上 下
1,669 / 1,903

ヤンさん達と別れて獅子亭へ

しおりを挟む


 何やら真剣な様子のヤンさんが、物理的な距離から直接的ではないにしろ、支援などを約束してくれる。
 犯罪者というか、犯罪行為を推奨するというか……とにかく、話しを聞く限り表に出せない悪事を働くためのギルドみたいだからね、裏ギルドって。
 冒険者ギルドとしては、口実もあるわけで俺達だけでなくアテトリア王国側に付いてくれるのは、心強い。

 もしかしなくても、冒険者さん達の参加意欲が高いのは自由意志だけでなく、冒険者ギルドが推奨する、後ろに付いていると感じているからじゃないだろうか?
 じゃないと、ギルド側から話を持って行くなんてありえないわけだし。

「それじゃ、意思確認した冒険者さん達の事。それからエレノールさんも、よろしくお願いします。明日には王都に行きますので、しばらくは会えませんが……」
「はい。こちらで何かあれば、王都の冒険者ギルドを通してリクさんに」
「畏まりました。あちらの件はお任せ下さい。順次、完成品ができましたらお送りいたします。あと、資金の引き出し報告なども滞りなく、契約通りに」
「はい、お願いします」

 色々と話して、色々と理解して話を終え、ヤンさんとエレノールさんに挨拶をしてモニカさんと一緒に退室する。
 最後に、エレノールさんにはエルサを撫でてもらって、極上のモフモフを堪能してもらうと共に、ぬいぐるみを作るための参考として覚えてもらったけど……昨日散々撫でまわしたから、今更な気がしなくもない。
 名残惜しそうに、本当に目端に涙を浮かべてエルサのモフモフから手を離したエレノールさんを見るに、単純にエルサのモフモフを堪能したかっただけっぽいかな。
 ともかく、冒険者ギルドでの話し合いなどやる事を終えて建物を出て、獅子亭へと向かう。

「結局、今日一日はのんびりするつもりだったのに、そうでもなくなっちゃったね。ごめんモニカさん。もう少し、モニカさんとセンテなりヘルサルなりで、色々と見て回ったりとかしたかったんだけど」

 獅子亭への道中、日の傾いた空を仰ぎ見ながら隣を歩くモニカさんに言った。
 ちなみに、アマリーラさんとリネルトさん、ソフィーとも合流して一緒だ……三人とも、クラン参加の意思確認の説明会に参加していて、何やら見て確かめた冒険者さん達の事について話し合っているけど。
 何やら、あれは見込みがあったとか、あちらは意気込みばかりが先走っているようだったなど、評価みたいな言葉が聞こえてくるけど、まぁ楽しそうなのでそのままにしておこう。

「ふふ、別にいいわよ。リクさんがそう考えてくれていたっていうのは嬉しいわ。確かに少し残念だけど……でも、こういうのもいいじゃない?」
「そう言ってくれると助かるよ。ありがとう」

 笑ってそう言うモニカさんに、心の中で感謝しておく。
 まぁ、口でもお礼を言ったけど――。


「ふむ、盛況なのはいい事だ」
「そうですね。ルギネさん達がいないので、人手が少なくなったのが厳しそうですけど……」

 適当にヘルサルをぶらぶらした後、獅子亭に到着……どうせ俺達の夕食は獅子亭の営業終了後だとわかっているからか、ユノ達はまだヘルサル回っているようで来ていない。
 夕食の時間少し前だったのもあって、忙しくなり始めていた獅子亭だけど、見ているのもなんだし美味しい物を食べさせてもらっているから手伝おうと思ったんだけど、俺は何故かヴェンツェルさんと一緒に奥の休憩室へと押し込められた。
 王都へ出発する前まで手伝わなくてもいいから、ヴェンツェルさんの相手をしていろという事だったけど……ヴェンツェルさんが面倒で俺に押し付けた、とかじゃないですよねマックスさん?
 というか、本当に毎日のように来ているんだなヴェンツェルさん。

 まぁ近くに美味しいのが確実なお店があり、しかも顔見知りどころか昔馴染みがやっている店なんだから、常連になるのも当然と言えば当然か。
 ヴェンツェルさん自身はマックスさんよりも、カーリンさんが目的っぽいけどね。

「そういえば、カーリンがいないようだったが……」
「もうルギネさん達と一緒に、センテに行ったみたいですね。さっきマリーさんから聞きました」
「むぅ、そうだったか。では、明日王都へリク殿達が出発する前に、見送りに行けばいいか」
「王都に戻ればまた会えるんですから、見送りは別に……というか、あまり過保護過ぎるとカーリンさんに呆れられますよ?」

 というか、過保護な部分は既に呆れられている気がするけど。
 そのカーリンさん、俺が冒険者ギルドで諸々の手続きをしたりしている間に、ルギネさん達とセンテに出発していたらしい。
 ヘルサルを出る直前まで、カーリンさんとリリフラワーのメンバーは律儀に獅子亭を手伝っていたらしいけど……それもあって、俺に手伝わなくていいと言ったのかもしれない。
 ……モニカさんはマリーさんに引っ張られて、手伝っているんだけど。

「しかし、カーリンたちがセンテに行ったのなら、リク殿がここにいていいのか? あちらでカーリンが困るような事はない方がいいのだが……」
「あぁ、それは大丈夫です。カーリンさん達にはシュットラウルさん……侯爵様が用意してくれた宿に泊まってもらえるよう手配していますから。どうせヘルサルに用があったから、タイミングが合えば俺達がセンテに戻る際に一緒にとは思いましたけど、入れ違いみたいでした」
「そうか。手配しているのなら大丈夫そうだな」

 納得して頷くヴェンツェルさん。
 一瞬、「カーリンが困るような事は――」の部分で視線が鋭くなったけど……本当に過保護だなぁ。
 それだけ、姪っ子のカーリンさんを可愛がっているという事でもあるんだろうけど。
 ちなみに、俺と入れ違いなる事も考慮して、センテではカーリンさんやルギネさん達を迎える準備はしてある。

 とはいっても、明日の出発まで一泊するくらいだけどね。
 当然ワイバーンを使うわけでもなし、徒歩もしくは乗合馬車で行くのでセンテ西門の衛兵さんには、カーリンさん……というかルギネさん達が来たら、宿に向かうよう伝言を頼んである。
 カーリンさんはともかく、ルギネさん達はセンテの戦闘に参加しているし、ヘルサルやセンテの周辺で活動していた冒険者でもあるため、衛兵さんが間違う事もない。
 念のため、信号機……では伝わらないけど、カラフルな髪色をした冒険者パーティなど、特徴を伝えておいた。

 それは宿の人達にもそうだし、任せておけば俺達がいなくてもちゃんと歓待してくれるだろうから安心だ。
 ……あちらはプロだし、シュットラウルさんの使用人さんもいるからね。

「まぁ、カーリンに会えないのは残念だが……リク殿にも伝える事があったからな。ちょうどいい」
「俺にですか?」

 俺に伝える事とはなんだろう? と思いつつも、ここなら他の人に聞かれる可能性も低いという意味でも、ヴェンツェルさんがちょうどいいと言っている気がした。
 ……カーリンさんだけでなく、俺に話をするのも目的だったのか――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

処理中です...