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過保護なヴェンツェルさんも安心護衛
しおりを挟む言葉を濁し、少しだけピリッとした雰囲気を醸し出すヴェンツェルさんを見て、俺は結構迂闊に話していたなぁとこれまでを思い返して反省。
ある程度信頼できる人にしか、詳しい話とかはしていないはずだけど……どこで誰が、それこそ帝国からの間者が紛れているかわからないんだし、気を付けよう。
クラウリアさんのように、帝国の組織関係の人とかがいる可能性だってあるわけだから。
「では、カーリンが王都に行くのは確定として……そうだな、護衛として私の部下を十人ほど付けるか。王都までは遠い、途中で魔物と遭遇する可能性もあるし、何が起こるかわからんからな」
「過保護ですね……」
おっと、つい口を衝いて出てしまった……さっきまでは心の中で考えるだけで済ませていたのに。
まぁ、俺以外の人達、モニカさんやルギネさん達、マックスさん達も溜め息を吐いてもおかしくない、呆れ混じりの表情だったけど。
「その必要はありません、伯父様。ヘルサルに来た時は冒険者に同行を頼みましたし、今回も同じく冒険者の方に頼んでありますので」
「冒険者か……その者達の腕は確かなのか? なんなら、本当に護衛依頼ができるのかどうか、私が試しても良いぞ? もしくは、部下と立ち会わせてみるか……」
さすがに、ヴェンツェルさん本人や部下の王軍兵士さん達とっていうのはやりすぎだと思うし、清々しい程の職権濫用と言えるかもしれない。
確かにヘルサルから王都への移動は、一週間以上の行程だから心配になる気持ちもわかるんだけど……。
姉さんの代になってから、一部を除いて少なくなったらしい野盗がいないとも限らないし、魔物とだって遭遇する危険がある。
街道沿いは魔物が少ないとは言っても、絶対じゃないからな。
アメリさんとか、ちょっと特殊な例だけどあんな風に飲み水などの補給のため、魔物がいるような場所に行く必要だってあるかもしれないし。
でもだからってねぇ……それに、護衛という意味だとちゃんとした人達がいるし。
「これは、実力者だと有名なヴェンツェル様と、手合わせできるチャンス……と思えばいいのか?」
「うーん、そうだと言えるけど、そうとも言えないわねぇ、ルギネ。多分、カーリンちゃんが言っている護衛っていうのは私たちの事だと思うけど、腕を確かめる必要のない人がいるでしょ?」
「確かにそうだ。それに、もしそちらを確かめると言えば、黙っていないのもいそうだからな……むぅ、近くに女性が多い」
「英雄色を好むって言うじゃない? どこぞの誰かと違って、手あたり次第ってわけじゃないようだから、マシと思わなきゃ」
「む?」
何やら、小声で話しているルギネさんとアンリさん。
カーリンさんが言った護衛、というのはヘルサルからセンテに行く際に同行するルギネさん達の事だろう、というのはわかるけど……英雄色を好むって誰の事だろう?
何故か、ルギネさん達の言葉と視線を受けて、人の顔程の大きさもある肉……もはや肉塊と呼ぶに相応しい物にかぶりついているアマリーラさんが、不思議そうにしていたけど。
「だからその必要はありませんって、言っているじゃないですか、伯父様。護衛というか、同行するのはこちらにいるルギネさん達ですし……」
手と言葉でルギネさん達を示すカーリンさん達に対し、ヴェンツェルさんから注目されて少しだけ体が硬くなるリリーフラワーのメンバー……マイペースにお肉をかじっているミームさん以外。
ヴェンツェルさんの事は、何度も獅子亭に来ているしカーリンさんもいるし、将軍というのを知っているからだろう、国の偉い人に注目されたら誰だって緊張するよね。
俺も最初は緊張したし……今では、マックスさん同様お世話になっていると同時に友人というか、気のいいおじさんって感じだ。
……マックスさんと筋肉談義をしている姿を見れば、緊張もあまりしなくなる。
「ほぉ、成る程。そういえば、何度か見かけたな……それにある程度報告も聞いているし、ここにいるといるという事は、マックスやマリーからの教えも受けていると見た。いや、マリーが放っておかないのは知っているからな」
獅子亭で働いていたはずなのに、ルギネさん達のヴェンツェルさんからの印象はあまりないらしい。
多分、この獅子亭に来るイコールカーリンさんの様子を見に来る、という目的があったからだろう。
あと古い友人のマックスさんやマリーさんと会ったり、美味しい料理を食べるのもか。
まぁ、マリーさんが放っておかないというのは確かで、さすが昔からの友人だと思うけど、実はそれに加えて元ギルドマスターさんも加わっていたけども。
「それだけじゃなく、私はリク様に同行するルギネさん達と一緒に、王都に行くんです。だから、伯父様が心配する必要は一切ありませんから」
「ほぉほぉ、成る程な! リク殿とも一緒なのか、それなら私が試す必要もないのは間違いないな、リク殿よろしく頼む。できれば、カーリンによこしまな考えを持つ虫が近付いた時も……」
「えーと……はい、でいいのかな?」
「ちょっと伯父様!? リク様になんて事を頼んでいるのよ!」
「ぐお!?」
「ヴェンツェルも、姪には形無しだな……」
「あなたがそれを言うの? モニカに対するあなたと、大きく変わらないわよ」
「そうね、父さんもよくあんな感じになるわね……」
安心したのも束の間、カーリンさんのお父さんかという突っ込みをしたくなるような事を頼まれて、苦笑しつつ首を傾げる俺を見てか、カーリンさんがヴェンツェルさんに掴みかかった。
それを見て、マックスさんやマリーさん、それにモニカさんも苦笑しながら談笑しているようだ。
けどあの……カーリンさん、ヴェンツェルさんの首を思いっきり両手で絞めているんだけども……?
ヴェンツェルさんが苦しんで……あれ、全然苦しそうじゃない。
「ふっふっふ、私はカーリンにやられる程やわな鍛え方をしていないぞ。これくらい、可愛いものだ。……ただ、いきなりはちょっと驚いたのだが」
「伯父様が変な事をリク様に言うからでしょ! もう!」
結構本気で首を絞めていたと思うけど……カーリンさんの細腕ではヴェンツェルさんはビクともしないらしい。
最初にヴェンツェルさんが声を上げたのは、苦しいからじゃなく驚いたからか。
というか、首って鍛えられるものなんだろうか……? いや、実際にヴェンツェルさんが平気そうだから、できるんだろうけど。
「ん……やはり美味い物は、いくらでも入るな。……ふっ」
「ぬ!? なんだと……カ、カーリン、手を、手を離せ! それどころではなくなった!」
そんな騒ぎの中、黙々と料理を食べ続けていたアマリーラさんが、積み上げられていた料理を全て平らげ、ヴェンツェルさんの方を見て笑った。
勝ち誇ったような笑みだった。
それを受けて焦ったヴェンツェルさんが、カーリンさんを急いで引き剥がし、再び料理をがっつき始める……アマリーラさんの方は食べ終わっているから、もう遅いと思うんだけど。
あ、アマリーラさんおかわりするんですね。
早食い勝負ではなく、どれだけ食べられるかの大食い勝負だったかぁ……。
二人共、見ているだけでお腹がいっぱいになりそうな食べっぷりだ。
お腹壊さなきゃいいけど――。
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