上 下
1,777 / 1,903

異様な爆発現場

しおりを挟む


 ハーロルトさんの幼馴染とはいえ、知らされていないのなら俺達が教えるわけにもいかないので、アメリさんには申し訳ないけどこのままにしておく事にする。
 俺が話していい事でもないし、教えてショックを与えるのもどうかと思うしね。
 ……もしかしたら、人間がと公表すれば町の人達がいつ誰がそうなるかとか、疑心暗鬼になってしまう可能性も考えられているのかな?

 できるだけ外出しないようにさせるのにも、公表しない方が良かったのかもしれない。
 なんにせよ、俺にはどちらがいいのかなどの判断はできないので、姉さん達の考えを信じて、とりあえず大きな荷物を持ったまま中央冒険者ギルドへと向かった――。


「これは……なんとも」
「ただ爆発して、建物が壊れたと聞いていただけなのでぇ、こうだとは全然想像していませんでしたよぉ」
「ちょっと……怖いわね」
「……単なる爆発、というだけではないみたいですね」

 到着した中央冒険者ギルド……その跡地と言うべきだろうか。
 そこでは、爆発して建物が破壊されていたという言葉から想像していたよりも、大分違う光景が広がっていた。
 大きく存在感を示し、地球のどこかで見た事のあるような独特な宮殿のような建物……その二階部分付近から上部が扇状にぽっかりとなくなっていたからだ。
 爆発、という言葉を示すように、確かに周辺にもその影響があったらしく、地面が抉れたりと周辺一帯が爆風で吹っ飛んだ感はある。

 ある程度片付けなどが進んでいるようで、兵士さんや冒険者ギルドの職員さんと思われる人が作業をしていたり、俺を見て礼をしたりしてはいるけど。
 でも異様なのは、破壊された建物の一階部分は多少壁が崩れたりしてはいるけど、完全に破壊されているという程じゃない事だ。
 爆発というは当然、爆心地から放射状に衝撃などが広がるはずだけど……これはまるで、指向性を持たせて下から建物の中心に向かって衝撃を放ったようでもある。
 目撃者や周囲の様子から、確かに爆発はしたんだろうけど、通常の爆発やそれこそエクスブロジオンオーガのような爆発とは、別物なのかもしれない。

「見たから何があるとか、知ってどうにかなるものでもないですけど……見に来て良かったかもしれません」

 見なかったら、ここまで特殊なものだとはわからず、ただ爆発してその衝撃で周囲一帯が吹き飛んだ、とかそんな風に考えていただろうからね。

「リク様、私から見ると建物に向けて爆発の衝撃その物を放った、というように見えるのですが……間違っているのでしょうか?」
「いえ、アマリーラさんはおそらく間違っていないと思います。方法とか、色々と疑問ではありますけど……見る限りでは、完全に建物を狙っていたという事でしょう」
「そうなら、これは考えていたよりも脅威になるかもしれませんねぇ。これが、建物ではなく人や集団に向けられたらと思うと、ゾッとします……」

 アマリーラさんの問いかけに答え、リネルトさんからはいつもの間延びした口調が、少しだけ薄くなった。
 よく見れば、二人共尻尾が垂れ下がっている……想像していなかった光景を見て、リネルトさんの言葉通りにゾッとして恐怖を感じているのかもしれない。
 指向性を持たせた爆発、周囲に何も影響が出ないわけではないけど、それでもこれが人や集団に向けられたら……。
 特に他より頑丈に作られているはずの、冒険者ギルドの建物がこんな風に破壊される程の威力だ、人の集団なんてひとたまりもないだろう。

 実際には威力などを見ていないのではっきりとは言えないけど、薄めの結界なら破ってしまいそうでもある。
 これはもう爆発ではなく、爆砲と呼ぶ方がしっくりくるくらいだ……。

「ここに来るまでにも、二か所ほど爆発が起きた現場を通りましたが……ここまでの異様な光景ではなかったのですが……」
「他は単純に爆発した、という感じでしたよね……」

 俺達と同じく、初めて建物が破壊されている様子を見て言葉を失くしているアメリさんを、少し離れさせつつ、アマリーラさんの言葉に頷く。
 ここに来るまでに、他にも破壊された場所を通って来たのはその言葉通りだけど、そちらはこの場所のような異様さはなかった。
 いやまぁ、爆発して複数の建物が吹き飛ばされているという状況そのものが異様なんだけど、それはともかく。
 他の場所では、単純に爆心地から周囲に衝撃などが発生し、それで破壊が行われるという一般的なものだった。

 ……爆発に一般的も何もないけど、とにかく爆発と聞いて思い浮かべられる範囲での事だと思えた。
 けどここは、中央冒険者ギルドの建物の破壊痕は、どう見ても通常の爆発には思えない。
 それこそ本当に爆砲という言い方が正しいと思える程、建物を狙った別の何かのようにすら思えてしまう。
 そもそも、一階部分と同じ高さの外で爆発したにも関わらず、二階部分より上部がほとんど吹き飛んでいるっていうのがおかしい。

 一階部分も当然無事ではないけど、完全に吹き飛んだわけではなく建物としての形はかろうじて保っている。
 その天井部分にあたる二階より上は完全に失くなっていて、建物としての機能はなくなっているけども。

「この事を、姉さ……陛下やマティルデさん達は知っている……のは間違いないけど、異様さは感じなかったんだろうか……?」
「これを見て、異様さ、不自然さを感じない者は相違ないかと思いますが……おそらく隠していたとかではなく、どう話せばいいのかわからず、ともあれ爆発が起こった事が原因で建物が崩壊したのは間違いないので、その事だけをリク様に伝えたのではないでしょうか?」
「……そうかもしれないですね」

 ほぼ崩壊している建物を見ながら呟いた俺の言葉に、応えてくれるアマリーラさん。
 理由はともあれ、特に隠していたとかそういうわけではないんだろう……片付けを進めているとはいえ、野ざらしになっているんだから隠しようもないし。
 何はともあれ、人が爆発したという確かな情報もあるので、破壊された事に対する異様さは薄れていたとも考えられるかな。

「……ふぅ。驚きましたけど、少し落ち着きました。ありがとうございます、アマリーラさん」

 誰かといなければ、どうしてこんな事がなんて一人で考え込んで、しばらく混乱や驚きが続いてしまっていたかもしれない。
 その点は、一緒について来てくれたアマリーラさん達に感謝だ。

「いえ、私などは大した事も言えず……申し訳ありません」
「一人だったら、ぐるぐると考え込んでいたかもしれませんから」
「リク一人じゃないのだわ、私もいるのだわ」
「おっとそうだった。エルサもいてくれるね」

 頭の上からの主張に、内心でホッとしながらエルサのモフモフを撫でる。
 人と話す事だけじゃなく、こうしてエルサがいてくれる事、それと極上のモフモフは俺の心を癒してくれるなぁ。

「しかし、こうなると他の爆発場所もどうなのか気になるなぁ。特に、中央冒険者ギルドがこうなら、同じく冒険者ギルドのもう一つ破壊された方とか……」

しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

処理中です...