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空から森の様子を見る
しおりを挟む獅子亭を出て、センテへ帰る前にリーバー達の所へと急ぐ。
ヴェンツェルさんと話し込んでいたからだけど、こんなに遅くなる予定はなかったから戻った時モニカさん達に何か言われないか少しだけ心配だ。
まぁマックスさんが直接作った物じゃないけど、獅子亭の料理を持って帰れるからソフィーのご機嫌が斜めになる事はないと思う。
カーリンさん達が作った料理も、間違いなく美味しかったしマックスさんが作る料理の味に近くなっているのを感じたし。
ヴェンツェルさんなんて、よっぽどお腹が空いていたのかすごい勢いで食べてもいたから……あれは、カーリンさんが作った物でもあるからかもしれないけど。
「お疲れ様です。ワイバーン達を見ていて下さって、ありがとうございます」
リーバー達を預かってくれていた場所に到着し、見ていてくれた人達にお礼を言う。
ヤンさんが寄越してくれたのか、冒険者さん達の姿もあった。
来る時魔物と戦っていた人もいるような気がするけど、もしかすると戻ってきた時にリーバー達を見かけたか何かで、気になったのかもしれない。
「いえ、おとなしいものでしたから、我々は特に。むしろ、ワイバーンの方からこちらと穏やかにかかわろうとするのもいて……」
「あはは……センテで、兵士さん達の駐屯地で過ごしているので」
見てくれていた人の話によると、リーバー達はおとなしく待っていてくれていたようだ。
馬程世話をする必要もないから、手がかからないのはいい事なのかもしれない。
それから、これまでワイバーンと言えば空を飛ぶ事もあって、ランク以上に強力な魔物と見られていたためか、恐れる兵士さんもやっぱりいたみたいだ。
でもそんな人も今は、穏やかな顔でワイバーンの体を撫でていたりする。
センテで兵士さん達に囲まれて過ごしていたので、人に慣れたのかもしれない……それでワイバーンの方から歩み寄ったってところかな?
まぁお互い慣れてくれるのはいい事だと思う。
いくつか見てくれていた兵士さんや一部の冒険者さんと話しをして、改めてもう一度お礼と今後またアイバーンたちが来る事を伝えた後、リーバー達を連れて門の外へ。
夜なのもあって、門の近くには人がほとんどいなくて一目につかないのは良かった。
「さてと……エルサ、頼むよ」
「了解なのだわ。一応空から見下ろせるような場所を飛ぶのだわー」
俺がエルサに、フィネさんはワイバーンに乗って飛び立ち、センテへの移動……の途中でエルサに声を掛けて、少しだけ方向修正。
「ガァ?」
横を飛んでいるリーバーが、鳴き声を上げて首を傾げた。
「多分、そこまで気にする必要はないんだろうけど、森にいる魔物達がね……」
簡単に、ヘルサルで聞いた事をリーバーにも話しておく。
まぁ、魔物が森からヘルサルに向かう事が最近増えたみたい、とかくらいだけど。
現状で対処できているみたいだし、大きな問題にはならなそうだけど、一応見ておくくらいはしておこうかなと思って、森の上空を飛ぶ。
「とはいえ、夜だし空から見ただけじゃ、何もわからないか……」
当然の事ながら、夜なのでエルサが低空飛行をしてくれて木々の近くを飛んだとしても、暗くて森の中を見通せたりはしない。
そもそも、昼ですら木々に遮られてよく見えない部分が多いのに、尚更夜にわかる事は少ない。
探知魔法が使えれば、もう少しよくわかったんだけど……。
「話にあった通りなのだわ。魔物が森の西側に移動しているのだわ」
様子を見る意味はあまりなかったかな、とセンテへの帰路を優先しようとする俺に、エルサが言った。
「エルサ、わかるの?」
「私を誰だと思っているのだわー。これくらい、魔法を使わなくてもなんとなくわかるのだわー。目とか耳で、だわ」
俺の魔力が多いと言っても、魔法を使わなければ目や耳……視覚や聴覚は他の人間とそう変わらない。
けど、以前からエルサは遠くの音を聞いたりと耳が良かったし、目も夜でもよく見えるみたいだ。
まぁ夜目が利かないと、以前国の端から端までとんでもない速度で飛ぶみたいな事はできないか。
さすがのエルサでも、ほとんど見えない視界最悪の状態で気持ち良く飛ぶなんてできないだろう……魔物もそうだし、空を飛ぶ生物は他にもいてぶつかる可能性だってあるわけだからね、鳥とか。
エルサが、飛んでいる時に何かとぶつかるのに気を付けているかは、微妙なところだけど。
「ガァゥ、ガウ」
「……リーバーもわかるみたいなのだわ」
私を――と言っていたエルサだけど、リーバーもエルサと同じ事がわかっているらしい。
ちょっと拗ねたようなエルサが、少し面白い。
「それでエルサ、魔物達の動きは?」
「今日は特に、森から出るような魔物はいなさそうなのだわ。けど、広く森に生息していたはずの魔物が、西側の一部……要は森と外との境界近くに集まっているのだわ」
「広く森に生息していた魔物達、か」
「数はあんまり多くないのだわ。ちょっと前まで、大量の魔物を見ていたのと比べると特に、だわ」
まぁ、あれだけ大量の魔物にセンテが囲まれている状況を見ていると、森の魔物が集まったくらいじゃ多いとは言えないだろうね。
森に広がる魔物どころか、森を埋め尽くして木々をなぎ倒しても足りないくらいの数がいたわけだし……それも、俺が隔離から戻って来て多少は減っている状況でそれだから。
「その魔物達が、ヘルサルに向かう可能性は? 今日は動きが見られないみたいだけど」
「ないとは言い切れないし、おそらくいずれ向かうのだわ。でも、全てじゃないのだわ。どうも、一部の魔物が他の魔物を追い立てているようなのだわ」
「一部の魔物が? でも、魔物が集まっているんだから、一緒にヘルサルに行った方が……あ、その追い立てている魔物がヘルサルに向かわせているのか」
「はぁ……リクは、最近……だけじゃないけどだわ。とにかく、魔物が一つの目的を共有して行動する事に慣れ過ぎなのだわ」
「え?」
魔物が集まって、と聞いて考えていた事を話すとエルサに溜め息を吐かれた。
「魔物は本来、本能に従って行動するのだわ。その本能は、何かを破壊するだけじゃなく、生存本能もあるのだわ」
「まぁ、そうだね」
生き物でもあるのだから、生存本能があるのは当然だろう。
まぁ、破壊するという本能はロジーナという破壊神に作られているし、魔物を作った目的を考えれば植え付けられていて当然とも言えるし。
自らを破壊して暴威を振るうなんて無茶な事……はエクスプロジオンオーガがいるから、なくはないとしてもだ。
「その魔物達に、本能以外で目的を持つ事なんてないのだわ。目先の事……あっても、お腹が減ったから他の魔物を襲うとかくらいなのだわ」
「えっと、つまり?」
「誰かに命令された、何かの意思で動いている、とかはないのだわ。ただ単純に、東側からの脅威……リクの力の事だけどだわ。そこから生存本能が衝き動かされて逃げ出した。その先に邪魔な他種族がいたから追い立てる、襲う、といった事をしているだけなのだわ」
「……」
自分達の居場所を確保するために、他の魔物を排除しているってとこか――。
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