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休憩前の異変
しおりを挟む「そういえば……」
ずっと拳を打ち付けていたけど、これが足だとどうなるんだろう? とふと思いついた。
魔力を流すのはグラシスニードルで試したけど、足からもできるわけで……それなら、拳と同じように足を打ち付けるというか、踏みつけるようにする事で拳と同じような効果も期待できるはずだ。
「よし、試して……っと、その前に」
魔力を流さない程度に抑えるなら、グラシスニードルは抵抗になるし耐久性も心配なので、一旦靴から取り外す。
せっかく作ってもらったのに、すぐに壊したら申し訳ないからね。
一応、グラシスニードルを付けてニードルに魔力を流した状態でどうなるかも、後で試してみよう。
そうして、靴を履いたまま、グラシスニードルを付けて魔力を流して、の二つ方法を試してみた。
素足でも試そうと思ったけど、あまりにも寒くて冷たく、しもやけになりそうだったのでやめておいた……靴とかを脱ぐ、まではやってみたんだけどね。
「……結局、拳が一番って事かぁ」
何度か足を使って試してみたけど、氷を踏みつける場合は靴の形が地面に刻まれるだけで、周辺にはひび割れすらできなかった。
力の入れ方が悪かったのかもしれないけど……。
グラシスニードル装備時には、魔力を流さない場合足との間にいくつもの抵抗ができているのか、ちょっと深めにニードルが刺さるくらいだった。
それならと、一度だけ魔力を流してみたら足が深く沈み込み過ぎて、逆に危険で深い穴ができるだけだったり。
片足だけ、膝くらいまで埋まるんだもんなぁ……氷は当然割れていたし、周囲にひび割れが少しだけ発生していたけど、足のサイズで深い穴がそこら中にあるのは危険なのでやめておこう。
何度も沈んだ足を抜いたり、行き過ぎないようもう片方の足で踏ん張ったり、むしろ拳を打ち付けるよりも疲れそうだし。
あと、足を氷に強く何度も降ろす姿を見た兵士さん達が、俺の機嫌が悪くなっているのか心配していたり、地団駄を踏んでいるのかと勘違いしていたようだから。
……全然、期限は悪くないけど離れてみる方からしたら、あまりいい姿には見えないのかもしれない。
「弱く調整するのは難しいし、強くすると体ごと沈みそうだし……一番加減ができるのがいいってね」
そう呟き、拳に切り替えて作業を続ける。
グラシスニードルに魔力を流すのは、昨夜試したように可視化された魔力がまとうようになる。
それより少ない魔力でと調整しようにも上手くいかないし。
魔力を多く、強くは調整できるけど……魔力は有り余っているから。
けどそうすると、膝までどころか股下、やり過ぎればそれ以上沈み込んでしまいそうだからね。
広くはなくても深い穴をこれ以上増やすわけにはいかない。
「よっ!……今度はここで、んっ! っと、大分慣れて来たね」
あれこれ考えつつも、拳を打ち付けていく作業を続けていたけど、何回も……何十回もやっていたらさすがに慣れる。
今では、特に意識しなくてもちょうど良さそうな力に調整できるくらいになったかな。
力の入れ方というか、拳の打ち方でひび割れを俺が思う方向に走らせたりなども、できるくらいだ。
まぁそれでも、完全に一方向にのみひび割れをというのはさすがにできないけど。
「せっ! ちょっと楽しくなってきたかな?」
何度もやるうちに、色々細かい調整をして楽しめるようになってきたのは、いい事なのかもしれない。
ユノは氷を割る時、こんな気持ちだったんだろうか? ロジーナは、ユノに乗せられていたから楽しいとかは思わなかったかもしれないけど。
……いや、最初はともかくユノとロジーナは競うようにして、氷を割っていたらしいから楽しいとかじゃないか。
その競う事そのものを楽しんでいた、とかはあるかもしれないけど。
「ほいっと! ふぅ、ちょっと休憩するかな……」
地面にしゃがみ込み、力を調節しつつ拳を打ち付け、立ち上がって移動して別の場所でまたというのを続けていたので、さすがに少しだけ疲れてきた。
身体的な疲れというよりは、精神的な疲れの方が強いかもしれないけど……腰にも負担を掛けちゃっているからね。
一人で呟いて、暖を取るために焚き火の方へ歩き出す。
ちょっと焚き火から離れ過ぎたかもしれない……作業している時は良かったけど、集中が途切れたら寒さが押し寄せてきた。
「というか、俺だけ一人で作業ってちょっと寂しいなぁ。仕方ないけど」
拳で氷にひびを入れていくなんて強引な作業、他の人にできないから当然ではあるんだけどね。
「うぅ、早く焚き火に当たろう……ん?」
冷え切った空気と、足下から来る氷の冷気に体を震わせながら、身が硬くなっていくのを感じて、焚き火のある方へと急ぐ。
その途中……耳に届く音に足を止めた。
ピキ、ピキと何かが避けるような、というより氷が割れるような音が響いた。
「なんだろう……?」
氷は今のところ、かわらず自然解凍はほぼされないので勝手に割れる事はない。
ユノやロジーナがいるわけでもなし、俺は何もしていないから氷が割れたりひびが入ったりする事もないはず。
というより、俺の近くで解氷作業をしている人もいないし。
皆、焚き火よりもセンテ近くで作業しているからね……知らないうちに、俺だけ一人離れた場所まで来ていたんだと、今頃気付いたけどそれはともかく。
「音からすると、あそこかな?」
百メートル前後ある焚き火、それと俺の中間くらいの場所から北。
そちらの方から音が聞こえてくる気がして、そちらに目を向ける。
皆がいるのは俺から見て焚き火の向こうから周辺辺りなので、当然目を向けた方には誰もいない。
「音は……少しずつ大きくなっている?」
ピキ、ピキ……という小さな音から、バキッという氷が割れた……いや、折れたような音に変わった。
それと共に……。
「氷が……!?」
凍っている地面が盛り上がり、割れて散らばっていく。
見るからに、何かが地面の下から、氷の下から出て来ようとしているようだった。
「俺が拳で氷を隆起させたときも、あそこまでじゃなかったし……絶対何かあるっ!」
不穏とか、危険とか、嫌な予感のようなものを感じて、徐々に盛り上がっていく氷の場所へと走る。
とはいえ地面は氷……グラシスニードルのおかげで多少歩きやすくなっているけど、それでも土の地面を走るより遅い。
自分で作ったヒひび割れやへこみに足を取られないよう、気を付けながら走っている途中、焚き火の方をちらりと見てみると、皆が盛り上がる氷に気付いたところだった。
多分だけど、焚き火で薪がはぜる音や、周囲の人が話す声などなどで、最初の音を聴いたのは俺だけだったんだろう。
「……皆の所に行って、様子を見る余裕もなさそうだね」
どんどん盛り上がっていく氷、その内側も氷なんだけど……そこまでの距離は焚き火よりも遠い。
けど、皆と合流しているくらいなら、さっさと向かった方がいいだろうと判断し、走り続ける。
「……!!」
数秒後、俺が到着するより前に地面から現れる氷。
いや、地面も盛り上がったのも、割れたのも現れたのも全て氷なんだけど……とにかく、氷が現れたとしか言えない――。
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