では、特にエルサが何かを感じる事はなかったから、この場所限定という事らしいけど……実際にそれで何があるのかはわからない。
今のところわからない尽くしなのが、ちょっと釈然としない気持ちにもなるけど、仕方ない。
このままここで調べていても、多分わからないままなんだろうし……調べてすぐわかるなら、エルサから行くように言われているはずだしね。
っとそういえば、焦げ臭いってエルサが言って思い出したけど、この場所は他の場所と違ってその焦げ臭さがほとんどない気がする。
優先的に片付けられて、臭いとかもなくなっているのかもしれないけど……。
もしくは、爆発の方式? みたいなのが違って、他の場所では炎熱による爆発があっただけ、とかかもしれないけど。
ともあれ、これ以上何かわかるわけでもないと、建物の方を気にしているエルサを撫でつつ、他の人達を促してララさんの店へと向かった――。
「うーん、建物が破壊されていた場所以外は特に何もなくて、表面上は平和そのものなんだけど……やっぱり人が少なくて寂しい感じがするなぁ」
ララさんのお店へ向かう途中、というか冒険者ギルド跡に行くときもだったけど、歩く町並みは以前の賑わいが減っていて寂しい。
もちろん、人通りはあるしお店も開いているんだけど……それでも町中で爆発が起き、建物がいくつも破壊されているからか、行き交う人は目に見えて少なくなっているし、営業していない店もチラホラとある。
「シャッター街みたいに、さびれた感じにまではまだ行っていないけど……」
昔は賑わっていたんだろうな、と軒を連ねる商店のほとんどがシャッターで閉じられて営業をしておらず、人通りもポツポツとしかない光景は見た事あるけど、あれは独特の物悲しさや寂しさを感じるよね。
まぁそもそも、この世界にシャッターがないから同じにはならないんだろうけど――。
1
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ボンクラ王子の側近を任されました
里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」
王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。
人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。
そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。
義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。
王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~
平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。
しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。
カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。
一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる