神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移

龍央

文字の大きさ
上 下
1,486 / 1,913

安定性と耐久性と生産性

しおりを挟む


「うぅむ、もう少しニードルを尖らせるよう、親方衆に伝えておくか。いやしかし、耐久性が気になるところではあるが……」

 自分でも試し、何度か転んだソフィーがしゃがみ込み、地面スレスレに顔を寄せて他の人達が足を降ろした接地面を観察して呟く。
 ソフィーだからいいけど、男がやると状況次第で不審者にしか見えない恰好だね。

「尖らせれば貫通性が上がる代わりに、耐久性が下がるんだったわね」
「そうなんだ?」
「あぁ、リクには言っていなかったか。試作品を持ってきた際、皆には伝えていたんだが……」

 フィリーナの言葉に首を傾げる俺。
 それに対し、ソフィーが思い出したようにグラシスニードルに関する説明をしてくれた。
 それによると、ニードル部分が平たいのは先が削れてしまったり、全体の耐久性を上げるためなんだそうだ。
 そりゃ、尖れば尖る程細くなるわけで耐久性が下がるのは当然か。

 尖らせれば、最初は突き刺さりやすいかもしれないけど、使っていて先が削れば取り換える必要が出て来る。
 ただ、街から離れている場所での作業では簡単に使い捨てるわけにもいかない。
 それに、場合によっては折れる事も考えられるので、何か作業をしている時に折れるのは危険だ。
 だからまずは一番耐久性を備えられる形にしたってわけだね。

「鋭さを求めるか、耐久性を求めるか……悩むね」
「そうだな。まぁ危険が少ない、今で言う結界の出入り口付近であれば作業の効率を考えて、鋭さがあった方がいいのかもしれないが」
「逆に、耐久性を重視して長い作業で使い続けられる方が、ってのも考えられるね。転んでも、誰かが近くにいるわけだし」

 解氷作業が進めば、街からは遠くなるから交換回数を減らせる耐久性の方が、もしかしたら最終的にはいいかもしれない。
 とはいえ少し奥へ進もうと思うと、鋭さがあった方が動くにしても安定するだろうし……どちらが正しいとも言える事ではないように思えるね。

「生産性……多く作る場合は、どちらの方が良さそうなのソフィー?」
「親方衆は、今後を考えると現状が一番だと言っていたが……多少なら改良しても、大きく変わらないとも言っていたか。とりあえず、鋭さを増せば増す程繊細な作業になるから、数を作るのにも手間がかかるとは言っていたな」

 モニカさんの問いかけに答えるソフィー。
 成る程、耐久性も考えた今の平たいニードルが、大量生産に向いているわけだ。
 鋭くする程作業効率というか、生産性が落ちるのか……。

「だったら、センテから氷を解かす作業をする人には、あまり生産数を減らさない程度に鋭くした物を。ヘルサルの方に耐久性が高くて多くの数を用意できる物をってのはどうかな?」
「センテはわかるが……ヘルサルにも用意するのか?」
「父さん達をヘルサルに連れて行った時、何かあったの?」
「何か、というわけじゃないけど……」

 そういえば、戻って来てすぐグラシスニードルを試していたから、ヘルサルでの事を皆に話していなかったっけ。
 とりあえず、簡単にヘルサル側からも解氷作業をしてくれる事、ヴェンツェルさんを始めとした王軍も到着している事などを伝えた。
 一応、魔物の事も軽く触れておいたけど、こちらは大量にいる王軍の兵士さん達がなんとかしてくれるだろうとも。

「そうなのね。父さん、これまで以上に忙しくなりそうね」
「ははは、多分ヴェンツェルさんが獅子亭に行くからね。カーリンさんの事もあるし……獅子亭はしばらく忙しくなりそうだったよ」

 元々獅子亭は連日先客万来で忙しかったけど、ヴェンツェルさんを始め兵士さん達もお客さんになりそうだからね。
 特にヴェンツェルさんは、マックスさんやマリーさんと古くからの友人というのもあるけど、カーリンさんがいるとあって通い詰めそうでもあったし。

「ヘルサルはしばらく、多くの人を受け入れて活気が増すだろうな」
「そうだね……センテから避難して、まだ戻れていない人もいるし。前から活気にあふれた街だったけど」

 魔物に囲まれている時、ヒュドラー戦前とヘルサルからの応援人員は来ていた。
 けど逆に非戦闘員は全員じゃなくとも、ある程度先に避難していた人もいたからね。
 子供や老人などは特に。
 さらにそこへ、王軍の兵士さん達をヴェンツェルさんが連れてきているわけで……。

 兵士さんと言えども、当然ながら飲んだり食べたりする必要はあるし、場合によっては装備を整えたり等々……人が増えれば経済が動く、と言うのかな?
 とにかく、ヘルサルはしばらく好景気になるだろうと予想できる。
 まぁ、その分センテと繋がっていない現状、物資不足が心配ではあるけど……そういった事は、俺達じゃなくてクラウスさん達が考えてくれるだろうと思う。

「まぁそう言うわけで、人の多いヘルサルの方に耐久性が高くて交換回数が少ない、でも早めに数を用意できるグラシスニードルをと思ったんだ」

 あちらは、センテと違ってもっと準備を万端にして氷に挑めるだろうからね、防寒とか。
 あと、行ってわかったけど、センテみたいに周辺が氷に囲まれていないのもあって、地面の氷部分近くでも結構温かい。
 ……普段と比べたら、魔物が逃げ出すくらいには寒いんだけど。

「逆にセンテでは、すぐに物が用意できる分耐久性よりニードルがもう少し刺さって、安定する方が使い安いかなってね。あと……」

 この場でだけど、考え付いた事をモニカさんやソフィーに話す。
 ヘルサルにはワイバーン便でグラシスニードルをまとめて運ぶにしても、すぐに壊れて何度も交換というわけにはいかない。
 けどセンテなら、最低でもその日のうちに代わりを用意できるだろうから。
 とはいえ、ニードルを鋭くすると言ってもし生産性が下がり過ぎては本末転倒、今よりもう少し程度でおさめておいて、こちらも交換するための数を用意できるように最低限にしてはどうか、という考えだね。

「ふむ、成る程な。どちらにも同じ物をではなく、差をつけるか……」
「差、という程じゃないけど……まぁ近いのかな? 一応、それぞれのバランスを取って考えてみたんだけど」

 差と言ってしまうと、大袈裟にとらわれかねない気がするからちょっと気が向かない表現になってしまう。
 どちらが重要で優先するべきというのではなく、どちらも重要だけど場所によって運用法が変わる、というだけの考えだった。
 まぁ、そういう事を差というんだと言われれば、それまでなんだけどね。

「いや、悪くない考えだと思う。実際には親方衆がどう考えるかだが」
「センテは作業に加われない人が物を運べばすぐだろうけど、ヘルサルだとワイバーンに頼まないといけないし、すぐに何度もというわけにはいかないから、リクさんの考えもいいと思うわ」

 納得した様子で何度か頷くソフィーと、俺の意見を支持してくれるモニカさん。
 まぁここで何を考えようと、どうするかはソフィーが言うように親方衆やシュットラウルさん達が考える事でもあるんだけど。
 一応の意見として、考えておくのは悪くないかな? シュットラウルさんやマルクスさんとはヘルサルへ行った時の事を話す必要があるし、その時に聞かれるかもしれないからね――。


しおりを挟む
完結しました!
勇者パーティを追放された万能勇者、魔王のもとで働く事を決意する~おかしな魔王とおかしな部下と管理職~

現在更新停止中です、申し訳ありません。
夫婦で異世界召喚されたので魔王の味方をしたら小さな女の子でした~身体強化(極限)と全魔法反射でのんびり魔界を満喫~

投稿スケジュールなど、詳しくは近況ボードをご確認下さい。


よろしければこちらの方もよろしくお願い致します。
感想 61

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

処理中です...