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剣魔空斬の弱点

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 剣に魔力を多めに通し、ついでに鞘にも通しておく。
 レムレースとの距離は十メートルにも満たない程度、既に木々は魔法によって取り払われている。
 半ばによって折れたものや、抉られている物などなど、木の下部は多少残っているけど、俺へと射出された魔法を遮る程じゃない。
 迫る無数の魔法、炎、氷、土、さらに風もあると思われる塊が、所狭しと視界いっぱいに迫る。

「……んおぉぉ!!」

 雄叫びを上げながら、力いっぱいに剣を振り下ろし、返す刀で鞘を振るう。
 剣と鞘は、魔法に当たる事なくただ空気を切り裂いただけ。
 しかし、そこに流していた魔力は俺に力を伝えて飛んで行く。

「KI!?」

 レムレースの驚くような音、それと共に体が二つに分かたれる。
 間にあった魔法は、剣から放たれた魔力……剣魔空斬によって斬り裂かれ、あるものは力を失って消失し、あるものは別の塊とぶつかって小さい爆発を起こす。
 魔法の塊には、それぞれ炸裂する性質があったようだ。
 そして俺へと迫る魔法を斬り裂きながら突き抜ける剣魔空斬は、狙い通りレムレースの体を斬り裂いた。

「……剣の方は狙い通りだったけど、鞘の方はちょっと予想外だったね」

 剣魔空斬は剣から飛ばすもの、と考えていたけど鞘からも飛ばせた……ちょっと試して駄目ならそれでもと思っていたけど、成功したのは嬉しい。
 ただその鞘から放たれた剣魔空斬は、剣から発せられたものとは違い、魔法を斬り裂く事も、レムレースへと届く事もなかった。
 ただ剣の方では斬り裂けなかった魔法にぶつかり、それらを弾いただけだ。

「まぁ、結果オーライかもね……」

 ある程度の被弾は覚悟していたけど、鞘の剣魔空斬が弾いてくれたおかげで、俺にレムレースの魔法が当たる事はなかった。
 まぁ、弾かれた魔法がそこらに散らばったり、そもそも俺へと収束しなかった魔法が通り過ぎて、周辺の木々を揺らすどころか激しく連続した爆発音を撒き散らして、木々をなぎ倒していたけども。
 いや、木々をというより森をえぐり取る感じに近いかも……多分、空から見たら俺とレムレースのいるこの空間だけ、ぽっかりと穴が開いたように見えるだろう。
 ……ラミアウネの時に広場を作ったのも同様だろうから、俺も似たような事はしているんだけどね。

「KI……KIKI……」

 俺が近くにいないからかもしれないけど、先程までと違い竜巻を発生させずに再生していくレムレース。
 おそらく魔力が足りないなんて事はないだろう、魔力がなくなればその塊であるレムレース自体、存在できないんだから。
 俺の剣魔空斬で縦に真っ直ぐ斬られて二つに分かれたレムレースは、巻き戻しのようにゆっくりと形を戻していく。
 ……こうやって再生していたのか。

「純粋な魔力だから、剣で斬るより剣魔空斬の方がダメージがあるのかな?」

 再生の速度が、なんとなくさっきまでよりも遅い気がする。
 まぁ竜巻に邪魔されてじっくりと見るのはこれが初めてなんだけど。
 ともかく、一撃という意味では魔力を流した剣よりも、純粋な魔力の塊である剣魔空斬の方が手応えのようなものを感じた。
 おそらく、剣という不純物が混じっていないから、レムレースを形作っている魔力そのものに対し、ある程度干渉できているって事なんだろう……と勝手に結論付けておく。

「でも……再生はされるし、総じたダメージは連撃の方が入っているっぽいか。っと!」
「KIKI!」

 再生した直後、俺からさらに距離を離そうと後退るレムレースから、炎が放射される。
 浮いているから漂いながら離れていくようにしか見えないけど、炙られるのは嫌なのでこちらも後ろに下がって炎を避けた。
 レムレース自体は、最初の頃より小さくなってはいても、直前と変わらず再生を終えていた。
 ダメージが入っているとしても、やっぱりまだまだ魔力は尽きないか……。

「効果的なのは、剣魔空斬なのかもしれないけど……ちょっと厳しいね」

 
 剣魔空斬の弱点……性質として一撃必殺的なものだから、本来は弱点と言えるのかはわからないけど。
 対レムレースにとっては弱点と言えるかもしれないけど、単純に連続で放つ事ができない。
 剣魔空斬は準備として剣に魔力を流し、それを振るって飛ばす技。

 連続して放とうとしても準備に時間がかかってしまって、その間にレムレースが再生したり、距離を取るなりで移動してしまうわけだ。
 魔法を振り払いつつ、レムレースへの攻撃もできると考えればいい手ではあるけど、決定打にはならないか……。

「ふっ! はぁ! ふぅ……やっぱり、このままじゃ駄目だよね」

 飛ばされる氷の礫……密度が濃く、隙間のないが一つ一つは先程の塊より小さい物を避け、剣魔空斬で斬り裂きつつ、呟く。
 魔力自体は、ある程度減ってきていると自覚できるけどまだまだ余裕はある。
 多分、魔力量勝負になったとして、常に攻撃で魔力を使っているレムレースに負ける事はないし、攻撃自体も当たれば危険な物があるとはいえ、なんとなならないわけでもない。
 時間を掛ければジリ貧に追い込む事はできるだろうけど、それでレムレースを倒すのがいつになるか、見当がつかない。

 走るなりリーバーに飛び乗るなりで、離脱する事もできるだろうし、黒いもやを追いかけていた時はそれも選択肢の一つとして考えていたけど、レムレースだと確定した以上却下だ。
 俺が離れたらどこに行くかわからないし、その間にどれだけの魔力を取り戻すかもわからない……この森には、まだまだ魔物がいるのだから。
 それに、逃してしまえば明日以降入る冒険者さん達や、森の近くで野営している兵士さん達に何かしらの被害が出る可能性だってある。

 レムレースがいる事を報告して、何かしらの対処や備えをしてもらう事はできるけど……森に入る日程をずらすとかね。
 結局、この場で倒すのが一番って事だ。

「よし! っとぉ! やる事は決めた!」
「KIKI……!」

 考えつつ、剣魔空斬を飛ばしてレムレースを斬り裂く。
 何はともあれ、うだうだ考えるだけではなく、レムレースをこの場で倒す事を決める。
 頭の中で、対処法や戦闘法を考えつつ、再び剣と鞘に魔力を流した。

「……KIKI!!」
「それはもう見たよ! っと!」

 巨大な氷の槍、炎の槍を並べて俺に向かって射出させるレムレース。
 さすがに一度に二つ来るのはちょっと驚いたけど、俺以上の大きさの魔法の槍はもう既に見た事がある。
 炎の槍が当たらないよう動きつつ剣を振り下ろし、剣魔空斬を飛ばして氷の槍を斬り裂きつつレムレースを攻撃。

「KI……KI……」
「もういっちょ!」

 二つに別れた氷の槍、避けた炎の槍が俺を通り過ぎて轟音を発する中、剣魔空斬で斬り裂かれたレムレースへと鞘を横薙ぎに振るう。
 鞘からも剣魔空斬が発せられ、邪魔されずにレムレースに到達する……直前で何かをぶち当たったような音。

「時間差で、風の魔法も使っていたのか……危ない危ない」

 氷と炎の槍の後ろに、風の何かを潜ませていたんだろう……気付かなかった。
 鞘からの剣魔空斬に当たって霧散した風の魔法。
 すぐ近くにいた再生途中のレムレースにも、多少なりとも影響があったようだ――。

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