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魔法の攻撃を掻い潜っての一撃

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「ともかく、気を付けないと……あの威力だと、さすがにちょっと痛いじゃ済まなさそうだ」

 ちょっとした魔法なら、少し痛いとか熱いくらいだろうけど、さすがにさっきのは当たると危険だ。
 大きく避けないといけないから、中々難しそうだけど……って!

「くぉ!? っと!」
「KIKI!」

 何かの気配、というか危険を察知してしゃがみ込む。
 俺の頭の上を何かが通過する気配、というか空気の動きを感じた……これは、風の魔法ってところか。

「……危なかった。当たっていたら上半身と下半身がサヨナラするところだったかも」

 風の魔法と思われる何かが過ぎ去った後には、進路を示すようにスッパリと斬れた木々があった。
 斬られた木の先は、空中で激しく燃えて落ちて来る前に燃え尽きる。
 ……風だけでなく、炎の魔法も飛ばしていたのか。
 そういえば、魔法の連続使用はレムレースにとってお手のものだったっけ。

「こんのぉ……! って、次は氷!?」

 炎と風、その次は極太の氷の槍がレムレースの前に出現。
 先程の炎よりも、大きくレムレースを隠す程だ。
 長さ数十メートル、太さ数メートルってところか……それが、レムレースに向かわないとただ攻撃されるだけ、と思って駆けようとした俺に向かって射出された!

「こ、なくそぉぉ!!」

 体が前に傾いてしまっているので、あの大きさの氷槍を避けるのは難しい。
 でも当たれば痛いで済むかも怪しいので、破壊するしかない……と、持っている剣と鞘の両方を、迫る氷槍の先に向かって全力で振り下ろした!

「……なんとか、なった……みたいだね?」

 ガチッ! という音の後、ガラスが割れるような音がして砕け散る氷槍。
 勢いのまま、破片が体のあちこちに当たって少し痛いけど、それくらいなら全然我慢できる。

「氷はまぁ、物理的な物と言えなくはないからなんとかなったけど、炎とか風は厳しいね……」

 炎と風は不定形な魔法……まぁ風の方は剣で斬れば固まった空気を乱して、ある程度はなんとかなるとは思うけど。
 ただ目に見えないから、合わせるのが難しすぎる。
 その上炎は、振り下ろす剣なんてお構いなしに俺を包むだろうからなぁ……避けるしかない。

「とにかく、最低でも一撃与えて様子を見ないと……ねっ!!」

 呟きつつ、魔法の準備をしているのかなんなのか、攻撃が止んでいる今のうちに近付こうと駆け出す。
 炎槍、氷槍、風の刃のおかげで、周囲は見晴らしよく、レムレースまでの間に邪魔するものは何もない……すぐに近付いてとにかく剣を当てる!
 ……その剣を当ててどうにかなるかはまた別の話だし、それはそれでどうなっても後で考えよう。

「KIKIKIKI……」
「よ……うっそ! 今度はそっち!?」

 レムレースから発せられる音、嗤いとも驚きともつかないそれが発せられた。
 何かしようとしても、俺が肉薄する方が早い……と思って振り上げた剣を振り下ろそうとした瞬間、も、足下が崩れた。
 大きな穴が開き、崩れた地面に落ちる……。
 炎、風、氷の次は土か!

「罠だったか! ってちょ、ちょっとま……!」

 攻撃が止んだのは何かをするための準備、と思っていたのが実際は、俺を穴に落とすために土を操って落とし穴を作っていたのか。
 数メートル程落下して着地して、上を見上げると……今度は、燃え盛る炎をまとった大きな岩がいくつも俺目掛けて落とされる。
 穴はそれなりの広さがあるけど、さすがに燃える岩は危ないんじゃないかなぁ? と言っている暇もなく、迫ってきた。

「くっそぉぉぉ!!」

 半分やけくそ、とにかく岩を避けても穴の中という限定された空間に、炎から逃げるすべはない。
 上から、レムレースの嗤う音が聞こえた気がしたけど、そんな事に構っていられずとにかく、剣と鞘を強く握って燃える岩へとぶつけた!

 ――ズズン……という重い音と共に燃える岩がいくつも地面に落ちる音が辺りに響く。

「KIKIKIKI!」

 レムレースの嗤う音が発せられるが……。

「あち! あっち! 熱いなもう!」

 岩を砕き、炎を割いて、落ちた岩の隙間から脱出する。
 チリチリと、服の一部や髪の毛が燃えてかなり熱いし、ちょっとした火傷くらいはしたかもしれないけど、なんとか無事だ。

「KIKI!?」

 そんな俺をギョロリとした二つの目で、不規則に動きながら一瞬だけとらえたレムレースから、初めてはっきりとした驚きの音が発せられた。
 やっぱり意思とか考える知恵があるのは、これまでの攻撃でもわかっていたけど、とにかく驚かせることには成功したようだ。
 ……驚かせたいわけではないんだけどね。

「今のうちに……!」

 魔法の影響を避けるためか、開いた大穴から離れた位置に移動しているレムレースに向かい、再び駆け出す。
 驚いて動きが止まっている今がチャンスだ……!
 今度は、さすがに罠ももう作っていないだろう。

「こなくそっ!」
「KIKI!!」

 念のため剣に魔力を通しながら、袈裟斬りにレムレースへと切りかかる。
 驚いたようなニュアンスを感じさせる音を発したレムレースは、人間でいう左肩口辺りから右脇腹まで分断された。
 斬りかかった剣には、ほとんど何かに触れたような感触はなく、素振りをした時とそう変わらず手応えはほとんどなかったけど……。
 魔物や木を斬る時も、どれだけ簡単に斬り倒したとしてもある程度手応えはあったんだけども。

「ど、どうだ……?」

 魔力を通した次善の一手のような一撃だから、一切効果がないとまではならないと思うけど。
 と、一応何が来ても対処できるよう注意しながら、様子を窺う。
 すると……。

「げっ! やっぱり駄目か! ぶっ!」

 二つに分かれたレムレースの体が、何事もなかったかのようにとまでではないけど、再び繋がる。
 俺が斬り裂いてからなくなっていた、体部分の目も復活した、と思って叫んで追撃しようとした瞬間、今度は周囲に突風が巻き起こる。
 竜巻になった突風はそのまま、飛ばされないよう足を踏ん張った俺をあざ笑うかのように、土などを巻き上げながらレムレースを包み込み……数秒後、竜巻が収まった頃には、少し距離を離した場所で完全に元に戻ったレムレースが姿を現した。

「KIKIKI……!」
「くっそ……!」

 数本の腕のうち、三本を俺に向けて嗤うレムレースから、火、氷、土の矢が放たれる。
 さっきまでのような、大きな物じゃないけどこもっている魔力が多い気がして、火の矢を避け、氷の矢を剣で打ち払い、土の矢を鞘で叩き落す。

「一筋縄じゃいかないなぁ……でも、色々試してみたくなっては来ているかな」

 レムレースは魔力の塊。
 だから一切の物理的な攻撃は意味がない……ただ、魔力を通した一撃なら何もない、というわけではないはず。
 じゃなかったら、見た目的にもレムレースが斬れるわけもないはずだから。
 魔力を帯びていない剣だったら、ただ素通りするだけのはずだし……同じ性質のゴーストがそうだからね。

 実際にはレムレースの体を分断させられたから、魔力を通した剣にも意味は持たせられるはず。
 そう思って、二つの目を動かし始めたレムレースを見据えた――。


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