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門をこじ開けるリクの魔力
しおりを挟むドラゴンの魔法によって、イメージして門を開くための詠唱を完成させた、少なくともそう見せかけるようにしたという事らしい。
俺の中にあって、俺自身がわからなかった詠唱の破片を、入り込んだ意識が見つけた事でそれらが可能になったんだろう。
詠唱の破片だけでは、本来なんの意味もないはずなのを、完成させる魔法を作って。
よくわからないけど、とんでもない事をしたんだなというのだけはわかる。
「で、そんな不完全な詠唱を完全にする魔法なんて、とてつもない魔力を使うわ。でも、それをリクは可能にできた。あの時は特に、複数の魔力のなり損ないの意識が入り込んでいたから」
「そのなり損ないの意識も、リクの魔力になったと思うの」
「まぁ、全部流れ込んでくる前までは、ちょっとずつ俺に向かって来ていたみたいで、確かにあの時というかセンテで魔物と戦い始めてからは、魔力の回復も早かったからね」
正確にはロジーナの隔離から出て、センテに戻ってからかな。
枯渇しかけていた魔力の回復が、かなり速かったのを覚えている。
その代わり、変な夢なのかすらよくわからない何かを、寝ている間に見ていたけど……今だからわかるけど、あれは俺に流れ込んでいた負の感情の意識の一部とかだったんだろう。
「あれ、でも待って。一人の体じゃ不可能という条件……つまり、複数人いないといけないって条件は?」
「それは簡単な事よ。複数必要というのは、それだけ多くの魔力というか、力が必要って事なの。リク一人の魔力で……しかも複数の意識が入り込んでいたから」
「膨大な魔力で問題解決ってわけなの」
「あー、成る程。そういう事か」
生き物であれば、それが植物であったとしても魔力を持っている。
門を開くために必要な魔力、ロジーナが力って言い換えたから、本当は魔力だけじゃないんだろうけど、俺はそれを全て魔力で補ったわけか。
元々の魔力量が多いのに加えて、負の感情が入り込んでさらに魔力が多くなっていたからだろう。
「ほんとふざけているわよね。詠唱を無理矢理魔法で捻じ伏せて、それだけでも大量の魔力が必要なのに。門を開くための力を全て魔力で補うんだから」
「えっと……ちなみにだけど、門を開くために必要な力ってどれくらい必要なんだ?」
「とにかくいっぱい、なの」
「それだけじゃわかんないでしょうに。そうね、リクは二回も門を開いた事を考えると……全部合わせたらこの国の人間とエルフ、全て集めれば可能かしら? 詠唱を成功させる魔力も含めてね」
「うわぁ……」
ロジーナの言葉に、思わず変な声が出ちゃった。
この国の人間とエルフって……人間だけでも数百万人くらい? もしかしたら一千万人を越えるかもしれないけど、さらにエルフも加えるとはね。
純粋に持っている魔力だけなら、エルフ一人で人間数十人くらいだったかな。
それを俺一人の魔力で可能にするなんて……。
「もちろん、本来は魔力以外の力も使うから、無理矢理こじ開けようとしなければ必要な人の数はもっと少ないわ」
多分、生命力とか魔力以外にも使われる力があるんだろう、と思う。
でも俺は、全て魔力で賄ったわけか。
まぁあの時は、負の感情が全て俺に流れて来ていたわけで……あれは人だけでなく魔物とかも混じってたし、魔物は魔法が使えるかどうかに関わらず、基本的に人間より魔力が多かったりする。
それこそ、エルフより多い魔物もいるわけで。
だから、相当数の意識が魔力になりかけている状態で流れ込んできて、門を開けたんだろうと思う。
なりかけているというか、俺に入ってきた時点で意識でありつつも魔力にも繋がっていたんじゃないかなと感じていたし。
それから……あぁそうか、白い剣があった事も大きいか。
あれは、それなりに魔力放出モードで使ってはいたけど、ヒュドラーにレムレースという人間とは比べ物にならないくらいの魔力を持った魔物の魔力を吸収していたから。
そしてあの白い剣は、吸収した魔力を持ち主の魔力に同調させて変換する機能もある。
変換効率はあんまり良さそうじゃなかったけど、ユノ達の所にいたレムレースの魔力吸収をして、ほぼ限界近かったぽいから、満タン状態で少しずつ俺に魔力を提供していたんだろう。
まぁ、その後のヒュドラーとかレッタさんの所に行くまでにも、魔力を放出しているからいっぱいいっぱいというわけではなかったんだろうけど。
ともあれそれで、意識を取り戻した後の白い剣は魔力を蓄えている光がほとんどなくなっていたわけだ……魔力がなくなれば、光が弱まってやがて光らなくなるからね。
また魔力吸収したり、持って魔力を注いだりすれば光るんだけど。
とまぁ、門を開く事に関しての話は聞けたけど、本題は俺が魔法を使えなくなっているって事だ。
門を開く事での影響だってロジーナ達は言っていたけど、どう関係があるんだろう?
話を聞いている限りでは、滅茶苦茶であっても魔力で無理矢理こじ開ける事ができた、というのがわかっただけだし。
「門の事はある程度わかったけど……それでどうして、俺が魔法を使えなくなったんだ?」
「それは、無理矢理魔法として詠唱を完成させたからね。本来、神にのみ使える詠唱を、魔法として使ったのよ? 影響があるに決まっているじゃない」
「言われれば確かに、そうかもって思えるけど。でもどんな影響が?」
「魂や、リクという存在の奥底に刻まれた詠唱を、無理矢理引き出したの。魔法でだけどなの。それでリクの魂がほんのり傷付いたの」
「ほんのりって……」
少しだけとか、薄っすらと……みたいな感じなんだろうけど、そんな美味しそうな香りがしそうな言い方をしないでくれユノ。
とにかく、俺の魂だか何かが傷付いて、魔法が使えなくなっているって事でいいのかな?
「それじゃあ、俺はずっと魔法を使えないままって事?」
「魂はいずれ傷を癒して元に戻るわ。魂も人の体と同じで、傷を負えば修復をするわ」
自己治癒能力が備わっているって事か。
体には当然それがあるのはわかるけど、その体に入っている魂なんだから、治癒する能力があっておかしくないのかもしれない。
「今の私やユノには見えないけど……それ以外の影響を及ぼしていないだけで驚くべき事だけどね」
「多分紙で手を切ったとか、それくらいの傷なの」
あれ結構痛いよね、紙って意外と鋭いからなぁ……じゃなくて、本当に少しだけの傷なんだね。
修復不可能な程の大きな傷とか、魔法が使えない事以外の影響は今の所なさそうだから、それも安心だけど。
「それじゃ、魂の傷? ってのが治ったら、また魔法が使えると思っていいのかな」
「そうなの。まぁいつになるかはわからないけど、いずれ魂が癒えて今までみたいに魔法が使えるようになるの」
「私達と、どっちが早いか微妙なところだけどね」
とりあえず、今使えないだけでいずれまた使えるようになる、というのがわかって一安心。
魔力に関してはそのままだし、体には他に異常はないから魔物と戦う事だってできるわけだ。
ん、いや待てよ……? 魔法が使えないという事は……。
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完結しました!
勇者パーティを追放された万能勇者、魔王のもとで働く事を決意する~おかしな魔王とおかしな部下と管理職~
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