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何かの異変もある可能性

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「森全体を把握するため、魔物を避けて調査に向かわせた斥候隊の、さらに一部の兵士が目撃しているようです。一人ではなく複数、それも別の斥候隊の方も目撃しているようですので、さすがに無視できる話ではないかと」
「そうですね……」

 一人なら、それこそ木の影を見間違えたって可能性もある。
 けど複数でしかも別の部隊からも、同様の報告があるのなら間違いではなく、本当にそこに何かあるんだう。

「わかりました、それじゃあ気を付けながらそこを目指してみようかと思います。もちろん、危険な感じがしたら、引き返しますけど」
「調査をしてもらえるだけでも助かります。明日以降、冒険者達がそこに近付いても問題ないかなど、行動の指標にもなりますから。ですが、決して無理はなさらない下さいね?」
「はい、ありがとうございます」

 魔力どうの、という事はあるけど俺だってどんな事があっても絶対に安全、というわけじゃないからね。
 硬い魔力の防御を通るような攻撃とか、それこそラミアウネのような花粉みたいに、体内に入り込んで悪さをするような物とかは、ちゃんと気を付けておかないといけない。
 さすがに、体内に入り込んだ毒とかは、魔力が多いからってどうにもならないから。
 ……どうにもならないよね? なんか、エルサとかユノがリクなら大丈夫とか、魔力が異常だからって言いそうだけど、俺だって一応構造的には人間なんだから、体内は弱いに違いない。

「それと……少々失礼します」
「あ、はい」

 自分の体い付いて考えていると、エレノールさんが少しだけ俺から離れる。
 門を警備する兵士さんに何かを伝えて、布に包まれた物を受け取った。

「お待たせしました。ご要望の剣二つです」

 俺の所へと戻って来ながら、包まれた布から取り出したのは、なんの変哲もない剣が二つ。

「リク様が仰られていたように、魔法具ではなく一般的な剣ですが……本当によろしいのでしょうか? リク様でしたら、他にも特別な素材を使用した剣や、魔法効果を出せる剣を使った方が……」

 剣を俺に差し出しながらも、心配そうにするエレノールさん。
 衛兵さん達が腰に下げている物と、そう変わらない剣なので本当に一般的で安価、量産されている剣なんだろう。

「いえ、魔法を使わないようにする意味もあるので、これで問題ありません。あと、俺は剣の扱いが雑らしくて……上等な剣は合わないかなって。それに、本当にいい剣をつかうならいつも使っている物を持ってきますから」
「そういえば、いつもリク様が下げていらっしゃる大きめの剣が見当たりませんね?」
「今回は、一般的な剣で戦う訓練も兼ねていますので、置いてきました」

 いつも使っている剣、ヒュドラーやレムレースすら簡単に倒せるあの剣があれば、ラミアウネに限らず森の魔物程度は楽に討伐可能だろう。
 けど今回は、魔法が使えない状態での戦いに慣れるためでもあるので、あの剣に頼らずに戦うのが重要だ。

「そ、そうですか。リク様がそう仰られるなら、わかりました。ですが、くれぐれも気を付けて下さい」

 俺にもしもの事があれば、モフモフ事業? も資金的に厳しくなってしまうから、特に心配してくれているのかもしれない。

「はい、それはもちろんです。無茶はしませんよ」

 そう言って、これまでの俺の所業を考えれば信じてくれるかは微妙ではあるけど、エレノールさんは納得してくれたようだ。
 エレノールさんにお礼を言って、リーバーに乗り、森の近くへと向かった。
 空から少し観察している限り、やっぱり森には特にこれと言った異変は起きていないけど、エレノールさんが収集してくれた情報を聞いてからだと、確かに木々がこれまで以上に密集しているように見えた。
 今まであった木々と同じ高さくらいまで、数日……俺が意識を乗っ取られた直後で考えても、ひと月経たない程度で育つのは、異常と言えば異常か。

 原因はともかくとして。
 その他、森から少し離れたヘルサルとの間に、複数のテントらしき物が点在しているのは何度か見ているけど、あれが王軍の兵士さん達が駐屯しているところだろう。
 今日は特に、テントの周囲に兵士さんと思われる人達が多い気がするけど、冒険者さん達が森の魔物を掃討する役目になったため、今は積極的に森へ入っていないからかもね。

「あ、特に一部に兵士さん達が集まって……というか整列しているね。一方を見ているようだし、見ている先に誰かがいるから……あれがヴェンツェルさんかな?」

 ヴェンツェルさんは基本的に街の中には留まらず、駐屯地で他の兵士さん達と共に過ごして、指揮をしやすい状況にしているらしい。
 だから、空から大まかにみる限り百人単位とかで整列している人達に向かっているのは、ヴェンツェルさんだろうという予想ができた。
 さすがに、距離があるしはっきりと誰か、とまでは判別できないから予想だけども。
 まぁそのヴェンツェルさん、毎日獅子亭に行って食事をすると共に、カーリンさんの様子を見に行っているらしい。

 心配なのはわからなくもないけど、街は安全なのになぁ。
 交代で複数の兵士さんを連れて行き、それなりに兵士さん達の間で評判になっているとも聞いたので、獅子亭の宣伝や売り上げという意味ではいいのかもしれないけども。

「よし、この辺りかな。リーバー、一旦降りよう」
「ガァウ」

 森の中程……から北の元々街道があった場所付近で、リーバーに地上に降りてもらう。
 翼をはためかせる必要があるリーバーは、木々がかなり密集していそうな森の中に、直接降りるわけにはいかないからだ。

「それじゃ、疲れたら休憩。俺を見失った場合も、ヘルサルの方に戻っていてくれ。大丈夫か?」
「ガァ、ガァウガァウ!」

 了承と、問題ないと俺に伝えるように、地面に立ったまま翼をバサバサと動かすリーバー。
 一応、リーバーは空で待機してもらい、森の中に入る俺を上空から見守る役目をお願いしている。
 もしもの際、木々の近くまで降下してもらって、アイシクルアイネウムと戦った時みたいに、俺がジャンプして乗って逃げる方法を取るためだ。

 とはいえリーバーも飛んでいると疲れるし、密集している木々の中、空から俺を追う事ができるかは微妙なので、休憩もそうだけど見失った場合はヘルサルに向かうようになっている。
 衛兵さん達には既に伝えてあるから、俺がいなくても大丈夫だろう。

「ガァ!」
「うん、頑張るよ」

 激励するように、片方の前足と翼を上げて森に入ろうとする俺を見送ってくれるリーバー。
 それに手を振って答えつつ、久しぶりの森に入った――。


「……この分だと、俺とエルサが出会ったあの場所も、木々で密集しているんだろうなぁ」

 森に入って数分、まだ魔物との遭遇はしていないけど、思っていた以上に木々が密集していて進みづらい。
 俺とエルサが出会った開けた場所……エルサが落ちて木々をなぎ倒したからできた場所だけど、その場所もおそらく同じように、木々が育ってしまってなくなっているだろうと想像できた。
 懐かしい場所だし、思い出深い場所でもあるから残念だけど、仕方ないか。
 大半は俺自身のせいだし、エルサはあまり気にしていないようだからね――。


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