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暖を取って少しの休息
しおりを挟む「あ~、温まるだわ~」
「そうだね~」
大きく燃え上がった炎は、見渡す限り俺達以外に何もないため延焼の心配はない……だから、大きな薪を用意したんだろうけど。
ともかく、燃えている焚き火の近くに来ると、先程までの身を切るような寒さが嘘のような暖かさを感じて、エルサと共に息を吐く。
まぁそれでも、直接焚き火の熱が来ない背中側は寒いんだけどね。
でも、周囲も焚き火の熱で少しずつ気温が上がっているようなので、体が震える程の寒さはもうない……焚き火から離れれば別だけど、それは当然か。
兵士さん達も、各々焚き火の近くで兜を外したりして温まっている。
いくらワイバーンの素材を使った鎧を着ているとはいえ、寒くないわけではないんだろう。
熱のは特に強いワイバーンの鎧だから、兜以外は身に着けていて焚き火の熱が伝わるのかは疑問だけど、顔や呼吸するための空気が温かいだけでも全然違うか。
「うむ、寒さに慣れた頃に温まると、眠くなってしまうな」
「そうね……ん~……」
「私も、何か手伝う事を考えないといけないのに、何も思い浮かびませんね~」
いくら無意識に魔力を纏って、頑丈になっているとはいっても防寒の機能はないため、冷えた体を温めながら兵士さん達の様子を見ていると、いつの間にかソフィーとフィリーナ、フィネさんが焚き火の近くに来ていた。
三人共、焚き火の熱に当たって同じく体を温めつつ、ぼんやりしているようだ。
特にフィリーナは、立ったままなのに今にも寝てしまうんじゃないかというくらい、こっくりこっくりとしているし、声も眠そうだ。
ちなみに魔力のせいなのか、直接火に触れても服などはともかく皮膚に火傷を負ったりはしないし、もちろん凍傷にもならない……んだけど、寒い物は寒いし暑い物は暑い、ちょっと不思議だ。
「うぅぅ、寒いの。温まるの……」
「自業自得でしょ。ユノのせいで私も寒いわ、まったく……びしょびしょじゃない。ほら、ジッとしていなさい」
気付けば追加で、ソフィー達だけでなくユノとロジーナも焚き火に当たっていた。
遊び過ぎたのか、割った氷が解けたせいでもあるんだろう、着ている服などの表面が濡れていて、同じく濡れているロジーナが懐から、無事なタオルを出し、ユノを拭いてやっている。
……やっぱり、憎まれ口を叩き合っていたりしても、仲がいいのは間違いないようだ。
見た目的にはユノの方が若干年上なのに、これじゃロジーナの方がお姉さんっぽい。
まぁ実際には双子のような物で、上下関係みたいなのはないんだけど。
多分性格的なものだろうね。
その他に、モニカさんも同じく焚き火に当たって暖を取っている寒さを我慢して魔法を使えていても、体が冷えてしまったんだろう。
体が冷えすぎたら、声も震えて魔法が使いづらくなるからね、仕方ない。
また、温まった兵士さんが、再び氷を解かしたり資材を運んだりなどの活動に戻っていたり、逆に動いていた兵士さんが交代で焚き火に当たりに来たりしているので、暖を取る方法は役に立ってくれているみたいだ。
ユノ達が凝りを割った場所には、新たに焚き火用の薪が組まれているので、時期にそちらも点火して広範囲で暖を取れるようになるはずだ。
そうなれば、もっと氷を解かす作業の効率が上がるかな。
「寝るなフィリーナ! 寝たら死ぬぞ!」
「ふあぁ!? な、何!?」
「周囲に我々がいますし、焚き火の近くなら少しくらい大丈夫だと思いますが……」
立ったままで、ほとんど寝ているような状態になったフィリーナの肩を掴み、叫びながら揺さぶるソフィー。
雪山じゃないんだから……とフィネさんの呟きに頷くけど、よく考えたら焚き火の近くでもまだ地面は凍っているんだよね。
倒れで焚き火に突っ込むのは論外として、完全に寝入って倒れ込んだら触れるのは冷たい冷たい氷。
すぐにどうにかなるわけじゃないけど、放っておいたら危険なのは間違いない。
……センテから外へと考えてばかりだったけど、もし様子を見るためにヘルサルなどの他の場所から、人がこの氷の地面に踏み入れたら……?
もしかして、結構危険なのかもしれない。
ま、まぁでも、さすがにそんな無茶はしないよね。
氷の上は滑るからかなり歩きづらいし、転ぶし……でも待てよ?
これまでずっと、センテは魔物に包囲されていたりヒュドラーが襲い掛かってきたりと、大変な事続きだった。
それがいきなり魔物達がいなくなったと思えば、周辺一帯が氷に閉ざされていると言える状況になったわけで。
しかも、センテにはシュットラウルさんがいて、ここはシュットラウルさんの侯爵家が治める領地でもある。
何かしら、調査をしようと動いてもおかしくないのかもしれない。
シュットラウルさんの関係者もそうだし、それこそ冒険者に調査の依頼が出されたら……。
魔物はいないから、直接的な危険は少ないだろうけど他の危険はあるし、凍った地面だけでなく寒さに慣れていない周辺の人達だから、当然備えもないだろうし。
さらに言えば、シュットラウルさんの関係者は組織立っているだろうからある程度慎重に動いてくれる望みはあるけど、冒険者はそうじゃない。
調査の依頼が出されていた場合には、成果を出すために多少の無茶をする人達だ。
危険に対する警戒心が強く、自分達の命を守る事には長けてはいるけど、経験した事のない状況ではその限りではない……かもしれない。
シュットラウルさんの関係者と冒険者、どちらがどれだけ危険かはわからないけど、とにかく早く外に報せないといけない気がしてきた。
悪い予感とかではなく、ただ悪い想像をしてではあるけど。
センテと言えば、すぐ隣にヘルサルがあるから、そちらにばかり意識が行っていてから思い浮かばなかったけど。
一応、ヘルサルに報せれば、凍った地面を迂回するなりして多方面に報せを送ってくれるとは思う。
けどそれにも結構な時間がかかるからなぁ……。
「あ、すみません。シュットラウルさんやマルクスさんに報せて欲しいんですけど……」
「はっ! どのような内容でしょうか!」
焚き火を創る時、一緒にいてくれた隊長格と思われる兵士さんに、今考えていた事をシュットラウルさん達に伝えるようお願いする。
まぁシュットラウルさんとマルクスさんなら、俺の考えが及ばなかった部分もわかっていて、ちゃんと準備していたりするだろうけど、念のためだ。
内容は、ヘルサルだけじゃなく周辺にセンテにいる人達、シュットラウルさんも含めて皆無事だと報せて欲しいという事。
ワイバーンによるヘルサルへの報せや、輸送なんかは今準備中だから、そのついでにってわけだね。
俺は氷を解かす方の手伝いをする事にして、ヘルサルへ行くのはシュットラウルさんの部下になる。
ロジーナから聞いた話から、マルクスさんが王都へ向けての報告書というか、連絡書を作成しているから少し遅くなったけど……準備中というのは主にそれだね。
言伝だと、伝言ゲームみたいになって正しく伝わるかわからないし、内容が内容なので正しく正確に、それでいて書き記した物にしたいらしい。
ワイバーンでヘルサルに行った後は、別の人が王城まで届ける事になるからね。
そのついでに、他のワイバーンで周辺に報せを出せればってわけだ――。
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