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標的はリクが初めて見る魔物
しおりを挟む「ふぅむ、気付かれない程度の近さで、視界に収まる範囲には三つの魔物の集団かの。ゴブリン、オーク……もう一つはミタウルスじゃの」
エルサの背中に乗ったまま、地上を観察するエアラハールさん。
俺達も見ているけど……一番遠い場所、エルサの向いている方角から右奥、王都からだと西南西の方角にゴブリンの集団。
人間より小さい体のゴブリンが密集していて正確な数はわからないけど、多分五十以上はいると思う。
そして逆方面、南南西の方角でゴブリンよりは少し近い場所には、オークの集団。
あっちは……少し数が少なめで十体程度ってところかな、ゴブリンより体が大きいから数えやすい。
「一番近いのは、ミタウルスの集団ですね……」
南西方面、エルサから見下ろすような近い位置にいるのがミタウルスの集団。
近いと言っても、単純距離として数百メートルは離れているけど。
ともあれミタウルス……地球だと神話とかでミーノータウロス、ミノタウロスとか呼ばれているのと似ている魔物だね。
体長三メートル以上の魔物で、顔は牛で頭からは二本の太い角が空ではなく前方に向かって生えている。
地球の神話にあるミノタウロスだと、体は人間とほぼ同様な物だけど、ミタウルスは熊のような体毛に覆われて少しずんぐりむっくりとしている感じだ。
その毛はエルサと比べるまでもないくらい、硬くモフモフのモの字も感じさせない。
生半可な攻撃なら弾くと言われているらしい……らしいというのは、俺が直に戦った事がなく話に聞いただけで今回初めて見たからだけど。
特筆すべきは、その毛による防御力ではなく大きな体に見合った怪力。
毛の硬さだけでもCランク冒険者が苦労するみたいだけど、人間を軽々とぶん投げる怪力や角を総合してBランクの魔物とされている。
しかも、多少の知恵があるらしく手に武器を持って振るう事もあるとか……実際、こちらから見えるミタウルスの集団の中には木の棒を持っているようなのもいた。
……多少距離があるし、ミタウルスの体が大きいから木の棒のように見えるけど、多分実際には細めの木の幹くらいの太さがあるかもしれない。
他にも、剣っぽい刃物を持っているのもいるね。
ただ振るうと言っても、闇雲に振り回す程度で打ち合う技術みたいなのはないとか。
って考えると、力任せに剣を振るう俺と大差ないかもしれないなんて思ってしまうけども。
それでも当たればただでは済まされないだろうね。
ともあれ、武器を使う事や怪力、そして皮の鎧程度なら簡単に貫通して突き刺す事ができるらしい鋭く硬い角は、確かに脅威のように見える。
しかも罠を張るのが一番の強みであるアルケニーとは違って、単純な怪力は広い空間でこそ発揮されるから、多少の木々がある程度で他に何もない平原では簡単に討伐はできなさそうだ。
そんなミタウルスが、ひぃふぅみぅ……全部で十五体かぁ、群れる魔物でもあるらしいけど大体は四、五体程度らしいからかなり数が多いと言えるだろう。
「では、ゴブリン……は数が多いの。ワシらはオークの方を……」
「ミタウルスであれば私達の相手に不足はない! リク様、私達が見事ミタウルスを打ち倒す勇姿をご覧下さい!」
「ははは、わかりました。でも、本当に見せるのはモニカさん達の方なんですけどね……」
エアラハールさんの言葉を遮って、やる気がみなぎっているアマリーラさんが叫ぶ。
俺ではなく、モニカさんに見せて欲しいんだけど……まぁ、エルサの背中に乗っている皆が見ているだろうから、いいか。
「あの……オークの方をじゃな?」
「早速、ミタウルスへと突貫せねば! 腕が鳴る!」
何やら主張しようとするエアラハールさんの言葉は、張り切って大剣を握るアマリーラさんの声にかき消された。
エアラハールさん、アマリーラさん達を巻き込んだのが原因で自分も巻き込まれたんだから、諦めて下さい……と心の中で呟いておく。
大変だとは思うけど俺に代わりはできないし、アマリーラさん達が楽をさせてくれなさそうだなぁ。
「アマリーラさぁん、落ち着いて下さいねぇ? ここからだとまだ距離もありますから、今降りてもたどり着くまでに疲れちゃいますよぉ?」
勢いのまま、エルサから飛び降りて行きそうなアマリーラさんを、リネルトさんが押し留める。
というか後ろから抱き着いて止めた。
アマリーラさんの後頭部が、リネルトさんの大きな胸部装甲に埋まっている気がするけど……モニカさんの方から鋭い視線を感じそうだったため、眼下のミタウルスへと視線を集中させる事にする。
いやまぁ、実際には鋭い視線はされていないし、なんとなくそうなりそうだったからというだけなんだけど。
「そもそも、飛び降りる気満々ですがこのままだと地面に突き刺さりますからぁ」
「むぅ、それもそうだな……」
渋々といた雰囲気を滲ませつつ、リネルトさんの言葉に納得したアマリーラさん。
というか、地面に突き刺さるって……確かに、移動の際に魔物が良く見えるよう高度を落としているけど、それでも百メートルは優にある高さだ。
真っ直ぐ落ち……降りたら突き刺さってしまうくらいの勢いが付いてしまうのかもしれない。
まぁ実際には、骨が折れたりグチャァとなる可能性の方が高い気はするけどね。
「それじゃともかく、ミタウルスに近付きますねー。エルサお願い」
「あいよーだわー」
「ワ、ワシの話を……」
アマリーラさんが飛び出さないよう我慢できている間に、さっさとミタウルスに近付いた方がいいだろう。
エルサの気の抜ける返事と共に、ゆっくりと高度を落としつつミタウルスの集団がいる方へ向かった。
相変わらず、エアラハールさんの主張はスルーされていて、モニカさん達が苦笑していたけど。
「ミタウルス、か。今の私達の実力では数体を一度に相手する事ができるかどうか、というところだろう。もし攻撃に当たってしまえば、すぐさま危険に陥る可能性すらある」
「そうね。でも、確実にこちらから先制攻撃を仕掛けれるならもう少しは……」
「ワイバーンもそうですが、エルサ様のおかげで空からの急襲という方法が取れますし、王都へ向かう際にも似たような事は経験していますからね」
「でもだからって、無理に相手をしようと考えるよりは、確実に対処できるだろう数を相手にするのも重要かもね。それもあって、こうしてエアラハールさんやアマリーラさんとリネルトさんがお手本を見せてくれる、と思えばいいのかもしれない。連携ってのは多分そういう事も含まれる気がする」
徐々にミタウルスが大きく見えるように、近付いていく中でのモニカさん達との会話。
エアラハールさんからは言われなかったけど、自分達の実力というか、連携する事によって相手できる数などを見極めるのも今回の訓練……実戦で学ばせようと考えてそうな気がする。
本人は主張をスルーされて、しょぼくれていてユノに慰められているけど。
空からの急襲は、飛行手段や遠距離攻撃の手段がない相手に対しては、確実に先制できるという優位性があるけど、それを過信するのは良くないとも思うからね――。
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