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値引き交渉を任せる相手

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「ヒュドラーとレムレース相手だと大きな被害、で済ませられる相手でもないんだけどねぇ……まぁいいわ。今に始まった事じゃないからね」

 小さく嘆息して、話しを戻すようヒルダさんに目で示す姉さん。

「直接的な怪我ほとんどないようでしたが、それでも大きな絶望を前に、生きる事すら諦める状況からの救い。差し込んだ光に全てを捧げても構わないと考えるのは、自然なのではないでしょうか?」

 姉さんい頷いて、再び話すヒルダさん。
 内容とヒルダさんの雰囲気から、何かを感じるような……って、そうか。
 ヒルダさんは昔、魔物に故郷を襲われて全てを失ったんだったっけ。
 それを、姉さんが助けて保護して、王城で雇って侍女にしたとか。

 ミラルカさんを始めとして、今日会った八人は攫われる際に全員、帰る場所を失っている。
 それは故郷を失ったのもあるし、住む場所が家族と共に失われた、など程度の差は多少あっても大きな違いはない。
 攫う際にそんな事をした理由は、多分口封じとか魔物に襲われたと偽装するためとか、色々あるのかもしれないけどあまり理解はしたくない。

 ともかく野党と魔物で違いはあるけど、状況的には似た経験をしているから、あの八人がどう考えているかという心の動きなども、なんとなくわかるのかもしれない。
 いや、でもさすがに大袈裟な部分はあるとは思うけどね。

「全てを、とまでなるのはちょっと俺自身あまり想像できませんけど……」

 あと、重すぎて受け止めきれないというのも少しある。
 ちょっと無責任かもしれないけど……。

「あくまで、最前線にというのは例ではありますが……そういう考えを持ってしまう事もあるのだと、ご理解下さい」
「それはまぁ、はい」
「ヒルダ……」

 憐憫の目というのだろうか? ちょっとだけ眉根を下げた姉さんがヒルダさんを見て、名前を呟く。
 ヒルダさんは「持ってしまう」と言ったから……多分、過去の出来事に縛られているは言い過ぎでも、近い感覚なのかもしれない。
 まぁ、そんなヒルダさんも姉さんを叱る時は結構怖いけど、普段は割と楽しそうに過ごすというか、お世話をしてくれているから、なんとかしないといけないってわけでもないんだろうけど。
 ヒルダさんを見ていると、侍女や誰かのお世話をする仕事が天職なんじゃないかとすら思えてくるくらいだしね。

「私の事はともかく……」

 ヒルダさんが姉さんの視線に気付いたんだろう、少し誤魔化すように顔を逸らしながら話を続けてくれる。

「助けてくれた相手が何を望むか、という部分もありますが、とにかくリク様から何かを頼まれる、任されるというのは、あの八人にとっては嬉しい事になっていると思われます。その表れとして、リク様のおお傍で役に立ちたい、という望みなのでしょう」
「つまり……ワイバーンの皮を取引するための交渉を、ナラテリアさんとカヤさんに任せるのは喜ばれる、と?」

 随分話が逸れたような気がするけど、そういえばワイバーンの皮の取引や、値引き交渉を任せられる人という話だった。
 早い話が、ナラテリアさん達なら目的などはどうあれクランに入らないと言う事はないし、仕事を任せられて喜ばないはずがない、とヒルダさんは言いたいみたいだね。

「はい。おそらくですが、諸手と歓声を上げて頷くのではないでしょうか」
「そこまで喜ぶのは、ちょっと想像できませんけど……」

 さすがに、二人のそんな様子は思い浮かばない。
 俺の想像力が貧困だからとか、まだ二人に会って間もなく、よく知らないからっていのもあるかもしれないけど。
 あと、ナラテリアさんもカヤさんも、ヒルダさんが言っているような喜び方をする性格じゃないような……?

「とにかく、ヒルダさんの話は少し大袈裟な部分があると思いますけど……本当に二人が承諾してくれるのなら、そっちに任せてみようかと思います」
「大袈裟、ではないのですが……はい、差し出がましい事を申してしまいました。陛下とのお話中に申し訳ございません」
「いえそんな、参考になるというか俺達だけではどうしようと悩むばかりだったので。ありがとうございます」

 何やら小さく呟いた後、深く頭を下げるヒルダさん。
 俺達だけでは、ナラテリアさん達に任せてみる……という案は出なかっただろうし、ヒルダさんの意見はありがたく、謝られる程じゃない。
 姉さんも、話の途中で入って来たヒルダさんを咎めたりはしないだろうしね。

「あと、一応ですけど……ナラテリアさん達にはちゃんと事情とか、クランについての話をしたうえで、承諾してもらって無理をしない範囲で任せるという事で」
「畏まりました。詳細については、私からお話しても?」
「はい。手間をかけますけど俺からよりはいい気がしますので、お願いします」

 なんとなく、俺から説明するとナラテリアさん達が絶対断れないような、そんな雰囲気を押し付けてしまう気がするからね。
 ……ヒルダさんにちょっと怯えていたようでもあるから、大きく変わらないかもしれないけど……その辺りはやんわりと伝えてくれるって信じておこう。

「そう言えば結局、例の八人は全員りっくんが?」
「いえ、八人のうち三人です。他の五人はそのままお世話係にと……陛下の予想は外れましたね」
「くっ! りっくんなら私の期待に応えてくれると思ったのに! 薄情なりっくんねぇ……」
「いや薄情って言われても……」

 悔しそうな姉さんだけど、さすがに八人全員を引き抜くような形にはできないからね。
 ちゃんと王城で雇われているんだから、本来なら俺が何か口を出さなくても良かったわけだし。
 三人でも、やりすぎたと思うくらいなのになぁ……まぁ八人の行く当てがなく、働き口がないとかだったら別だっただろうけどね。

「とにかく、ワイバーンから剥ぎ取った物については、ナラテリアさん達が頷いてくれたらそっ地に任せるよ。――あ、ヒルダさん。俺の利益とかはあまり考えなくていい、と二人には伝えていてください」
「そちらも畏まりました。陛下が、どれだけリク様の利益の前に屈するかも見て見たかったのですが……」
「屈したら、国の予算が圧迫されて他の部分で割を食ってしまうわよヒルダ……」

 ヒルダさんの冗談に、こめかみを抑える姉さん。
 さすがに国益を損なうとまでは言わなくても、厳しいからこうして話を持ち掛けているんだろうし、俺にとっての利益なんてほぼなくて構わない。
 まぁどちらかというとこれはワイバーンに還元する予定だし、ワイバーンの利益となるのかな?
 その辺りは、値引きした代わりに姉さん達国側に、特別扱いじゃないけど優遇してもらうようにしてもらえばいいか。

 ワイバーンができるだけ快適に過ごせるようにってね。
 そうして、ワイバーンに関する話が一応はまとまり、その後は和やかに夕食が進んだ……わけではなかった。
 カーリンさんの事、というかアルケニーの素材を使った調理道具を作る話をしたからだ。
 いつ作ってくれる人を探すかの話の中で、早い方がいいと言っていたカーリンさんの話をすると、マックスさんを近くで見ていたモニカさんが賛同した――。


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