1,684 / 1,903
観察しながら戦うリク
しおりを挟む「ありがとう、リクさん」
「さすがに数が多いから、どこから来るか常に警戒しておかないといけないね」
モニカさんからのお礼に頷きながら、標的を失って地面に落ちた黒い糸を見る。
明るい平原のような場所だから、簡単に黒い糸は見えるけど……これが薄暗い森や洞窟の中だったら、視認性が悪くて気付いたら体にまとわりついていた、なんて事もありそうだ。
……成る程、罠を張って標的を捕まえる魔物……ね。
蝶々など自分より多少大きい虫でも、張り巡らせた糸で絡め取る蜘蛛そのものってわけだ。
「とにかく悠長に話している余裕はないみたいだね」
周囲からは、皆がアルケニーに対して攻撃を仕掛けている、もしくはアルケニーからの反撃を受けているような戦闘音が聞こえる。
そんな中でも、やはり一番数の多い集団の真ん中に来せいもあるんだろう、見える限りのアルケニーは全て俺達へと注目していて、人のような顔にある黒い眼がこちらを見ていた。
意思があるのかすらわからないその相貌からは、俺とモニカさんを敵視している雰囲気が感じ取れる……まぁ、斬りかかったんだから当然なんだけどね。
「まぁ、魔物の集団ど真ん中に突撃したんだからそりゃそうよね……っ! リクさん!」
「わかってる! せぁ! っと、うぉ!?」
モニカさんの鋭い叫びに応えるように、俺へと迫るアルケニーの数本の足を白い剣で弾く。
さらに続いて、右横、左横、そのうえ正面からもアルケニーが足を振り上げ、俺へと振り下ろす。
さすがに剣一本でそれらすべてを捌くのは難しいため、体をよじって避けた。
……紙一重で避けるってあるけど、実際に目の前を刃のような足が上から下へと通過するのは、中々迫力があるね。
唯一の救いは後ろにモニカさんがいる事と、まだ集団の前面中央にぶつかった状態なだけで、完全に囲まれているわけじゃないってところかな。
後ろからもきていたら、さすがに避けきれなかっただろうし。
「KISISISI……」
「させないわ! フレイム! 槍よ!」
足を避けきった俺に、アルケニーから黒い糸が降りかかるが……モニカさん自身の魔法と、魔法具の槍から発動する炎の魔法で、俺に到達する前に全て焼け落ちた。
「助かるよ!」
「私は、直接よりもリクさんへ向かう糸を焼き払った方が良さそうね……フレイム!」
「そう、みたいだね! とぁ!」
感謝をしつつ、呟くモニカさんがさらに火の魔法で襲い来る黒い糸を焼くのを見ながら頷く。
追撃として、アルケニーの足がモニカさんへと向かうのを、白い剣を振るって斬り払った。
……アルケニー自体は話通り八本の足があり、その全てが刃となる。
アルケニーの数も多いし、二本くらい残っていれば体を支えて多少の移動ならできるのか、足を斬り払っても驚きこそすれ怯む事もないようだね。
痛覚とかもないのかもしれない。
糸の対処はモニカさんに任せても良さそうだし、むしろそれだけで大助かりなんだけど……少しでも糸に絡み取られると動きが阻害されたり鈍ったりしそうだからね。
とはいえ、本数的に手数の多いアルケニーに対して、剣一本じゃ対処しきれないか。
俺の技術がまだまだで、ユノやエアラハールさんとかならなんとでもするんだろうけど……王都に戻ったら、そのあたりも訓練する必要がありそうだ、なんて考えながら白い剣を収めていた鞘を左手に持つ。
「にわか二刀流! なんちゃって。とにかくこれなら、こっちも手数が増えるぞ……っとぉ!」
左から来るアルケニーの足を白い剣で弾き、鞘で叩き折る。
さらに、別のアルケニーから襲い掛かる無数の足を、鞘で弾く、あるいは叩き折り、白い剣で軌道を逸らし、あるいは斬り裂いて行く。
不慣れな二刀流だけど、両方が剣ではなく剣と鞘にする事で役割や振り方を分ければ、俺でもなんとか扱えているという程度には動ける!
両方剣で、どちらでも同じ事ができる……というのは逆に選択肢を増やし過ぎて、扱いきれないのは森で一人、魔物を倒して回っていた時に十分学んだからね。
まぁ鞘だとしても選択肢が増えるのは間違いなくて、少しくらいは様になっているかな? という程度だとは思うけど。
「鞘を……そんな事もできたのねリクさん」
「まぁ見様見真似というか、森で多くの魔物を一人で対処するにはこれが一番楽だったからね。せやぁ!」
後ろから感心するような、呆れるようなモニカさんの声を聞きつつ、さらに迫るアルケニーの足を鞘で弾く。
ギィン! という耳障りな音と共に、先程から何度も感じた足の硬さを実感する。
叩き折るくらいはできるけど、それは魔力を通しているからで……多分、そこらの剣とかの金属よりも硬そうな手応えだなぁ。
「んっ! っ……こっちも硬い! でもっ!!」
「KISIIIIII……!!」
黒い糸を吐き出そうとしたアルケニーを、モニカさんが顔ごと燃やしたのを見て、そこに鞘を叩き付ける。
剣じゃなかったのは、外皮がどれだけ硬いかを確かめるためだけど……うん、多分そこらの土壁とか街の外壁とかよりも硬い手応えだ。
それでも、魔力を通した鞘はアルケニーの顔を潰し、体にめり込ませた。
「うわ、これでも動くんだ。あぁそうか、顔は人と違う器官なんだね……目も二つじゃないし」
ガシャガシャと数本の足をばたつかせつつも、俺へと襲い掛かろうとする顔を埋没させたアルケニー。
確かに、背中と見られる部分には顔と同じような眼が複数あり、それが俺を捉えているようだから、何も見えないという事はないんだろう。
顔が全面を補足する器官だとしたら、埋没させてしまった事で背中の目で正面の俺が見えるようになったってところかな。
人と違う器官、それっぽい鼻や口は付いているとしても、脳というかアルケニーにとって生存に重要な器官は顔にあるわけじゃないんだろう。
もしかしたら、体を斬り裂いた時に緑の液体が出るのはそちらに重要な器官、脳とか心臓とか、それに類する機関があるっていう証拠なのかもね。
足を斬り裂いても、顔を埋没させても気持ち悪い緑色の液体は出ていないから。
「KISYAAAAA!!」
「って、うぇ!? 足の関節どうなってるの!? このぉ!」
顔を埋没させたアルケニーは、大きな体を支えるために足を地面に降ろすような形なんだけど、その自らの形を無視するように、俺を横薙ぎにするために足を動かした。
蜘蛛の形だし、魔物でもあって、虫の関節がどうなっているか、そもそも骨とかあるのかは微妙なところだから……これまで斬り裂いても骨らしき物は体内になかったっぽいし。
それでも、その動きは人だったら地面に直立したまま体を大きく動かさず、足を体に対して真横、それも直角に上げて縦ではなく横に振るうようなものだ……上手く説明できている気がしないけど、なんとなく。
生き物の法則を無視したような動き、まぁ魔物だからなんでもありと言われればそれまでだけど、横から薙ぎ払うように迫る足の刃、というより鎌のようなそれを、鞘で上から叩き付けて勢いを殺しつつ折る!
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる