1,580 / 1,903
少しだけ通るダメージ
しおりを挟む「とにかく、剣で斬っても完全に無駄ってわけじゃないはず……」
それに、再生した際に俺から距離を取っているのも、ほんの少しであったとしてもダメージを与えている証拠だろう。
自分の放つ魔法に巻き込まれないため、と考えられるけど……再生直後に放った魔法は、目の前で俺が当たってしまったとしても、巻き込まれるような規模の魔法じゃなかった。
火の矢は俺の後ろに残っていた木を数本弾けさせ、打ち払った氷の矢は残っていた木の根元を凍らせ、叩き落した土の矢は地面に深い穴を開けていたけども。
「全くダメージを与えられない、意味がないってわけじゃないなら、色々試してみたくなってくるよね……はぁっ! ふっ!」
数秒程度ではあるけど、俺が考えている間にも次の一手を放つレムレース。
レムレースから打ち上げられ、山なりながら俺に降り注ぐ氷の矢をまとめて弾き、その隙を狙って足下から迫る炎を纏った岩を、ジャンプして避ける。
「うぉ……っと! 危ない危ない」
「KIKI……」
避けきった、と安心したところをうなりを上げて迫る風の魔法……見えないけど、感覚的にはおそらく風を固めた槌のような物だろう。
横薙ぎに振られるそれを、後ろに飛んで避けた。
レムレースからは悔しそうな雰囲気を漂わせながら音を発する。
結構、ギリギリで避けられたんだけど……風の槌か、厄介だなぁ。
風の魔法はちょっと特殊で、基本的に見えないうえに空気を圧縮して効果を表すのもあってか、鋭い切れ味の魔法が使われる事が多い。
フィリーナのカッターとかね。
でも槌、要はハンマーのように斬る事よりもぶつけて潰すようなのは、それなりに大きくする必要もあるため、魔力やらなにやらが面倒なんだ……フィリーナから聞いた事だけど。
でもレムレースがそれを簡単にしてきたって事は、それだけ魔力の操作は容易で、魔力量もあるって事。
複数の魔法を連続で使用するだけでも厄介なのに、フィリーナ達エルフですら使おうとしない難しい魔法を、軽々と使って見せるのは相手をする俺にとってはかなりしんどいなぁ。
でも……。
「色々試してみたいから、まだ逃げる選択肢は後にしておこう……かな!」
「KIKI!」
考えを止めて、レムレースに向かって駆ける。
迎撃ののつもりなのか、無数の火、水、風、土、さらに氷などバリエーション豊かな魔法の球を、無数に放たれた。
それを、避け、打ち払い、叩き落とし、切り捨て、場合によってはわざと当たりつつ、レムレースに肉薄する!
「つぅ……やっぱり、痛いものは痛いし、熱いものは熱いし、冷たいものは冷たい! でも……っ!!」
「KI……!」
火の玉は痛くて熱いし、水や氷の球は痛くて冷たい。
土や風は特に痛いし、当たった箇所の服がそれぞれ燃えたり斬られたり破れたりしているけど、対処できないものは仕方ないと割り切って、構わずレムレースに突貫!
レムレース自信は、素早く動くタイプではないので避けられる心配はなく、大きく振りかぶった剣に魔力を通して振り下ろす!
「一度じゃ、終わらない……よ!」
唐竹割で振り下ろした剣を、さらに逆袈裟で斬り上げ、体を回転させて同じく魔力を通した鞘で、分かたれた顔の目の片方を薙ぎ払う。
さらに、その勢いのまま、縦に分割された体の方の目を剣で横一閃!
「一撃じゃだめなら、連撃で……どうだ!」
分かたれ、空中に漂うラムレース。
残っている部位へとさらに追撃を加えるべく、鞘と剣を左袈裟斬りで振り下ろす。
「まだま……っ!!」
細切れにでもして……と、分断されていくレムレースに、さらなる攻撃を加えようと思った瞬間、再び巻き上がる竜巻。
体が吹き飛ばされそうになるのを、踏ん張って耐えたせいで、攻撃が止まってしまった。
また土や砂を巻き上げているから、レムレースも見えないし……。
「ふぅ……これで再生するなら、いったん仕切り直しかな」
俺自身、一体の敵に対してここまで連撃をする事は、これまでになかったからと、竜巻を纏うレムレースを油断なく見て構え直しつつ、息を吐く。
切り刻んでも駄目なら、次の手を考えないといけないってのもあるし、竜巻に触れた切り株などが切り刻まれているから、不用意に近付かない方がいいという判断でもある。
あれは、ただ風で巻き上げた土とかでの目隠しではなくて、近付かせないための防御的な役割もあるのか……。
手を突っ込んだらかなり痛そうだし、木よりよっぽどや若い通常の人なら、簡単に斬り裂かれるだろうね。
「闇雲に斬るのがダメなら、面積を広く……って、ん?」
「KIKIKI……」
竜巻が止んだ後には、再びレムレースが再生してこれまでと変わらず……と思っていたけど、少しだけ違う様子に気付いた。
顔と体にある二つのギョロリとした目、それが不規則に動きながらも俺を睨んでいるように感じるのはともかく、複数あった腕と足を模した物。
それらの数が減っていた。
「心なしか、縮んでいるような……?」
誤差の範囲だとは思うけど、なんとなくレムレースが全体的に縮んで小さくなっているように見える。
腕は数を減らして四本、足は三本……いや、伸ばそうとしているのか再生できなかったのか、体からそれぞれ短いのが一本ずつ残っているけど。
とにかく、さっきまでと同じように再生できていないって事は、魔力を通した剣での連撃は無駄じゃなかったって事だね。
とはいえ、嗤うような音を発して余裕を持っていた先程までと違い、今は油断なく俺と対峙している雰囲気を感じる……。
なんども同じ手で近付くのは、厳しいかもしれない……かなり痛かったし、痛かったし、冷たかったし、俺もあまりやりたくないけど。
血が出るような怪我はしていないけど、場所によっては打ち身くらいにはなっている部分もあるかもしれないし。
さっきよりも強力な迎撃だったら、勢いを殺されるだけでなく、俺自身も弾かれそうでもある。
「だったら今度は……!」
次にやろうとしていた手を頭から追い出し、別の方法を取るだけだ。
改めて別の手段で戦う方を選び、剣に魔力を流す。
レムレースは、近付かずに構えるだけの俺に対して警戒しているのか、動きはない。
とはいっても、さっきみたいに落とし穴を仕込んでいる可能性もあるからね、油断はできない。
「KIKI……!!」
数秒程の睨み合い……レムレースは常に目が動いているので、ずっと見つめ合っているわけではないし、見ていて気分のいい物じゃないけど、それはともかく。
嗤うような音を発しつつ、レムレースが複数の腕のような部分を動かし、全てをこちらへと向けた。
次の瞬間、レムレースの前に無数の拳サイズの炎、氷、土の塊が出現……見えないけど、所々に隙間があるようだから、風も混ざっているんだろう。
「来たっ!」
俺が寄ってきた時に備えて、押し返すために準備していたんだろう。
目に見えない風の塊、少しだけ歪んで見える部分も含めると、ほぼ隙間のない無数の塊。
やっぱり、今は近付かない方に切り替えて正解だったけど、とにかくそれらを一気に俺に向かって射出した……!
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる