1,489 / 1,903
余談の練る練る魔力
しおりを挟む「まず、可視化できるだけの魔力が出せるってだけで、ちょっと異常なのよね。人間だとリクさん以外に見た事がないし。フィリーナとか、エルフは別だけど」
「ん、あぁそうだね」
深く考え込みそうになっていたのを、モニカさんの声で意識を戻す。
考え事は後でいいし、まずは思いついた事を実験しなきゃね。
原因を突き止めたとして、だからどうすればいいかはわからないし、そもそも今は魔法が使えないし焦って考える事じゃない、かもしれない。
「そういえば、人で可視化された魔力を使っているのは……絶対いないわけじゃないけど、ほとんどいないみたいだね」
特殊な例とすれば、ツヴァイやクラウリアさん、それからレッタさんかな。
ツヴァイはエルフだったから除外するとして、クラウリアさんとレッタさんは人間だった。
他人からの魔力供与をされているのを含めるのならね。
あとレッタさんは、魔力誘導だっけ? 魔物に指示を与える時に赤い線のようなものを出していたけど、あれが魔力を可視化したものだとしたら、でもあるけどね。
まぁクラウリアさんもレッタさんも、両方モニカさんは魔法を使っている所なんかを見ていないので、俺以外の人間が可視化された魔力を出しているところを見た事がないわけだ。
その特殊な例を除けば、俺もエルサやフィリーナ達以外では見た事がないから、人間ではかなり希少なんだろう。
絶対ない、とは言えないと思う。
「でも、もしかしたらこれから先、可視化された魔力を人間が扱うのを見れるかもしれないよね? アルネとフィリーナが、魔力を練って魔法を使う研究をしていたし」
俺は見ていないけど、実際それでフィリーナはこれまでは使えなかった魔法を使って、センテでも活躍していたみたいだし。
あと、ツヴァイの研究施設でも、二つの効果を持たせた風の矢みたいな魔法を使っていたから。
「あぁ、そういえばそうね。フィリーナは……ずっと私達と一緒だから研究が進んでいないけど。でも、王都にアルネが残っているから……」
「他に研究する事がなければ……それか、別の研究をしながらでも興味のある事にのめり込んでそうだよね。倒れてなきゃいいけど」
カイツさんもそうだけど、アルネも研究熱心過ぎて寝食を忘れてしまう事がある。
王都……というか王城では姉さんや他の人達が大勢いてくれるから、ちゃんと見てくれているとは思うけど、でもやっぱり心配にはなるよね。
「しばらく会っていないから、王都に戻ったら既に研究が完成していたりして」
「ははは、それなら一気に戦力アップだ」
魔力を練る、という研究はつまり、一つの魔法に込められる魔力の総量を上げるという事。
わかりやすく言えば、大きさの決まっている箱があるとして、乱雑に物を詰め込むのが今の魔法の使い方。
それに対し、箱に詰める物をちゃんと整理して、小さくできる物は小さくするというのが魔力を練った状態だ。
まぁ多少違う部分はあるけど……イメージとしてはそんな感じ。
だから、自身の魔力と周囲にある自然の魔力を集めて練った場合、魔力が多く濃くなるため多分、多くの人が魔力を可視化させる事ができると思う。
ちなみにこれによる利点は、魔法の威力増加、これまで人間では使えなかった魔法が使えるようになる、という事だね。
フィリーナが使っていた、二つの効果を持たせた魔法は多分その副産物だろう。
もしこれが完成して人間にも扱えるように広く普及……少なくともアテトリア王国内で普及すれば、多分これまでとは戦闘の様相が変わるくらいの変化が来るんじゃないかな? と思っていたりする。
まぁ、そうはいっても練る魔力は結局本人の魔力も多く使う事になるので、魔法の連発という意味えでゃ効率が悪そうだけど。
……と考えつつ、魔力を練るのも、想像以上の威力が出てしまうのも、俺やエルサは自然の魔力は使わず、自前の魔力で賄っているというのは、よく考えたらモニカさん達が異常とか言うのもわかる気がするけど。
ともかく、使用魔力量が多くなってしまうというデメリットも当然あるため、実際には俺が考えているよりも影響は少ないかもしれないって事だ。
でも魔力を練って威力を増したり、これまでとは違う魔法を使うか、それともこれまで通りの使い方で数を放とうとするか……戦いにバリエーションが出るのは間違いないと思うし、いい事なんじゃないかな。
「とにかく、帝国が魔物を使って来る可能性が高いし、やれるだけの事はしておいて損は多分ないよね」
「そうね。こちらが強くなれば、当然被害も減ると考えられるわね」
姉さんが女王様で、モニカさん達のように親しくしてくれる人がアテトリア王国に偏っている……他国に行った事がないんだから当然と言えば当然だけど。
だから俺の考えはアテトリア王国側になる。
戦力がアップした事で、もうほぼ戦争は避けられなさそうな帝国相手はともかく、その後に無用な戦いを招くとか、大局的な物の見方は難しい。
まぁまだ二十歳にもなっていないうえ、こちらの世界に来てまだ一年足らずの俺に、そんな広く世界の事やかなり先の事まで見通せ、と言わないで欲しいというのはあるけど。
「ん、できたわ。それで、これからどうするの? まぁ、なんとなく予想はできるけど……」
話が逸れていたのを、モニカさんがグラシスニードルに次善の一手と同じ要領で魔力を通し終わり、準備が完了。
モニカさんの視線が、チラチラと凍った地面を見ている。
グラシスニードルが氷の上を歩くための道具、だとすると予想できて当然か。
「うん、モニカさんが考えている通り、このまま凍った地面に立って……って、歩きにくいねこれ」
「まぁ、ぬかるんでいるし、凍っていない場所はさすがにね」
話しながら、エルサが凍らせてくれた場所に移動しようとするけど、足が上手く進まない。
モニカさんの言う通り、試すために凍らせて融けてを繰り返したせいだろう、ぬかるんだ地面は魔力を通したグラシスニードルにとって、なんの抵抗もなく根元まで突き刺さってしまう。
油断しなくても滑ったりはしないんだけど、当然ながら通常の靴の感覚では歩けないし、わざわざニードルを抜いてから足を前に出す必要がある。
あ、いや、こういう事もできるのか……。
「こうすれば、楽に移動できるかな?」
「……それはそれで逆に移動しづらい気もするけど。まぁどっちもどっちかしら?」
ニードルが地面に突き刺さったるのに、何も抵抗を感じないくらいだったから、もしかしてと思ったけど……魔力を通しているからか、足を上げてニードルを地面から抜かなくても、そのまま前に滑らせるだけで進む事ができた。
単純に、足で土に線を引くような感覚で動ける。
靴底がすり減るから、必要なければ普段はやらないけど、今は魔力が通っているから大丈夫そうだ。
モニカさんも同じようにするけど、どちらが歩きやすいかは個人差があるみたいだね……まぁ重要な事じゃないからどう歩いてもいいんだけどね――。
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~
平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。
しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。
カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。
一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる