上 下
1,713 / 1,903

常軌を逸した模擬戦を目撃

しおりを挟む


「強力な魔物と相対する事で、そうせざるを得ない部分もあったとは思うがのう……じゃが、意思を持って使うのならそれでは駄目じゃ。味方すら巻き込むじゃろう。それは、こうしてワシに話しているリクが一番よくわかっておるじゃろう?」
「そう、ですね……実際、巻き込みそうどころかほとんど巻き込んだようなものですけど」

 飛ばしたアルケニーの巨体が、ソフィー達に当たっていたらちょっとした怪我では済まなかったかもしれない。
 それこそ、俺が振るう剣や魔法が、すぐ近くにいる誰か……モニカさんとかに当たってしまったら。
 魔法は今使えないし、使う時は最低限味方に当たらないように気を付けているうえ、今まではそうならなかった。
 けどこれから先絶対にあり得ないって事もないからね。

「リクの近くで戦うというのは大変じゃのう。これは、モニカ達にもよくよく言っておかねばならんか……」

 そう言って、アマリーラさん達の説得をしているモニカさん達の方へと視線を向ける、エアラハールさん。
 そちらでは、渋っている様子のアマリーラさんとリネルトさんが窺える……モニカさん達の旗色は悪いようだ。
 ん? モニカさんが何か言った瞬間、ガバッとアマリーラさんがこちらを見たね。
 さっき何か勝算というか説得材料がありそうな話をしていたし、多分それなんだろう……俺を見る理由はわからないけど。

「ふむ、あの様子だとリクの話でもしたか。モニカはその辺りをよく見てわかっておるようじゃの。いずれ陥落すると見た」
「俺の話……?」
「アマリーラやリネルト、獣人二人の行動の動機を考えればおのずとわかるじゃろ? 大体ワシが予想していた通りじゃな。特にモニカは、他の二人と違って距離を取って戦うのに向いておるから、それくらいはわかるようにちゃんと観察しておかねばの」
「そんなことまで考えて、二人を説得したらと言ったんですね」

 さすがと言うべきか、経験と年の功なのかもしれない。
 エアラハールさんは、アマリーラさん達を説得させるというのにも意味があったみたいだ。
 しかし、感心している俺の前でエアラハールさんは後頭部をポリポリとかき、視線を明後日の方向へ。

「……という事を今考えた。三人には内緒じゃぞ?」
「せっかく感心したし、尊敬もしそうだったんですけど……」
「い、いや、モニカが周囲の観察を怠らないように、というのは本当じゃぞ? 魔法や槍を使って戦うというのは、常に一定以上の距離を取って周囲には気を配っておかねばならんからの」
「まぁ、そういう事にしておきます」

 言い訳するように焦ってそう言うエアラハールさんだけど、なんというか白々しい感じがして、完全に信じきれないのは表に出さないようにしておこう。
 剣で戦う俺やソフィーと違って、距離を取って戦うモニカさんがエアラハールさんの言う通りなのは納得だし、これまでも一歩引いて戦っているのを見ているから。
 フィネさんも斧を投げたりして遠くから攻撃する事もあるけど、一定の距離を保って戦うわけじゃないしな。
 ……アマリーラさん達を説得する事が、どう繋がるのかまでは俺にはよくわからないけど、さっき取ってつけたように言ったらしいエアラハールさんの言葉が、全部間違いじゃないと思っておいた方が良いかもしれないね。

「は、話しを戻すぞ。それでリクの事じゃが……ワシには手に負えかねるのう」
「え?」

 マックスさんやヴェンツェルさんの師匠で、確かな技術に裏打ちされたエアラハールさんならと思ったんだけど……。

「剣の技術、というだけなら確かにワシも教えられる。状況が状況じゃ、ワシが教えられる事は教えるつもりじゃよ。しかしのう、リクの力は強力過ぎてそれだけでは済まされない気がしてならんのじゃ。あと、モニカ達の事もあるからの」
「な、成る程……」

 強力過ぎるから、という部分とかは俺にはよくわからないけど、でもアマリーラさん達の協力を得られたとしても、やはりエアラハールさんに俺まで頼るのは難しいか。
 だからといって、モニカさん達より俺を優先してくれなんて言えないしなぁ。

「そこでじゃ、リク。お主もモニカ達と同じように協力者が必要だと、ワシは考える」
「協力者ですか?」
「うむ。リクに技術を教えられる、かつワシ以上に剣が扱える者がの」
「えーっと、エアラハールさん以上というと……?」

 もしかして、別の誰か……AランクとかSランクとかの、エアラハールさんが冒険者だった頃の知り合いとかで、教えてくれる人や協力してくれる人がいるんだろうか?

「ほれ、あっちにおるじゃろ。あれは一目見るだけでワシには無理じゃ……」

 そう言って、モニカさん達とは別の方を示すエアラハールさん。
 あっちって確か、兵士さん達が訓練をしている場所のはず……? と思ったけど、視線を向けてすぐにエアラハールさんが呆れ混じりだった理由がわかった。

「ユノと、ロジーナ……ですか」

 ユノとロジーナは、何があったのかお互い剣を持って激しく打ち合っていた。
 多分持っているのは木剣だろうけど……それでも戦う余波で訓練場の床が抉れたり、ワイバーンの鎧よりよっぽど頑丈そうな壁が傷ついたりしている。
 ちなみに多分というのは、動きが速すぎてユノ達が持っているのが剣の形をしているだろうくらいしかわからず、はっきりと見えたわけじゃないからだ。

 ちゃんとした剣なら、刃の輝きとかが見えてもおかしくないけど、それがないからおそらく木剣だと思うってところだね。
 ただまぁ、木剣で床を抉ったり壁を傷つけたりなんてどうやってやるのかわからないけど。
 ……魔力を通した物なら可能、なのかな?

「ワシでさえ、目で追うのも一苦労じゃ。慣れていないと、何が起こっておるのかまたわからんじゃろうの」
「俺も、ほとんどわかりませんけど……一応、剣を打ち合っているというくらいはなんとなくですかね」
「マシな方じゃの。ほれ、兵士達を見てみるのじゃ。ポカンとしておるじゃろう? あれはなんとなく音などからやり合っているというのはわかっても、見えてはおらんの。ワシ達は、距離がある分見えやすいというのもあるじゃろうが……」

 俺も、近くだったら何が行われているかわからないかもしれない。
 なんて思いつつ、兵士さん達の方を見ると本当に何が起こっているのかわからない、という様子の人達が見えた。
 まぁ驚きとか唖然とかっていう表情の人もいるけど。

 そんな兵士さん達の中に混じって、レッタさんエルサを抱いてロジーナに声援を送っているようだけど……レッタさんには見えているんだろうか?
 あの人は、見えているとか関係なくロジーナが何かをやっていたら、それだけで喜ぶし応援もするかな。
 エルサの方はユノに声援を……送ってはいないな、欠伸をしているから退屈しているか眠たいようだ。

 多分エルサにはユノ達の動きが見えてわかっているんだろう。
 視力がいいとかではなく、エルサが動じていないどころかつまらなさそうにしているのはそういう事なんだろうと思う。
 ……早くキューが食べたいとか考えていないと思いたい――。

しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...