1,677 / 1,903
王都へ向けて出発
しおりを挟む「お世話になりました。また機会があれば」
「うむ。お世話になったのはこちらの方ではあるが……いずれまた会えるのを楽しみにしている。ヘルサルやセンテだけでなく、私が治める侯爵領はリク殿達を拒む事はないだろうからな。それに、復興があるため少し難しいかもしれんが……事を構える時はなるべく馳せ参じる所存だ。リク殿だけでなく女王陛下、ひいてはこの国のためにもな」
事を構える、というのは帝国との戦争が開始されたらの話だろう。
まぁもうほとんど避けられる事はなさそうで、時間の問題だろうけど。
ともかく、シュットラウルさんだけでなくセンテの危機を切り抜けた、侯爵軍の兵士さん達が来てくれるのは心強い。
俺やモニカさん達との訓練や演習、実際に多くの魔物と戦った経験が、帝国との戦いで生かされるだろうから。
「私は、ヴェンツェル様と共にか……それとも時期をずらすかはともかく、いずれ王都に戻りますので。また王都で、ですね」
「はい、王都で」
マルクスさんとも再開を約束し、簡単に挨拶を交わす。
「それじゃあ皆さん、お元気で! っと!」
手を振る二人……だけでなく、歓声と身振りなどで見送ってくれる街の人や兵士さん達に手を振り返し、モニカさん達が待つエルサの背中に飛び乗った。
「久々の王都ね。結構長くセンテに滞在していたけど……」
「そうだね。戻ったら色々とやらないといけない事もあるし、のんびりはできそうにないけど、待ってくれている人もいるし、王都に戻ろう。――エルサ、頼んだよ!」
「了解したのだわー! 行くのだわー!」
固定した荷物に寄りかかったりしている人なども多い中、一番先頭でエルサに声を届けやすい位置に座っているモニカさんに声を掛けられる。
頷きつつ答え、エルサに頼んで王都へ向かって出発だ。
ふわり、といつも以上に大荷物、大人数が乗っている重さを感じさせないような動きで、ゆっくりと浮上。
エルサを追うように、少しだけ助走をつけてワイバーン達がリーバーを先頭に飛び始める。
ちなみにリーバーは、なんとなく俺達以外を乗せるのに難色を示したため、兵士さんは乗っておらずフリーだ。
人が多いし、ずっと空を飛び続けているとワイバーンも疲れるだろうし、休憩なども取る予定だからその時に俺やモニカさんなり、誰かがリーバーに乗り換えてみるのもいいかもね。
なんて考えている間に、地上で見送るシュットラウルさん達がかなり小さく見えるくらいの高さまで浮上。
ワイバーンに初めて乗った兵士さん達が多く、そちらは落ちないように気を付けて余裕はなさそうだけど、エルサに乗っている人達は思い思いに地上に向かって叫んだり、手を振ったりしていた。
「それじゃ、移動開始なのだわー!」
エルサが言葉と共に数枚の翼をはためかせ、王都へ向かって移動を開始。
ワイバーン達は、エルサと違って高度を保つのに動き続けないと難しいのか、周囲をぐるぐるとしていたけど、エルサが移動を始めてすぐ後ろを付いてくるように移動し始めた。
リーバーが先頭になっていて、前方にいる俺から見ると扇状に広がっているような感じで、編隊を組んでいるような感じだね。
統率されているなぁ……ワイバーンは群れる事はあっても、ここまで統率されることは少ないらしいけど、リーバーがいる事や復元されて命令を聞かされていた事などから、そういった集団行動もできるようになっているのかもしれない。
「うぐぐ……私もワイバーンに乗りたい。乗って頬擦りしながら干し肉を食べるの……」
「ワイバーンに夢中になっても、干し肉への執着はそのままなのか。だが、諦めろミーム」
「そうよぉ。ミームにくっつかれてワイバーンも困っていたみたいだし、そんな状態で飛ばせるのは危ないわぁ。こっちなら広いし安定しているから、安全よぉ。それにしてもすごいわぁ……」
「これが、ドラゴンで空を飛ぶという事……飛んでいる所を見た事はあるし、ワイバーンが人を乗せて飛んでいるのも見たけど……それ自体が驚く事なのはともかく……」
王都への移動を開始してすぐ、リリーフラワーのメンバーの会話が聞こえて来た。
ミームさんは無理矢理ワイバーンから引き剥がされてエルサに乗せられたため、不満そう……というか羨ましそうにワイバーンに乗っている兵士さん達の方を見ている。
それを、ルギネさんが横から押さえつつ止めていた。
押さえないと、ワイバーンの方に飛びつきそうだからね……それは危険だし、そもそもエルサの結界ではばまれるだろうけど。
ちなみにアンリさんは、エルサに載せた木箱を背もたれ代わりにしていて安定した乗り方をしている。
グリンデさんは、地上を見下ろして何やら言っているようだけど……あまり覗き込むようにしていると、落ちてしまわないか少し心配だ。
まぁエルサの結界が受け止めてくれるから、地面まで落下して激突なんて事はないだろうけど、それでもトラウマくらいは植え付けられそうだ。
「カーリンさんは大丈夫ですか? 高い所に恐怖心を覚える人っているのもいるので……」
「はい、大丈夫です! こんな高い場所から、広く見渡す事なんてなかったので、すごく楽しいです!」
初めてエルサに乗るカーリンさんの様子を窺ったら、元気な返事が返って来た。
高所恐怖症とかではないようで少し安心。
むしろ、目を輝かせてキョロキョロとしつつ空から見える景色を楽しんでいるようだね。
飛んでいるエルサの周囲にはワイバーン以外何もなく、山すらも越えるので多分これ以上見晴らしのいい状況というのはないだろう。
山の頂上よりも高く、視界も開けているからね。
そんな初めて、というか他では経験できない事も楽しめるというのは、ある種の才能かもしれない。
俺も、初めてエルサに乗った時は楽しんでいたけど、それは俺が空を飛ぶ事に対する経験……は飛行機くらいだけど、この世界の人達よりある程度耐性みたいなのがあったからだし。
実際に見るのとは違っても、空の景色くらいなら日本にいれば映像とかでいくらでも見れたからね。
「カーリンさんは、高い場所への態勢があるみたいね。私達は、慣れるのに少しだけかかったけど……」
「今は、以前あったようなとんでもない速度で動かれなければ、平気にはなったがな。最初は、体が震えるのを我慢するのに注力していたくらいだ」
「え、モニカさんもソフィーもそうなの!? てっきり、最初から大丈夫だと思っていたんだけど……」
モニカさん達がエルサに乗っても、怖がっているような様子には見えなかったんだけど、どうやら表面に出さなかっただけで、内心では多少なりとも恐怖心があったみたいだ。
……まぁ、空を飛ぶなんて基本的に考えられなかった事みたいだから、それも仕方ないのかもしれないけど。
あとソフィーが言っているのは、以前エルサが魔力が充実して流れていく景色すらよくわからないくらいの速度で飛んだ時の事だろう。
あれは飛ぶのに慣れていても、怖い人は怖いだろうね……結界があるから安全だし、そこまで風は来ないけど、ジェットコースターに近い恐怖感といったところだろうか――。
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。
リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。
そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。
そして予告なしに転生。
ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。
そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、
赤い鳥を仲間にし、、、
冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!?
スキルが何でも料理に没頭します!
超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。
合成語多いかも
話の単位は「食」
3月18日 投稿(一食目、二食目)
3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる