上 下
1,690 / 1,903

すんなり王都へは行けなかった

しおりを挟む


「男性なのに女性……そういう方もいる、というのは聞いた事があります。でも、リク様を可愛がりたいというのはその……?」
「それは、本人にしかわからないけど、多分そういう意味なのかしら? リクさんにはその気はないと思うんだけど……そうよね、リクさん?」
「そ、それはもちろん。ララさんは悪い人じゃないけど……」

 モニカさんに問いかけられて、ブンブンと頭を上下に振る。
 二人共決定的な言葉は口にしていないけど、何を考えているのはなんとなくわかる。
 別に人それぞれだし、嫌悪感とかまではないんだけど……俺にそういう趣味はない。

「ふぅ、良かったわ……あ、でね、カーリンさん。そのララさんがリクさんの事を可愛いって言っていたんだけど、わかる気がするのよね」

 小さく息を吐いたモニカさん、なんだかホッとしている様子だけど……まぁそれはともかく、何故だかカーリンさんと話して盛り上がろうとしている。
 それは、俺の前で話していていい事なのだろうか? 無理に話しを変えようとしていないかな?
 とりあえず、獅子亭で働いていたからっていうのがあるのか、それとも料理ができる人同士という部分でなのか、モニカさんとカーリンさんは仲良くなれているみたいだ。

「あ、それはわかります。私はあまりリク様と一緒にいたわけではありませんが……なんとなく放っておけない感じがするというか、抜けている部分がありそうな……あ! すみません、リク様! わ、私がこんな事を!」
「い、いやぁ、うん、自分でも抜けている所があるとは思っているか……いいんですけどね……」

 色々と失敗したところを目の当たりにしたモニカさんはともかく、カーリンさんにまでそんな事を言われるとは。
 べ、別に気にしていないし……これからは失敗しないよう細心の注意を払うからいいけど。
 ……何度もそう考えて、失敗してきた俺だから抜けていると言われてしまうのかもしれない。

「そうなのよねぇ。あ、そうそう、このままリクさんと一緒に王都に行くと驚く人と会う事になるでしょうけど……ヴェンツェル将軍の親類だから大丈夫かしら?」
「え、伯父様と関係があるんですか? その、驚く人って……」
「まぁ、なんというか……本当は雲の上の人、かしら? ヴェンツェル将軍とは関係あるようなないような。まぁでも、改まった場ならともかく、普段は気さくな人で多少失礼でも気にしない人よ」
「く、雲の上の人、ですか……なんだか緊張してきました」
「今からそれだと、身が持たないかもしれないわね……ちょっとはやまったかしら……」

 なんて、モニカさんとカーリンさんが話しているけど、その驚く人というのはもしかしなくても姉さんの事だろうか?
 まぁ、エルサで王都……というか王城に行くならお城の中庭に降りる事になるだろうし、そうなると必ず姉さんに伝わる。
 忙しくて迎えに出て来るかどうかまではわからないけど、確実に対面する事になるだろなぁ。
 王城での俺の部屋が、不在時にどう使っているのかは知らないけど、俺がいる時は基本的に毎日来ていたし、結構間が開いてしかもできるだけ早く戻って欲しいという要請まで来ているんだから、姉さんが来ないわけがない。

「でもね、その人もリクさんの事を……」
「へぇ~、そうなんですね。でもなんとなくわかる気がします」
「そうよね。多くの人を救って、大量の魔物を殲滅して、貴族からも一目どころか称賛されているのに気取ったところがない。でもどこか放っておけなくて……」
「……えっと、俺の目の前で俺の事を話すのはちょっと……って、聞いていないよね、うん。わかってた」

 話が盛り上がった女性達というのは、俺が小さく声をかけた程度では止まらないものらしい。
 ともかく、王都へ向かってエルサで空を飛んでいる中、モニカさんとカーリンさんが何故か俺の話で盛り上がって、近くで聞いている俺はひたすら照れるというか恥ずかしかった。
 こういう話って、本人の目の前でする事じゃないと思うんだけど……。
 あと、可愛いとか放っておけないとかっていうのは、人によるかもしれないけどあまり男にとっては誉め言葉じゃないからねモニカさん。

 ……もっと、頼りがいのある男になろう、と心の中で決意する。
 これから先も、クランの事があるからモニカさんに多くを頼ってしまうだろうし、これまでも散々頼りにしてきたのに関しては、頭の隅に追いやる事にした――。


「今日中に王都に到着したかったけど、仕方ないか」

 あれから、完全に日が落ちてしばらく、野営の準備を手伝いながら一人呟く。
 アルケニーとの戦いで多少時間取られてしまったため、暗くなってから到着かなぁ……という予想に反し、まだヘルサルから王都へ三分の二程度来た辺りにまでしか来れていない。
 このまま王都へ向かったら、到着は日の出近くになってしまいそうなので、断念して野営をしているというわけだ。
 夜通し飛んでいたらワイバーン達も、乗っている兵士さん達も疲れてしまうから仕方がない。

 疲れて、乗っているワイバーンから落ちたら大変だし。
 それにエルサもさすがに嫌がるからね……飛ぶ事は好きでもやっぱり疲れとか、魔力の消費とかもあるし。
 まぁ大きな理由はお腹が減ってしまうからなんだけど。

「それと魔物の素材は、ちょっと惜しかったかなぁ。運べないから仕方ないんだけど……色々と活用できたかもしれないし。俺じゃなくて、国の方がこれから色々と物入りになるのになぁ」

 到着が遅れた理由は、別に道に迷ったとか飛ぶ速度が遅かったとかではない。
 そもそも、空を飛んで山や川、森などを無視してヘルサルから一直線に王都へむかっているため、道に迷う事なんてないし。
 単純に、アルケニーと戦って再出発した後、モニカさんとカーリンさんが俺の話で盛り上がっていたのはともかくとして、あれからすぐに別の魔物の集団を発見したからだ。
 正直、ずっと二人の話を近くで聞いていられなかったので、助かったという気持ちが大きいけど。

 ともかく、その魔物の集団……今度はゴブリンが上位種含む数十……百体近くを発見して放っておけないからと、戦った。
 さすがに、ゴブリンジェネラルとかゴブリンキングみたいなのはいなかったけど。
 アルケニーよりは、ゴブリン自体がそれぞれ大きな魔物じゃないし、こちらの人数も多いのでワイバーンにも協力してもらって空から急襲して楽に殲滅した。
 あとは討伐証明部位を手早く回収するだけで、かかった時間は体感で数十分程度。

 今度こそ王都にと再々出発したんだけど……また途中で別の魔物の集団を発見し……という事が数回あった。
 その全てが、通常時よりも数が多い集団で、放っておいたら近隣の村などが危険だろうと、見逃す事はできなかったんだよね。
 数体くらいなら、冒険者ギルドに依頼して討伐してもらう事もできるだろうけど、数が多いとそれだけ緊急性が上がるし、依頼をして冒険者が来るまでに多少時間がかかるから。
 ともあれそうこうしているうちに、王都へ到着する予定が大幅に遅れてしまい、獅子亭が営業終了してで遅めの夕食を食べるよりも、さらに遅い深夜に野営準備をしているってわけだ――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。

リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。 そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。 そして予告なしに転生。 ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。 そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、 赤い鳥を仲間にし、、、 冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!? スキルが何でも料理に没頭します! 超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。 合成語多いかも 話の単位は「食」 3月18日 投稿(一食目、二食目) 3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

処理中です...