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緊急事態の発生

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「そうね……とりあえず、探ってみるわ。大分経っているし、リクのやったあれの事を異変と感じている木々も減ったでしょうから」

 俺がやったあれ、というのはレムレースとの戦いなどで荒野ができたり、森の木々を斬り倒した事だろう。
 カイツさんも、森の木々はあれが異変だと捉えてたから、魔物や冒険者さんの情報がわかりづらいって言っていたっけ。
 ……荒野はレムレースのせいなんだだから、俺がやったと一緒くたにされるのはちょっととは思うけど。
 それはともかく、フィリーナが言いたいのはもう夜になったし、少しずつ森の木々から得られる情報も整理されたとか、そういう事なんだろうと思う。

「ははは、そうかもね。うん、お願いするよ」

 直接探しに行くより、まずはフィリーナに探ってもらった方が手っ取り早いからね。
 それで、何かあるようだったら、助けに行けばいいわけだし。

「え? え?」
「木に手を……?」
「エルフさんだから、私達の知らない何かをしているんでしょうけど……さっきもそうだったし。でも一体?」
「あぁ、気にしないで下さい……と言っても、気になりますよね。えっと、フィリーナはエルフだからこそ……」

 俺に頷いて、早速広場の端まで駆けて行き、木に手を当てて情報を探り始めるフィリーナ。
 それを見た女性冒険者さん達が、それぞれ不思議そうにフィリーナを見ていたため、簡単に説明する。
 エルフだから、木々から直接……ただしはっきりではなくぼんやりとだけど、周囲の状況を探れる、と説明しておいた。
 本当は、距離が離れ過ぎていない木々が続く限り、つまり森の中全体をある程度探れたりするらしいけど、まぁ今は詳細を話す程の事じゃないからね。

 ちなみに、情報を探るエルフがいる場所から離れれば離れるほど、ぼんやりとした情報というのはさらにわかりづらくなるらしい。
 とはいえ今回はそんなに距離が離れていないだろうから、問題にはならないはずだ。
 なんて考えているうちに、情報を得られたのか俺や女性冒険者さん達が見守る中、フィリーナが手を離してこちらを振り返った。
 ……でもなんだか、焦っているような?

「大変よリク! 二人の人間……おそらく、ここにいない二人でしょうけど。その二人が魔物に襲われているわ!」
「え!?」

 なんだって!? 戻って来るのが遅いと思っていたら、魔物と遭遇していたのか!

「魔物!? ふ、二人は無事なんですか!?」
「おそらく、としか言えないわ。さすがにそこまではわからないけど、人間がいるという感覚を木々が持っているから、生きてはいるはずよ」

 女性冒険者のうち一人、おそらくリーダーの人が驚いて立ち上がりながら、広場の端、木の近くにいるフィリーナに大きな声で聞く。
 こちらに戻って来ながらの、フィリーナからの言葉。
 多分、もし魔物にやられて死んでいたら木々というか自然は、人間ではなく物として認識するとかなのかもしれない。

「その二人、武器とかは……」
「持って行っています! 森の中では、常に何があるかわからないと警戒していますから!」

 さすがに、森の中に入るのに武器を持って行っていないって事はないか。
 冒険者だし、大きな怪我もなくここまで来れる人達だから、もちろん襲われても戦えるだろうし、少しだけ安心だ。

「でも急がないと。戦っている、ではなくて襲われているようなの!」
「襲われている……という事は一方的に!?」
「おそらくそうよ。さすがに細かい事はわからないけど……戦っているという状況ではないようなの」
「それは……」

 武器を持って行っているのに、戦っていないというのはどういう事なんだどう?
 襲われているという言葉からは、一方的にやられている様子が思い浮かぶ。
 ……仲間のいるこちらに向かって逃げてきている、とかだったらいいんだけど。

「得た情報では、魔物が十いるかどうかと言ったところよ。人間は複数の少数だから、おそらく状況から考えてここにいた冒険者だろうから二人ね。ただ、その二人はほとんど動いていないようなの。移動していれば、わかるんだけどそれもないみたいよ」
「移動もしていない、ただ襲われている……」
「魔物が十体も!?」
「囲まれてしまえば、あの二人でも……!」

 移動をしていないという事は、逃げいているわけではないという事。
 それで戦っていないのなら、本当にただ襲われるだけ……一刻も争う状況かもしれない。
 さっきまで、いずれ戻って来るだろうと高をくくって、悠長に焚き火を眺めていた自分を責めたいが、そんなことをしている場合じゃない。

「とにかく、助けに行かないと! その二人と魔物はどこに!?」
「ここからだと、あっちへ真っ直ぐ行けば辿り着けるわ。距離はそこまで離れていないはずよ。大きな声を出せば、届くくらいの距離!」

 フィリーナが森の南側を指し示す。
 大きな声が届くくらい、という事は本当にそこまで離れていないんだろう……夜だから、少し声は通りやすいかもしれないけど。
 それなら、何故襲われている二人からの助けを求める声が聞こえないんだろうか? 大きな声で悲鳴でも上げれば、こちらに届くだろうに……。

「俺と……もう一人、付いてきてください! 他の二人とフィリーナはここで! リーバーが戻ってきたら、俺が戻るまで待機を!」

 リーバーが戻って来た時、誰もいなかったら困ってしまうだろうし、全員で森に入るのは危険が伴うため少数で行く事にする。
 フィリーナがいてくれれば、森では大体の事に対処できるだろうし。

「わかったわ! やり過ぎないようにね、リク!」
「わ、わ、私が行きます!」
「勢い余ってちょっと強めに行くかもしれないけど、わかったよ……!」

 頷いて念のための警戒態勢を取るフィリーナと、女性冒険者さん達の中からリーダーさんが進み出てくれる。
 いきなりの事で、多少戸惑ってはいるようだけどこういう時決断するのが早いのは助かる。
 いや、助けるのはこちらで今からなんだけどね。
 あと、状況に応じて動く必要があるから、やり過ぎないかどうかは保証できない……人命を助けるためなら、全力で魔物を倒さないといけないかもしれないから。

 とはいえ魔法を使う時よりひどいことにはならないだろうし、今後のためにもできるだけ加減はするよう気を付けながら、フィリーナに返事をした。
 やり過ぎると、明日以降にフィリーナとカイツさんが木々から情報を得る時に、困るかもしれないからね。

「それと、これはおまけよ! ライティング!!」
「っ! ありがとうフィリーナ、助かるよ!――行きましょう! 走りますので付いてきて下さいっ!」
「は、はいっ!!」

 フィリーナが明りの魔法で行き先を照らしてくれたのにお礼を言って、リーダーさんを連れて剣を抜きながら駆け出す!
 もちろん光を遮ったら暗くて何も見えなくなるので、懐中電灯のように照らされている光の横を沿うようにだけど。
 ともあれ、魔物に襲われていると思われる女性冒険者さんが、まだ無事で間に合うように心の中で祈りながら森の中へと入った――。


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