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レッタさんの話を聞きに宿へ戻る

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「……リクに任せておくと、またクレーターを作り出すのだわ?」
「いやそれは……ないとは言えないけど」

 さすがに、さっきみたいな事はしないと考えているけど、絶対ないとは保証できない。
 ついついやってしまうという事だってあるし……でも、全力でジャンプしたりはしないよう気を付けようとは思っている。
 それと、せっかく面倒くさがらずに手伝うと言ってくれているのに申し訳ないけど、エルサにはモニカさん達を手伝ってもらったままでいいかなとも考えていた。
 グラシスニードルが完成して、これからもう少し解氷作業が捗(はかど)るだろうし、エルサにはそっちを担当して欲しいのと、もしもの時モニカさん達を守ってくれるだろうから。

 俺が離れている時に、モニカさん達のそばでアイシクルアイネウムが発生した場合に備えて。
 ともあれ、この事はとりあえずの考えで、許可を取るというか協力者も必要だからね――。


「うーん、逆にアイシクルアイネウムが出てきた方が、解氷作業が楽になるのかもしれないなぁ?」

 一人で呟きながら、アイシクルアイネウムが出てきた場所を見た時の事を思い浮かべつつ、センテの街を歩いて宿へ向かう。
 エルサはモニカさん達と一緒で、珍しく完全に俺一人だ。
 アイシクルアイネウムの出現場所を確認していたら、レッタさんが落ち着いたから……という連絡を受けたから、一人で街に戻った。
 ユノとロジーナがいるはずだからエルサは解氷作業を続けてもらう事にし、シュットラウルさんも宿に行っていると聞いたので、少しだけ急いでだ。

 それはともかく、さっき見たアイシクルアイネウムの出現場所……周囲には、出て来る時に割られた地表付近の氷が辺りに散乱していたのはともかく、問題は出てきた場所。
 そこだけ、ぽっかりと穴が開いていたんだよね。
 しかも、十メートルはある巨体の氷が抜け出したわけで……深い穴の底は、薄っすらと表面が凍ってはいたけど凍っていない地面が露出しかけていた。
 そのうえ周囲の氷から魔力を集めたからか、穴の周囲数メートルは氷の地面が通常の氷と同じくらい……つまりグラシスニードルで、簡単に深くまでニードルを突き刺せるような氷になっていた。

 アイシクルアイネウムが出現した場所は、解氷作業が楽になるってわけだね。
 まぁ、深い穴が近くにあるので、落ちてしまわないように気を付ける必要もあってあれはあれで危険だけど。
 何せ、十メートル以上の深い穴だからね……受け止めてくれる植物なんかもないし、坂にもなっていない絶壁、転んだ時点で真っ逆さまだ。
 一応エルサに頼んで結界を張ってもらい、落ちるどころか上に乗れるようにしてもらったから、今は危険はないんだけども。

「アイシクルアイネウムがいっぱい出てくれば、それだけ硬い氷が少なくなるわけで……なんて言っていたら、俺の今までの経験から、本当にそんな事になってしまいそうだから、やめておこう」

 フラグというか、考えたり話したりする事でそれが本当の事になってしまう怖さがあるから、控えないとね。
 数十体の巨大なアイシクルアイネウムが、氷の地面を滑ってセンテや作業している人達に突撃なんて、シュールな絵面なのはともかく、危険過ぎる。
 センテはまぁ、隔離結界がまだ維持されている以上、外壁にすら到達できないとは思うけどね。

「まぁ、穴だらけになってもいけないし、何事もないのが一番だ。とにかく今はレッタさんとの話の方が重要だからね。あと、考えていたアイシクルサイネウムの対処も、お願いする事があるからそっちもやらなきゃだし」

 そう呟いて、街中だけはこれまでのセンテとそう変わらない様子に戻りつつあるのを眺めつつ、宿へと戻った。
 レッタさんの話で、何が飛び出してくるやら……ロジーナから基本的な話は聞いているから、凄く驚く事はないとは思うけど、一応心構えくらいはしておこう。
 特に、またロリコンとか言われないように気を付けないと。
 ……あれ? どう見ても小学生にしか見えない、ユノとロジーナがいるわけだよね? これ、変な目で見られる予感しかしないような……? 

「……戻りました」

 嫌な予感に足が重くなりながらも、振り払って宿へと戻ってきた。

「リク殿」
「シュットラウルさん、先に来ていたんですね」
「うむ」

 宿に入るとすぐ、執事さんと何やら話していたシュットラウルさんがいた。
 隔離結界の外にいた俺と、宿に近い庁舎にいるシュットラウルさんじゃ、俺の方が後に到着するのも当然か。
 レッタさんに関する連絡も、俺よりシュットラウルさんの方が先に届いただろうし。
 それはともかく……。

「……う、うぅ……侯爵様、お願いです。お願いです……」
「えっと……シュットラウルさん、アマリーラさんに何かしたんですか?」
「人聞きの悪い事を言うな、リク殿。私は何もしておらんぞ」
「お願い、お願いですからぁ……」

 シュットラウルさんと執事さんがいるすぐ横で、床に膝と両手を付けたアマリーラさんがむせび泣きながら、お願い、お願いと繰り返している。
 見ようによっては、女性を無碍に扱っている貴族様……という構図にも見えるかもしれない。
 アマリーラさんの耳と尻尾は、いつも元気よく忙しなく動いていたのに、今は萎れてしまっているし。
 あぁ、尻尾が床に垂れてモップよろしく床掃除をしている……そんな事をしたら、せっかくのモフモフが……。

「う……んん!」
「む、どうしたのだリク殿?」
「イエ、ナンデモアリマセン」

 思わずアマリーラさんの尻尾を、モフモフを保護するために手を伸ばしそうになったのを引っ込め、意識を変えるために咳払い。
 訝し気に見るシュットラウルさんには、ちょっとぎこちないながらも首を振って誤魔化しておく。

「それでその、アマリーラさんは一体……いえ、なんとなくわかりますけど」

 少し前に、リネルトさんに注意された事だな。
 俺に付いて来るとか、現在の雇い主であるシュットラウルさんとか、傭兵としてとか。

「うむ、まぁあまりここで話すのも、アマリーラを刺激してしまいそうなのだが……」

 シュットラウルさんが簡単に説明してくれたけど、要はアマリーラさんの傭兵雇用に関しては、早い話がまだ雇用期間として定めた日数が残っているという事。
 侯爵であるシュットラウルさんの護衛兼私兵として雇っているのもあるので、雇用期間が終わらない状態での解雇となると、お互いにいい事にはならないだろうと。
 できなくはないけど、評判とかいろいろとねって事みたいだ。
 シュットラウルさんとしては、最近のアマリーラさんを見ていると俺に付いて来る、というのは別に構わないし本人の希望を叶えるのもやぶさかではないみたいだけども。

「まぁそういうわけでだ、今そのことを話していたところだな」

 俺が宿に入ってきた時、執事さんと話していたのはアマリーラさんに関してだったみたいだ。
 特に執事さんは、アマリーラさんというよりも侯爵であるシュットラウルさんを優先するため、成り行きはともかく貴族としての評判を考えて難色を示しているらしい――。


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