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ヘルサルでもちょっとした異変が起きている様子

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 ――クラウスさんを見送った後、少しだけヤンさんと話をして部屋を出る。
 冒険者ギルドの建物を出て、獅子亭に行こうかと思っていたその途中で、冒険者さん達数人が話していたのがなんとなく聞こえて足を止めた。
 なんでも、ヘルサルの東側……つまりセンテ側で魔物が街の近くまで来る事が多くなっているらしい。
 断片的にしか聞こえなかったけど、そんなような事を言っていたので少しだけ気になって、カウンター越しに職員さんへと尋ねる。

「はい、確かに最近は少し街の近くまで来る魔物が多いようで、依頼もよく出しています」
「そうですか……」

 討伐依頼も増えているらしく、センテに出張っていて少ない冒険者さん達でなんとかやっている状況らしい。
 ヘルサルに来た時、空から見えた魔物と戦っている冒険者さんは、そうした依頼を受けた人達だったんだろう。
 ヤンさんは何も言っていなかったけど、戻って来たばかりで今の状況を把握していなかったんだろうね。
 知るのはこれからだから、対処はしてくれると思うけど。

「魔物の種類とかはわかりますか?」

 もしかして、センテに向かっていた魔物達からはぐれたのとかが、ヘルサルに向かって行っているのかと思って聞いてみる。

「そうですね、ゴブリン、フォレストウルフ……」

 職員さんに確認されている魔物を聞くと、どれもヘルサル周辺でこれまでにも確認されていた魔物のようだ。
 他の場所からきたような魔物はいないみたいだけど……。

「どうやら、森に棲んでいた魔物達が街に近付いているようです。これまで、こんな事はあまりなかったのですが」

 センテを囲んでいた魔物とは関係なく、元々ヘルサルの近くにいた魔物が街に向かって来ているとの事だ。
 職員さん曰く、これまでは森に棲んでいる魔物が出てくるのはあまり多くなく、いてもすぐに討伐して終わるくらいだったらしいけど、今はそうじゃなく断続的に魔物が街へと向かっているとか。
 当然街には人がいて衛兵さんや冒険者さんがいるため、魔物自身も近付けば危険という事くらいはわかっているから、このような事はほとんどなかったみたいだ。

「夜間に、街の壁を越えて中に侵入しようとする魔物もいました。幸い、依頼を受けて魔物を探していた冒険者や、衛兵が発見して討伐しましたが……」
「何度か同じ事があったんですか?」

 冒険者や衛兵が……という事は、それぞれ別で発見したって可能性もある。
 念のため聞いてみると……。

「はい。一日に一度あるかないかですが」

 夜間である事の方が多いみたいだけど、昼間でもそういった事があるとか。

「以前ヘルサルに来た時には、そんな事はなかったはずですけど……いつ頃からですか?」
「そうですね……大体、十日くらい前でしょうか。珍しい事ではありますが、ない事ではありませんから最初は特に気にせず、ただの魔物討伐として処理していましたが、今思えばそのくらいだったかと」
「成る程……」

 あり得ない事ではないため、異常な事とは認識できなかったわけか。
 それでも、事の起こりを考えると十日前くらいだと限定できると。
 ……十日くらい前って事は。

「リク様、もしや……?」
「うん、俺も同じ事を考えていました。――あ、教えてくれてありがとうございます」

 俺の後ろで、黙って話を聞いていたフィネさんが耳打ちする。
 フィネさんも、俺と同じ事を考えたみたいだ。

「いえ、リク様とお話しできて光栄です。リク様には、かねてよりギルドマスターから聞かれた情報は極秘でない限り、お教えするように通達されておりますので。大体は、直接ギルドマスターが対応いたしますので、リク様とこうして話せるのは嬉しい限りです」

 職員さんにお礼を言うと、笑ってそう言った。

「ははは……」
 
 情報を教えてくれるのは助かるけど、光栄とかは大袈裟だよなぁと思いつつ苦笑してフィネさんと一緒にその場を離れる。
 冒険者ギルドの建物を出る前、いつもより少なめな冒険者さん達の視線が俺に注がれて、注目されているのはもう慣れた事だけど、後ろの方から複数の職員さんの声が聞こえたのは、聞かなかった事にしよう。
 俺と話した職員さんが、他の職員さんに羨ましがられていたみたいだけど……俺と話す事って、そんな特別な事でもなんでもないのになぁ。

「はぁ……職員さん達の反応は置いておいて、どう思いますかフィネさん?」
「生きる英雄、しかも国が認めた英雄でもありますから、話したいと思う人が多いのも当然だと思います。ともあれ、そうですね……十日程度となると、やはりセンテでの事が影響していそうです」
「そうですよね。俺が意識を乗っ取られてあれこれしたのが、十日と少し前ですから」

 とりあえず、獅子亭へ向かって歩きながらフィネさんと話す。
 やっぱりフィネさんも十日くらいとの情報から同じ事を考えたらしく、センテとの関係を疑っている様子。
 というよりもだ、俺が意識を乗っ取られて門を開けたのが大体十日以上前……センテを包む隔離結界の外ではそれくらいの日数が経っている。
 俺は意識がなかったからあまり自覚はないし、センテにいた人達は隔離結界の中で半日程度過ごしていただけなので、同じくあまり実感はないみたいだけど。

「私もそうですが、センテにいた人達には自覚はありませんが……やはりこの街に来ると、それだけの日数が経過していたんだと思わされます」
「そうですね」

 俺達に自覚はなくとも、実際は本当に十日以上経過している。
 それは、街の中を歩いていて漏れ聞こえる話とかからもなんとなくわかるし、クラウスさんとの話でも実はあった。
 突然、センテ周辺が赤く光り、灼熱の大地になっても遠目にはセンテが無事に見えていて、一体何が起こっているのか。
 ちなみにその時、熱気が凄まじくてセンテどころか間にある森のヘルサル側に一番近い場所まで近付くのが精一杯だったらしい。

 当然ヘルサル側でなんとか調査をしようと思ったらしいけど、そんな状況で人が近付いて調査などできるはずもなく、戦々恐々としながら様子を窺っていたとか。
 魔物の仕業だとか、異変がヘルサルにまで及ぶかもといった噂も流れ、一部の人は西へと逃れたらしい。
 まぁ、その一部の人は最近ヘルサルに来た人達ばかりで、防衛戦の時俺が魔法を使って放った白い光……こちらは門とかではなく単なる魔法だけど。
 それを見た人は、俺がセンテにいるのだから大丈夫と言う意見が大半を占めていたみたいだ……改めて思うけど、俺への信頼が厚すぎてちょっと重い。

 それから約十日、一向に和らがない熱さと灼熱の大地が、今度は突然凍ったのだと。
 クラウスさんには俺が関係している事も含めて詳細に説明したし、ヘルサルに来た時に衛兵さんにはこれ以上異変は起こらない事を伝えたけど、まだ街の人達はよく知らない状況。
 そこら中で、また十日くらい経てば別の何かが……なんて話をしているのが聞こえたりしていた。

 ……灼熱の次に凍って、また何かがと暢気に話しているのは色々と慣れすぎな気がしないでもないけど。
 まぁ俺のせいなんだけどね、ごめんなさい――。

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