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レッタさんの処遇

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「だから、魔物から大きな被害を出さなかった事は、既に帝国に大きな痛手を与えていると言えるわね。まぁ、数の面では当然帝国で復元されている方が、多いのは間違いないけど。でも、焦っているのは確かで、近いうちに何かしら行動するのは間違いないわ」
「ふぅむ……センテを取り囲んだ魔物よりも、さらに大量の魔物が押し寄せて来る可能性が高いわけか」
「これらの事、陛下にもお報せせねば……」
「はぁ……話し過ぎたわね。細かい事は色々あるけど、とにかく私が知っている帝国の動向はこの程度よ。リクが来てからは、私もレッタもそちらに意識が向いていたから、全てを知っているわけじゃないからね。そもそもここ一年くらい、レッタはずっとこの国にいたのだし……」

 深刻な表情のシュットラウルさん、それからマルクスさんを見ながら、大きく息を吐いたロジーナ。
 かなり色んな事を話してくれたからね、疲れたわけではないけど息を吐きたくなる気持ちもわかる。
 それにしても、レッタとロジーナは俺がこの世界に来てからは、ずっと注目していたのか……初めて会った時から先もずっとって事だよね。

 俺がこちらに来てまだ半年絶ったかどうか、というくらいだから、それ以前は何かしらの用で帝国からこちらに来ていたんだろう。
 それこそ、地下施設の事だってあったわけだし。

「……それで、随分色んな事を話したわけだけど、レッタをどうするのかしら?」

 少しだけ挑発的な笑みを浮かべて……というか、圧力すら感じる表情と雰囲気を醸し出しながら、シュットラウルさん達に問う。
 色々と話が逸れたりしたけど、ここでこうして話している目的はレッタさんをどうするかだったね。

「まぁ、先程までの話を聞く限り、同情の余地はあるとは思うがな」
「難しいですね。魔物をけしかけた張本人ですので、何もなく開放というわけにはいきません。まぁ、それらを知っているのは我々など一部の物だけではありますが……それでも」
「うむ。正式には陛下の裁定が必要になるだろうが……もちろん、我々は帝国と違う」

 シュットラウルさんもマルクスさんも、レッタさんの処遇については困っている様子。
 レッタさんの事を知っている人は限られているため、広めようとしなければ外聞がどうのという問題はほぼない。
 とはいえ、魔物をセンテにけしかけて囲み、ヒュドラーやレムレースまで使った事も含めて、被害が出ている。
 人的被害もそうだし、センテが囲まれてからもう一カ月以上……流通などにも影響が出て、センテだけでなく国全体での損害も出ているだろう。

 同情して無罪放免というのはもってのほか、だけどただ捕まえておくだけでいいのかという疑問もある。
 下手したら、ロジーナが敵に回る可能性と、レッタさんが何をしでかすかわからない怖さもある……なんて考えているのは、俺くらいかもしれないけどね。
 もちろん、この国の人達……特に姉さんが、レッタさんをクラウリアさんのように捕まえておくとしても、帝国のようなひどい扱いにはしないはずだけど。

「あ、そうそう。本当ならこれを一番に伝えないといけなかったんだけど……レッタの特殊能力、魔力を誘導するってやつね。あれ、魔法を使えなくするような道具じゃ、防ぐ事なんてできないわよ。今は目が覚めていないから、何も影響がないしリクが周辺の魔物を全て消滅させたから問題ないけど……もし、レッタがいる場所を移したり、周辺に魔物が戻ってきたりしたら……」
「復元とやらをされた魔物でなくても、何かしらの影響がある、か……」
「そうね」

 それを一番最初に言って欲しかった、とロジーナに思うのは俺だけだろうか? いや、シュットラウルさんやマルクスさんが頭を抱えているので、俺だけじゃないみたいだ。
 魔法を使えないようにする道具……ツヴァイを捕まえた時に使っていた物だけど、あれはあくまで魔法の発動を阻害するための物、というか声を奪ったりとかだ。
 だから、魔力自体は操作できるし、もちろん放出もできる……多少量が多いツヴァイとかくらいじゃ、あまり意味はないけど。
 でもレッタさんの場合、その放出した魔力を使ってなのかなんなのか、離れた場所の魔物の魔力を操作する事ができるわけで。

 復元した魔物とは違うから、完全な制御は無理でも誰かを襲うような方向性で誘導するくらいはできるらしい。
 それがもし、王都へ護送中に自分の運ばれている馬車なりを襲わせたら……。
 ロジーナとは別の意味で、捕まえておくのが厄介な人だね。
 帝国では、そんな事ができないようになるまで色々とされたんだろうけど。

「はぁ……仕方がないな。マルクス」
「そうですね、侯爵様。同じ意見のようです」

 頭を抱えたまま溜め息を吐いたシュットラウルさんが、隣のマルクスさんに声を掛けつつ、視線をやる。
 それを、同じく溜め息交じりで受けたマルクスさん。
 何やら二人共、通じ合っている考えがあるようだけど……? って、こっちを、俺を見た?
 ……なんか、嫌な予感がするんだけど。

「リク殿」
「リク様」
「「よろしくお願いします!」」
「うえぇ!?」
「まぁ、無難ね」

 シュットラウルさんとマルクスさん、それぞれが俺を呼び、声を揃えて頭を下げた。
 驚いて声を上げたのは俺だけで、ロジーナはさもあらんとばかりに頷いているし、モニカさんやフィネさんは苦笑しながらも肩を竦めるくらいだ。
 ユノは……レッタさんをどうするか間ではあまり興味がないらしく、エルサと顔を見合わせて睨めっこをしている。
 ……自由だね君ら。

「なんで、俺なんでしょうか?」
「いや、ロジーナ殿もリク殿に任せるようお願いしたばかりで、申し訳ないとは思うのだが……」
「リク様の他に、対処できる者がおりません。同情の余地や、行動の理由などはある程度納得ができたとしても、先の事を考えるとリク様にお任せするしか……」

 一応、念のため聞いておこうと思い、シュットラウルさん達に聞いてみるけど、ロジーナを任された時と大差なかった。
 結局、解放したとしても何をするかわからないし、場合によっては大きな被害を国にもたらす可能性がある。
 捕まえていたとしても、抵抗を阻止する事ができないのならあまり解放したのと変わらない、とも考えられる事。
 さらに、ロジーナが既に俺に任されているので、ここまでの話を聞く限りでは俺に対して何かをする可能性が高い事等々。

 それはなら、最初から俺に任せていた方が面倒が少ないだろう、という事だった。
 いや、確かにそうだけど……俺に任されても、レッタさんは暴れたりするんじゃないだろうか?
 なんか、俺の事を良く思っていないみたいだし。
 謂れのない事も叫ばれていたから。

「まぁ、諦める事ね。私はしばらくおとなしくしているつもりだけど、いつでもリクを破壊の権化として引きずり込めるよう、観察するわ。そうしたら、ここで受けなくてもレッタは必ず付いて回るわよ? むしろ、私と離そうとする方が危険ね。何をしてでも近付いて来ようとするわ」
「それは嫌だなぁ……はぁ」

 ロジーナの言葉に、少し前にあった感じのようなレッタさんを思い浮かべ、嫌そうな声を漏らしながら溜め息を吐いた――。


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