1,605 / 1,903
森への出発直前
しおりを挟む「もしもの時、逃げる事も敵わないであれば空に向かって叫べば助けてくれる事になっています。センテで戦った冒険者はある程度馴染みがあるはずです。ヘルサルにいた者達は馴染みはないかもしれませんが、離脱する際には……」
等々、ヤンさんの話でワイバーンに関して説明される。
魔物を倒した後は冒険者さんが戻りたいのであれば、ワイバーンに乗って離脱する事にもなっていて、その際リーバーは俺達への伝令係になって、場合によっては俺も駆けつける予定だったりもする。
ただそこまでの事は、冒険者さん達を安心させ過ぎて油断してはいけないためらしく、話さない事になっているけど。
安全はできるだけ確保しつつ、冒険者さん達には危機感も持って欲しいという計らいだとか。
……至れり尽くせりだと、油断しないようにしていてもどうしても気が抜けてしまうのが、人ってものだかららしい。
俺も自分の力を過信して色々と油断する事があるから、わからないでもない。
そのせいで昨日はレムレースとの戦いは大変だったからなぁ……白い剣を持っていないばかりに。
「では各自、今私の言った事を忘れることなく、準備ができた者から森へと出発して下さい。準備の中には、依頼受諾登録も忘れずに」
「こちらで、依頼受諾登録を受け付けています! 森に行く冒険者の方は、こちらに記名をしてから出発して下さーい!!」
ヤンさんの話が終わり、冒険者さんが各自で装備の確認などの準備を始める。
それと同時に、簡素な机を設置して冒険者ギルドの職員さん数名が声を張り上げ、簡易的な登録の受付を開始した。
出張版冒険者ギルドってところかな。
まぁ同じ街に支部があるけど……ここに集まっている冒険者さん達全員を、一度にヘルサルの支部には入らないからって事なんだろう。
「リク様、頼まれていた剣をお持ちしました」
「ありがとうございます、エレノールさん」
皆の様子を見ていると、エレノールさん来て頼んでいた剣を持ってきたので受け取る。
昨日のショートソード日本とは違い、今日は少し大きめの剣だ……俺が丈夫な物をって頼んだからだろう。
受け取った剣を鞘から抜いて、剣身も確かめてみる。
「リク様、その剣は中途半端なものに見えますが……」
「これでいいんです。丈夫な物、というのが一番の条件ですから。切れ味とかは二の次です」
「そうなのですか……」
抜いた剣を見て、アマリーラさんが訝し気になる。
剣はロングソードというのは少し短く、バスタードソードよりも少し長め、刃はあまり鋭く感じないけど剣身そのものは少し厚めだ。
実戦用というよりは、訓練用に近い気がする……アマリーラさんが中途半端というのもわからなくもないかな。
剣身が厚めだからだろう、重さもロングソードなどの両手剣より少し重めだから、鋭い振りは難しい。
さらに押し切る用と考えても、刃の鋭さが足りない。
もし実戦で使うなら鈍器としての方が使えそうな気がするけど、剣の形になっているため結局不向き……うん、中途半端だ。
「丈夫な、という事でしたら私のこの剣をお使いに」
そう言って、抜き身のまま背負っていた大剣を差し出すアマリーラさん。
その剣は、小柄のアマリーラさんよりも大きく、巨大だ。
この剣を軽々と振り回すんだから、人は見かけによらない……獣人ってのはあるんだろうけど。
あと、大食いなのは驚いたけどもしかしたら食べた物のエネルギーは、全てその膂力に使われているのかもね。
ちなみにだけど、ヒュドラー戦の時にロジーナが拾って使ったアマリーラさんの大剣とはまた別の物らしい。
あれは、ロジーナと一緒に意識を乗っ取られた俺に巻き込まれて回収が不可能になっていたから……というか、多分形すら残っていないっぽい。
もし残っていたとしても、凍った地面の中だろう。
その事についてアマリーラさんとも話したけど、なんでもコレクターという程ではないけど、大剣はいくつか持っているらしく、気にしないとの事だった。
今持っているのは、そのうちの一つらしい。
確かに丈夫そうではあるけど……。
「いえ、それはアマリーラさんが。昨日森に入って思ったんですけど、そこまで大きな剣だと取り回しが難しいですから」
「そうですか……リク様に使われるなら、この剣も喜ぶと思ったのですが……」
剣に意思があるかどうかはともかく、今は雑な扱いしかできない俺が使っても、刃こぼれしそうだしむしろ喜ぶどころか悲しむと思う。
それに、巨大な剣をあの木々が密集した場所で振り回したら、色々と危ない気がするからね。
木を斬り倒したり、近くにいる人を巻き込んだりとか。
「というか、アマリーラさんもその剣は森の中で使うのは難しいと思うんですけど……」
「問題ありません。そんじょそこらの魔物であれば、剣など使わなくてもリク様のお手を煩わせる事などありませんから。それに、森での戦いは慣れています。ものは使いようなのですよ」
人の身長を優に超える大剣でも、密集した森の中で扱う事はできるってわけか。
自信がありそうなアマリーラさんを見れば、俺が気にする必要はあまりなさそうに思えた。
獣人だし、Aランク相当の実力だから、俺がしなくても大丈夫か。
「アマリーラさん、手を煩わせないと言っても私達はリク様とは別行動ですよぉ?」
「何!? そ、そんな馬鹿な!」
「も~、聞いていなかったんですか? 私とアマリーラさんは、リク様達とは別の場所を見て回るって言われたじゃないですかぁ」
「な、なんだ……と……リク様に、私の勇姿を見て頂けると考えていたのに……」
リネルトさんの指摘に、ガクッと膝をつき項垂れるアマリーラさん。
ヘルサルに来る前、付いて来る事が決まった時に話したんだけどなぁ……確かあの時アマリーラさんは、俺と行動ができると感極まっていたようだから、話に集中できていなかったのかもしれない。
その代わりに、ちゃんと話を聞いていて指摘してくれるリネルトさん。
戦闘とかの実力的には、アマリーラさんの方が上らしいけど、初対面のイメージや雰囲気と違ってリネルトさんは頼りになるなぁ。
これ以上、アマリーラさんを落ち込ませるといけないので、口には出さないけど。
戦いになると、アマリーラさんも頼りになる人なんだけどね……主に、大量の敵を蹴散らす役目とか。
「私が、アマリーラさんとリネルトさんと一緒ね。よろしくお願いするわ」
「はい~、よろしくお願いしますね~。獣人は、特にアマリーラさんは私よりも森での活動に向いていますが、エルフの方がいてくれると心強いですぅ」
「……フィリーナ殿、リク様と後退する事はできないだろうか?」
「往生際が悪いですよアマリーラさん~。もう決まった事ですからねぇ」
なんて話をしているフィリーナ組。
アマリーラさん達獣人二人は、フィリーナと一緒に森を探索して魔物と遭遇すれば倒し、危険な冒険者さんがいれば助ける役目。
同じ役目の俺は、モニカさん、カイツさんと一緒だね。
六人全員で一緒に行動するのは数が多いし、広い森を見て回らなきゃいけないので効率が悪いため、チームを別ける事にしたってわけだ――。
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。
リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。
そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。
そして予告なしに転生。
ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。
そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、
赤い鳥を仲間にし、、、
冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!?
スキルが何でも料理に没頭します!
超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。
合成語多いかも
話の単位は「食」
3月18日 投稿(一食目、二食目)
3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる