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観察しながら戦うリク

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「ありがとう、リクさん」
「さすがに数が多いから、どこから来るか常に警戒しておかないといけないね」

 モニカさんからのお礼に頷きながら、標的を失って地面に落ちた黒い糸を見る。
 明るい平原のような場所だから、簡単に黒い糸は見えるけど……これが薄暗い森や洞窟の中だったら、視認性が悪くて気付いたら体にまとわりついていた、なんて事もありそうだ。
 ……成る程、罠を張って標的を捕まえる魔物……ね。
 蝶々など自分より多少大きい虫でも、張り巡らせた糸で絡め取る蜘蛛そのものってわけだ。

「とにかく悠長に話している余裕はないみたいだね」

 周囲からは、皆がアルケニーに対して攻撃を仕掛けている、もしくはアルケニーからの反撃を受けているような戦闘音が聞こえる。
 そんな中でも、やはり一番数の多い集団の真ん中に来せいもあるんだろう、見える限りのアルケニーは全て俺達へと注目していて、人のような顔にある黒い眼がこちらを見ていた。
 意思があるのかすらわからないその相貌からは、俺とモニカさんを敵視している雰囲気が感じ取れる……まぁ、斬りかかったんだから当然なんだけどね。

「まぁ、魔物の集団ど真ん中に突撃したんだからそりゃそうよね……っ! リクさん!」
「わかってる! せぁ! っと、うぉ!?」

 モニカさんの鋭い叫びに応えるように、俺へと迫るアルケニーの数本の足を白い剣で弾く。
 さらに続いて、右横、左横、そのうえ正面からもアルケニーが足を振り上げ、俺へと振り下ろす。
 さすがに剣一本でそれらすべてを捌くのは難しいため、体をよじって避けた。
 ……紙一重で避けるってあるけど、実際に目の前を刃のような足が上から下へと通過するのは、中々迫力があるね。

 唯一の救いは後ろにモニカさんがいる事と、まだ集団の前面中央にぶつかった状態なだけで、完全に囲まれているわけじゃないってところかな。
 後ろからもきていたら、さすがに避けきれなかっただろうし。

「KISISISI……」
「させないわ! フレイム! 槍よ!」

 足を避けきった俺に、アルケニーから黒い糸が降りかかるが……モニカさん自身の魔法と、魔法具の槍から発動する炎の魔法で、俺に到達する前に全て焼け落ちた。

「助かるよ!」
「私は、直接よりもリクさんへ向かう糸を焼き払った方が良さそうね……フレイム!」
「そう、みたいだね! とぁ!」

 感謝をしつつ、呟くモニカさんがさらに火の魔法で襲い来る黒い糸を焼くのを見ながら頷く。
 追撃として、アルケニーの足がモニカさんへと向かうのを、白い剣を振るって斬り払った。
 ……アルケニー自体は話通り八本の足があり、その全てが刃となる。
 アルケニーの数も多いし、二本くらい残っていれば体を支えて多少の移動ならできるのか、足を斬り払っても驚きこそすれ怯む事もないようだね。

 痛覚とかもないのかもしれない。
 糸の対処はモニカさんに任せても良さそうだし、むしろそれだけで大助かりなんだけど……少しでも糸に絡み取られると動きが阻害されたり鈍ったりしそうだからね。
 とはいえ、本数的に手数の多いアルケニーに対して、剣一本じゃ対処しきれないか。
 俺の技術がまだまだで、ユノやエアラハールさんとかならなんとでもするんだろうけど……王都に戻ったら、そのあたりも訓練する必要がありそうだ、なんて考えながら白い剣を収めていた鞘を左手に持つ。

「にわか二刀流! なんちゃって。とにかくこれなら、こっちも手数が増えるぞ……っとぉ!」

 左から来るアルケニーの足を白い剣で弾き、鞘で叩き折る。
 さらに、別のアルケニーから襲い掛かる無数の足を、鞘で弾く、あるいは叩き折り、白い剣で軌道を逸らし、あるいは斬り裂いて行く。
 不慣れな二刀流だけど、両方が剣ではなく剣と鞘にする事で役割や振り方を分ければ、俺でもなんとか扱えているという程度には動ける!

 両方剣で、どちらでも同じ事ができる……というのは逆に選択肢を増やし過ぎて、扱いきれないのは森で一人、魔物を倒して回っていた時に十分学んだからね。
 まぁ鞘だとしても選択肢が増えるのは間違いなくて、少しくらいは様になっているかな? という程度だとは思うけど。

「鞘を……そんな事もできたのねリクさん」
「まぁ見様見真似というか、森で多くの魔物を一人で対処するにはこれが一番楽だったからね。せやぁ!」

 後ろから感心するような、呆れるようなモニカさんの声を聞きつつ、さらに迫るアルケニーの足を鞘で弾く。
 ギィン! という耳障りな音と共に、先程から何度も感じた足の硬さを実感する。
 叩き折るくらいはできるけど、それは魔力を通しているからで……多分、そこらの剣とかの金属よりも硬そうな手応えだなぁ。

「んっ! っ……こっちも硬い! でもっ!!」
「KISIIIIII……!!」

 黒い糸を吐き出そうとしたアルケニーを、モニカさんが顔ごと燃やしたのを見て、そこに鞘を叩き付ける。
 剣じゃなかったのは、外皮がどれだけ硬いかを確かめるためだけど……うん、多分そこらの土壁とか街の外壁とかよりも硬い手応えだ。
 それでも、魔力を通した鞘はアルケニーの顔を潰し、体にめり込ませた。

「うわ、これでも動くんだ。あぁそうか、顔は人と違う器官なんだね……目も二つじゃないし」

 ガシャガシャと数本の足をばたつかせつつも、俺へと襲い掛かろうとする顔を埋没させたアルケニー。
 確かに、背中と見られる部分には顔と同じような眼が複数あり、それが俺を捉えているようだから、何も見えないという事はないんだろう。
 顔が全面を補足する器官だとしたら、埋没させてしまった事で背中の目で正面の俺が見えるようになったってところかな。
 人と違う器官、それっぽい鼻や口は付いているとしても、脳というかアルケニーにとって生存に重要な器官は顔にあるわけじゃないんだろう。

 もしかしたら、体を斬り裂いた時に緑の液体が出るのはそちらに重要な器官、脳とか心臓とか、それに類する機関があるっていう証拠なのかもね。
 足を斬り裂いても、顔を埋没させても気持ち悪い緑色の液体は出ていないから。

「KISYAAAAA!!」
「って、うぇ!? 足の関節どうなってるの!? このぉ!」

 顔を埋没させたアルケニーは、大きな体を支えるために足を地面に降ろすような形なんだけど、その自らの形を無視するように、俺を横薙ぎにするために足を動かした。
 蜘蛛の形だし、魔物でもあって、虫の関節がどうなっているか、そもそも骨とかあるのかは微妙なところだから……これまで斬り裂いても骨らしき物は体内になかったっぽいし。
 それでも、その動きは人だったら地面に直立したまま体を大きく動かさず、足を体に対して真横、それも直角に上げて縦ではなく横に振るうようなものだ……上手く説明できている気がしないけど、なんとなく。
 生き物の法則を無視したような動き、まぁ魔物だからなんでもありと言われればそれまでだけど、横から薙ぎ払うように迫る足の刃、というより鎌のようなそれを、鞘で上から叩き付けて勢いを殺しつつ折る!


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