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魔法を使うリクと警戒する人々

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「さてと……」
「うぅ! 寒いのだわ。私は温かい所にいるのだわ~」
「あ、うん」

 氷を解かすため、どんな方法がいいか考えつつ焚き火の傍を離れると、俺の頭にくっ付いていたエルサが体を震わせながら、ふわりと浮かんで離れる。
 寒いのが嫌なんだろう、そのままゆっくりと焚き火の方へ飛んで行った……寒いからって焚き火に近付き過ぎて、モフモフな毛が焦げないようになー。
 エルサなら大丈夫だろうけど。
 でも、頭にあったモフモフの感触がなくなって、少し寂しい。

「えーと、どんな魔法を使うかな?」

 割るだけでも十分手伝いにはなると思うけど、やっぱりちゃんと溶かした方が作業の進みは早いだろうからね。
 魔力十分、魔法でさっさと氷を解かす事に決める。
 とはいえさっきエルサから注意されたように、やり過ぎちゃいけないし……今までの失敗を鑑みて、一気にやってしまうとかは考えず地道に溶かしていくのがいいか。
 結界とかのように、使い慣れて来れば調整もできるようになって、失敗する事もないだろう。

「最初は小規模、慣れたら範囲を広げるでいいかな。あとは……」

 中々溶けない氷だから、出力を強くすればとは思うけどそこも後で調整すればいい。
 やってみて溶けないようだったら、少しずつ解けるように改良とか……まぁ場合によっては別の魔法でもいいからね。
 これまでの失敗の多くは、一度に全部やってしまおうと考えていた事が原因の一つでもあると思っている。
 俺のイメージが貧困だったり、魔力量が多過ぎたせいでもあるし、悠長な事を言っていられない状況というのもあったけども。

 とにかく、駄目ならやり直したり調整すればいいと考えて、少し気楽にやってみよう。
 なんだろう、これまでと違って失敗しない気がしてきた……うんうん、失敗する事ばかりじゃなくて、前向きに考えるのも必要だよね。
 というわけで……。

「えーと、イメージはフィリーナの使っていた魔法の方がいいかな」

 フィリーナが使っていた火炎放射の魔法なら、炎が出る方向も限定できるし範囲が広すぎる事もない。
 あと、ガスバーナーのような火を噴射するなんてイメージは止めておこう、火力は高そうだけど。
 最初はモニカさんの使っている……フレイムウォールだっけ? あっちにしようかと考えたけど、俺の場合は壁どころか炎の柱とか塔のように、天高く燃え上がるような失敗をする気がしたから、止めておいた。

「両手をかざして出る感じがいいな、フィリーナは片手だけど……格好いいし。って……あれ? 皆?」

 魔法に格好良さは関係ないけど、なんとなくそっちの方がイメージもしやすいだろうし……と思ってイメージを始めようとしたら、いつの間にか皆が俺から離れている事に気付いた。
 元々、もしものために少し他の人達から距離を取る場所で、魔法を使おうとしていたんだけど。
 でも今は、皆が俺から距離を取ろうとして、焚き火の後ろに隠れたり、単純に俺が取った距離以上に離れている。
 特にモニカさんとフィリーナは、魔法を使うのを止めて距離を取ったうえで、こちらを窺っているようだ。

 ソフィー達は……あぁ、他の兵士さん達に注意喚起しているみたいだね。
 むぅ、これまで新しく使う魔法で失敗してきたから、大袈裟なとか警戒し過ぎだとは言えないけど……ちょっとだけ微妙な気持ちだ。
 エルサなんて、ユノ達が氷を割っていた場所に点火された焚き火の近く、つまり俺から一番離れた場所に行っているし。
 結界が使えるうえに、一緒にいる時間が一番長いエルサが一番警戒しているのだけは少し納得いかない……近くで見てよく知っているから、なんだろうけど。

「はぁ……身から出た錆、とは少し違うけど俺自身のせいでもあるか。とにかく、失敗せずちゃんとできれば皆も安心するだろうし、少しくらいは見直してくれると信じてやるしかないね」

 溜め息を吐き、皆の方に意識を向けるのを止めて魔法を使う事へと集中する。
 とにかくやるしかないわけだし……失敗しないためにもちゃんと集中しないとね。
 ヒュドラーと戦った時に使った、えっと、コンプレスエアソードだったっけ。
 あれや、魔物の大群に向かって放ったマルチプルアイスバレットとかは、咄嗟に考えた魔法にしては上手くいっていて、失敗していないんだけどなぁ。

 まぁあの二つの魔法を使う所は、俺一人の状況でモニカさん達は見ていないし、ここで使ったらそれはそれで大変な事になるけどね。
 おっと、余計な事は考えずに集中しないと。

「火炎放射だから、手から炎が出るように……ん?」

 魔法のイメージを開始する俺だけど、頭の中ではイメージではなくノイズが広がる。

「あれ……おかしいな……? これってもしかして、意識を取り戻してから何度もあったあれかな? でも、痛みとかは一切ないし」

 ノイズを無視して、イメージを明確にしようとすればするほど、逆にノイズが広がって邪魔になる。
 似たような事は、モニカさんとエルサに助けられた後、魔法を使おうとしたらあった事だけど……でもあの時と違うのは、ノイズと共に走る痛みが一切ない。
 ただただ、イメージを阻害するような感じだ。

「え、あれぇ……?」

 さらにイメージを続けようとすると、思い浮かべようとしていた事ではなく、ノイズの方がどんどん広がって濃くなる。
 なんだろうこれ、フィリーナが使っていた魔法の火炎放射は見て覚えているし、使っている映像とか絵みたいなのは思い出せるし、そこにノイズはない。
 けどそれを、魔法として思い浮かべようとすると大きなノイズが邪魔になり、イメージが曖昧どころか一切できなくなってしまう。
 魔法のイメージだけを邪魔されている感じだ……すごく気持ち悪い。

「これじゃ魔法が……」

 脳内に走るノイズは、イメージをしようとすればするほど広がり、濃くなって、今では砂嵐のようになっている。
 まるで、昔のテレビで電波を受信できない時みたいに……以前何かで、昔はこんな事があったみたいなので見た事がある、あれを強制的に頭の中で見させられているみたいだ。
 テレビの砂嵐、スノーノイズって言うんだっけ? あれが邪魔で、気持ち悪さも手伝って一切魔法のイメージができない。

「うっ、く……!」

 気持ち悪さのせいか、急な吐き気が込み上げて口を押える。
 幸いなのか、昼食に食べた物が出る事はなかったけど、それで喜んでいる場合じゃない。
 意識を取り戻してから、多少なりともノイズが走る事はあったけど……でも今のように明確に邪魔をされているような感じはなく、無視すれば魔法は使えた。
 代わりに、今は全くない頭痛もあってそちらを無視する方が、辛かったくらいだ。

 でも今は一切頭痛なんかはない……。
 強制的にスノーノイズを見せられる感覚と、記憶や目に見えている情報は頭の中で明確に浮かべる事ができるのに対し、魔法としてのイメージをしようとすると、ノイズに塗りつぶされる。
 気持ち悪いのは、その認識のズレというか……記憶と魔法イメージとで、はっきりと違いが出てしまっている事に対してだと思う――。


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