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氷を割れる人と割れない人

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「フィリーナ、それは体内の物を出して、ただ単に体温を保てず凍えているのではないか?」
「フィリーナさん、無理はしないで温まって下さい!」

 昼食を全て戻してしまったフィリーナは、まだ顔色は戻っていないけど寒さに震えるよりも、むしろ寒い事を歓迎している様子。
 ソフィーとフィネさんの二人が、寒さに対処するために持って来ていた毛布で、フィリーナを包んでいた。
 食べた物がエネルギーにならず、全部出してしまったからソフィーが言うように体温が上がらないのかもしれない……もしかすると、そのせいでまだ顔色が悪い、いや青いのかな?
 あまり無理はしないで欲しい。

「雪合戦するの!」
「ぎゃー! 止めるのだわ! それは雪じゃなくて氷なのだわ!」

 ユノは寒さを気にせず、そこらの地面の氷を砕いて、それをふよふよと飛んでいたエルサに投げつけている。
 避けようとするも、ユノから投げられた雪玉ならぬ氷玉……凍った土や石も混ざっている、とても危険な物がとんでもない速度で射出されているので、避けられない。
 けどユノ、それは雪合戦じゃなくて氷合戦で、とても危険だぞ。

 エルサだから無事だけど、絶対人に向けないよう注意した。
 だって、エルサが寒さ対策に自分の周囲に張った結界を、簡単に割って突き抜けているし。
 多分人に当たったら、ちょっとした怪我じゃ済まないんじゃないかな?

「ほんと、リクの馬鹿魔力には閉口するわ。見渡す限り凍っているじゃない」
「馬鹿魔力って……いや、否定はできないけど」

 ロジーナは寒いからだろう、自分の体を自分で抱き締めるようにして小刻みに震えながら、遠くを見渡して呆れていた。
 馬鹿魔力というのは、ユノとかエルサに聞いたんだろう……聞かなくても、目の前に広がる光景を見れば、同じような考えになったのかもしれないけど。
 隔離結界を出てすぐ、約数十メートル四方にわたって氷が解かされ、ぬかるんだ地面になっている。
 朝から今まで、これくらいしか氷を解かせていないのを見るに、シュットラウルさん達があまり進まないと溜め息を吐いていたのも当然かもしれない。

 この場所には今俺達以外にも、青い鎧を着た兵士さん達がいて、それぞれこちらに礼をしたり何やら準備をしている様子。
 青い鎧を着ているのは、ワイバーンの素材を使った鎧で冷気を防いでいるんだろう……それ以外の人を見ないのは、マルクスさんから一先ず寒さがなんとかできる人のみで作業をすると伝えられたからだと思う。
 解かした地面で自由に動ける範囲がまだ狭いから、多くの人を投入しても効率が悪いからね。
 他の人達は、とりあえず隔離結界の中で資材の準備をしているようだ。

 その準備している資材、主に巻きを青い鎧を着た兵士さん……青い兵士さんに渡し、青い兵士さん達はそれを凍てついた地面の上に置いている。
 シュットラウルさん達と話した、暖を取るための焚き火をするためだろう。
 ただ、直に置くと火をつけて表面が解けた水分で薪が湿ってしまうので、汲んでキャンプファイヤ―のようにしているんだけど……地面が凍っているので滑ってしまい、思うように組めていない。
 凍っているから、地面に突き立てるとかもできないからなぁ。

 氷を割って突き立てればと思うけど、硬い氷を割る事ができていないみたいだ……どれだけ硬いのかな? と思って、冷たいのを覚悟して凍った地面をコンコンとノックする要領で軽く叩いてみる。
 音そのものは何も変哲のない、氷を叩くだけの音が静かに響いたけど、感触としてはかなり硬い。
 響く音も、凍てついた地面に広がる感じは一切ない……うーん。

「ていっ!」

 ちょっとだけ力を入れて、握った拳の側面を勢いよく打ち付けてみる。
 硬さを確かめるついでに、割れるか試したかったから……まぁ、ユノが割ってエルサに投げているから、割れるのはわかっているんだけど。

「って!?」

 拳を打ち付けた部分が大きく割れ、数十センチにわたってヒビ割れが……どころではなく、衝撃に寄り隆起した。
 ちょっと割ろうと思ったんだけど、強すぎたみたいだ。

「うん、まぁ……いいか」

 呆れた目で俺を見ているソフィー達と、驚いている様子の青い兵士さん達……フルフェイスの兜を被っているから、表情は見えないけど。
 とりあえず、割れたから良しとしよう、うん。
 青い兵士さんが、全身鎧の重さも使って思い切り踏みつけたり、殴ったりなどをしても、表面にちょっとだけ傷がつくかどうかだった……なんて事は、あまり考えないようにしておく。

「とりあえず……ユノ―! それとロジーナー!」
「……リク、どうしたの?」
「……何よ」

 注目されているのはいつもの事なので気にせず、氷合戦というか、一方的にエルサに氷を投げているユノと、寒さに体を震わせて今にも帰りたそうなロジーナを呼ぶ。

「あっちで兵士さんが組もうとしている薪……というかもう丸太の大きさだけど。あれを突き立てられるくらいに、氷を割ってくれないか? どうやら、俺達くらいしか解かす以外で氷を割る事はできないみたいだから」

 ユノとロジーナに、青い兵士さん達が運んで来て積まれている資材というか薪というか丸太を示しながら、お願いする。
 チラリと見た視線の先では、モニカさん達、同じように氷が割れないか試していたけど、青い兵士達と同じような結果になっていた。
 どうやら硬い氷を物理的に割る事ができるのは、俺とユノ、それからロジーナくらいみたいだ。

「うん、わかったの。沢山割るの!」
「……ユノはさっきからやっていたし、リクも割っているのを見たけど、私が当然のように割れると思っているの?」

 素直に頷いてくれるユノは、まるで遊びの延長の感覚の様子だ……やり過ぎないか少し心配だけど、俺よりは加減をしてくれるだろう。
 けどロジーナは、不満そうに眉根を寄せて首を傾げながら俺を下からから見上げる。
 身長差でどうしてもロジーナが俺を見上げる格好になるけど、表情から「あぁん?」とガラの悪い声が聞こえそうでもあった。
 まぁ、見た目が幼い女の子なので、あまり迫力はないけど。

「え、ロジーナできないの!?」

 そんなロジーナに対し、ユノが両手を口に当て、目を見開いて大袈裟に驚く。
 私の何々、低すぎ!? でお馴染みの広告を見ているみたいだ……地球に行った時に見たっぽいな。

「で、できないなんて言っていないでしょう!」

 驚くユノに、少しだけ顔を赤くしながら反発するロジーナ。
 挑発に乗ってしまったかぁ……結構、ロジーナってそういうところがあるみたいだね。
 頼んでいる俺としてはありがたいんだけどね。

「本当に~? できるなら、嫌がったりしないんじゃないの?」
「くっ、いい気になって……見てなさい!」

 なおも挑発するようにクスクス笑いながら言うユノに、ロジーナは完全に乗せられてしまい、ズンズンと音を立てるように青い兵士さん達の方へ向かって行った。
 いや、氷が解けた後の地面はぬかるんでいるから、ビチャッ! とかズチャッ! って音がしていたけど――。

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