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魔物の発生と氷像
しおりを挟む「とりあえず、作ってしまったクレーターは置いておくとして。さっきの氷……氷像みたいなのはなんなんだ?」
今更ながら、まっさらで四角い氷の塊から腕が二本生えている、というだけの雑なデザインだから、氷像と言えるかはわからないけどね。
いや、あれが魔物だとしたら、デザインとかを誰かがしたわけじゃないと思う……魔物を作ったロジーナがデザインして、とかはあるかも?
「見るのは初めてなのだわ。けど、寒くて永遠の氷に閉ざされた……リクにわかるように言うなら、万年氷しかないような場所で、時折内部で魔力を蓄えた氷が変化して出て来る魔物、だと思うのだわ」
「万年氷……」
万年雪の氷バージョンって事だろう。
北極とか南極とか、雪というより何から何まで氷しかないような場所が頭に浮かぶ。
いや、北極も南極も本当に氷しかないわけじゃないはずだけど。
「やっぱりあれは、魔物だったのか」
「それしかないのだわ。自然発生……今回はそう言えるかわからないけどだわ、とにかく勝手に出て来るのなんて、魔物しかありえないのだわ。人は、自然発生しないのだわ」
「まぁ、そりゃそうだね。というか魔物って自然発生するのか」
人は人から生まれる、というのは当然な事で自然発生で生まれてきたりはしない。
それは他の動物も同じ事だけど。
「自然発生するのと、人と同じようなのがいるのだわ。これまでリクが見た魔物で言うなら、キマイラは人と同じように生まれてくるのだわ。卵生だったはずだけどだわ。でも、ゴブリンは自然に発生するのだわ。まぁ、詳しくはロジーナに聞けばいいのだわ。」
「え、ゴブリンって自然発生するの!?」
エルサに言われて驚く。
キマイラが卵生で、ゴブリンが自然発生……って、むしろ逆のイメージだけど。
いや、それこそキマイラなんて複数の動物が合体したような見た目の、歪な形だから意図的に誰かが作り出さないといけない魔物だと思っていた。
日本の物語とかでは、禁忌の合体実験とかで作り出されるとかあったし……あ、でも神話だと神様の子供だとかの話もあるから、間違いってわけでもないのか。
むしろ、この世界のキマイラは倫理観を無視した実験による成果とかではなく、神話に出て来る方に近いって事か。
いやそれよりもゴブリンだ。
形としては人間に近いから、胎生かはともかく子供を産んで増えていくようなんだと思っていた。
胎生はまぁ、人と同じようなと言っているエルサの言葉から、あるんだろうけど。
「どうやって発生するかは私も知らないのだわ。けどだわ、そうだからこそ前に戦ったゴブリンの大群になり得たのだわ」
「……まぁ、そうか」
ヘルサル防衛戦でのゴブリンの大群……多くはクラウリアさんがゴブリンキングを復元した際一緒に、復元したんだろうけど。
でも国の各地からゴブリンがキングを目指して集まる、とかならゴブリン大移動とかもっと異変を見つけられただろう。
それこそ、ゴブリンが移動している時に街や村の近くを通る事もあれば、誰か人が発見する事だってあるわけで。
そういえば、クラウリアさんもいつの間にかゴブリンが大量に集まって膨れ上がったと言っていたような気がするから、近くで自然発生したゴブリンが集まって来ていたんだと思う。
もしかすると、ゴブリンキングが何かしらの影響力を持っていて、近くで発生させるとかか?
それとも他にも何か理由が……。
「ゴブリンの事はどうでもいいのだわ。ここで考える事でもないのだわ」
「確かにね。もし知りたいときは、ロジーナに聞けばいいか」
ロジーナが素直に答えてくれるかはともかくとして、今考える事じゃないのはエルサの言う通り。
「そうなのだわ。それであの氷の魔物だけどだわ……」
話を戻して、氷像の話をエルサから聞く。
とはいっても、エルサも今回見るのが初めてらしく、恐らくそうだろうというくらいにしか知らないみたいだけど。
あの氷像は、氷に閉ざされたような大地が内部に魔力を溜めこむ事で発生する魔物なのだとか。
その大地は俺が知っているような、ただただ気温が低いから氷になっているのではなく、魔力によるものらしい。
そう考えると、現状のセンテ周辺は俺の魔法で凍っている事になるわけで、魔力は当然含まれているから、条件は一緒と言えるのか。
ただ、知識として知っているだけで、エルサ自身もあの氷像……アイシクルアイネウムという魔物らしいけど、初めて見たらしい。
だからこれまで特にエルサが話に出す事はなかったんだね。
アイシクルアイネウムは、さっき見た通り氷の塊で、形はその時々で違うとか。
「じゃあ、偶然あの姿だったって事?」
「知っている限りではそうなるのだわ。地中……氷中(ひょうちゅう)で魔力を蓄えて、発生と同時に氷上に出て来る、らしいのだわ」
「条件が同じだし、聞いている限りじゃ出てる来る瞬間も同じみたいだね」
発生したのは氷の中深くっぽいので当然見ていないけど。
そういえば、アイシクルアイネウムが出てきた場所はどうなんだろう? 俺は自分がジャンプした場所の確認をしに来たけど、モニカさんやフィリーナ、兵士さん達の一部そちらの確認に行っている。
「一応確認するけど、二体いたりとか連続で発生したりとかはしない?」
もしまだ氷の中に他のアイシクルアイネウムが潜んでいる、もしくは発生しそうなのだとしたら、確認に行っているモニカさん達が危ない。
「断言はできないけどだわ、しないはずなのだわ。周囲の魔力……と言っても氷しかないわけだわ、そこから狭い範囲で魔力を集めて、発生するのだわ。二体も同時に発生するような魔力なら、一体になるし、一度発生すればその場と狭い範囲でだけど周囲では、魔力が足りなくて発生しないのだわ」
つまり、氷に阻まれて狭い範囲ではあるけど、条件の整った場所に溜まった魔力がアイシクルアイネウムが発生するための魔力をさらに集め、一定を超えたら発生と出現ってところだろうか。
一つに魔力を集めるから分散して二体にはならないし、狭い範囲とはいえ周辺の魔力がかき集められるので、別のアイシクルアイネウムが発生する事はないと。
とりあえず、様子見に行っている人達に今すぐ危険が迫る事はないみたいだ。
「なんにせよ、俺の魔力から発生したって事だよね……」
仕方ない事だった、と割り切らなきゃいけないとは思うけど……やっぱり自分のせいで今センテが氷に閉ざされ、さらに魔物まで発生させてしまったのは、気になってしまう。
「まぁ、気にするな、なのだわ。気にしても仕方ないのだから、今は氷を融かす作業をして早く解放するだけなのだわ」
「そうだね、ありがとうエルサ」
「わ、わ、私はただ、リクが辛気臭いと一緒にいて気が滅入るだけなのだわ。お礼を言われる筋合いは……ちょっとだけあるのだわ?」
「はは、なんだよそれ」
これまで通りの、素直じゃないというか照れ隠しの言葉と思ったら、違った。
エルサの物言いに、思わず笑う俺……前までと違うのは、エルサがモニカさんに色々言われたからだろうけど、暢気な性格は特に変わっていないし、そのおかげで俺が救われているような気がするね。
もしエルサがいなかったら、それか、こんな性格じゃなかったら、もっと深刻に考え過ぎていたかもしれないし。
まぁ、俺自身も暢気な自覚があるから、深く考えた方がいい事は多々あるんだろうけども――。
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