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氷を割って焚き火の準備
しおりを挟む「まったく素直じゃないの。ロジーナはツンデレなの。私にできる事がロジーナにできないわけないの……不本意だけどなの」
「ツンデレとは、少し違うような合っているような?」
入り込んでいる人間の体に多少の違いはあれど、元が表裏一体のユノとロジーナは、片方ができる事なら大抵の事がもう片方もできるらしい。
まぁ、神様としての力云々には違いがあるんだろうけど、ほぼ一卵性双生児の双子みたいだよね。
とりあえず、ロジーナがツンデレなのかどうかはあまり考えないで良さそうだ……ユノも適当なノリで言っているみたいだし。
それに、ロジーナにデレがあるのか微妙なところだ、なければそれはただのツンツンした性格なだけだ。
「んっ! っと……これくらいで大丈夫ですか?」
「はっ、ありがとうございますリク様!」
「いえいえ」
大の大人が腕を回せるかどうかくらいの太さがある丸太を、突き立てられるくらいの大きさで氷を割り、兵士さんを窺う。
感謝してくれる兵士さんに手を振り、数人がかりで慎重に氷の上を歩きながら、丸太を突き立てるのを見守る。
マルクスさんが言っていた通り氷の表面はツルツルで、油断すれば俺や兵士さん達も滑って転びそうになる。
というか、二回ほど転んだ。
転んだ瞬間は恥ずかしかったけど、あちこちで同じように兵士さん達が転んでいたので、俺だけ恥ずかしがる必要はないと安心。
いやいや、多くの人が転ぶ事で安心してちゃいけないな。
これだけ滑るんだったら、スケートリンクとして使えそうだ……なんて考えたけど、使えたところで一切の実用性がないし、ユノくらいしか喜びそうになかったのですぐに振り払った。
ブレードを付けたスケート靴を作るのも手間だし、他で使える用途のない物になりそうだから。
それに、流通などの邪魔にならないように整備してとかならともかく、このままにしていても迷惑なだけだからね、やったのは俺だけど。
とにかく転倒対策には、靴に取り付けられるアイススパイクの完成を待つしかなさそうだね。
あちらは、一応山登りでも流用できるかもしれないから、スケート靴を作るよりはいいだろうし。
滑らないからね。
「はぁ、ようやく落ち着いたのだわ」
「ははは、お疲れエルサ」
ユノが氷を割る作業に入ったため、一方的な氷合戦が終了して溜め息を吐きながら、俺の頭にドッキングして来るエルサ。
モフモフで体温も高いエルサは、帽子以上の防寒効果がありそうで助かる。
「うわーなのー!」
「ちょ、ちょっとユノ、こっちにこな……わきゃー!」
「……楽しそうだね」
俺とは別の場所で、ユノが氷の上を悲鳴と言うには楽しそうな声音で滑りながら、ロジーナとぶつかって巻き込みつつ、尻餅をついたまま数メートル滑っていくのが見えた。
青い兵士さん達はアワアワしているけど、楽しそうなので大丈夫そうだ。
滑るだけで怪我もしてなさそうだし……お尻は多少強打しているかしれないけど。
「うるさいだけなのだわ。はぁ~、やっぱりここが一番落ち着くのだわ。温まるのだわ~」
「いや、俺の魔力で暖を取らないで」
温泉に入ったかのような息を吐くエルサに、突っ込む。
頭にくっ付いて、滲み出る俺の魔力を吸収しているのはよくある事だけど、それで温まる事なんてないはずなのに。
魔法にすら変換されていない魔力に、温度なんてない……ないよね? 俺の魔力が実は、なんて事ないよね?
「フレイムウォール!」
「モニカの傍にいると、暖かくていいな」
「はぁ、ぼんやりしていた意識が取り戻される気がするわ」
「うぅむ、やはり少々の傷が付くくらいですか……」
ユノ達は楽しそうなのでいいとして、兵士さんに指定された場所の氷を割りながら、モニカさん達の様子を窺うと、ちょうど炎の魔法で氷を解かしている最中だった。
分厚い炎が燃え上がり、壁のようになるのは魔法名そのままだね。
そんなモニカさんが魔法で発生させた炎に、手をかざして暖を取るソフィーとフィリーナ……寒さでやる気をなくしたのだろうか?
フィネさんはおそらく次善の一手を試しているんだろう、斧を地面の氷に打ち付けて割れないかを窺っている。
けど、やっぱりひびが入る事もなく、ただ傷が付いただけっぽい。
「次善の一手でも割れないんだ……相当硬いんだねこの氷」
つま先でコンコンと、地面の氷を叩きながら呟く。
硬いのは確かだけど、次善の一手ですら割ったり斬ったりできない程の用には感じないんだけどなぁ。
「この氷は、リクの魔力を使った魔法でできているのだわ。多分、魔力が中に入っていて、それが武器に纏わせた魔力を阻害? 干渉? とかそんな感じの事をしているのだわ、多分だけどだわ」
「多分なんだ……」
定かではないけど、恐らくそういう事らしい。
という事は、次善の一手を使っても使わなくても、あまり差はないって事か。
「ちょっと、フィリーナは魔法が使えるでしょう!? 温まったなら、協力してよ!」
「あまり炎の魔法は得意じゃないのだけど、仕方ないわね」
「私やフィネは、役立たずだからな……二人を応援するしかできないな。がんばれー」
「いえ、役立たずとまでは……何かできる事があるとは思うのですが……」
モニカさんの魔法で暖を取っていたフィリーナが注意され、魔法を使う体制に入る。
温まったおかげか、先程のような顔色の悪さは解消されているようだ。
ソフィーは寒くてやる気がないというわけではなく、ただ単にいじけているだけみたいだね、あれは。
硬すぎる氷に対し、下手に剣を打ち付けると氷よりも先に剣が折れそうだし、次善の一手もあまり意味がないみたいだから、いじけるのも仕方ないのかもしれない。
フィネさんはどうにかできないかと思案しているようだ……俺には何も思いつかないので、いい方策が出るよう頑張って欲しい。
「っと、こんなものですかね?」
「はっ、リク様にここまでして頂けるとは……」
「いえ、気にしないで下さい。手伝うんですからこれくらいは」
ある程度氷を割ったあとは、丸太を組んでキャンプファイヤー……もとい、焚き火の準備。
俺の身長より高い木を運び、時折滑って転びながら完成させると、恐縮している様子の青い兵士さん。
顔は見えないからわからないけど、ちょっとだけ兜の作りが他の人と違うから多分、隊長格の人なんだろう。
ともあれ、地面を凍らせたのは俺だからね……これくらいの雑用も含めて手伝わないと、むしろ申し訳ないくらいだ。
ユノやロジーナがきゃいきゃい言いながら、氷を割っているのを見守りつつ、焚き火の周囲に簡易的な囲いを兵士さん達が作り終わるのを待つ。
遊び気分のユノと、やると決めたら意外とちゃんとやるタイプらしいロジーナで、言い合いみたいにもなっているけど……多分大丈夫だろう。
傍で見ている分には、喧嘩するほど仲がいいようにも見えるし。
まぁ、こちらと違ってユノ達の方は焚き火の完成が、若干遅れそうではあるけど……その分余計に氷を割ってくれているようなので良しとしよう。
広く氷を割る分には、解かしやすくなって助かるからね。
っと、そんな事を考えている間に、焚き火の囲いができたみたいだね。
兵士さん達による魔法で、焚き火と言うには大きい組まれた丸太のような薪に点火され、大きく燃え上がった――。
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