1,771 / 1,903
リク達の訓練
しおりを挟むカーリンさんの調理道具作りを早く、という意見にはさらに、ソフィーとアマリーラさんが前のめりで、すぐにでも作るべきだと主張をした。
料理にはあまり造詣が深くないソフィーとアマリーラさんが、何故? と思ったけど、美味しい料理を食べるため、という事みたいだ。
アマリーラさんはともかく、ソフィーも結構食いしん坊だよね……あまり表に出さないし、悪いわけではないけど。
そういうわけで、二、三日後くらいがいいかな? と俺は思っていたんだけど、急遽明日の午後城下町に繰り出す事となった。
ソフィー達が強引に決めた形だ。
姉さんからは、そういった職人を紹介すると言われたけど、そちらは辞退。
ララさんに話してみて、誰も見つからなかったら頼る事にした。
ちなみにアマリーラさんも付いてくると言っていたんだけど、そちらはモニカさん達の訓練もあるため、リネルトさんによって強引に止められた。
まだ王都周辺の魔物の集団を倒さなきゃいけないのもあるみたいだ。
そちらの方は、もう数日あれば大まかに討伐完了するだろうとの事だけど、日数に関しては俺が参加するかしないかによって変わるとからしい。
なら、俺もと思ったんだけど、先に調理道具の目星をつけておいてから落ち着いて参加して欲しいとの事だった。
エルサを使って長距離も移動できる俺は、散発的に参加するよりも少し後の方が都合がいいかもしれないからとか。
理由として、魔物の集団の一部が大きく移動をしている様子が見られるらしく、数日後には王都以外の村などに到達する可能性があるとの事だ。
だったらと思ったけど、むしろ今日明日ですぐにというわけではないので、途中で俺がカーリンさんのために抜けるよりは、できるだけ明日中に済ませておいた方がいいだろうと。
それなら、明後日以降は集中的に参加というか……一気に魔物を倒す気で挑んだ方がいいのかもしれないと納得し、頷いた。
姉さんがポツリと、りっくんもゆっくりした方がいいわよね、頼ってばかりだけど……なんて呟いていたし、俺ってそんなにあくせく動いているかな? と首をかしげる場面もあったんだけどね。
……まぁ確かに、ちょっと忙しいとか、のんびりしたいと思う事がないわけじゃないけども――。
「ふっ! はぁ!」
「まだまだじゃ! 無駄な動きが多い。標的を見定めて、最小限の動きで打ち倒すのじゃ!」
「はい!」
翌日の昼前。
朝食後から続くエアラハールさんによる訓練で、剣を振るう俺に厳し叱咤が飛ぶ。
そのエアラハールさんは、訓練場の床に座り込んでいるんだけど……二日酔いらしい。
それでも指導の方はちゃんとやってくれるから、特に文句はない。
「ソフィーは、モニカの動きにもちゃんと注意を払うの! モニカの槍は、剣よりも引き戻すまでの隙ができるの!」
「わかった!」
「そっちは、あっちの二人がカバーし合ってできた隙を補うのよ」
「了解!」
俺は一人で想定敵に対して剣を振るう、ほとんどただの素振りに近い訓練だけど、モニカさん達の方は違う。
アマリーラさんとリネルトさんを相手に模擬戦を続けて、ユノとロジーナがモニカさん達の動きに対してアドバイスするという形だ。
もちろんアマリーラさんとリネルトさんは、二人で動く連携に慣れているうえ実力もかなり上なので、三人相手でもかなり加減しているけど。
アマリーラさんの持っている武器が、ショートソードより少し短めの木の棒という時点で、全力じゃないのはすぐわかるけど。
ちなみにリネルトさんは逆に、ロングソードタイプの木剣を二本、左右の手に持っている。
いつもならショートソードタイプの剣を一本、もしくは二本で手数や身軽さを重視しているのに……ある意味、リネルトさん達にとっても訓練の一環なのかもしれない。
獣人だからか、アマリーラさん程ではなくともかなりの膂力があるようで、本来両手で持って扱うはずの長く重い木剣を、片手で不十分にならない程度には振れているみたいだ。
細かい技術なんかももしかしたらあるのかもしれないけど、俺はまだそれがわかる程じゃない。
「何をよそ見しておるんじゃ! ちゃんと集中せんかい!」
「すみません! ふっ! せや!」
モニカさん達の方を見ている事を、エアラハールさんに注意されて木剣での素振りに集中する。
俺は、一応くらいはできている基礎を固めつつ、以前にも言われた無駄な動きを減らして、洗練された動きになるように、という事らしい。
自分の動きを意識的に変えつつ、無駄に動かないようにしたうえで動作は鋭くする、と要求されている中で、さらに敵を想定した素振りになっているから、これがかなり難しい。
敵を想像するので、ただ振り下ろすだけの素振りよりも大変なのはもちろんの事、想像が甘ければどう動いていいのかもわからなくなってしまう。
それを自分の動きを意識しながらだからね……。
さらにユノとロジーナからの注文で、これからは剣を振るう時には必ず魔力を意識する事という、昨日やった結界を張れるようになるため、魂の修復を早めるのも一緒にと言われているからさらに大変だ。
当然ながら、木剣だとしても同じく魔力を意識しなければならない。
あと、ゴブリンとの戦いのように魔力を操作するのは、訓練中はやらないようにとも言われていたりする。
「はぁ……はぁ……はぁ……んっ! たぁっ!」
「疲れるじゃろ? 普段はあまり疲れを感じないみたいじゃが、これは普段ではないからじゃ。集中して、実際の戦いよりもむしろ深く強く動く。息が切れる事が全て正しいわけではないのじゃが、訓練でこそ息を切らし、疲れるくらいにやらねばならん。実戦では、考えなければならない事も多く自分の動きに深く集中はできんからの」
「はい! ふん! せい!」
多くの事を意識しているせいもあるけど、魔物と戦っている時とは違って全身への疲労が強く、息が切れる。
ほぼ動きを止めず、ずっと動き続けているのもあるんだろうけど、それにしたって今の訓練の方がかなり消耗しているのは確かだ。
「力の込め方が間違っておるぞ! 疲れて、体が泳いでもおる! 疲れた時こそ、最小限の動きを意識するのじゃ!」
「は、はい!」
厳しい声が響く中、魔力、体の動き、力を込めるタイミングや力を抜くタイミングを間違えないよう気を付け、酸素を求めてあえぐ口を引き結んで、剣を振るっていく。
ここまで厳しい訓練は初めてだ……それだけ、エアラハールさんも本気という事なんだろう。
もちろん、これまでの訓練だって手を抜いていたとかではないとは思うけど。
戦争が現実味を帯び、さらに猶予が少ないからこそ、急いで鍛えてくれているのかもしれない。
……二日酔いにはなっているけど。
「ぜぇ、はぁ、はぁ……んむ! せやぁ!」
ともあれ、珍しくは余計かもしれないけど、真面目に始動してくれるエアラハールさんの心意気に応えるため、モニカさん達の方から聞こえる木剣を打ち合う音や、声などを聴きながら、全力で訓練に集中した。
昼食までの間だったけど、これなら延々と魔物を相手にしていた時の方が疲れないなぁと思いつつ、これも自分のため、ひいては皆のためと自分に檄を入れながら――。
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる