1,635 / 1,903
緊急事態の発生
しおりを挟む「そうね……とりあえず、探ってみるわ。大分経っているし、リクのやったあれの事を異変と感じている木々も減ったでしょうから」
俺がやったあれ、というのはレムレースとの戦いなどで荒野ができたり、森の木々を斬り倒した事だろう。
カイツさんも、森の木々はあれが異変だと捉えてたから、魔物や冒険者さんの情報がわかりづらいって言っていたっけ。
……荒野はレムレースのせいなんだだから、俺がやったと一緒くたにされるのはちょっととは思うけど。
それはともかく、フィリーナが言いたいのはもう夜になったし、少しずつ森の木々から得られる情報も整理されたとか、そういう事なんだろうと思う。
「ははは、そうかもね。うん、お願いするよ」
直接探しに行くより、まずはフィリーナに探ってもらった方が手っ取り早いからね。
それで、何かあるようだったら、助けに行けばいいわけだし。
「え? え?」
「木に手を……?」
「エルフさんだから、私達の知らない何かをしているんでしょうけど……さっきもそうだったし。でも一体?」
「あぁ、気にしないで下さい……と言っても、気になりますよね。えっと、フィリーナはエルフだからこそ……」
俺に頷いて、早速広場の端まで駆けて行き、木に手を当てて情報を探り始めるフィリーナ。
それを見た女性冒険者さん達が、それぞれ不思議そうにフィリーナを見ていたため、簡単に説明する。
エルフだから、木々から直接……ただしはっきりではなくぼんやりとだけど、周囲の状況を探れる、と説明しておいた。
本当は、距離が離れ過ぎていない木々が続く限り、つまり森の中全体をある程度探れたりするらしいけど、まぁ今は詳細を話す程の事じゃないからね。
ちなみに、情報を探るエルフがいる場所から離れれば離れるほど、ぼんやりとした情報というのはさらにわかりづらくなるらしい。
とはいえ今回はそんなに距離が離れていないだろうから、問題にはならないはずだ。
なんて考えているうちに、情報を得られたのか俺や女性冒険者さん達が見守る中、フィリーナが手を離してこちらを振り返った。
……でもなんだか、焦っているような?
「大変よリク! 二人の人間……おそらく、ここにいない二人でしょうけど。その二人が魔物に襲われているわ!」
「え!?」
なんだって!? 戻って来るのが遅いと思っていたら、魔物と遭遇していたのか!
「魔物!? ふ、二人は無事なんですか!?」
「おそらく、としか言えないわ。さすがにそこまではわからないけど、人間がいるという感覚を木々が持っているから、生きてはいるはずよ」
女性冒険者のうち一人、おそらくリーダーの人が驚いて立ち上がりながら、広場の端、木の近くにいるフィリーナに大きな声で聞く。
こちらに戻って来ながらの、フィリーナからの言葉。
多分、もし魔物にやられて死んでいたら木々というか自然は、人間ではなく物として認識するとかなのかもしれない。
「その二人、武器とかは……」
「持って行っています! 森の中では、常に何があるかわからないと警戒していますから!」
さすがに、森の中に入るのに武器を持って行っていないって事はないか。
冒険者だし、大きな怪我もなくここまで来れる人達だから、もちろん襲われても戦えるだろうし、少しだけ安心だ。
「でも急がないと。戦っている、ではなくて襲われているようなの!」
「襲われている……という事は一方的に!?」
「おそらくそうよ。さすがに細かい事はわからないけど……戦っているという状況ではないようなの」
「それは……」
武器を持って行っているのに、戦っていないというのはどういう事なんだどう?
襲われているという言葉からは、一方的にやられている様子が思い浮かぶ。
……仲間のいるこちらに向かって逃げてきている、とかだったらいいんだけど。
「得た情報では、魔物が十いるかどうかと言ったところよ。人間は複数の少数だから、おそらく状況から考えてここにいた冒険者だろうから二人ね。ただ、その二人はほとんど動いていないようなの。移動していれば、わかるんだけどそれもないみたいよ」
「移動もしていない、ただ襲われている……」
「魔物が十体も!?」
「囲まれてしまえば、あの二人でも……!」
移動をしていないという事は、逃げいているわけではないという事。
それで戦っていないのなら、本当にただ襲われるだけ……一刻も争う状況かもしれない。
さっきまで、いずれ戻って来るだろうと高をくくって、悠長に焚き火を眺めていた自分を責めたいが、そんなことをしている場合じゃない。
「とにかく、助けに行かないと! その二人と魔物はどこに!?」
「ここからだと、あっちへ真っ直ぐ行けば辿り着けるわ。距離はそこまで離れていないはずよ。大きな声を出せば、届くくらいの距離!」
フィリーナが森の南側を指し示す。
大きな声が届くくらい、という事は本当にそこまで離れていないんだろう……夜だから、少し声は通りやすいかもしれないけど。
それなら、何故襲われている二人からの助けを求める声が聞こえないんだろうか? 大きな声で悲鳴でも上げれば、こちらに届くだろうに……。
「俺と……もう一人、付いてきてください! 他の二人とフィリーナはここで! リーバーが戻ってきたら、俺が戻るまで待機を!」
リーバーが戻って来た時、誰もいなかったら困ってしまうだろうし、全員で森に入るのは危険が伴うため少数で行く事にする。
フィリーナがいてくれれば、森では大体の事に対処できるだろうし。
「わかったわ! やり過ぎないようにね、リク!」
「わ、わ、私が行きます!」
「勢い余ってちょっと強めに行くかもしれないけど、わかったよ……!」
頷いて念のための警戒態勢を取るフィリーナと、女性冒険者さん達の中からリーダーさんが進み出てくれる。
いきなりの事で、多少戸惑ってはいるようだけどこういう時決断するのが早いのは助かる。
いや、助けるのはこちらで今からなんだけどね。
あと、状況に応じて動く必要があるから、やり過ぎないかどうかは保証できない……人命を助けるためなら、全力で魔物を倒さないといけないかもしれないから。
とはいえ魔法を使う時よりひどいことにはならないだろうし、今後のためにもできるだけ加減はするよう気を付けながら、フィリーナに返事をした。
やり過ぎると、明日以降にフィリーナとカイツさんが木々から情報を得る時に、困るかもしれないからね。
「それと、これはおまけよ! ライティング!!」
「っ! ありがとうフィリーナ、助かるよ!――行きましょう! 走りますので付いてきて下さいっ!」
「は、はいっ!!」
フィリーナが明りの魔法で行き先を照らしてくれたのにお礼を言って、リーダーさんを連れて剣を抜きながら駆け出す!
もちろん光を遮ったら暗くて何も見えなくなるので、懐中電灯のように照らされている光の横を沿うようにだけど。
ともあれ、魔物に襲われていると思われる女性冒険者さんが、まだ無事で間に合うように心の中で祈りながら森の中へと入った――。
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる