上 下
1,478 / 1,903

獅子亭に飛び込んでくる人物

しおりを挟む


「確実に十日以上経っていると考えて、冒険者ギルドで聞いた情報のうち、始まりが十日程度前であるのなら……」
「俺が、というより俺の意識を乗っ取ったのが、赤い光を使った時とほぼ同じって事になりますね」

 多少の誤差はあるだろうけど、日数で考えるとそうなる。

「つまり、センテを襲っていた魔物が全滅してから、一部の魔物がヘルサルへ向かい始めた……? いえ、魔物は元々ヘルサルの周辺にいた種族ばかりとの事でしたから」
「多分だけど、周辺の魔物というか森に棲んでいた魔物達が、赤い光から逃げようとしたんじゃないですかね?」

 現在凍っている場所が、全て赤い光によって灼熱の大地となった場所なら、森の半分も飲み込んでいたはず。
 隔離結界に空けた穴から、内部に浸食されそうな程の熱が……みたいな事をフィリーナが言っていたから、最初はもっと狭い範囲だったんだろうけど。
 多分、俺が意識を取り戻して凍らせる前までに、広がったんだろうね。
 もっと早く対処できていれば、森が残っている範囲が広かったかもしれないけど、今更後悔しても遅いか。

「いつもであれば、森から出て来る事の少なかった魔物がと考えると……逃げようとしていた。とは考えられませんか?」
「確かに、そう考えた方がいいのかもしれません」

 強い魔物でも関係なく、全てを消滅させた赤い光。
 その光から逃げるためか、もしくは熱が地面を侵食して広がっていく事からか、もしかしたら単純に暑過ぎたから涼しい方に向かっているだけかもしれないけど。
 暑いどころか、熱いくらいだったからね。
 アテトリア王国はあまり気温が高くなく、厚着をしたり重い鎧を着ていなければ、汗をかかないくらいだ。

 夜は上着を、日中は長袖一枚で過ごせる程度だね。
 だから多くの人、魔物も含めて高温サウナくらいの温度には慣れていない……いや、あれくらいになると気温の高い場所に住む人でも、慣れるとかそういう問題じゃないかもしれないけど。
 逆に、現在のセンテ周辺みたいに極寒な状況にも慣れていないんだけどね。
 そんな中、灼熱の空気に晒されて、今は極寒の空気に晒されている状況なんだ、魔物でなくとも逃げ出したくなるのは当然とも言える。

「フィネさんの考えが正しいなら、ヘルサルの外壁を越えようとしたのは」
「おそらく、熱気や冷気から逃げるためと考えられるでしょう。実際には、魔物の様子なども見てみないとわかりませんが……理性なく、本能で動く事の多い魔物が、すぐ近くでセンテでの異変に晒された場合、棲家を捨てて逃げるのも当然かと」
「確かにそうですね」

 命の危険を感じる程の熱だったし、今は逆に凍えてしまう冷気なわけで。
 そんなの、本能で動く者程危機を悟って、無理をしてでも逃げようとしたくなるよなぁ。
 だから気温としては安全なヘルサルに向かって行っている、と考えられるわけだ。

「それか、もしかしたらヘルサルを越えようとしている……?」
「まぁ、そこは魔物じゃないとわからないかもしれませんね。リーバーのようにこちらの話を聞いてくれればいいんですけど…」
「リーバーとか、協力してくれるワイバーンは特殊ですからね。基本的に魔物と話せると思うのは危険でしょう」

 フィネさんの言う通り、リーバー含め協力してくれているワイバーンは全て、帝国が核から復元した。
 その際に、俺にはわからないけど何か特殊な方法を用いて人の言う事などを聞くようにしたり、本来ないはずの能力……爆発だとか、再生能力などを付与させた魔物だ。
 だから、それ以外の魔物が同じようにこちらから話しかけて聞いてくれると考えるのは、危険だね。
 リーバー達以外の魔物は、これまで全て人間を見ると襲い掛かってくるようなのばかりだったから。

 破壊神であるロジーナが創って、世界に破壊をもたらす存在か助けになるように、というような事を言っていたから、基本的にはわかり合えないと思っていいだろう。
 リーバー達は特殊な例として考えておいた方がいいはずだね。

「なんにせよ、帰りにでもちょっと様子を見てみようかな? いやでも、暗いとよくわからないか……」

 魔法が使えなくなっているから、他に優先する事が少ないので様子を見るか、ある程度ヘルサルに向かう魔物を討伐してもいいかなとは思う。
 けど、森から出てきている魔物ならまだしも、森の中にまだ潜んでいる魔物を観察したりなどは、完全に日が落ちている状況では難しい。
 いくら、エルサに頼めば魔法で明かりを作って照らしてくれるとはいってもね。

「そうですね……夕食を食べてくらいならまだしも、あまり遅くなるとモニカさん達が心配するかと」
「散々心配させちゃっていたから、これ以上はさすがにね。明日とか、明るいうちに暇があれば様子を見るようにします」

 とりあえず、魔物達はヘルサルの冒険者さん達でなんとか抑えられているんだし、王軍も到着するんだから心配はないだろう。
 ヘルサルの周辺にこれまでもいた魔物達で、レッタさんが関わっていたり、特別強力な魔物はいないみたいだからね。
 なんとなく、大きな事にはならないような予感があるし……いや、予知とか予感で先の事がわかるわけじゃないんだけど。
 そんな話をフィネさんとしながら、暗くなって俺達に気付く人も少なくなったヘルサル内を歩き、マックスさん達が待っているであろう獅子亭へと向かった――。


 ――結構遅い時間になったからか、俺達が獅子亭に到着する頃には営業を終了させていて、お客さんはもう誰もいない様子だった。

「おう、リク。お疲れさん。話は無事に終わったのか?」
「はい。クラウスさんやヤンさん達と、これからの事も含めて全部話してきました」

 獅子亭に入ると、マックスさんとマリーさん、それから獅子亭で働く人達に迎えられた。
 カテリーネさんは奥の厨房で営業後の片付け、カーリンさんとルディさんはまかない作りをしているようだ。

「ちょっと待ってろ。今ルディとカーリンが料理をしているところだ。俺達がいない間に、どれだけ上達したか楽しみだ」
「あまりそういうことを言っていると、カーリンやルディに抜かれた時のショックが大きいわよ、あなた」
「む、まだまだ抜かれたりはせんぞ!」
「ははは……」

 マリーさんに言われて、声を大きくするマックスさん。
 手伝ってくれている、あまり俺の知らない店員さん達もいるけど、その人達ともいい雰囲気で談笑。
 皆、マックスさん達が無事で戻ってきた事を喜んでいる様子だ……俺も歓迎されたけど。
 そうしていると……。

「マックス、マックスはいるか!? いや、カーリンの方が重要か!!」

 など、とても聞き覚えのある男性の声と共に、獅子亭の入り口が大きく開け放たれ、大柄な人が入ってきた。

「……ヴェンツェルさん!?」
「ヴェンツェルか! って、俺よりもカーリンの方が重要ってのはどういう事だ。いきなり飛び込んできておいて……」
「む……? リク殿?」

 飛び込んできた人はヴェンツェルさん……声に聞き覚えがあって当然だね。
 そのヴェンツェルさんは、驚く皆の中に俺を見つけて訝し気な表情になった。
 怪しんでいるとかではなく、何故ここにいるのかという感じかな。
 ちなみに、カーリンさんが優先と言われたマックスさんはスルーされ、「おい、無視か!」と声を上げていたりした――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...