1,491 / 1,903
簡易的な滑るための氷
しおりを挟む「よし……さらにこのお湯をっと!」
一部を溶かすのではなく、全体を温めるように広げてもらったリーバーの炎。
その上で、さらに触れたら火傷するだろう温度のお湯を、氷の上にぶちまけた。
お湯はブワァッと一瞬だけ湯気や蒸気を広げ、凍った地面の表面を濡らす。
リーバーがやってくれた炎と合わさり、ドライアイスにお湯をかけたような感じだ……大量の二酸化炭素が発生して危険なので、良い子はドライアイスにお湯を掛けたりしないようにしよう。
なんて、誰に向かっているのかわからない事を考えながら、しゃがみ込む。
「……ん、よし! 上手くいってる!」
「リクさん?」
指先で氷の端に触れて確かめてみると、既に温かかったお湯は冷たく、けれど表面を確かに濡らしていた。
リーバーがやってくれた炎のおかげか、薄い膜を張るお湯……水の先にある氷の表面温度も、少し下がっている気もする。
実際、濡れた表面が水をかけた時のように、すぐ凍るような事はなさそうだ。
とはいえ、あまり長い猶予はなさそうだ。
「これが俺のしたかった事、だよモニカさん」
「氷を融かす? いえ、濡らすのが目的、なのかしら?」
「うん。濡らした理由は……こうして……」
ずっと疑問符を浮かべ続けていたモニカさんに、表面を濡らした氷を示して見せつつ、グラシスニードルを付けていない靴のまま、上に乗る。
そして……さっき魔力をニードルに流す実験をした時、ぬかるんだ土の上を滑るように移動した時に思いついた事を実行する。
それはつまり……。
「まぁ、ちゃんとした靴じゃないから、ちょっと難しいし速度とかはでないけど……でも、転びにくくはあるかな?」
「リクさんが、氷の上を滑っているわ」
「俺がやりたかったのは、アイススケートっていう遊びなんだ。おっとっと……!」
転びそうになるのを、腕を振ってバランスを取って耐えつつ、モニカさんに言った。
アイススケート……遊びというか、運動競技の事だけど。
でも、本格的なスケート靴があるわけでもなし、簡易的なものだから遊びって事でいいと思う。
氷の上は滑りやすい……というのはまぁ当然の事なんだけど、温度が低すぎる場合、ましてやエルサが作ってあまり時間のたっていない氷だったからね。
多分、あのまま滑ろうとしたら変に抵抗がかかったり、素手で触ったら皮膚がくっついたりしそうだった。
だから、一番滑りやすい状況……氷の表面を融かすか、水を加えて水膜を作ったわけだね。
おそらく隔離結界の外の氷は、昼間の気温が高くなった状況で長時間そのままなのもあって、表面が少しだけ融けているからよく滑ったんだろう、というのはまぁ置いておいて。
水を撒くだけでいいかなと思ったけど、リーバーの炎やお湯を使う事になるとは思ってなかったのは想定外。
まぁなんにせよ、あまり広くはないし専用の靴なんかもないけど、氷が一番滑る水膜を張った状態にする事で、簡易的なスケートリンクが完成したってわけ。
放っておいたら、数十分くらいで水膜も全部まとめて凍りそうだから、長くは遊べないけど。
「ア、アイススケート?」
「うん。っと……結構バランスとるの難しいな。えっとね、俺のいた世界にはこういう遊びというか、競技があってね」
氷の上でバランスを取りながら、モニカさんに簡単にアイススケートについて説明。
とはいえ、競技的な説明は俺もよくわからないし、ほぼ経験した事がないので氷の上を滑って遊ぶ、というくらいしか言えないんだけども。
何が楽しいのか、と聞かれたら何が楽しいんだろう? という、アイススケートが好きな人に失礼な疑問すら浮かぶ。
まぁ、それは俺がよく知らないから、楽しさもわからないっているだけなんだろうけどね。
「リクさんのいた場所には、そういった事があったのね。アイススケート……氷の上を滑る。グラシスニードルの元になった、アイススパイクだったかしら? あれの発想とかも、ここから来ているの?」
「いや、あれはちょっと違って用途が違うんだけど……」
アイススパイクの方は、同じアイスと付いていてスケートとは違う。
というか、スケートで氷にスパイクを突きさして歩いたらいけないだろうし。
あっちは登山とかから着想を得ているというか、そういうのもあったなぁって知識から皆に話したわけだからね。
「別の用途で、それぞれ氷の上を動くための道具があるのね。リクさんのいた場所は、今センテの周囲に広がっているような景色ばかりだったのかしら?」
「うーん、一部の地域では似たような場所もあるかもしれないけど……そういうわけでもないかな」
今のセンテ周辺のように、辺り一面凍っているとかはほぼないかな? 氷というより、雪が厚く降り積もっている場所とか、大きな池が凍るくらいはあったと思うけど。
まぁ、日本以外であれば地面がほぼ氷というのもあるけど……北極と南極の氷床とか、グリーンランドの氷床とか。
考えてみれば、今のセンテ周辺はそれらと同じような事になっているのか。
「俺がいたところ……というか国は、四季というのがあってね。一年の中で暑かったり寒かったり……」
温暖化とか寒冷化で、春夏秋冬が曖昧になって来ているけど今はそんな事を、詳しく話している状況じゃない。
こういった話は、そのうちゆっくりとお茶でも飲みながら話したいかな。
早くしないと、表面の水膜がまた凍っちゃうし。
「まぁ、今はそんな事より滑るようになっているうちに、モニカさんも……!」
「え、えぇ」
話を戻し、モニカさんも氷の上に乗るよう促す。
おそるおそる、足を乗せて体重を掛けていくモニカさん。
グラシスニードルを何度も試した経験からか、解氷作業で何度も氷の上を歩いたからか、滑らないよう足を真っ直ぐ降ろしていた。
けど……。
「きゃっ!」
「っとと!」
「あ、リクさん……」
片足を乗せて体重をかけ、もう片方の足を上げた瞬間、モニカさんがバランスを崩して転びかけた。
足下が滑る事もあるんだろうけど、おそるおそるやり過ぎて不安定だったからね。
予想していたから、転びそうになるモニカさんの腕をつかんで引き寄せ、支える事ができた。
「もう少し、思い切りよく動いた方が体のバランスが取れるし、滑らなくて済むと思うよ。やり過ぎると、それはそれで危ないけど」
「え、えぇ、ありがとうリクさん」
「いえいえ、どういたしまして」
注意する俺にお礼を言いながら、体を離すモニカさん。
その際、両足を地面の氷に付けて再び滑りそうになったけど、なんとかバランスを保った。
それはいいんだけど、なんだかモニカさんの顔が赤いような気がするのは気のせいだろうか?
庭の明り……篝火のせいかな? いや、さっきまでよりも赤く見えるような?
「大丈夫、モニカさん?」
「え、えぇ……なんとかね……」
様子を窺う俺にから視線を逸らしながら頷き、足下を見るモニカさん。
初めての事だから、緊張しているとかそういう事なのかも? それか、転びそうになって恥ずかしかったとかかな――。
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる