上 下
1,753 / 1,903

マティルデさんからの報告

しおりを挟む


「ありがたいわ。じゃあ……」

 そう言って、マティルデさんから一枚の書類が渡される。
 素材買い取りと、後払いにする手続きみたいなものらしい……よく見てみると、マティルデさんの手元には後で買い取りをする旨が書かれているような書類もあった。
 多分、俺がどちらを選択してもいいように両方準備していたんだろう。

「よしっと。それじゃ、お願いします」
「えぇ、確かに。冒険者ギルドの統括ギルドマスターとして、約束を違えない事を誓うわ。本当なら、信用に頼るような事はしなくても良かったはずなんだけど」
「まぁ今は色々大変でしょうし、それは俺もわかりますから」

 冒険者ギルドの建物が破壊されただけでもそうだけど、テーブルの上に散乱している書類などが、どれだけマティルデさんが大変で忙しいのかがよくわかる。
 以前、中央冒険者ギルドのマティルデさんの部屋に入った時は、書類などの束が多くあったのは似ているけど、ちゃんと整理されて綺麗だったからね。
 片づけをしている暇さえないんだろう。

「あ、そうそう。リクにも一応報告しておかなきゃね」
「ん、何をですか?」

 とりあえず要は済んだと思って、座っていた椅子から立ち上がりかけた俺を呼び留めるように言うマティルデさん。
 マティルデさんの方から俺に報告するような事ってあったっけ?

「ブハギムノングの冒険者ギルドからの報告が来ているわ。以前に……」
「そういえば、そんな事もありましたね」

 マティルデさんの報告というのは、ブハギムノングの鉱山でモリーツさんやイオスがエクスブロジオンオーガの研究をしていた事に関係していた。
 一人や二人であの場所を用意するのは不可能で、まだその時は組織的な動きはあれど、帝国の関与とかまで詳しく知らなかったのもあるけど……とにかく、冒険者の中にも協力者がいるんじゃないか。
 そう思って、ブハギムノングの冒険者ギルドのギルドマスター、ベルンタさんだったっけ……その人に調べてもらっていたんだった。
 で、マティルデさんに知らされた報告内容によると、ブハギムノング自体にはほぼ常駐している冒険者がいないため、帝国と通じているいわば裏切り者はいなかったと。

 ただ、ルジナウムなどブハギムノングのある王都から見ると北東のハーゼンクレーヴァ子爵領に、それなりの数が発見されたと。
 深くかかわっている者、少しだけ関わっている者など様々らしいけど、とにかく帝国との関与や組織との関与が見られたとの事だ。
 ハーゼンクレーヴァ領……つまり、フィネさん騎士として仕える貴族家で、俺に良くしてくれたフランクさんが治める領地。
 冒険者だけでなく、貴族軍の兵士なども含めて調べが進んでいて、そちらにも入り込んでいるのも確認されたとか。

 だからこそ、コルネリウスさんに近付いて色々と吹き込んで性格や考えを歪めさせる事もできたんだろう、とベルンタさんが予想し、フランクさんも認めて気を引き締めて事に当たっているらしい。
 フランクさんとも、協力しているのならこのまま任せられそうだ。

「ハーゼンクレーヴァ領は、帝国から見ればかなり遠くにあるけど……だからこそ狙われたのかもしれないわね」
「そうですね……帝国と事を構える際には、広報からの物資支援をする役割になるだろうとも聞きましたし」

 それは、ヘルサルのあるシュットラウルさんが治める領地も一緒だけど……フランクさんの子爵領はルジナウム近くに大きな穀倉地帯があるらしく、食糧供給地としても重要らしいからね。
 あと、ブハギムノングにある鉱山とかも重要拠点と言えるだろうし。
 だからこそ、狙われたのもあるし、帝国から離れているからこそもし企みが邪魔されても、簡単に帝国が疑われない可能性がある、というのがマティルデさんの見方だ。
 結局のところ、俺達がほとんどの企みを潰して、一部杜撰な計画もあったおかげで帝国にある組織がっていうのはわかったんだけど。

 まぁでも、あの頃は帝国そのものが関わっているというより、帝国にある組織が程度にしか考えていなかったんだけどね。
 組織と帝国のクズ皇帝が関わっている可能性、というのも考えてはいたけど、直接関わっているのかなどは確証がなかった。
 今は、レッタさんの証言も含めて様々な状況から、帝国の、そしてクズ皇帝が主導してアテトリア王国へ工作を行っているというのに確信できているけど。

「あとはそうね、センテからの報告で帝国に関わっている可能性のある者達のあぶり出しも行っているわ。それと同時に、ブハギムノングもそうだけど、この国にある各冒険者ギルド支部にも通達を出したわ。あまり身内を疑うような事はしたくないけど、こればっかりは仕方ないわね」
「そうですね……誰が味方で、誰が敵なのかは知る必要がありますし」

 これから戦争をすると考えているんだ、敵が内部に入り込んでいたらそこから何かを仕掛けられるかもしれないし、後ろを気にしていたら帝国とまともに戦えない事もあるだろうからね。
 まずは内部を、身内とも言うべき近い人達を調べて、安心して帝国との戦いに備えたい。

「それと……改めて、リクの作るクランに加入するよう、こちらで選んでいた冒険者も同じく調べているわ。そちらにもいるかもしれないし、もちろん帝国との関与、向こうに与しているようなのがいれば弾かせてもらうわ」
「はい、よろしくお願いします」

 センテやヘルサルで募ったクラン加入希望の冒険者さんは、既にあちらで調べているので大丈夫だとは思うけど……それ以外の人達はまだ本当に信用できるかわからないからね。
 元々、帝国との戦争に関わるとしてのクランでもあるから、マティルデさん達の選別によって怪しい人物は取り除かれているんだろうけど。
 あまり多くの人が弾かれるような事はないといいなぁ。
 多いという事は、それだけ帝国と関わっている人が多いという事でもあるから。

「あとはそうね……建物としてはだけど、任されていたクランで使う拠点がそろそろ完成するわ。予定ではもう完成しているはずだったんだけどね。五日前後ってところね。また完成したら伝えるわ」
「それでも、考えていたより早いですから。よろしくお願いします」

 クランで使う建物に関しては、元々マティルデさんに任せていたし……まぁはっきりとクランを作ると明言はしていなかったのに、もう完成間近という事は、俺が頷くと考えて着手していたんだろうとは思うけど。
 できるかどうか、俺がクランを作って多くの冒険者を率いていいのか? という悩みはあったけど、最初から断る方面ではあまり考えていなかったからいいし、早くできるに越した事はないからね。
 ただまぁ、建物自体が完成してもまだクランの拠点として使えるかは別の話。
 そこから、物を運び込んだりとかいろいろしてようやくだ……でも、センテやヘルサルで募った希望者が、王都に到着してもしばらくは各自で過ごさないといけない期間が予想よりかなり少なくなったのは、間違いないと思う。

 ルギネさん達とか、今は王都周辺に現れた魔物の集団の対処に当たってもらっている、というか依頼を出して受けているらしいけど、それが終わった頃にはクランが始動できそうだ。
 後からヘルサルを出発した冒険者組は、多分すぐにクランに加入してそこで活動できるようになるだろうと思われる――。

しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...