1,710 / 1,903
訓練相手に相応しい人達
しおりを挟む「話がそれたが、リクでもそうなのじゃ。お主達がいくら頑張っても、救えない命というものはあって当然じゃ。その覚悟はあるのかの? 辛いぞ、力を求めて、戦える自信を付けて。じゃが、それでも目の前で命の灯が消える事もある。力不足のせいにできるうちは、ある意味救いがある。自分に力が足りなかったと、納得する事ができる。完全にとは言わんが。じゃが、自分の限界まで達し、その限界すらを越えても助けられない者を見てしまえば、絶対に誤魔化せはせんし言い訳もできないのじゃぞ?」
「「「……」」」
エアラハールさんの言葉に、モニカさん達三人が押し黙る。
俺もそうだけど、今の言葉を頭の中で考えているんだろう。
力不足である事を自覚し、自分はまだまだだと思えるうちはそのせいにできるから、ある程度誤魔化す事はできる。
けど、全力を出し、限界を越えてまで鍛えて強くなったのに、その力が及ばなかったら言い訳なんてできない。
つまりエアラハールさんは、強くなって助けられる人が多くなったとしても、絶対に取りこぼしてしまう人もいる。
そうした時に、言い訳も誤魔化しが利かずとも、それでも受け止めて前を向けるか……と問うているんだろう……多分。
「……絶対に、潰れないとは約束できません。ですけど、それでも、自分の力不足を理由に納得をしたくないんです。私は、ソフィーやフィネさん程立派な志があるとは言えませんが……それでも、これ以上ないという程に突き詰める事で、リクさんの隣に立てるんだと、そう考えます」
「モニカが言うような志は、私自身どうなのかと思いますが……それでも、強くなって、多くの困っている人達を助ける。それが私が冒険者になった理由ですから。日々の研鑽により、助けられる人を増やす事。どうしても、取りこぼす存在はいるのかもしれません。ですが、私一人でも……いえ、自分を磨いた私だけでなく、モニカ達と協力する事で、一人でも多くの誰かを助けたいと、今はそう思っています」
「志、という言葉でなら、騎士であり冒険者でもある私の本懐は、多くの民を救う事です。そのためには、今のままでは無力だとも考えます。これまでの私は何処か満足している部分がありましたが、リク様と出会い、モニカさん達と話し、センテでの経験を経て、本懐を遂げるためにも、自己満足と言われようと、本当に自身が満足する力を身に着けたいのです。例えそれが、どうしても助けられない人を見る事になったとしても」
モニカさん、ソフィー、フィネさんと、それぞれが決意を語る。
皆、俺みたいになんとなくとか、流れもあってとかではなくちゃんと考えているんだな。
王都に戻るまで、特にアルケニーと戦ったあたりで色々と考えないとと思ったけど、モニカさん達はそれ以前から凄く真剣に考えていたんだろう。
俺なんかより、よっぽど心が強い。
「成る程のう。お主らの決意、決心の一端は見られた。実際に、力が及ばない状況になったら多少変わるかもしれんが……長いとは言わないまでも、それなりにお主達を見て来たワシじゃ、そこは信用しよう」
「それじゃあ……!」
「うむ。当初お主達の訓練を引き受けた時は、そこまでの事は考えておらなんだが……状況が状況じゃ。どこかのんびりとした雰囲気が漂う、この国がワシも好きじゃからの。できる限りの事を約束しよう。じゃが……」
許可が出た、訓練してもらえる、と思ったらしいモニカさん達が前のめりになるのを片手を挙げて制し、言葉をいったん切るエアラハールさん。
何か問題があるのだろうか?
「ワシ一人で三人もというのはのう。これまでのような訓練を見てやる、ちょっとした指導くらいであれば可能じゃろうが、腰を据えてというのはな。ワシも若くはない……マックスやヴェンツェルを見ていた頃ならまだしも、じゃ」
「それは……確かに」
「なら、私達の中から誰かを選んで、という事になるのでしょうか?」
「待て待て、早合点し過ぎじゃ」
ソフィーの言葉に慌てて待ったをかけるエアラハールさん。
三人の中の誰か、ではなく三人とも訓練を付ける算段があるのだろうか?
というか、この分だと俺が考えている事を頼むのはさらに負担になるし、ちょっと難しいかなぁ?
「お主らは、まぁセンテでの経験などからある程度力を付けてきておると考えている。じゃが、それでもまだまだ冒険者のランクで言うとBランクの域を出ておらんじゃろう。尋常ではない戦いを経て、Aランクの片鱗くらいは見ている、近付いているかもしれんがの。そこでじゃ、ちょうどいい事にリクが強者……Aランクの者を連れて帰って来たおるじゃろ?」
「Aランク……アマリーラさんとリネルトさんの事ですか?」
二人は、冒険者としての活動はあまりしていなかったため、ランクとしてはCランクだったけど……センテを出て王都へ来る際にBランクに昇格したらしい。
まぁ色々とあったからね、それくらいは冒険者ギルドの方で融通を効かせたって事だろう。
そして二人は、実力的にはAランク相当だというのはセンテでの戦いだけでなく、侯爵軍との演習や森の魔物殲滅の際にも発揮されていて、自他共に疑いようがない。
「うむ、そうじゃ。その二人と協力すれば、お主ら三人ともAランク……とまで行けるかは絶対とは言えんが、不可能ではなくなるはずじゃ。まぁ、Aランク自体がともすれば人外とも呼ばれておるからの。誰でも努力すればなれるというものでもないが」
「それは、わかっています。私達にその才覚があるかはさておき、努力不足という事にだけはしたくないんです」
エアラハールさんの言葉を受けて、モニカさんとソフィー、それにフィネさんが顔を見合わせて頷く。
三人とも、自分が絶対にAランクになれると考えているわけではなく、単純にもっと厳しく自分を鍛えたいというのもあるんだろうね。
努力不足……やっていれば実はできていたけど、なんて言い訳ができないくらいに。
モニカさん達は、言い訳をしたがる人達じゃないけども。
「それなら、まずはアマリーラとリネルトの二人を説得じゃの。話は聞いたが、あの二人はリクの傍を離れたがらんじゃろうし、リク以外の訓練に協力するかは微妙なところじゃ」
そういえば、エアラハールさんは朝食の時にアマリーラさんやリネルトさんと話していたっけ。
最初は女性に対してまた痴漢を……と思って注意してユノと一緒に見ていたんだけど、それをあの二人はさせなかった。
さすがAランク相応の実力者と言うべきなのか。
リネルトさんが伸びたエアラハールさんの手をひらりと避けたと思ったら、アマリーラさんが後ろから首筋にナイフを突き付けていた。
あわや乱闘というか、エアラハールさんの首が危険で危ない……と止めようとした俺の耳に届いたのは、地の底から湧き上がるようなアマリーラさんとリネルトさんの怒りの声。
二人の脅しで、エアラハールさんはおとなしくなったという。
……さすがにアマリーラさんも、いきなり斬り付けるなんて事はしなかったか……薄っすらとエアラハールさんの首の皮が切れていたような気もするけど――。
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる