上 下
1,709 / 1,903

エアラハールさんに請う者達

しおりを挟む


「とにかく、至急冷蔵庫……もう冷却箱と呼んでも良さそうだけど、作るように指示しておくわ。私から頼んで研究してもらっていたアルネ達には悪いけど」

 あとアルネ達がせっかく研究していたのに、魔法具とは違う方法で解決してしまったのは、俺も少し申し訳ない気がする。
 でもアルネやカイツさんの研究への熱意を考えると、いつかは本当に冷蔵庫を魔法で再現できそうな気もしていた。
 さすがに日本の冷蔵庫みたいに多機能で高機能ってわけじゃないとは思うけどね……。

「アルネ達は、カイツさんが行ったから今は魔力を調べる魔法具の研究開発の方で忙しいと思うけどね。もしかしたら、気にしないかも」

 ふとそう思って呟いたけど……研究さえできればという部分もある気がするので、今は冷蔵庫よりもさっき話した魔力を調べるための、爆発する人間を探し出すための魔法具の方に集中して欲しいと思った――。


 ――姉さん達と話した翌日、朝食後の訓練場にて俺だけでなくモニカさんやソフィー、それにフィネさんもエアラハールさんの前に集まった。

「正直、自分の力不足を感じています。センテではなんとか生き残れましたが……これから先、生き残るためにもこのままではいけないと」
「私もです。リクさん以外一人でどうにもできる事じゃなかったのはわかっていますけど、少しでも強くならなければと思うんです」
「冒険者としてだけでなく、騎士として今後私は戦っていくでしょう。ですが、今のままでは皆を……民を守れない気がするのです」
「ふむぅ……」

 なんて、俺以外のソフィー、モニカさん、フィネさんがそれぞれエアラハールさんに意気込みのような物を語った。
 エアラハールさんは、それらの言葉を受けて顎髭をさするようなしぐさをしつつ考えている様子……エアラハールさんに顎髭はないけど。

「あれ、ユノが教えたの?」
「そうなの。便利そうな技があったから、誰にでも使えるように改良……というより、劣化した技だけど、それを教えたの」
「……ただでさえ、魔物を使わなければ国力、兵力でも負けているのに。同等であったとしても、帝国は負け戦でしかないわね。まぁ、だからこそ魔物を使う手段の研究をしているのだろうけど」

 他の場所では、次善の一手の訓練をしている兵士さんを眺めつつ、ユノやロジーナ、それにレッタさんが何やら話していた。
 まぁあっちは見物しているだけのようだし、問題なさそうだ。
 エルサもユノに抱かれてのんびりというか、朝食後の満腹感でウトウトしているようだし、レッタさんが次善の一手に関して帝国に漏らす事もないだろうと思うから。

「お主らの気持ちはわかった。じゃが、それはつまり冒険者のランクで言うとAランクを目指すと言っているようなものじゃぞ? まぁ、ただ生き残る術を磨くというのなら別じゃが、そうではないのじゃろ?」
「もちろんです。私達……少なくとも私は、どれだけ力不足でもリクさんの隣に立って、足手まといにはなりたくありません。そのため、生き残るだけでなく戦う術をもっと身に着けなくてはならない、と考えていますから」

 モニカさん達の事を、足手まといと考えた事はないんだけどなぁ。
 まぁそれでも、モニカさん達はモニカさん達なりに一緒に戦っている時、思う事があったんだろう。
 俺から何も言えないのはもどかしいけど、何かを言ってモニカさん達の意気込みを邪魔するわけにはいかないしね。

「ふぅむ、決意は相当なもののようじゃな。それだけ、センテでの経験はお主らにとって考えるきっけにもなったという事か」
「私達にもっと力があれば、と思うのは思い上がりかもしれません。あの状況で、できる最善を尽くしたと。ですがそれでも、もっと私に……私達に力があれば、死にゆく者達を減らせたのではないか。と思う気持ちも確かなんです」

 そう言うフィネさんは、エアラハールさんに気持ちを語った後悔しそうに、自分の唇を噛んでいる。
 話している事に関しては、俺も思う所がある……もっと早く、ロジーナの隔離から抜け出せていればとかね。
 俺と違ってモニカさん達は、魔物にセンテが囲まれた初期からずっと戦いに参加しているため、助けられなかった人なども多いんだろう。
 結構な人数の兵士さん、冒険者さんが犠牲になったようだし……街への侵入は何とか防げていたおかげで、街の人達への被害はおrが意識を乗っ取られる前、伏兵として潜ませていたレムレースなどの魔物にやられた人達くらいか。

 それだって、最初からもっとちゃんと考えて調べておけば、防げた事かもしれないしね。
 まぁ、全部終わってから考えるたらればだけど。

「ワシは元Aランク。Sランクになるのも近いとまで言われた冒険者じゃった。じゃが、それでも助けられない命というのはある。どれだけ強くなろうと、人が一人で守れる数には限りがあるからの。それは、Sランクになるリクも変わらんじゃろ?」
「え、あ、はい。そうですね……できるだけ助けられる人は助けたい。そう思いますけど……全てを助ける事はできない、とは感じています」

 急に俺へと話が降られたので、一瞬戸惑ったけど……俺一人で助けられる人というのに限界があるのは間違いない。
 特に、今のように魔法が使えなくなった状況であればなおさらだ。
 だからこそ、モニカさん達とは別の理由でここにいるんだけどね……いや、理由としては近いというか同じかもしれないけど。
 ちなみに、俺がSランクにという話は今朝マティルデさんとも話があった。

 本来なら俺が王都に戻って来たらすぐに、Sランクに昇格する手はずだったらしいけど、冒険者ギルドの建物が複数破壊された混乱で、少しだけ手続きが遅れるらしい。
 なんにせよ、Sランクの冒険者カードは受け取っているし、手続きというのもギルドの内部的な話なのでほとんど正式にSランクになったようなものだとか。

「センテで、多くの怪我人の治療にもあたりましたが……それでも救えなかった人、というのはいますから。まぁ、治療と強さというのは別物かもしれませんが」

 怪我人の収容所で、本来なら助けられない人でも治療して見せた。
 それで助けられて良かったと思うと同時に、それでも助けられなかった人もいて、どうしようもない気持ちになったものだ。
 モニカさん達が求める、戦う力というのとはまた違った話になると思うけど。
 なんにせよ、どれだけ魔力が多かったとしても、ドラゴンの魔法で規格外の魔法を使えるようになったとしても、全てを助けるなんてできないって事だ。

 それは、センテでの戦いで身に染みて感じた。
 しかも今は魔法が使えなくなったから、その治癒魔法すら使えなくなっていて、助けられる人っていうのはもっと限られてしまっている。

「リクによる怪我人の治療はともかく、負傷者を手当てする者というのもそれはそれで力じゃよ。戦うのとはまた別……いや、ある意味戦っているのかもしれんがの」
「はい……」

 もしかしたら、俺へのフォローだったのかもしれない。
 少しだけ、俺に優しい目を向けたエアラハールさんは、すぐに明後日の方へと顔を向けて咳ばらいをした。
 照れ臭かったらしい。
 年齢的にも経験も、当然ながらエアラハールさんは大先輩だから、思うところがあったのかもしれない。
 もしかしたら、エアラハールさんが大きな怪我をした時に助けられたとか? まぁそのあたりは別の機会でもあれば聞くとしよう――。

しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

処理中です...