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魔法はエルサが代わりに

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 フィリーナとソフィーの言葉で気付いたけど、明りに照らされている地面の所々で濡れているというか、ぬかるでいるような場所が点在していた。
 足跡もいくつかはっきり残っているね。
 目を細めて微かにわかるくらいの小さな穴みたいなのがあるのは、グラシスニードルを取り付けた靴を試したんだろう。

「ソフィーやフィリーナ達も、もう限界で試す事ができないみたいなの。だから、リクさんが戻って来てちょうど良かったってわけ」
「成る程ね、そこでさっきモニカさんが言っていた事に戻るわけなんだ」

 モニカさんが「ちょうど良かった!」と言っていたのはこの事だったのか。
 魔法が使えるフィリーナ達の魔力が少なくなって、グラシスニードルを試せなくなって困っていたところに戻って来たからなんだろう。

「色々納得したけど……でも俺、今魔法使えないからなぁ」
「あ、そういえばそうだったわ。リクさんならって思ったんだけど……」

 昼に試して魔法を使えなかった際に、モニカさん達には伝えていたんだけど失念してしまっていたらしい。
 まぁそれだけ、モニカさんが俺に頼りたい……は考え過ぎでも、頼れると思ってもらえているのは嬉しいけど。

「リクなら、昼に使えずとも夜にはもう使えるようになりました、なんて言ってもおかしくないとは思うが」
「そうよね。リクだもの……魔法が使えなくなる、というよくわからない事になってはいるけれど、もっとよくわからない事を散々して来ているんだから」
「……さすがにそれは大袈裟というか、そこまでよくわからない事をしているかなぁ?」

 ソフィーとフィリーナに苦笑しながら言うけど、自分自身よくわからないと言われてもおかしくないと思っている。
 ある程度魔法が扱える、というか人間以上に魔法に詳しいエルフのフィリーナだからこそ、俺のやった事がよくわからなくなってしまう、というのもあるんだろうけど。

「とにかく、俺はまだ魔法を使えない状態のままだよ」

 確認のため、一番慣れていてイメージもすぐにできるはずの結界を使おうとしてみる。
 けどやっぱり、脳内でノイズが走ってイメージがまとまらない。
 あまり無理をしても気持ち悪くなってしまうので、試すだけでやめておこう。

「これまで使えていたはずの魔法が使えなくなっても、リクは平然としているな」
「私達エルフがそんな事になったら、取り乱して数日はまともじゃなくなっちゃうわよ?」
「そう言われても、使えないものは使えないから仕方ないとしか。もちろん、動揺くらいはしているよ?」

 外に出していないだけで、なんで、どうして? という考えは頭の中にある。
 でも、これまで魔法に頼りきりだった俺がこう思うのはおかしいと言われるかもだけど、元々魔法が使えないというかなくて当たり前の生活の方が長いからね。
 使えるようになったのはこの世界に来て、エルサと契約してからだし。
 それに、魔力は衰えるどころかセンテに来る前よりも増えているうえ、その魔力量から来る身体能力? とかはそのままだから。

 不便だなぁと思う事はあっても、取り乱すという程でもない気がする。
 ユノやロジーナから、理由は聞いているしそのうちまた使えるようになるだろうと、楽観的に考えているのも理由の一つかもしれない。
 って、そういえばユノとロジーナはどうしたんだろう?
 ロジーナはともかく、ユノは試作品を試すなんて楽しそうな事、嬉々として参加しそうだけど。

 と疑問に思って聞いてみたら、氷を砕くためにはしゃぎすぎて疲れたのか、夕食後に疲れてすぐ寝てしまったらしい。
 あれでユノ達が疲れた? と思ったけど、ユノとロジーナが氷を砕く作業の途中で、何故か喧嘩みたいになったとか。
 ユノ達はじゃれ合っただけと言い張っていたみたいだけど……どちらが多くの氷を砕けるか、という競い合いから始まり、最終的には砕いた氷をお互いにぶつけ合うよう調整したりとかまでしていたらしい。
 ……何をしているんだか。

 おかげで遅れている解氷作業が進んだ面もあったみたいだけど、兵士さん達に迷惑を掛けるんじゃありません。
 なんて、保護者的な気持ちが湧いてきたりもした。

「それじゃ……リクさんも魔法が使えないなら、明日にした方がいいわよね?」
「そうだな。休まないともう試す事もできないだろう」
「明日は明日で、また氷を解かすのに魔法を使わなくちゃいけないんだけど……」

 考えるように言うモニカさんに、溜め息交じりのソフィーとフィリーナ。
 カイツさんは、特に何か言うような元気はなくなっているようだ。
 まぁ、俺が魔法を使えないなら仕方ないよね……グラシスニードル、俺も試してみたかったけど。

「それなら、私がやるのだわ。私なら、リクと違ってやり過ぎないようちゃんと調整できるのだわぁ」

 解散、というか宿に入る雰囲気になっていた中、頭にくっ付いていたエルサがそう言った。
 エルサなら当然魔法も使えるし、俺より調整が得意なのはもちろんながら、魔力を大量に消費して疲労困憊……という事もない。

「エルサちゃん、やってくれるの?」
「凍らせるだけなのだわ? だったら別に簡単なのだわー。もちろん、あとでキューを所望するのだけどだわ」
「……大義名分、とまでは言わないけどもっともらしい理由になるわけか、エルサ」

 センテへと戻る途中、夜食にキューをと言っていたから食べるつもりなのはわかっていたけど、協力すれば何も言われなくなると思ったのかもしれない。

「うるさいのだわ。ちょっとくらい何かした方が、太らなくなるのだわ」

 案外、俺が太ると言ったのを気にしてもいるらしい。
 キューを食べて太るかはさておき、体の大きさを変えられるのなら気にしなくてもと思わなくもない。

「エルサちゃんがやってくれるなら、助かるわ。お願いできるかしら?」
「任せていいのだわ」

 俺の頭でエルサが頷くような動きが伝わり、ふわりと飛んで離れた。

「それじゃ、俺は……」
「リク」

 皆グラシスニードルを靴に取り付けているけど、俺は何もする事がないのでどうしようか……と思ったらソフィーに呼びかけられる。
 そちらに顔を向けると、ソフィーは誰も使っていないグラシスニードルを手に持っていt。

「これを使って、リクも試してくれるか?」
「もちろん。ちょっとでも協力したいからね」

 そう言って、ソフィーからグラシスニードルを受け取り、自分の靴に装着。
 想像していたよりベルトが硬くて結びにくかったけど……まぁ許容範囲内だろう。
 両足の靴に取り付けて立ち上がり、土の地面で感触を確かめる。

「……ちょっと気持ちいいかも」

 その場で足踏みすると、ザクッザクッという感触が足下から伝わってくる。
 いつもの靴とは当然ながら違うけど、平べったいニードルが地面い突き刺さる感覚が少し気持ち良さや爽快感を感じさせてくれる。
 野球をやっている人は、こういう感覚なんだな……。
 まぁ、つま先たちのようになるので滑らなくても不安定だし、やっぱりかかと近くにもスパイクが欲しいけど――。


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