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森に入り魔物の探索

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 カイツさんに答えながら、昨日レムレースと戦った場所の事を思い出す。
 大体の位置は把握できているけど、さすがにここからどの方向へどれくらい行った場所、というのはわからない……まぁとりあえず北東方面で間違いはない。
 昨日は森の中を、ある程度の感覚頼りに移動しただけでどこへ行こう、という目的地とかもなかったからね。

 ある程度凍った地面との境目を見てから、ヘルサルに向かって横断するようにって考えていただけだし。
 結局、レムレースの事があって横断はできなかったんだけど。

「そうですか……」
「どうしたんですか?」

 俺の答えを聞いてもなお、難しい表情のままのカイツさん。
 それを見て、モニカさんが声をかけた。

「いえ、森の木々からは、ここから北東の場所での異変を知らせるような感覚ばかり持っているようでして。他の情報がないわけではありませんけど……昨日のリク様の話からすると、そうなるのも当然とは言えますが」
「リクさんの話だと、レムレースと戦った場所って……」
「結構な範囲で荒野になっちゃったね。まぁあれくらいの事をしたら、森全体で異変と捉えられてもしかたないかぁ」

 リーバーに乗って、空から見る限りだと残っている森の十分の一くらいだろうか。
 まだまだ森そのものは残っているとしても、それだけの範囲が荒野になれば、異変と言って差支えがないだろう。
 となると、俺が異変を起こした張本人って事に……いや、あれはレムレースのせいであって、断じて俺がやったことではないはずだ。
 俺も、割と木を斬り倒してはいたけど。

 というかカイツさん、昨日皆に話した事を聞いていたんだ……フィリーナにこき使われて、疲れでほとんど寝ていたみたいだったのに。
 今朝、フィリーナから聞いたのかもしれないけど。

「少々わかりづらいですが、仕方ありません。森の認識としては異変であっても、そういうものだと考えてもう一度木に聞いてみる事にします」

 そう言って、再び集中するカイツさん。
 カイツさんは聞いてみる、と言ったけど実際に言葉を交わしたりはしていない。
 多分だけど、森の木々と感覚を共有するとかで、ぼんやりと内部の様子を探る……とかそういった事だろう。
 以前、フィリーナやアルネが同じ事をして魔物を探ってもらった時も、はっきりとした事はわからず、なんとなくそこいにいるかも程度だって言っていたし。

「……ここから北西に少し行った場所に、複数の魔物がいるようですね。まだ、冒険者達は来ていないようです。西からの入り口付近から、入って来ている事は間違いないようですが」
「まぁ、まだ出発したばかりってくらいですからね。どんな魔物かはわかりますか?」
「そこまでは……あまり大きくない魔物、という程度でしょうか。平常であれば、数位はわかるでしょうが……」

 ぼんやりとだろうな、と俺が予想した事を証明するようなカイツさんの言葉。
 俺とレムレースが戦った痕跡が、邪魔をしているようではあるけども。

「リクさんとレムレースが戦ったから、そちらに意識が向いているってところかしら?」
「えぇ。おそらくフィリーナも同じく、探るのは難しくなっているでしょう。こちらよりも、現場が離れているのでマシかもしれませんが」
「あはは……」

 とりあえず苦笑して、カイツさんが調べた魔物がいるらしき場所へと向かう事にする。
 東端から森に入るフィリーナは、単純にレムレースが荒野にした場所から物理的に距離が離れているため、カイツさんよりは探りやすいのは、ちょっとだけ安心した。
 探りづらければ、実際に行けばいいだけとか、アマリーラさんが突撃しそうだからね。

 ……一応、ベテランの傭兵でもあるから、その辺りは慎重に行動するのかもしれないけど、リネルトさんもいるし。
 けど、普段の……いや、ここ最近のアマリーラさんを見ていると、細かい事を気にせず突き進みそうだから。

「それにしても、以前はこうじゃなかったのに……本当に歩きづらくなっているのね」
「そうだね。まぁ、原因はなんとなくわかっているけど。っと、ふっ!」

 森に入り、魔物がいるらしい場所へと向かう道すがら、呟くモニカさんに答えつつ木を斬り倒す。
 剣魔空斬だと、数本まとめて斬ってしまうので直接だ。
 これは、昨日と同じく回収班の兵士さん達が俺達を終えるようにするための目印で、アマリーラさん達の方もわかりやすい目印を付けることになっている。
 あちらは、木を斬り倒すなんて事まではしていないだろうけど。

「ここまで木々が密集していると、いずれ森その物が枯れてしまいかねないので、リク様のやっている事は正しくもある、とは思うのですが……そこまで無造作に斬り倒すのを見ると、エルフとしては少々抵抗感がありますね」

 眉根を寄せて、斬り倒された木を見ているカイツさん。
 最近は森の外に家を作って住み始めているとはいえ、ツリーハウスみたいなのもあって森の中で住んでいたし、今も住んでいるエルフにとっては、簡単に木が伐採されるのは思うところがあるみたいだ。
 ただ間伐よりでの意味もあるのは、カイツさんも理解しているようなので、怒っているわけでもないのは助かった。
 ……自分を正当化するために、適当に考えた事だけど、やっぱり間伐しておかないと木々の保存も難しくなるよね。

 土の栄養的に。
 あんまり、そちらは詳しくないからなんとなくだけど。

「無造作って程でもないと思いますけど……」

 ちゃんと、というのが正しいのかはわからないけど、剣を抜いて木に向き合って斬っているわけだから、無造作にやっているわけじゃない。
 昨日より剣が大きくなったから、他の木も斬ってしまわないよう注意するためで、気合を入れて木を斬ろうとしているわけでないんだけども。

「そもそも、一振りで木が斬り倒せるのがね。次善の一手でも、何度か振らないと無理よ? それに、剣よりも木の幹の方が太いのに……だから、無造作に見えても仕方ないわ」

 なんて、モニカさんにもため息混じりに言われてしまった。
 確かに剣が昨日とは違うと言っても、木の幹は人が手を回すのも難しいくらい太く、剣身の方が小さい。
 それなのに、一度振っただけで綺麗な断面を残して斬り倒せるのは、確かに異常に見えるのかも……?

「その剣で、というのもおかしいのよね……」
「言われてみれば確かに」

 ジト目になってモニカさんが見る先は、俺の持っている抜き身の剣。
 エレノールさんに渡された物だけど、丈夫さのために鋭さを犠牲にしていて、ほぼ刃がないと言える物だ。
 剣の形をしたそれは、鈍器のようでもはや鉄の塊とも言えるけど……そのままだと、叩き割るとか砕くのはできても斬る、という事はできそうにない。
 なのに、簡単に木を斬り倒せているのは、使っている魔力が原因なんだろうね。

「人一人分どころか、エルフ一人分くらいは、簡単に魔力を流しているように感じます。可視化まではされていませんが……濃い魔力があるのは間違いなさそうですね」

 なんて、カイツさんにも呆れ気味に言われてしまった――。

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